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職務発明の手引き(中小企業向け・1)~法改正を踏まえて~

2016.04.01 | 投稿者:仁戸田 康平

職務発明と聞くと、青色発光ダイオードに関する訴訟で巨額の金銭請求が認容された事案は、記憶に新しいことと思います。本年4月1日からは改正特許法が施行され、職務発明制度の内容が変わる予定です。今回の改正をきっかけに、職務発明への対応を整えたいとお考えの企業の皆様も多いかもしれません。
そこで、今回は、職務発明の制度と、4月に迫る法改正の概略についてお伝えします。
※なお、この記事では、法律用語をあえて厳密には使わず、出来る限り平易な説明を試みていますので、その点はご留意下さい。

なぜ職務発明制度があるのか

例えば、ある会社A社の業務のなかで、ある従業員BがA社の事業に極めて有益な発明を完成させたとします。
仮に、職務発明という制度(特許法35条)が存在しなければ、その発明について特許を受ける権利は、A社ではなく従業員Bにあります。この状態では、A社の事業活動に様々な不安を生じさせます。

A社の不安材料(職務発明制度が存在しない場合)

・Bからのライセンスや特許権譲受けが必要
・対価もBとの交渉により決定         事業の継続に支障?
・特許権譲渡がなければ他社の模倣に対してA社に権利なし

従業員Bが特許権を取得した場合には、A社は、Bからライセンスを受けられるのか、特許権を譲ってもらえるのか、その対価の金額に至るまで、Bと交渉しなければなりません。そして、Bの承諾がなければ、A社はその発明を利用することができず、最悪の場合、事業の継続が危ぶまれることも考えられます。

しかし、従業員Bは、A社の設備やノウハウを活かすなどして、業務として新たな発明を行っているはずです。そもそも、企業内での発明は、一定規模の資本投下や長年にわたるノウハウの蓄積、多数の従業員のバックアップを背景に完成するのが通常であり、企業全体の努力の産物という側面があります。
そうであるのに、使用者であるA社が何らの権利も得られないのでは、発明に対する投資を控える要因になります。これは、社会全体にとっても好ましいことではありません。

そこで、一定の条件の下に、使用者に発明を無償で利用できる権利を与え、また、使用者が特許権を確保しやすくする制度が、職務発明制度です。

職務発明制度の内容

現行の職務発明制度は、ごくおおまかに言えば、以下のような制度です。

① 使用者に実施権が発生
従業員の業務の範囲で、従業員の職務に属する発明について特許権が発生したときは、使用者は、特許権者の許諾なく無償で発明を利用できます(特許法35条1項。特許法の世界では、この無償の利用権を「実施権」と呼んでいます。)

② 就業規則等により、従業員から権利承継が可能
使用者は、①の発明に関する特許を受ける権利や特許権を使用者に承継させる旨の規程を、従業員との雇用契約書や就業規則にあらかじめ設けていれば、これらの権利を「承継することができます(特許法35条2項)

③ 従業員の相当対価請求権
②によって使用者が権利を「承継」したときは、従業者は使用者に相当の対価を請求できます(特許法35条3項)

 今回の改正の概要

改正の大きなポイントの一つは、③従業員の相当対価請求権にあります。
これまでは、従業員に相当の対価、すなわち金銭の給付を行うべきと考えられていましたが、改正法では、「相当の金銭その他の経済上の利益」を与えるべきと定められることになりました(改正法35条4項)。
この改正により、あらかじめ就業規則(職務発明規程など)で定めていれば、金銭の給付ではなく、留学機会の付与や、金銭的処遇を伴う昇進・昇格などの措置に代えることも可能となります。

上記の「経済上の利益」の基準の策定には、これまでと同様、従業員への開示や従業員との協議を経ることが求められています(改正法35条5項)。もっとも、基準の策定に際してどのような事項を考慮すべきかについては、官庁がガイドラインを公表するため、注意が必要です(ガイドラインの案は、特許庁のウェブサイトで既に公表されています。)。