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職務発明の手引き(中小企業向け・3)~法改正を踏まえて~

2016.04.15 | 投稿者:仁戸田 康平

今回からは、平成28年4月1日より施行予定の法改正にどのように対応するか、という話題を取り上げます。
前回でも少し触れましたが、「原始取得」の方式を選択することが、本当に貴社にとって利益になるのか、少し詳しく考える必要があります。

「原始取得」のデメリット

「原始取得」の方式には、一定の企業にとってはデメリットといえる側面があります。

① 実施権

前々回に取り上げましたが、従来の職務発明制度では、従業員Bが職務発明を完成させると、A社はその発明に対して実施権を有します(特許法35条1項)。
A社は、実施権を有していれば、その発明について誰が特許権を持つに至っても、その発明を無償で利用することができます。
実施権は、特許権者から与えてもらうことも出来ますが(特許法78条1項)、上記の場合は、職務発明であれば自動的にA社に実施権が付与されることになります。

この実施権は、非常に重要です。
例えば、A社とは無関係のC社が、何らかの方法でBの発明を知り、A社よりも先に特許出願をしたとします。A社からみれば、C社は明らかに特許を受ける権利を持っていませんが、出願を受けた特許庁にはそのような事情が把握できず、C社に特許権を与えてしまう場合があるのです。
こうなると、A社が費用や労苦を投じて発明が完成したのに、C社がA社にその発明を利用しないよう請求してくるかもしれません。
このとき、A社が実施権を持っていれば、これをC社に主張することができ、最低限、A社はその発明を無償で利用できることになります。

しかしながら、A社が特許を受ける権利を「原始取得」した場合は、そうはなりません。なぜなら、A社が持つはず実施権は、特許を受ける権利を「原始取得」すると同時に、混同によって消滅すると考えられているからです(民法179条1項)。
こうなってしまうと、その発明はC社に独占されてしまい、A社がこれを利用すると特許権侵害となりかねません。
逆に、「承継取得」であれば、A社は、Bから特許を受ける権利を承継取得する時点までは、実施権を持つことが出来ます。

② 従業員に与える利益の税務上の取扱い

また、「承継取得」と「原始取得」を比較したとき、以下のように、従業員に対する「相当の金銭その他の経済上の利益」が税務上どのように取り扱われるかも異なります。

「承継取得」の場合  「原始取得」の場合
従業員が得る利益
に対する課税
・使用者が「承継取得」した際に一時払いを行った場合は、従業員の譲渡所得
・「承継取得」後の支払は、雑所得
(所得税法基本通達23~35共-1)
・譲渡所得に該当することはないと考えられる
(深津拓寛ほか「実務解説職務発明」(商事法務、2016年)209頁)
使用者に
対する課税
・「承継取得」をした場合に従業員に付与する金銭は、消費税法上の課税仕入れに算入される
(消費税法基本通達11-2-4)
・左記の消費税法基本通達11-2-4の文言からは、課税仕入れに算入するのは困難か

こうしてみると、「原始取得」は「承継取得」に比べ、税務上もメリットが少ないといえるのかもしれません。

「原始取得」のメリットは?

もちろん、「原始取得」を採用するメリットもないわけではありません。
「原始取得」としておくと、後の紛争が生じた際に効果的な場面もあります。

一例を挙げると、「①実施権」で挙げたような、A社とは無関係のC社が、何らかの方法でBの発明を知り、特許権を取得してしまった場合です。
この場合、「原始取得」を定めておくと、「承継取得」の場合とは異なり、C社に対して特許権の移転請求を行うことが可能となります(特許法74条1項)。

もっとも、上記の特許権移転請求(特許法74条1項)を行う場合、「A社の業務としてBが発明を完成させたこと」を立証できる証拠を残しておく必要があります。そうすると、A社は、全ての従業員の発明(発明と思われるアイデア全てを含む)を、逐一管理して、上記のような事態に備えなければなりません。
しかしながら、このような管理を行うことが現実的でない、という企業様も多いのではないでしょうか。
また、C社が特許移転請求に任意の交渉で応じなければ、A社は裁判を起こすしかありません。
裁判自体にも費用と手間がかかる上、勝訴できるか否かは証拠の有無によります。裁判が終わるまで、その発明を利用する事業を止めるという判断を迫られる場合もあります。そうなれば、裁判を終える頃には他社にシェアを奪われるなど、事実上の不利益も避けられないでしょう。
仮に、裁判で勝つことができたとしても、A社が不利益を被る事態を十分に予防できるかといえば、疑問が残るところです。

「承継取得」「原始取得」どちらを採用すべき?

以上のように、「原始取得」のメリットやデメリットをみると、一般的には、法務や知財の体制が整った企業でなければ、「原始取得」の持つ効果や強みが発揮できないといえるかもしれません。

「原始取得」の方式が本当に望ましいか否かは、企業の規模や体制を踏まえて慎重に検討する必要があるように思われます。

※なお、本投稿では、可能な限り平易な説明を試みるため、用語を厳密には用いず、詳細な議論を割愛しています。個々の企業様における対策や法的紛争については弁護士にご相談下さい。