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介護の死亡事故が発生!責任は?損害賠償金の相場は?対応について解説

介護の死亡事故が発生!責任は?損害賠償金の相場は?対応について解説
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介護事業所を運営する中で、介護事故は避けることができない重大な問題です。特に、利用者が亡くなってしまうような介護事故の場合には、通常の介護事故よりも利用者家族の対応は困難になります。また、場合によっては警察対応やマスコミ対応が発生することもあり、これらの対応も慎重に行わなければなりません。

また、事故を起こしてしまった職員の不安やショックへの対応(メンタルケア)も、しっかりと実施する必要があります。加えて、介護の死亡事故について、事業所の過失が認められれば、当然、利用者に対して損害賠償義務を負うことになりますし、その金額は多額に及びます。

介護事業所としては、介護の死亡事故の発生時には、多くの問題にきめ細やかに、かつ迅速に対応をする必要があるのです。

そこで、この記事では、介護の死亡事故が発生した際に、どのような事態が発生し、これに対して、具体的にどのように対応すればいいのか、また、介護事業所にどのような責任が発生するのかについて解説します。

また、介護の死亡事故の際の損害賠償額の具体例や、介護の死亡事故を弁護士に相談する必要性、死亡事故発生後の再発防止策や職員のメンタルケアなどについても解説していますので、実際に介護の死亡事故に直面している介護事業所の皆さんや、事故の発生を危惧されている介護事業所の皆さんは、ぜひ参考にしてください。

それでは、見ていきましょう。

 

1.介護の死亡事故はどれぐらい起きている?【統計】

介護事業所における死亡事故の数については、自治体や国からは明確には公開されていませんが、平成31年に公開された、厚生労働省による統計があります。

この統計は、厚生労働省が平成31年3月14日に公表したもので、平成30年10月に市区町村を対象に実施された調査によるものですが、全国の特別養護老人ホーム、老人保健施設での平成29年度の1年間に事故で死亡した入所者の数の合計は1547人であり、特別養護老人ホームが1117人、老人保健施設が430人との結果が出ています。

なお、平成30年6月時点で、特別養護老人ホームは全国で約1万100箇所、入所者は約60万人で、老人保健施設は約4300箇所、入所者は約36万人です。

これは、あくまでこの2施設だけの統計であり、かつ、市町村が認知した事故件数であることから、実際にはもっと多くの死亡事故が発生しているものと思われます。

なお、厚生労働省は、事故に関する全国的なデータを蓄積する仕組みを構築し、介護現場での再発防止策の策定や、利用者の安全向上に役立たせるため、令和4年に、全国の介護施設で発生した事故による死者数や原因を収集・分析し、結果を公表する方針を固めており、令和6年度から運用が開始される見通しです。

 

2.介護の死亡事故が発生するシチュエーション【具体的な事例】

介護の死亡事故が発生するシチュエーション【具体的な事例】

介護事業所の利用者は、元々持病があったり、健康状態や心身の状態に問題を抱えた高齢者です。その場合、介護事故が発生すると、その軽重にかかわらず死亡の結果が発生することがあります。

例えば、送迎時や移動、移乗時の転倒や転落、食事中の誤嚥や異食、入浴中の溺水など、いずれも死の結果に直結する可能性がありますし、これらの事故の結果寝たきりとなり、そのまま短期間の間に亡くなってしまうこともあります。

具体的には、就寝中に仰向けの状態で嘔吐したことで、嘔吐物が気管に詰まり窒息する、または、誤嚥性肺炎になるなどの理由から亡くなってしまったり、離設してそのまま徘徊し、その途中で交通事故に遭って亡くなってしまうなど、死亡の危険は至るところにあります。

介護事業所としては、全ての事故が利用者の死の結果に繋がりかねないことを認識の上、介護事故を発生させないための取り組みや、介護事故が発生してしまった際にはその対応や再発防止策に取り組む必要があるのです。

 

3.介護の死亡事故が発生したらどんな責任を負うの?

介護事故が発生しても、必ずしも事業所やその職員が責任を負うわけではありません。

ここでは死亡事故にフォーカスを当てて、解説します。

 

3−1.介護事業所が負う責任

介護事業所が負う法的な責任としては、以下の2通りがあります。

 

  • 1.民事上の責任
  • 2.行政上の責任

 

これに加え、特に死亡事故も場合は、以下も非常に大きな問題となります。

 

  • 3.社会的な責任

 

以下で、詳しく解説します。

 

(1)民事上の責任「損害賠償」

民事上の責任とは、介護事業所が利用者との間で締結した利用契約に基づいて負う債務を履行しなかった場合に負う金銭賠償の責任です。

根拠となるのは、民法415条1項または民法709条です。

 

▶参照:民法415条1項と民法709条(及び民法715条)の条文

(債務不履行による損害賠償)

第415条

1 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

 

(不法行為による損害賠償)

第709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

 

(使用者等の責任)

第715条 ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。

2 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
3 前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。

 

・参照元:「民法」の条文はこちら

 

 

利用者の安全を守る義務、いわゆる「安全配慮義務」は、この利用契約に基づいて当然に発生する義務であることから、介護事業所がこの安全配慮義務に違反した結果、介護事故が発生したとなれば、介護事業所は利用者に発生した損害の賠償義務を負うことになります。

また、職員の故意または過失により、利用者に損害を与えた場合には、職員の損害賠償責任の他、使用者である会議事業所も損害賠償責任を負います。

そして死亡事故となれば、その損害額も大きくなります。

詳しくは、「4.介護の死亡事故で介護事業所が支払う損害賠償金の相場とは?」で解説します。

 

【弁護士畑山浩俊のワンポイントアドバイス】

不法行為に基づく損害賠償請求の場合、職員個人への損害賠償請求もあり得ますが、実際には、職員の資力の関係や、「介護施設に預けていたのに家族が亡くなった」と言う遺族側の意識から、通常は介護事業所に対して損害賠償請求がされる例がほとんどです。

 

不法行為に基づく損害賠償請求の解説図

 

また、介護事業所が、使用者責任に基づく損害賠償金を支払った後、実際に事故を起こした職員に対して、求償をすることも法的には可能です。もっとも、使用者である介護事業所は、労働者である職員を働かせることで利益を得ており、いわゆる危険責任、報償責任の考え方から、労働者に対する求償は信義則により大きく制限されることになります。

 

 

(2)行政上の責任「行政処分」

介護保険を利用した介護事業を運営するためには、都道府県又は市町村から「指定」を受ける必要があり(介護保険法70条等)、その結果として、行政からの監督を受けています。

そして、介護事故の発生を通じて、「①当該指定に係る事業所の従業者の知識若しくは技能又は人員について、都道府県の条例で定める基準又は都道府県の条例で定める員数を満たすことができなくなったと判断されたとき」、「②指定居宅サービスの事業の設備及び運営に関する基準に従って適正な指定居宅サービスの事業の運営をすることができなくなったとき」には、指定の取消しや指定の効力の一時停止の処分がされることがあります(介護保険法77条1項)

 

▶参照:「介護保険法70条等」「介護保険法77条1項」の条文はこちら

 

 

介護事故の発生そのものが、なんらかの処分理由となっているわけではありませんが、介護事故の防止対策をとっていなかったこと(運営基準違反)や、介護事故を発生させるような人員配置であったこと(人員員基準違反)などを理由に、行政処分を受ける可能性があります。

 

▶参考情報:行政処分については、以下の記事でも詳しく説明していますので、併せてご覧ください。

介護事業所が受ける行政処分・行政指導の内容や対応方法を事例付きで解説

 

 

(3)社会的な責任

法的な責任の他、介護事故が発生し、これが他の利用者や利用者家族に知れ渡り、場合によってはマスコミ等が報道すれば、事業所に対する社会的評価に大きく関わります。

特に、死亡事故の発生のインパクトは強く、介護事業所に法的な責任がなかったとしても、他の利用者や利用者家族などに「この事業所の体制は大丈夫だろうか?」「大事な家族を預けていて心配ないだろうか」との不安を抱かせますし、報道を見た人が、「ここの施設を利用するのはやめよう」と判断し、利用を控えてしまう場合もあります。

このような場合には、事故の内容にはよるものの、他の利用者や利用者家族への事故に関する説明、ホームページ等への説明文の掲載などが必要となることもあります。

 

3−2.職員が負う責任

 

(1)刑事上の責任「業務上過失致傷罪」

職員が、業務上必要な注意を怠り、その結果介護事故を起こしてしまい、その結果利用者が死亡したような場合には、業務上過失致死罪が成立し、5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金が科せられる可能性があります(刑法211条)。

 

▶参照:「刑法211条」の条文はこちら

 

 

4.介護の死亡事故で介護事業所が支払う損害賠償金の相場とは?

介護事業所での死亡事故で、実際にどのような損害賠償金が支払われているのでしょうか。

以下では、裁判例を元に、いくつかの例を見ていきましょう。

 

4−1.裁判例の紹介

 

(1)誤嚥による窒息(さいたま地方裁判所平成23年2月4日判決)

 

事案の概要

特別養護老人ホームの入所者(A)が誤嚥により窒息死した事故について、入所者の相続人らから同老人ホームの設置者に対する損害賠償請求が認められた事例

 

賠償額

1770万円(合計)

 

責任を認定した部分

「本件事故当時、Aは紙おむつ等をちぎって口に入れるといった異食行為を繰り返しており、これによって同人が窒息死に至ることがあることも具体的に予見される状況にあったのであるから、同人との間の介護老人福祉施設利用契約に基づき同人Aに対し介護等のサービスを提供すべき義務を負っていた被告においては、介護服を着用させるに当たってはこれを適切に使用すること、すなわち、故障や劣化がないかどうかを点検して、そのような不具合のない介護服を着用させ、ファスナーを完全に閉じることによって、 Aが紙おむつ等を取り出すことがないよう万全の措置を講ずる注意義務を負っていたというべきであるところ、被告は、この注意義務を怠り、介護服を適切に使用せず、そのために本件事故に至ったものであるから、不法行為に基づき、 Aの死亡によって生じた損害を賠償すべき責任を負う。」

 

▶︎参照:裁判所「さいたま地方裁判所平成23年2月4日判決」の判決内容はこちら

 

 

(2)溺水(札幌地裁令和4年4月25日判決)

 

事案の概要

被告が運営するa病院(以下「被告病院」という。)に入院中であった亡B(以下「亡B」という。)が被告病院の看護師及び介護士による介助を受けて入浴中、溺水して死亡したこと(以下「本件事故」という。)について、亡Bの入浴介助に当たった介護士には、別の患者の洗髪介助を行い、浴槽内にいた亡Bの状態を目視により確認しなかった過失があるとして、損害賠償請求が認められた事例

 

賠償額

3185万6756円

 

責任を認定した部分

D介護士は、亡Bの入浴介助に当たって、亡Bが浴槽内で意識障害を起こして溺水して死亡することのないように、頻回に浴槽内の亡Bの動静を確認する注意義務を負っていたと認めるのが相当である。それにもかかわらず、D介護士は、本件別患者の洗髪介助を行うに当たり、2~3分間にわたって亡Bの動静を確認していないのであって、上記注意義務違反の過失が認められる。そして、D介護士が、上記注意義務を尽くし、亡Bの動静を頻回に確認していれば、亡Bの溺水を早期に発見することができ、亡Bの死亡という結果を回避することができたと認められるから、D介護士の上記注意義務違反と亡Bの死亡との間の相当因果関係も認められる。

 

(3)転倒(京都地裁令和元年5月31日判決)

 

事案の概要

亡A(以下「亡A」という。)が、被告の運営する介護老人保健施設D(以下「本件施設」という。)に入所中、被告の職員が付添いや近位での見守りを行う等の義務を怠ったことによって、3回転倒し、頭部骨折等の傷害を負い、その結果死亡するに至ったとして、亡Aの相続人による損害賠償請求が認められた事例

 

賠償額

2817万7241円(合計)

 

責任を認定した部分

「亡Aは、短期間に転倒を繰り返しており、バランスを崩しやすい状態にあったといえること、亡Aが転倒した場合には、手をつかずに頭部を直接床に打ち付ける可能性が高く、このような態様で転倒した場合に死につながる重大な傷害を負うおそれが高かったことからすると、第3転倒が第1転倒及び第2転倒と異なる態様によるものであったとしても、そのことで直ちに被告の義務が否定されるものではなく、亡Aがバランスを崩しやすい体勢にある場合には、亡Aがバランスを崩し転倒するおそれがあり、それにより重大な結果が発生する可能性が高いことは容易に予見できるのであるから、それに対処すべく、近位で付き添い介助すべき義務を有する。」

「S(職員)は、第3転倒前において、亡Aが牛乳を飲みながら歩行しているのを確認しながら、同人に付き添うこと、あるいは、他の職員に亡Aへの付添いを求めることをしなかったものであり、被告の職員には、亡Aに付き添う義務の違反があったというべきである。」

 

【弁護士畑山浩俊のワンポイントアドバイス】
介護の死亡事故における損害賠償の内容としては、実際にかかった治療費や入院費用、文書代などの他、死亡慰謝料、逸失利益、葬儀費用、弁護士費用などがあります。ここでは、介護事故と死亡との因果関係が法的に認められた裁判例を紹介しましたが、介護事故の後に亡くなったからといって、必ずしも死亡の結果の責任を介護事業所が負うわけではありません。その場合には、慰謝料の金額、逸失利益の金額などが大幅に減額され、葬儀費用は介護事故と因果関係のある損害ではなくなるため、損害賠償額から除外されます。 

死亡慰謝料は、義務違反の内容及び程度、死亡に至るまでの経緯、亡くなった利用者の年齢及び心身の状況、家族関係等の事情を総合的に考慮した上で算出されますが、紹介した裁判例では、1500万円から2300万円までの死亡慰謝料が認定されています。

 

いずれにしても、介護の死亡事故が発生した場合には、介護事業所として多額の損害賠償義務を負うことがわかります。

 

 

4−2.介護賠償責任保険の利用と限界

介護事業所は民間の介護賠償責任保険に加入しているため、介護事故が発生し、損害賠償義務を負う場合には介護賠償保険を利用します。

もっとも、保険を利用する際には、介護事故に関する調査が必要となり、これには一定の時間を要することから、利用者家族から不信感を抱かれることもあります。そのため、介護賠償責任保険の存在や利用に関しては、利用契約書に明記をした上、必ず利用契約時に説明をしておくようにしましょう。

何より、保険会社の調査状況や進捗状況は、仮に動きに進展が無かったとしてもこまめに報告することが望ましいでしょう。頻繁に報告があると、介護事業所が誠心誠意事故対応を行っているとの姿勢が家族に伝わるため、無用な紛争を防止することに繋がります。

 

▶︎参考:利用契約書の記載例

​​第○条

1 事業者は、本契約に基づくサービスの実施に伴い、事業者の責めに帰すべき事由により利用者に生じた損害について賠償する責任を負う。
2 事業者は、民間企業の提供する損害賠償責任保険に加入しており、前項規定の賠償に相当する可能性がある場合、利用者及び利用者の家族等関係者は当該保険の調査等の手続に協力する。

 

 

なお、民間の介護賠償保険は、保険料によって補償の範囲が異なることから、認定された賠償額によっては、保険金で賄えない場合もあります。実際に、利用者の年齢等によっては、逸失利益や将来介護費用も多額となる場合があり、賠償金の額が3000万円を超えるケースもあります。

一度、みなさんの事業所が加入している保険の内容を見直し、介護事業所に責任のある死亡事故が発生した場合でも、十分に対応が可能な賠償額であるかどうかを確認しておきましょう。

 

5.介護の死亡事故が発生したら何が起こる?

介護の死亡事故が発生すると、一体何が起きるのでしょうか。

以下では、その中で特に注意が必要な対応について解説します。

 

5−1.利用者家族への対応

利用者の救護の後、最も気を付ける必要があるのが利用者家族への対応です。どのような介護事故でもそうですが、特に死亡事故に関しては、報告のタイミングや、報告内容などに気を配る必要があります。

利用者家族への初期対応を誤れば、利用者家族からの不信感により、事故の説明や損害賠償に関する交渉が難航し、最終的には法廷でなければ解決できないような事態にもなりかねません。

 

5−2.警察対応

介護事故の態様によっては、警察による捜査が入る可能性があり、突然事業所に警察官がやってくることもあり得ます。

防犯カメラの映像の確認、事業所内の検分、職員からの聞取りなど、慣れない手続が目の前で繰り広げられることで、職員は自分達が犯罪者として扱われているような感覚に陥り、事業所内は混乱します。

 

5−3.マスコミ対応

介護の死亡事故は、その結果の重さから、行政や警察、その他、他の利用者や職員からのリークなどによって、報道機関が興味を持ち、取材に訪れることがあります。

この時に注意すべきことは、利用者家族に報告ができていない段階で、マスコミに情報が流れることがないようにすることです。

利用者家族としては、事故の報告を事業所から聞くのであればまだしも、報道等で知ってしまうことになれば、「なぜ私たちに報告されていないことが報道で流れているのだろう。事業所何か、隠し事をされているのではないか?」などといった疑念を持つことを避けられません。また、職員が個別に取材を受け、不正確な情報を流してしまえば、利用者家族からの信頼だけでなく、社会的評価も大きく貶められることになります。

マスコミ対応にあたっては、一貫した対応を取ることを事業所内で早期に話し合い、準備しておくことが重要です。

 

5−4.行政対応

介護事故が発生すると、事業類型によっては5日以内に行政に報告をする必要がありますが、これが何らかの理由で遅れ、報告前に利用者家族や内部通報等によって先に行政が知ることとなった場合、指導や監査等の対象となる可能性があります。

事故報告に関しては、以下の記事でも詳しく説明していますので、併せてご覧下さい。

 

▶︎参考:事故報告は義務!介護事故報告書の書き方など作成方法を解説【書式付き】

 

 

5−5.介護事故を起こした職員の処分の検討

介護事故が、特定の職員が介護サービスを提供している最中に発生した場合、当該介護事故の発生に、当該職員がどのように関与したかについて、速やかに調査をする必要があります。

特に、介護事故を起こした職員は、そのショック等から出勤をしなくなることもあり、そのことを踏まえて、早急に本人からの聞き取りを実施する必要があります。

最終的に、注意指導をするのか、懲戒処分をするのかなどは、追って決めることで問題ありませんが、万が一、事故原因が当該職員の故意の行為による場合(高齢者虐待の場合など)やその疑いがある場合には、利用者家族への説明や、他の利用者の安全確保などの観点から、取り急ぎ当該職員を自宅待機させるなど、対応を検討しなければなりません。

 

6.介護の死亡事故が発生したら?対応の流れについて

では、介護の死亡事故が発生した場合、具体的にどのように対応すれば良いのでしょうか。

以下では、対応に関する概要を説明した上、具体例をもとに、実際の流れや対応方法を解説します。

 

6−1.事業所としての対応が必要

まず、介護の死亡事故は、決して事故を起こした職員だけの問題ではなく、事業所全体の問題です。

介護の死亡事故が発生すれば、職員は心身共にダメージを受け、これを放置して、対応を任せっきりにしてしまうと、職員が心身の疾病を発症したり、離職をしてしまう状況が危惧されます。

また、事故対応は統一的に行う必要があり、職員がバラバラに対応していたのでは、利用者家族との交渉がうまくいかなくなったり、報道に不確かな情報が流通し、社会的な信用を失うことにもなりかねません。

介護の死亡事故への対応は、「ワンチーム」で行うことを、まずはしっかり心に留めておきましょう。

 

6−2.対応の優先順位

介護の死亡事故の発生により、対応すべき事項は同時に発生します。

その中で、最も優先すべきは利用者家族への報告です。

行政へ報告するための事故報告書は、まずは取り急ぎ期限内に作成する必要はあるものの、事故報告書は、その後、出し直しをすることが予定されているため、その時にわかっている事情だけを報告すれば、まずは状況をクリアできます。

また、警察対応やマスコミ対応は、こちらからアプローチをするものではないため、対応時期が読めないところもありますが、対応が必要となることを前提に、事業所内での意思統一を図っておく必要があります。

このように、対応すべき事項は同時に発生しますが、状況に応じて優先順位を意識しながら、対応していく必要があるのです。

 

6−3.死亡事故対応の流れ【具体例】

以下では、顧問弁護士がいる特別養護老人ホームで事故が発生したことを前提に、具体的な対応方法を解説します。

 

(1)具体例

特別養護老人ホームを運営しているA事業所で、朝食の時間に、利用者Bさんの誤嚥事故が発生しました。

そばにいた職員がすぐに様子を確認し、その場でできる救護措置をとった上、他の職員が119番通報をし、その後駆けつけた救急隊員により救急搬送されましたが、残念ながら、利用者Bさんはそのまま亡くなってしまいました。

なお、A事業所は、数ヶ月前より、法律事務所Kと顧問契約を締結しており、利用契約書のリーガルチェックの他、カスタマーハラスメントに対する相談等を行っていました。

そのため、A事業所の管理者であるCは、A事業所を運営する法人代表者に確認の上、利用者Bの救急搬送直後、法律事務所Kへ介護事故が発生したことについて、チャットワークを利用して以下のような第一報を入れました。

「今朝の○時ごろ、利用者様(90代女性)が、誤嚥し、救急搬送されました、うちのスタッフが病院に付き添っていったのですが、先ほど亡くなってしまわれたようです。何か今の段階で気を付けることがあったら教えてください。」

このチャットを送ってから10分も経たないうちに、法律事務所Kの弁護士から返信がありました。

「ご連絡をいただきありがとうございます。状況について確認をさせていただきたいので、今からお電話させていただいてもよろしいでしょうか」

これに対して、管理者Cがすぐに電話できる旨を返信すると、法律事務所KのH弁護士から電話がかかってきました。

 

(2)利用者家族への第一報

管理者CはH弁護士に、管理者Cが把握している事故状況等について説明しました。

もっとも、現段階では、まだ事故を目撃した職員からもしっかりと話は聞けておらず、事故の全貌ははっきりしていませんでした。

そこで、管理者CからH弁護士に、「ご家族へ連絡をする必要があるのですが、どうすれば良いでしょうか」と質問をしたところ、H弁護士からは「現時点ではわからないことも多いので、改めて調査や確認をすることを前提に、すぐにご家族へ連絡をとってください。今回、ご家族様が死に目に会えなかったという状況ですので、連絡等の遅れや状況の誤った伝達によって、ご家族の信頼を大きく損なう場合があります。病院に付き添っている職員の方に一度連絡を取って状況を確認し、今わかっていることを正確にご家族へ伝えてください」との助言がありました。

加えて、H弁護士からは「誤嚥事故が発生してから亡くなるまでに、ご家族に連絡ができるタイミングはありましたか」との質問があったため、管理者Cは「なかったと思います。すぐに救護をして救急車を呼んで搬送されたのですが、ご家族に連絡をしようとしていた時に亡くなったとの報告を受けましたので…」と回答しました。

すると、H弁護士は「その状況は、記憶が新しいうちに記録しておいてください。ご家族から、『どうして連絡をくれなかったのか』と尋ねられた場合に回答するためです」と説明しました。

この時、管理者CはH弁護士に対して、併せて、「謝ってしまうと施設が責任を負わなければならなくなると聞いたのですが、現時点では謝らなくていいでしょうか」と確認をしたところ、「施設内で起きた事故に対して、道義的に謝罪をすることにはなんの問題もないですし、むしろ謝罪しないことで、利用者家族からの信頼を無くしたり、不快な思いをさせて関係を悪くする可能性があります。施設内で起きたことに関しては真摯に謝罪し、それを超えて賠償の話等になりそうになったら、必ず話を持ち帰るようにしてください」と助言されました。

そこで管理者Cは、H弁護士との電話が終わった後、すぐに病院に付き添っていた職員へ連絡を取ったところ、現在死因等は確認中とのことであり、はっきりしたことは医師からも教えてもらえていないとのことでした。

そのため、管理者Cは取り急ぎキーパーソンである長女に連絡をし、利用者Bに誤嚥事故が発生し、すぐに救急搬送をしたが亡くなってしまったこと、死因等は確認中であること、病院名等を説明の上、詳細が分かり次第随時報告する旨を伝えました。

 

(3)事故状況の調査開始

電話をした利用者Bの長女は、驚き、ショックを受けている様子でしたが、すぐに病院へ行くということで、管理者Cも病院へ向かうことにしました。

管理者Cは、病院での対応をしながら、H弁護士に改めて電話をし、今後の対応について相談すると、取り急ぎ今回の誤嚥事故の際に広間にいた職員に状況を整理してもらい、防犯カメラ等の映像があるなら、保管期間があるため保全することや、利用者Bのフェイスシートなどをまとめておくように指示を受けました。

そこで、管理者Cは病院から、当時広間にいた職員の1人に電話をし、H弁護士からの指示を伝えました。

 

(4)保険会社への連絡

利用者Bの死因は、誤嚥による窒息が原因であることがわかり、その後利用者家族が、葬儀のため利用者を自宅に連れ帰ることになりました。

管理者Cは、誤嚥の起きた状況はまだはっきりしていないものの、今後保険対応が必要になる可能性があると考え、保険代理店の担当者に連絡をし、誤嚥事故により利用者が亡くなったこと、今後の保険調査に必要な資料等の提出方法などを確認し、連携を取ることについて段取りをしました。

 

(5)お葬式等への出席

利用者Bの長女より、利用者Bのお葬式に関する連絡があったことから、管理者Cは、利用者Bの担当をしていた職員と共にお葬式へ参列させていただきたい旨を伝えました。そうしたところ、参列を許されたことから、行く人数や時間を伝えた上で、お葬式に参列し、改めて謝罪等を行いました。

そして、詳しい事故の説明等については、お葬式等が落ち着いたら一度連絡をいただけるようお伝えしました。

 

【弁護士畑山浩俊のワンポイントアドバイス】

お葬式やお通夜の参列は、利用者家族との関係や事故内容により、慎重に検討をする必要があります。

 

例えば、お葬式やお通夜の日時がわかった際、ご家族への確認を取らずに式場へ行くと、その場で入場を拒絶され、混乱が生じる恐れもありますし、ご家族の感情を逆撫でする可能性もあります。

 

お葬式やお通夜への参列の際には、必ずご家族への確認を取り、その意向に従うようにしましょう。

 

 

(6)行政への第一報

利用者Bのお葬式が無事に終了したことから、管理者Cは行政へ提出する報告書の着手に入りました。

しかしながら、管理者Cとしてはまだ職員等からの十分な聞き取りができておらず、正確な事故状況を説明したり、再発防止策を出すことは難しいため、報告をどのように行うべきかについて、H弁護士に相談しました。

そうしたところ、H弁護士からは「行政への報告は、まずは適時に行う必要があるので、現在正確にわかっていることだけ記載して第一報をしておきましょう。書式を見るとわかるように、この事故報告書は何度か提出されることが予定されているので、改めて正確な事実や詳細な事実がわかったり、再発防止策を練ってから再度提出すれば大丈夫です。報告書ができましたら、私の方でも確認するので、おっしゃってください。」との助言がありました。

そこで管理者Cは、現時点で把握している事実のみを端的に記載し、不明な点は追って調査中とした上で、事故から4日後に事故報告書を提出しました。

 

(7)警察による捜査

お葬式の翌日、警察から「○日に起きた事故の件で現場等の確認をするため、これから事業所へ行く」と突然連絡がありました。管理者Cは、突然の警察からの連絡に動揺し、誰か逮捕されるのかなど不安になったため、すぐにH弁護士に相談をしました。

これに対して、H弁護士からは「介護事故が起こると、職員に業務上過失致死傷罪という犯罪が成立する可能性があり、念のためにその捜査にくるのだと思います。特に死亡事故なので、捜査が必要であると考えたのだと思います。職員の方には、包み隠すことなく、わからないことはわからないとはっきり説明するよう伝えておいてください。その上で、もし警察の態度が非常に高圧的だったり、過失があることを前提としたようなものである場合は、事情聴取中であっても、「顧問弁護士に確認する」と伝えていつでも相談してください。あまり気負わず、ありのままを話してくれたら大丈夫ですよ」と説明されました。

そこで、管理者Cは、職員らに対して、H弁護士から聞いた内容を共有し、警察対応に臨みましたが、困ったら弁護士に相談できる、という安心感もあり、また、警察の捜査もそれほど高圧的ではなかったため、支障なく進めることができました。

 

(8)事故に関わった職員への対応

管理者Cは、同時並行して、事故時に広間にいた職員、救護にあたった職員から聴き取りを実施しました。

食事介助をしていた職員によると、利用者Bは嚥下機能が低下していたこともあり、白米からおかゆへの変更を検討していた状況で、白米を少しずつ食べるよう、そばで声かけすることで様子を見ていたものの、その時、たまたま他の利用者が飲み物を床にこぼしたことで、その対応に複数人の職員が気を取られてしまい、利用者Bが白米を大量に飲み込もうとしたことに気が付かなかったとのことでした。

目を離したのは5分程度だったそうですが、気が付いた時には、利用者Bは顔が青くなって苦しそうに唸っていたため、喉に何かが詰まったと考えて、その場で飲み込んだものの吸引等、事業所で決められたマニュアルに従った対応をしながら救急車を呼んだものの、搬送中に心肺が停止し、病院で死亡が確認されたということでした。

管理者Cは、H弁護士から、各行為の時間等を可能な限り正確に把握するように言われていたので、それぞれの時間を確認し、広間を移していた防犯カメラ映像も確認すると、職員が説明した時間に、食事介助をしていた職員が利用者Bのそばを離れ、その際に利用者Bが、白米の他、他のおかず等を口に入れている様子が映っていました。

当該職員は、普段から真面目に業務に取り組んでおり、利用者Bとの関係も良好であったため、非常にショックを受けている様子でした。

そのため、管理者Cは、「事故はあなただけのせいで起きているのではないから、この事故についての対策は今後一緒にやっていきましょう。困ったことや、少し休みたいようだったら無理をせずすぐに言うように」と声をかけました。

 

(9)事故原因、再発防止策の検討

職員からの聞き取りや、防犯カメラ映像の確認の他、保険会社の調査等も踏まえ、事故原因は、利用者Bの食事介助中に、他の利用者に複数の職員が対応したことで、利用者Bの付き添いがいなくなり、その間に、食事を口に詰め込み、飲み込んでしまったことが原因であったと結論づけました。

この時、利用者Bの嚥下機能が低下していたことや、そのため、食事介助に十分に気を配る必要があったことを職員も認識していたことから、それにもかかわらず、利用者Bのそばを離れてしまったことについて、過失を認めざるを得ないと言うのが、事業所、保険会社としての認識でした。

そして、職員を集めてミーティングを実施し、再発防止策としては、利用者対応中に他の利用者に問題が発生した場合には、対応中の利用者から目を離さないようにしながら、その場で救援を呼ぶこと、複数対応をする必要がない場合に、人員を割かないようにすることなどを検討しました。他方、誤嚥事故発生時の対応は、マニュアルに従ってしっかりと行われていたため、この点は今後も、定期的に研修等を実施していくことを確認しました。

 

(10)利用者家族への説明、賠償

管理者Cは、H弁護士及び保険会社と調整の上、事業所に責任があることを前提として、実費の他、葬儀代、逸失利益、及び死亡にかかる慰謝料の金額を決め、利用者Bの家族との話し合いの機会を持ちました。

話合いの際には、今回事業所内で発生した事故で、多大な迷惑をかけたことをまず謝罪の上、事故原因や、これまでの対応等を利用者の状況を確認しながら慎重に上記の提案をしました。

これらの説明や提案に対し、利用者Bの家族は、「これまでお世話になり、食事も、母が美味しく食べられるようギリギリまで検討してくれていたと思うので、これ以上何も言うことはありません」と言ってくれ、ないとの意向を聞くことができました。

しかしながら、管理者Cとしては、「お金を支払った後に、また別途違う理由でお金を請求されたらどうしよう」と不安になったことから、どうすれば良いかをH弁護士に相談しました。

そうしたところ、H弁護士からは「通常は、金銭を払って事件を解決する際は、清算条項を入れた合意書を締結します。これは、この合意書に定める以外の債権債務がないことを確認する書面ですが、正直介護事故に関して、これを結ぶかどうかは配慮が必要です。

1つは、保険対応に必要だということで、合意書へのサインをお願いする方法ですが、これで事件を終わらせようとしている、というスタンスが見えた時に、不快感や拒否感を示す利用者や利用者家族もいます。そうすると、今回の提案を覆される可能性もあります。管理者Cさんが様子を見られていて、合意書の作成をお願いしたらどんな反応をされそうですか」と尋ねられました。

管理者Cとしては、事故当初から丁寧な対応をとっていたこともあり、利用者家族の態度も厳しいものではなく、保険対応についても快く理解を示してくれていたことから、合意書の締結を提案しても良いのではないかと考えました。

そこで、まずは管理者Cから、利用者家族へ打診をしたところ、合意書作成に進んで構わないとの回答を得たため、H弁護士が合意書の案文を作成し、無事合意が成立することになりました。

その後、保険会社に対して、保険金の支払い方法等を確認の上、今回は事業所から利用者家族に支払いをし、後から保険会社に、事業所に対して保険金を支払ってもらうという方法を取ることにしました。

 

(11)行政への事故報告書の提出

管理者Cは、それまでにわかった判明した事故状況、事故原因、再発防止策などをまとめ、念の為一度H弁護士に確認してもらった上で、行政へ事故報告書を提出しました。

行政からは、再発防止に関する指導はあったものの、その後特段の処分等を受けることはありませんでした。

 

【弁護士畑山浩俊のワンポイントアドバイス】
この事例では、当初から利用者ご家族との関係がよく、交渉がスムーズに進み、他の利用者等との関係の悪化などがない例を取り上げました。もっとも、例えば事故のことを知った他の利用者家族などが、事業所へ問い合わせをしてきたり、記者などが事業所へやってくることなどがある場合もありますので、その場合には、問い合わせ内容や数に応じて、対応を検討する必要があります。具体的には、原則としては、「利用者の方のプライバシーに関わることですので、お答えできません」と言う回答で統一し、それでも執拗に聞いてくる場合には、管理者等の特定の窓口に回してもらうようにして対応をすることで良いかと思います。もっとも、誤った情報が流れ始めたり、報道されるような状況となった場合には、利用者家族に了解をとった上で、事故の概要や対策について、ホームページに掲載したり、他の利用者に、施設だよりや説明文書の形で報告することも検討をする必要があります。状況に応じた判断が必要となるため、悩んだ場合には必ず弁護士に相談するようにしましょう。

 

7.介護の死亡事故を防止するには?

介護サービスを利用するのは、身体的な不自由があったり、認知機能の低下により、自らの行動のコントロールが難しい高齢者の方です。また、介護サービスにおいては、利用者の状態に合わせて、可能な限り自分でできることは自分で行い、これにより心身の機能を維持することも目的とされています。

そのため、すべての介助を職員が行うことは予定されていませんし、1対1で常に見守りができるわけでもありません。このように、どれだけ気を付けていても、介護事故の中には、防ぐことが難しいものもあります。

しかしながら、利用者の死亡に繋がってしまうような大きな事故が発生しないための対策は重要です。

特に、先に軽微な事故やヒヤリハット事案の発生があり、これを事業所として認知していたにもかかわらず、なんらの対策も取らずに放置していた結果、死亡事故が発生したとなれば、事業所の責任は免れません。

介護事故の防止のためには、事故類型に合わせた個別の事故防止対策や、定期的な事業所内での勉強会、研修会の他、実際に発生した軽微な事故やヒヤリハット事案を元に、事故原因の究明、再発防止策の策定、検証、実施を行っていくことが重要です。

介護現場でのヒヤリハットの解説や介護事故の防止対策について詳しくは、以下の参考記事で解説していますので、併せてご覧ください。

 

▶︎参考:介護事故防止の対策!基本指針やマニュアル作成、勉強会・研修の実施について解説

▶︎参考:ヒヤリハットとは?介護現場での事例や活用方法、報告書のポイントを解説

 

 

8.職員へのサポート体制を構築しよう

介護事故は、利用者や利用者家族だけでなく、実際にサービス提供にあたっていた職員に対しても大きな影響を与えます。

特に、利用者が亡くなってしまうような事故が起きた場合、利用者家族から厳しい追及がされることもありますし、そうでなかったとしても、結果の重大性から、「自分が悪かったのではないか」と思い悩み、責任を感じ、精神的に追い詰められた結果、適応障害、うつ病などを発症したり、誰にも相談できず、自死してしまうようなケースすらあります。

介護事故は、職員個人の問題はなく、介護事業所全体の問題です。

事故への対応や再発防止対策を含め、特定の職員のみに任せてしまうのではなく、介護事業所として対応をし、特定の職員に過度な負担がかからないよう心がけましょう。

介護事故が発生した場合の対応について詳しくは、以下の記事でも解説していますので、併せてご覧ください。

 

▶︎参考:介護事故が発生したら?原因や対応方法を事例付きで詳しく解説

 

 

9.弁護士に介護の死亡事故を相談すべき理由

介護事故、特に死亡事故が発生した場合には、できるだけ速やかに弁護士へ相談をすることが重要です。

以下では、その理由について解説します。

 

9−1.初動の重要性

介護事故が発生した際、最も重要になるのは利用者家族の対応です。

特に死亡事故となった場合、利用者家族の方に与えるインパクトは大きく、報告方法、内容等を誤ることで、利用者家族から不信感を買い、その後の説明や交渉が円滑に進まなくなります。

例えば、死亡につながる事故が発生した後、どのタイミングで利用者家族へ報告をしたか、具体的には、利用者が亡くなる前に報告をしたか、していないか、そしてその理由は非常に重要です。

特に、事故発生後、すぐに利用者家族へ報告をしていれば、利用者が亡くなる前に利用者家族と対面できた場合などであれば、利用者家族が感情的になることは避けられず、その後の交渉の難航なども発生し得ます。

もっとも、このような場合であっても、報告ができなかった理由(利用者の救命を第一に行動した結果、利用者家族への報告に至らなかった、報告前に容体が急変したなど)がある場合もあり、このような理由は、謝罪の上誠実に説明することで受け入れられることも多いです。

こういった初期対応は、その後の事故対応の帰趨を決めると言っても過言ではなく、非常に重要です。

 

9−2.対応すべき事情の多さ

介護事故が発生すれば、利用者自身の救護、利用者家族への連絡・対応だけでなく、「5.介護の死亡事故が発生したら何が起こる?」で解説したような様々な対応が同時に発生します。

特に死亡事故の場合は、警察による捜査や、報道も大掛かりになる場合もあり、対応そのものも大変ですし、対応を誤ることにより、利用者家族との関係悪化、他の利用者や利用者家族との信頼関係の悪化、風評被害などが発生することもあります。

このような事態の変化に対しては、その都度、必要な対応を迅速に検討し、優先順位を付けながら対応をしていく必要があり、これによる、職員の業務量の増加や負担は大きくなります。

 

9−3.職員のストレス緩和

9−2.対応すべき事情の多さ」で解説したように、利用者の死亡事故が発生すると、職員の業務量の増加や負担は大きくなります。

また、「8.職員へのサポート体制を構築しよう」でも解説した通り、職員の中には強く責任を感じ、当該事故への対応自体が精神的に強いストレスとなってしまうこともあり、これにより心身の疾患を発症してしまう場合もあります。

介護事故の対応の際には、介護事故に関わった職員、対応する職員のストレス緩和も重要な課題となります。

 

9−4.介護の死亡事故は介護事業に精通した弁護士へ相談を!

以上のように、介護の死亡事故が発生すれば、通常の介護事故よりもさらに多くの対応業務が発生し、これによる混乱や業務の圧迫は避けられません。

このような場合に、弁護士に相談することで、適時に助言を受けながら不安なく対応や交渉を進めることができたり、必要な書面作成を代行してもらうなどすることで、業務への負担を大きく減らすことができますし、初期対応から相談することで、どうしても交渉や対応がうまくいかなくなった時、スムーズに窓口対応を弁護士に変更することができます。

加えて、弁護士への相談にあたっては、介護事業に精通した弁護士を選ぶことが肝要です。
介護保険事業は制度設計が複雑で、介護事業を取り扱ったことのない弁護士は、サービス内容の理解から始める必要があります。

その場合、事故が発生した状況や、職員の勤務実態等をすぐに把握することが困難であり、迅速な対応を求められる介護事故に、即時に対応することができない場合があります。

介護事業に精通した弁護士へ相談することで、介護業界の基礎知識を1から説明することなく、状況を速やかに理解した上、適時に具体的なアドバイスを受けることができます。

 

【弁護士 畑山 浩俊のワンポイントアドバイス】

介護事故発生時の弁護士の関わり方は多岐に渡りますが、トラブルが深刻化してからの弁護士への相談ではなく、事故発生時の初動から弁護士が正しく解決までの道筋をたてていくことが必要です。

 

弁護士法人かなめは、弁護士1人1人が介護業界に精通しており、基礎知識の説明なしに、初動段階からアドバイスをすることが可能です。

 

実際に、顧問契約をした法人様から、「介護業界のことをよく知っておられるので、打合せのストレスが無い。以前、相談したことのある弁護士さんは、介護事業の実態を全く把握していなかったので、問題となっている事業がどのようなサービスを提供するものなのか、ヘルパーとは何をする人か、ケアマネとは何か、など、基礎的なことから説明しなければならず、打合せに同席したスタッフも皆疲弊した。」という声をよく聞きます。

 

お医者さんにも専門分野があるように、弁護士にも専門分野・専門領域があります。介護業界に特化している法律事務所との連携を推奨します。

 

 

なお、介護事故を弁護士に相談すべき理由については、以下の参考記事でも詳しく説明していますので、併せてご覧ください。

 

▶︎参考:弁護士に介護事故を相談すべき理由やメリット、サポート内容を解説

 

 

10.介護の死亡事故に関して弁護士法人かなめの弁護士に相談したい方はこちら

介護業界に特化した弁護士法人かなめによるサポート内容のご案内!

弁護士法人かなめでは、介護業界に精通した弁護士が、以下のようなサポートを行っています。

 

  • (1)事故対応への後方支援
  • (2)利用者家族への窓口対応
  • (3)ヒヤリハット研究会
  • (4)顧問弁護士サービス「かなめねっと」

 

10−1.事故対応への後方支援

介護事故が発生すると、対応すべき事柄が同時に多数発生することから、優先順位をつけながら適時に対応をする必要があります。

しかしながら、事業所だけで全ての対応を滞りなく実施することが難しいこともあり、これにより、職員にかかる負担が大きくなれば、職員の心身の不調や離職なども懸念されます。

弁護士法人かなめでは、介護事故の発生時から、先回りした対応の提案や見通しを伝えた上、発生した事態をその都度ご相談いただくことで、適時に何をどのように対応すべきかを助言したり、必要な文書の作成等を行います。

 

【弁護士畑山浩俊のワンポイントアドバイス】

介護事故の場面で、弁護士が窓口となることは必ずしも適切でありません。

 

介護事業所のみなさんとしては、対応に疲弊していたり、状況の整理が困難な状況から、すぐにでも弁護士に入ってもらいたいと思う場合もあるかもしれません。しかしながら、事業所側としては、利用者家族と争う意図はなく、状況を整理し、対応窓口をしてほしい、という意図で弁護士を立てたとしても、利用者家族としては「なんで急に弁護士が出てくるんだろう?もしかして責任を免れようとしているのでは?」との疑念を抱いてしまい、事業所に対する不信感を持つことで、交渉が円滑に進まない場合もあります。

 

そのため、弁護士が窓口となるのは、まずは事業所が対応を実施した後、責任や損害額について折り合いがつかない場合や、利用者家族が既に弁護士を立て、交渉を開始している場合が適当であると考えます。

 

もっとも、職員の疲弊の状況や、事故対応の重さ(結果のみではなく、これにより人員基準違反や運営基準違反が発覚し、行政対応が予想される場合など)などによっては、速やかに弁護士が介入すべき場合もあります。

 

そのため、まずは早期にご相談をいただくことが非常に重要です。

 

 

10−2.利用者家族への窓口対応

介護事故発生後、不幸にも利用者家族との間で、責任の所在、賠償金の金額等で折り合いが付かず、事業所での対応が難しくなる場合もあります。

このような場合、介護業界に明るくない弁護士に事件処理を依頼すると、1から介護サービスやその業務内容について説明をしなければならず、介護事業所としては、せっかく弁護士に依頼したのにストレスが軽減されない、という事態もあり得ます。

弁護士法人かなめは、介護業界に特化した法律事務所ですので、ご相談の際にも、介護業界特有の前提知識の説明なく、スムーズに相談対応をした上で、速やかに利用者家族との交渉の窓口に立つこともできます。

 

10−3.ヒヤリハット研究会

弁護士法人かなめでは、顧問先を対象に、実際に生じた事例、裁判例を元にゼミ形式で勉強する機会を設け、定期的に開催しています。

実際に介護事業所の現場から得た「気づき」を参加者で共有し、それぞれの参加者の介護事業所の現場にフィードバックができる機会として、ご好評を頂いています。

ヒヤリハット研究会について詳しくは、以下のページをご覧下さい。

 

▶参考:「ヒヤリハット研究会」の詳細情報はこちら

 

 

10−4.顧問弁護士サービス「かなめねっと」

弁護士法人かなめでは、「(1)事故対応への後方支援」ないし「(3)ヒヤリハット研究会」のサポートを含んだ総合的な法的サービスを提供する、顧問弁護士サービス「かなめねっと」を運営しています。

弁護士法人かなめでは、トラブルに迅速に対応するためチャットワークを導入し、事業所内で何か問題が発生した場合には、速やかに弁護士へ相談できる関係性を構築しています。

具体的には、弁護士と介護事業所の関係者様でチャットグループを作り、日々の悩み事を、法的問題かどうかを選択せずにまずはご相談頂き、これにより迅速な対応が可能となっています。いつでもご相談いただける体制を構築しています。

法律家の視点から利用者様とのトラブルをはじめ、事業所で発生する様々なトラブルなどに対応しています。直接弁護士に相談できることで、事業所内社内での業務効率が上がり、情報共有にも役立っています。

顧問弁護士サービス「かなめねっと」について詳しくは、以下のサービスページをご覧ください。

 

▶︎参考:顧問弁護士サービス「かなめねっと」のサービス紹介はこちら

 

 

また以下の動画でも詳しく説明をしていますので、併せてご覧下さい。

 

 

(1)顧問料

  • 顧問料:月額8万円(消費税別)から

 

※職員従業員の方の人数、事業所の数、業務量により顧問料の金額は要相談とさせて頂いております。詳しくは、お問合せフォームまたはお電話からお問い合わせください。

 

弁護士法人かなめの「お問い合わせフォーム」はこちら

 

 

11.まとめ

この記事では、介護の死亡事故が発生した際に、どのような事態が発生し、これに対して、具体的にどのように対応すればいいのか、また、介護事業所にどのような責任が発生するのかについて解説しました。

また、介護の死亡事故の際の損害賠償額の具体例を3つ紹介し、損害額が多額に及び、加入している賠償保険の賠償範囲を超える可能性があることについても紹介しましたので、みなさんの事業所が加入している賠償保険について、一度必ず、補償範囲を見直すようにしてください。

また、再発防止策や職員のケアの他、介護の死亡事故を弁護士に相談する必要性や、その選び方として、介護事業に特化した弁護士に相談することのメリットについても解説しましたので、弁護士への相談を検討している介護事業所の皆さんは、ぜひ参考にしてみてください。

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この記事を書いた弁護士

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畑山 浩俊はたやま ひろとし

代表弁護士

出身大学:関西大学法学部法律学科卒業/東北大学法科大学院修了(法務博士)。
認知症であった祖父の介護や、企業側の立場で介護事業所の労務事件を担当した経験から、介護事業所での現場の悩みにすぐに対応できる介護事業に精通した弁護士となることを決意。現場に寄り添って問題解決をしていくことで、介護業界をより働きやすい環境にしていくことを目標に、「介護事業所向けのサポート実績日本一」を目指して、フットワークは軽く全国を飛び回る。
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中野 知美なかの ともみ

弁護士

出身大学:香川大学法学部法律学科卒業/大阪大学法科大学院修了(法務博士)。
介護現場からの相談を数多く受けてきた経験を活かし、一般的な法的知識を介護現場に即した「使える」法的知識に落とし込み、わかりやすく説明することをモットーとしている。介護事故、カスタマーハラスメント、労働問題、行政対応など、介護現場で発生する多様な問題に精通している。

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