法律事務所かなめは相続問題・交通事故問題・労働問題などのお悩みを解決します

廃業会社元取締役らに対する任務懈怠に基づく損害賠償請求

2017.03.08 | 投稿者:畑山 浩俊
最近、企業が従業員から残業代の請求をされているケースが目立ちますが、役員は残業代未払いについての責任を問われないのでしょうか?

回答

電通事件等の長時間労働に起因する自殺が社会問題となり、長時間労働を是正しようという国を挙げた動きが活発化しております。その一環で、平成28年4月1日より、厚生労働省は、すべての都道府県労働局に「かとく」(過重労働撲滅特別対策班)を設置し、月80時間超の残業が疑われる事業所に対して監督指導を徹底するなど、長時間労働労働に対する取締りは極めて厳しくなってきております。

そんな中、弊所でも長時間労働を理由に残業代請求をされている、もしくはされそうになっている企業からの法律相談が増えております。

さて、今回のご質問は、残業代請求をされるリスクというのは、企業のみならずその企業の役員(代表取締役・取締役等)にも存在するのか、というものです。

結論から申し上げますと、企業のみならず、役員も責任追及される可能性があります
参考となる裁判例をご紹介します(ブライダル関連会社元経営者ら事件:鳥取地裁平成28年2月19日判決)。

事案の概要

本件は、株式会社A(以下、「本件会社」)の従業員であったXが、本件会社から給与または解雇予告手当の支給を受けないまま退職して今日に至っており、そのような事態が生じたことは本件会社の取締役であった者たち(以下、「元取締役ら」)の取締役としての任務懈怠に基づくものであるとして、元取締役に対し、会社法429条1項に基づき、損害賠償金を連帯して支払うよう求めた事案です。

原告のXは、当然本件会社にも給与または解雇予告手当等の支払いを求めて訴訟提起し、勝訴したのですが、本件会社は、既に事実上の廃業状態となっており、支払いを受けられなかったため、元取締役らの責任追及に及んだものと考えられます。

判決のポイント

まず、会社法429条1項はいかなる条文かと言いますと、①取締役の会社に対する任務懈怠があり、②その任務懈怠について、取締役の悪意重過失があり、③第三者に損害が発生し、④①と③との間に因果関係がある場合、取締役は損害を被った第三者に賠償する責任を負うことを定めた条文です。

さて、本判決では、①②④の点について、概要以下のとおり判断されました(③の点は割愛)。

まず、①任務懈怠の点について

本判決は、労働基準法上定められている、使用者の労働者に対する給与の全額払原則(労基法24条1項)とその違反に関する罰則規定の存在(同法120条1号)に触れた上、「これは、労働契約を締結する使用者の最も重要な義務であり、労働者の側から見れば最も基本的な権利・・」と指摘しています。そして、「株式会社の取締役は、当該会社が労働契約を締結し、使用者の地位に立つ場合においては、当該会社をして労働者に対する上記基本的義務の履行に遺漏がないようにするため、その時点における最善の努力を尽くすべきものであり、そのことは、取締役が株式会社に対して負担する善管注意義務・忠実義務の内容となっているものと解される。」と指摘しています。その上で、本判決は、「例えば当該会社の経営が客観的に困難な状況にあり、労働者への給与支払が滞りがちである、といった場合・・・、事態を放置することは会社の財務状況をますます悪化させ、労働者を含む会社債権者の顕在的又は潜在的な損害をさらに拡大するのであるから、取締役には、そのような損害の拡大を防止するため、可能な限り最善の方途を選択・実行すべき善管注意義務があるというべき」としました。本件判決は、「従業員に対する給与の未払が真に恒常化しているとすれば、取締役は、場合によっては倒産処理等も視野に入れつつ、会社の再建可能性ないし経営状況の是正可能性を真摯に検討する必要がある」とも指摘しています。

本件会社及び元取締役らが原告であるXに支給すべき金額につき不足が生じていることを認識していた事実関係のもとで、そのような意図的な給与未払いという事態は、すでにそれ自体として、取締役に期待される最善の努力を尽くしていないこと、すなわち任務懈怠があったことを強く推認させると判断しました。

次に、②取締役の悪意重過失の点について

本判決は、原告Xの給与の未払または解雇予告手当の不払いという事態を意図的に生じさせることは、代表取締役が主導したものと推認され、かつ、取締役もまたこれを容認していたものと推認されると認定し、元取締役らには、任務懈怠について少なくとも重大な過失があったと判断しました。

さらに、④因果関係の点について

本件会社の資金不足が真に逼迫していたとすれば、元取締役らとしては、むしろ、原告Xに給与債権の回収が事実上不可能となるような状況で労働力を提供させることを控えるべきものであり、そのような対応を取ることは十分に可能であったと推認されると判断し、因果関係も肯定しました。

以上のように、給与や解雇予告手当の未払が生じているケースにおいて、会社だけでなく、取締役が責任を追及される可能性もあります。

今回紹介した裁判例では、「給与」、「解雇予告手当」という項目で責任追及がなされていますが、当然、残業代についても会社法429条1項の要件を満たすと判断されれば、取締役の責任が肯定される可能性があります。

残業代請求リスクは企業のみならず、取締役等の役員にも存在しているリスクということです。

長時間労働の是正は一つ一つの企業が当事者意識をもって取り組む問題です。
弊所では、長時間労働問題の是正のため、他士業の先生とも連携し、専門家チームを組んで問題解決に当たっています。また、長時間労働是正に成功した企業の経営者を招いて講演会を開催するなどの活動も積極的に行っております。

長時間労働是正に悩んでおられる経営者の方がおられましたら、是非一度相談にお越しください。あなたの企業がより良い方向へ向かうためのお手伝いをさせて頂きます。