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いわゆるマタハラ問題について

2016.11.07 | 投稿者:畑山 浩俊
質問
いわゆるマタハラに関する問題が多発していると聞いております。
弊社は介護事業を営んでいるのですが、
妊産婦労働者に対してどのような配慮をすることが必要なのか教えてください。

裁判例の紹介

いわゆるマタニティハラスメントとは、上司・同僚が職場において、妊娠・出産等を理由として労働者の就業環境を害する行為のことをいいます。最近、マタハラに関する相談が増加しております。
ご相談者は介護事業者の経営者ですので、ここでは、介護事業施設においてマタハラが問題となった裁判例(『ツクイほか事件』福岡地裁小倉支部平成28年4月19日判決)を紹介します。

事案の概要

株式会社ツクイが経営する営業所のデイサービスで介護職員として勤務していた山田さん(仮名)。妊娠したことがわかったため、営業所の所長であった鈴木さん(仮名)に妊娠の報告をし、今後の業務について相談をしました。ちなみに、この営業所では、一日に25名から30名ほどの利用者が通所し、介護職員3名から4名が対応し、そのほかに相談員や看護師が就労していました。

1.一度目の面談(平成25年8月1日実施)
山田さんは所長の鈴木さんに、妊娠4か月であることを報告したところ、鈴木さんからは担当業務のうち何ができて何ができないのかを確認するように指示を受けました。

2.二度目の面談(平成25年9月13日実施)
そこから1か月以上が経過した9月13日になって、初めて、業務軽減に向けた面談が行われました。しかしながら、この面談で所長の鈴木さんは山田さんに対して下記のような発言をしたのです。
「何よりも何ができません、何ができますちゅうのも不満なんやけど、まず第一に仕事として一生懸命していない人は働かなくてもいいと思ってる」、「仕事は仕事やけえ、ほかの人だって、病気であろうと何であろうと、仕事っちなったら、年齢も関係ないし・・・特別扱いは特にするつもりはない」、「万が一何かあっても自分は働きますちゅう覚悟はあうのか」、「べつに私、妊婦として扱うつもりないんですよ。・・人としてちゃんとしていない人に仕事はないですから」等々。
どうやら所長の鈴木さんは普段から山田さんの仕事ぶりに苛立ちを持っていたようできつめな物言いになっています。

3.三度目の面談(平成25年12月3日)
この言動も問題ですが、さらに問題なのは、結局、この9月の面談においても所長の鈴木さんは具体的な業務内容の変更を決定しなかったということです。9月の面談から約3か月が経過してからようやく山田さんの業務軽減が図られることになりました。

4.訴訟提起
山田さんは、所長の鈴木さんが、妊婦であった山田さんの健康に配慮し良好な職場環境を整備する業務を怠ったと主張し、鈴木さんに対しては不法行為に基づく損害賠償請求を、そして、使用者である株式会社ツクイに対しては使用者責任と、労働契約上の就業環境整備義務に反したとして債務不履行に基づく損害賠償を請求したのです。

裁判所の判断

裁判所は、所長の鈴木さんに対して、平成25年9月の面談後から一月経過しても山田さんから何ら申告がないような場合には、鈴木さんにおいて山田さんの状況を再度確認したり、医師に確認したりして山田さんの職場環境を整える義務を負っていたと認定し、鈴木さんが山田さんに対して負う職場環境を整え、妊婦であった山田さんの健康に配慮する義務に違反していると判断しました。
9月の面談における鈴木さんの言動に山田さんが委縮していたということに鑑みると、一月以上放置するのはよろしくないと判断したのです。
もちろん、9月の面談における言動についても、妊産婦労働者の人格権を侵害するものとして違法と判断されました。

さらに、使用者である株式会社ツクイについても、業務軽減等の措置をしばらく執らなかったことが、労働契約上の就業環境整備義務に違反したものとして、債務不履行責任が認められました(もちろん、使用者責任も肯定されております。)。

なお、この裁判例では、山田さんに生じた損害は、慰謝料35万円と低めの金額が認定されております。しかし、仮に、マタハラにより切迫流産した、もしくは、精神疾患を発症し、治療が継続化等の事情があったとすれば、慰謝料金額は高額化する可能性があります。

今後事業のとるべき対応策

平成28年3月の男女雇用機会均等法改正で、いわゆるマタハラ防止措置義務が新設されました(均等法第11条の2。平成29年1月施行)。では、事業主はどのような措置を講じなければならないのでしょうか。厚労省は下記の指針を発表しています。

1.事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
2.相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
3.職場における妊娠、出産等に関するハラスメントにかかる事後の迅速かつ適切な対応
4.職場における妊娠、出産等に関するハラスメントの原因や背景となる要因を解消するための措置
5.1から4までの措置と併せて講ずべき措置

以上のように、今後、事業主は、いわゆるマタハラ問題について、事前に防止措置を講ずる義務が生じました。具体的には就業規則の改訂、相談窓口の設置等、諸々の措置を講じなければなりません。法改正と共に、企業が対応すべき問題は増加します。きちんとした制度設計ができているか、企業内に不安を抱えておられる方は是非一度、ご相談にお越しください。

参考

均等法第11条の2
1)事業主は、職場において行われるその雇用する女性労働者に対する当該女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法第65条第1項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第2項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であって厚生労働省令で定めるものに関する言動により当該女性労働者の就業環境が害されることのないよう、当該女性労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
2)厚生労働大臣は、前項の規定に基づき事業主が講ずべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針を定めるものとする。
3)略