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具体的な解雇理由とは?違法にならない解雇の条件や要件を解説

具体的な解雇理由から学ぶ!違法にならない解雇の条件や要件とは?
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事業所が職員を解雇したいと思うのは、どのような場合でしょうか。

 

  • 事業所が期待する能力がない。
  • 問題行動ばかりする。
  • 経営状態が悪く、人件費を削減したい。

 

このような悩みは、事業所を経営している中で、1度は直面したことがあるのではないでしょうか。

しかし、職員にとって解雇されるということは、月々の収入がなくなり、それまでに築いていきた人生設計が全て狂うほどの大きな影響が出るものです。

そのため、労働契約法16条は以下のように定め、解雇を制限しているのです。

 

▶参考:労働契約法16条

(解雇)
第16条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

・参照:「労働契約法16条」の条文

 

裁判所は、このいわゆる「解雇権濫用法理」を、原則として解雇は無効、といっていいほど厳しく運用しています。解雇が無効になると、いわゆる「バックペイ」と呼ばれる、解雇時から無効が確定するまでの間の給与の他、無効な解雇がされたことに対する慰謝料まで支払わなければならなくなります。そのため、事業所としては、解雇は「最後の手段」として、注意指導や退職勧奨などの手続を粘り強く行う必要があるのです。

いわゆる「モンスター社員」に対する注意指導等の方法については、以下の記事をご覧下さい。

 

▶︎参照:モンスター社員!特徴と対応方法を事例付きで弁護士が解説【放置厳禁】

 

また、退職勧奨の方法については、以下の記事をご覧下さい。

 

▶︎参照:退職勧奨とは?具体的な進め方、言い方などを弁護士が解説

 

もっとも、当該職員が在籍していることで事業所内に深刻な影響が出ている場合や、現に経営が切迫していて人員削減を迫られる状況の場合、退職勧奨によっても当該職員が退職をしなければ、事業所としても解雇手続を選択せざるを得ません。

そこで、この記事では、解雇手続を進める上で大前提となる「解雇理由」について、解雇の種類に応じた解雇理由の内容や根拠について解説します。

そして、最後まで読んでいただくことで、違法とならない解雇理由や、解雇理由を通知する際の注意点についても知ることができ、解雇を選択しなければならない場合にも、焦らず対応を練ることができるようになります。

それでは、見ていきましょう。

 

1.解雇理由とは?

解雇理由とは、雇用主が労働者を解雇する際の根拠となる事柄のことをいいます。

 

1−1.解雇をするには理由が必要

解雇をする際には、どのような場合でも何らかの理由があります。

しかしながら、この解雇理由が「客観的に合理的」でなかった場合、解雇は無効となります。(参照:労働契約法16条)。

そこで、本記事では、「客観的に合理的」となる解雇理由を念頭に置いて、以下でその条件や要件を解説していきます。

 

2.解雇の種類で、解雇理由は変わる!

解雇とは、使用者が一方的な意思表示によって労働契約を解約するものです。

解雇には、普通解雇、懲戒解雇、整理解雇の3種類があります。

これらの解雇は、それぞれ異なるその性質を有する解雇であるため、自ずと解雇理由の内容も異なります。

以下では、普通解雇、懲戒解雇、整理解雇のそれぞれの解雇理由について、まずは概要を解説します。

 

2−1.普通解雇の解雇理由の概要

普通解雇は、労働者が労働契約の本旨に従った労務を提供しないこと、つまり、債務不履行を理由として労働契約を解約するものです。

そのため、解雇理由としては、能力不足、私傷病による心身の疾患、勤労意欲や協調性の欠落等により、職務の遂行に支障を来していることが、内容の主たるものとなります。

普通解雇の際には、30日前に解雇予告をするか、解雇予告手当を支払うことが労働基準法上義務付けられています(労働基準法20条1項)。

 

▶︎参考:労働基準法20条1項

 

(解雇の予告)

第20条 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。

② 前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することができる。
③ 前条第二項の規定は、第一項但書の場合にこれを準用する。

 

 

普通解雇について詳しくは以下の記事で解説していますので、参考にご覧ください。

 

▶参照:普通解雇したい!無効とならない事例や手続きをわかりやすく弁護士が解説

 

 

2−2.懲戒解雇の解雇理由の概要

一方、懲戒解雇は、懲戒処分の1つとして、使用者が従業員の企業秩序違反行為に対して科す制裁罰の極刑として行われるものです。

つまり、使用者が、企業の存立と事業の円滑な運営のために必要不可欠な権利として有している企業秩序を定立し維持する権限に基づいて、この企業秩序に反する行動をとった労働者に対して与えられる刑罰のようなものです。

「懲戒解雇は、このような「制裁」としての性質もあり、所轄労働基準監督署長の解雇予告除外認定を受けることで、解雇予告なしに即日解雇をすることができます(労働基準法第20条1項但書及び3項、第19条2項)。

 

▶︎労働基準法第20条

 

(解雇の予告)

第20条 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。

② 前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することができる。
③ 前条第二項の規定は、第一項但書の場合にこれを準用する。

 

 

▶︎労働基準法第19条

 

(解雇制限)

第19条 使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第八十一条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。

② 前項但書後段の場合においては、その事由について行政官庁の認定を受けなければならない。」

 

 

▶参照:「労働基準法」第20条・第19条の条文はこちら

 

懲戒解雇について詳しくは以下の記事で解説していますので、参考にご覧ください。

 

▶参照:懲戒解雇したい!有効になる理由や事例・手続きをわかりやすく弁護士が解説

 

 

2−3.整理解雇の解雇理由の概要

整理解雇は、普通解雇の1類型ですが、通常の普通解雇、懲戒解雇とは異なり、使用者が経営不振などの経営上の理由により、人員削減の手続として行う解雇であり、労働者側の事由を直接の理由とした解雇ではないことが特徴的です。

そのため、普通解雇と懲戒解雇に比して、より具体的で厳しい制約が課されています。

 

【弁護士 畑山 浩俊からのコメント】

 

解雇理由の中には、これらの解雇のうち複数の解雇の解雇理由となり得るものもあります。しかし、この3つの解雇は、それぞれの解雇の趣旨から、必要とされる解雇の手続が異なっています。

 

例えば、懲戒解雇と普通解雇について、印象として、「懲戒解雇は普通解雇よりも厳しいから、懲戒解雇の要件を満たしていたら普通解雇の要件も満たしている」と思いがちです。しかし、普通解雇には普通解雇の手続があるので、その手続を確実に踏んでいない限り、有効になることはありません。

 

解雇の具体的な手続については、また別の記事で詳しく解説しますが、解雇の種類によって、それぞれ解雇の趣旨も理由も異なるということを、覚えておいて下さい。

 

 

3.解雇の根拠

以下では、それぞれの解雇が、法令上、就業規則上、雇用契約書上どのように規程がされているかについて解説します。

 

3−1.普通解雇の根拠

 

(1)法令上の根拠

民法は、期限の定めのない雇用契約における普通解雇について以下のように規定しています。

 

▶︎参考:民法

 

(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)

第627条 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。

2 期間によって報酬を定めた場合には、使用者からの解約の申入れは、次期以後についてすることができる。ただし、その解約の申入れは、当期の前半にしなければならない。

3 六箇月以上の期間によって報酬を定めた場合には、前項の解約の申入れは、三箇月前にしなければならない。

 

・参照:民法の条文

 

 

もっとも、このような規定では、使用者による一方的な解約が容易にできてしまうことから、労働者の生活上の打撃を和らげるため、労働基準法20条は、民法の規定を修正し、30日前の解雇予告を必要としています。

労働基準法20条1項の規定を見ると、使用者は、あたかも解雇理由について特段の制限なく、期間さえ守れば労働者を解雇できそうです。

しかし、労働基準法等の労働関係法は、差別的な解雇、法律上の権利行使を理由とした解雇として、以下のような理由での解雇を禁じています。

 

1.差別的な解雇

 

 

2.法律上の権利行使を理由とした解雇

 

 

これに加えて、労働契約法16条は、解雇について、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする旨規程しています。

このように、法令上は、「どのような行為が解雇理由になるか」ではなく、「どのような行為を解雇理由にしてはいけないか」について規程しています。

 

(2)就業規則上の根拠

一方、就業規則に解雇理由を規程する際は、具体的にどのような行為が解雇理由になるかを定めます。

例えば、以下のような規定が考えられます。

 

1.解雇理由の規定例

 

  • (1)心身の故障のため、職務の遂行に支障があり、又はこれに堪えない場合
  • (2)協調性がなく、注意・指導をしても改善の見込みがない場合
  • (3)職務の遂行に必要な能力を欠き、他の職務にも転換することができない場合
  • (4)勤務意欲が低く、勤務成績、勤務態度又は業務能率などが不良で、改善の見込みがなく、職員としての職責を果たし得ないと認められた場合
  • (5)正当と認められる理由なしにしばしば遅刻、早退、欠勤をした場合
  • (6)職務に必要な免許証等が失効した場合
  • (7)業務上の負傷又は疾病による療養の開始後3年を経過しても当該負傷又は疾病が治らない場合であって、職員が傷病補償年金を受けている場合又は受けることとなった場合
  • (8)重大な懲戒事由に該当する場合や服務規律に違反した場合
  • (9)軽微な懲戒事由に該当する場合や服務規律に違反した場合であっても、改悛の情が認められなかったり、繰り返したりして、改善の見込みがないと認められた場合
  • (10)その他前各号に準ずるやむを得ない事由のある場合

 

これは、あくまで例示ですが、そのいずれについても、職員が労働契約の契約の本旨を果たせない場合を、思いつく限り具体的に就業規則に列挙しておくことが重要です。

そして、「(10)その他前各号に準ずるやむを得ない事由のある場合」のように、ここに列挙していない事情であっても、これに準ずるような事情を全て拾えるよう、いわゆるバスケット条項を設けておくことも重要です。

 

3―2.懲戒解雇の根拠

 

(1)法令上の根拠

懲戒解雇を含む懲戒処分については、法令上の根拠はありません。

 

(2)判例上の根拠

もっとも、使用者の懲戒権について、裁判所は、企業秩序定立権の一環として、当然に使用者が有する権利であることを前提として考えているようです。

 

1.最高裁 昭和54年10月30日判決

 

・事案の概要:

労働組合又はその組合員が使用者の許諾を得ないで使用者の物的施設を利用して組合活動をしたことが懲戒事由にあたり得るかどうかが問題となった事案。

 

・判例の内容:

労働組合又はその組合員が使用者の許諾を得ないで使用者の所有し管理する物的施設を利用して組合活動を行うことは、これらの者に対しその利用を許さないことが当該施設につき使用者が有する権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除いては、当該施設を管理利用する使用者の権限を侵し、企業秩序を乱すものであり、正当な組合活動にあたらない。

 

▶参照:「最高裁 昭和54年10月30日判決」の判決内容

 

 

(3)就業規則上の根拠

しかし、懲戒処分について、裁判所は、あらかじめ就業規則に懲戒の種別及び事由を定めておくことが必要であると考えています。

そこで、就業規則で定める懲戒処分の内容としては、以下のような事項が考えられます。

 

1.懲戒処分の規定例

 

  • (1)正当な理由なく、欠勤したとき
  • (2)正当な理由なく、遅刻、早退もしくは就業時間中無断外出したとき、又は職場を離脱して業務に支障をきたしたとき
  • (3)勤務に関する手続き、届出を偽り、又は怠ったとき
  • (4)業務上の書類、伝票等を改変したとき
  • (5)報告を疎かにした又は虚偽の申告、届出をし、事業所の正常な運営に支障をきたしたとき
  • (6)業務に対する誠意を欠き、職務怠慢と認められるとき
  • (7)素行不良で園の秩序又は風紀を乱したとき
  • (8)就業時間中に許可なく私用を行ったとき
  • (9)業務上の指示、命令に従わないとき
  • (10)事業所の運営方針に違背する行為のあったとき
  • (11)酒酔い運転又は酒気帯び運転をし、検挙されたとき
  • (12)接客応対態度が悪いとき
  • (13)不法又は不正の行為をして職員としての体面を汚したとき
  • (14)事業所内において業務上不必要な火気、凶器その他これに準ずべき危険な物を所持していたとき
  • (15)タイムカードの打刻、出勤簿の表示を他人に依頼し、又は依頼に応じたとき
  • (16)事業所の車両を私用に供し、又は他人に使用させたとき
  • (17)協調性に欠け不当に人を中傷する等、他の職員等とそりの合わないとき
  • (18)事業所の発行した証明書類を他人に貸与し、又は流用したとき
  • (19) 許可なく事業所の文章、帳簿、その他の書類を部外者に閲覧させ、又はこれに類する行為のあったとき
  • (20)規則、通達、通知等に違反し、前各号に準ずる程度の不都合な行為があったとき
  • (21)過失により業務上の事故又は災害を発生させ、事業所及び利用者に損害を与えたとき
  • (22)事業所内で暴行、脅迫、傷害、暴言又はこれに類する行為をしたとき
  • (23)事業所に属するコンピューター、電話(携帯電話を含む)、FAX、インターネット、電子メールその他の備品を無断で私的に使用したとき
  • (24)過失により事業所の建物、施設、備品等を汚損、破壊、使用不能の状態等にしたとき、又はハードディスク等に保存された情報を消去又は使用不能の状態にしたとき
  • (25)服務規定に違反した場合であって、その事案が軽微なとき
  • (26)安全衛生規定に違反した場合であって、その事案が軽微なとき
  • (27)事業所が定める各規定に違反した場合であって、その事案が軽微なとき
  • (28)法令違反等の不正行為の真偽を確認せず又は公益通報者保護法第3条第3号に規定する要件に該当することなく外部通報を行った結果、法人・事業所の信用を害し、損害を与えたとき
  • (29)他の職員をして前記各事項に違反するよう教唆し、もしくは煽動したとき
  • (30)前号までの事項において懲戒した後も、改悛の状が認められなかったり、繰り返した  りして、改善の見込みがないと園が認めたとき
  • (31)その他前各号に準ずる程度の不都合な行為があったとき

 

懲戒処分は、使用者が労働者に与える制裁罰であることから、普通解雇の理由に比べ、事情も多岐に渡ります。

また、懲戒処分には、懲戒解雇以外にも、戒告、譴責、減給、降格処分、出勤停止、諭旨解雇など、労働者への影響の小さいものから大きなものまで多くのバリエーションがあります。

そのため、ここに挙げた事情の程度や組み合わせ等により、懲戒解雇の理由があるかどうかを判断することとなります。

 

3―3.整理解雇の根拠

 

(1)法令上の根拠

整理解雇は、普通解雇の一類型であり、法令上の建て付けについては普通解雇と同様です。

 

(2)判例上の根拠

もっとも、裁判所は、以下のような4つの要件を、整理解雇の判断要素として掲げています。

 

  • 1.人員削減の必要性
  • 2.解雇回避努力
  • 3.人選の合理性
  • 4.手続の妥当性

 

このうち、解雇理由に該当するのは「1.人員削減の必要性」に関する事情であり、具体的には経営の悪化による業務の縮小や事業所の閉鎖などがあげられます。

 

(3)就業規則上の根拠

就業規則の中では、普通解雇の事由の1内容として規定されることが一般的です。

例えば、以下のような定めを、普通解雇の解雇理由の中に加えておきましょう。

 

1.規定例

 

  • (1)やむを得ない事由により、業務を縮小しなければならないため過員を生じた場合
  • (2)天災事変その他、やむを得ない事由により事業所が閉鎖となる場合

 

4.具体的な解雇理由

以下では、各解雇についてそれぞれ具体的な解雇理由を紹介します。

 

4−1.普通解雇の解雇理由

 

(1)能力不足

例えば、どれだけ指導をしても、どうしても通常当該事業所で求められる職務能力を充たさない場合があり得ます。

そのような場合、事業所として、通常割り当てるべき仕事を割り当てることができなかったり、他の職員に負荷がかかってしまうなどして、職務が滞ったり、職場環境が悪化するという事態も発生し得ます。

また、雇用契約時に、当該職員に対して、ある一定の能力や役割を期待して雇用をしているケースがあります。それにもかかわらず、その期待通りの能力が発揮されない場合も、事業所としては同様に悩みを抱えることになります。

職員が、怠慢により業務を怠っているのであれば注意指導を繰り返すことは有効ですが、そうでないような場合には、事業所としても当該職員の処遇を考えざるを得なくなります。

なお、能力不足の職員や仕事ができない職員の対応方法については、以下の記事で詳しく解説していますので参考にご覧ください。

 

▶参照:仕事ができない人の放置は厳禁!特徴ごとの対応方法を徹底解説!

▶参照:能力不足の職員を解雇できる?違法にならない対応方法を判例付きで解説

 

 

(2)協調性がない

他の職員との連携、協力は、介護事業所に限らず、当然仕事をする上では必要不可欠です。特に、介護事業所では、このような連携を怠れば、利用者の生命身体の危険に直結しかねません。

しかし、そのような中で、他の職員が忙しくしていても手伝わなかったり、他の職員に対して威圧的な態度をとったり、さらにはシフトの引継の際の情報伝達を怠るなど、協調性がない態度をとる職員がいます。

このような言動をとる職員がいる場合、職場の雰囲気が悪くなるばかりか、他の職員に過度な業務上、精神上のストレスがかかり、最悪の場合には他の職員が離職してしまうリスクも考えられます

このような場合、事業所としてはまず、粘り強い注意指導をすることが重要ですが、それでも態度が改まらない場合には、最終的に解雇を検討せざるを得なくなります。

 

(3)欠勤が多い

欠勤は、労務不提供の最たるものですので、欠勤が続いたり、頻繁に欠勤があるような場合には解雇事由となり得ます。

もっとも、当該職員がなぜ欠勤しているのかについては、しっかりと聴取し、確認をすることが重要です。

例えば、欠勤の理由が、事業所内でのトラブルやハラスメントが原因で、体調を崩したりメンタル不調となっている場合には、事業所側での対応が必要となるからです。

そのため、職員の欠勤に対しては、診断書の提出を求めたり、面談等を速やかに実施するなどして、注意指導を行ったり、休職を命じるべき事案か、事業所内で何らかの問題解決をすべき事案かを見極める必要があるのです。

 

【弁護士 畑山 浩俊からのコメント】

欠勤について、職員本人と連絡が取れる事案では何らかの手立てを取ることができますが、中には全く連絡がつかなくなる職員もいます。そのような職員については、当然労務不提供により普通解雇が可能ですが、そもそも連絡が取れない状況である以上、解雇の意思表示を当該職員に到達させること自体が難しいというケースもあり得ます。

 

この場合、厳密に解雇の意思表示を当該職員に到達させようと思うと、民法98条による公示による意思表示という手続を取らなければならず、事業所としては非常に厄介です。

 

そのような場合に備えて、就業規則には、一定期間連絡が取れないまま行方不明になった職員について、当然退職の規定を設けておくことが重要です。

 

具体的には、以下のような規定です。

 

「従業員が、会社に連絡がなく30日を経過し、会社が所在を知らない時は、その日を退職の日とし、その翌日に従業員としての身分を失う。」

 

このような規定を利用することで、退職手続を円滑に行うことができます。まずは、皆さんの事業所の就業規則を確認してみてください。

 

(4)私傷病(メンタルヘルス等)

近年、メンタルヘルス不調によるトラブルは多く寄せられています。

厚生労働省による実態調査によると、平成29年11月1日から平成30年10月31日までの期間で、メンタルヘルス不調により連続1か月以上休業した労働者がいる事業所の割合は全国で6.7%、退職者がいた事業所の割合は全国で5.8%です。

一見すると小さな割合に見えるかも知れませんが、実は平成28年11月1日から平成29年10月31日までの期間を見ると、メンタルヘルス不調により連続1か月以上休業した労働者がいる事業所の割合は全国で0.4%、退職者がいた事業所の割合は全国で0.3%であり、実に15倍以上に増えています。

 

▶参照1:平成30年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況(PDF)

▶参照2:平成29年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況(PDF)

 

 

もちろん、メンタルヘルス不調が業務に起因するものであれば、労働災害等の問題となるため、解雇については、むしろ制限されることになります。

 

▶参考:労働基準法第19条

(解雇制限)
第19条 使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第八十一条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。
② 前項但書後段の場合においては、その事由について行政官庁の認定を受けなければならない。

 

 

しかしながら、入社前からメンタルヘルス不調の既往症等がある場合や、業務外の事情からメンタルヘルス不調を発症した場合、これによって休職するなど、業務に支障をきたすことが数ヶ月に及ぶような場合には、本来予定されている労働契約の本旨に従った労働を提供できないことなります。

こうした場合には、事業所としても当該職員を解雇することを検討しなければなりません。

 

4―2.懲戒解雇の解雇理由

 

(1)職務怠慢

介護事業所の職員として、本来行うべき職務を果たさない、例えば、夜間に利用者のナースコールが鳴っているのに駆けつけない、利用者の送迎の際に必要な声かけをしない、十分な介助をしないなどといった職務怠慢行為は、企業秩序を大きく乱すものです。

 

(2)素行不良

遅刻、居眠り、業務中の私物のスマートフォンの利用など、日常の素行不良についても、懲戒処分の理由となります。その他、例えば、注意指導をしたことに対する態度が、威圧的、反抗的であったり、注意指導を全く聞き入れない態度を繰り返すことも深刻な素行不良と言えます。

 

【弁護士 畑山浩俊からのコメント】

職務怠慢や素行不良といった懲戒理由の場合、まずはこれらの言動に対する、粘り強い注意指導が必要です。

 

一つ一つ注意指導を積み重ねた上、それでも態度が改善されないという状況を記録していくことで、注意指導を超えた懲戒処分である戒告、譴責等に繋げ、さらにそこから、最終的な懲戒解雇に繋げていくことになります。

 

1.注意指導
2.懲戒処分(解雇以外)
3.懲戒解雇

 

という流れは、最低限必要であると、考えておいてください。

 

なお、問題のある職員の指導方法については、以下の記事で詳しく解説していますのであわせてご参照ください。

 

▶参考情報:問題職員の指導方法とは?正しい手順と注意点などを指導例付きで解説

 

 

(3)犯罪行為

職員による犯罪行為としては、大きくわけて2つの犯罪行為があり得ます。

 

  • 1.業務に関係する犯罪行為
  • 2.業務外での犯罪行為

 

1.業務に関係する犯罪行為

 

例えば、経理のお金を横領する、事業所の備品を盗む、利用者を故意に殴ったり怪我をさせたりするなどの、まさに業務にかかわる犯罪行為は、深刻な懲戒事由として扱う必要があります。

 

2.業務外での犯罪行為

 

例えばコンビニで万引きをした、電車内で痴漢行為をした、喧嘩で人を殴って怪我をさせたなど、様々な行為が考えられます。

もっとも、「2.業務外での犯罪行為」の場合には、必ずしも懲戒事由に当たりません。

なぜなら、雇用主が懲戒処分ができるのは、雇用主が事業所において、事業所内の秩序を維持する権限を有しているからです。

逆に言えば、もし職員が事業所外で、業務とは関係のない犯罪を行ったとしても、事業所内の秩序に悪影響を与える訳ではなく、これに対して雇用主が何らかの処分ができる立場にはないのです。

 

▶参考例:横浜ゴム事件(最高裁昭和45年7月28日判決)

 

例えば、タイヤ製造・販売会社の従業員が深夜に酩酊して他人の住居に侵入し、罰金刑を受けたため、雇用主が、就業規則上の「不正不義の行為を犯し、会社の体面を著しく汚した者」に当たるとして、同人を懲戒解雇した事案において、裁判所は、「会社の体面を著しく汚した」とまでは言えないとして、懲戒解雇を無効と判断しています。

 

・参照:「横浜ゴム事件(最高裁昭和45年7月28日判決)」の判決内容

 

 

しかしながら、他の職員からすると、業務外といえども、犯罪行為を行った職員と一緒に仕事をすることに嫌悪感や不安を感じることは当然です。

また、事業所外の犯罪であっても、その犯罪行為による事業所への影響が大きな行為であれば、事業所内の秩序に悪影響を与えたと言える場合もあります。

 

▶参考例:加古川市事件(最高裁平成30年11月6日判決)

 

例えば、職場の近くのコンビニで、女性従業員に対し、市の制服を着たまま、わいせつな行為等を行った市の職員が、このような行為に及んだこと、さらに、これが報道されて市長が記者会見で謝罪するなどして世間を騒がせたことなどから、停職6か月の懲戒処分を受けたことにつき、処分の取り消しを求めた事件では、当該職員の行為が公務一般に対する住民への信頼を大きく損なう行為であることが重視され、懲戒処分は有効とされました。

 

・参照:「加古川市事件(最高裁平成30年11月6日判決)」の判決内容(PDF)

 

 

【弁護士 畑山 浩俊からのコメント】

普通解雇理由、懲戒解雇理由のいずれについても、その内容を就業規則に規定することは必要ですが、翻って見た場合、就業規則に規定したからといって、必ずしも適法な解雇理由になるわけではありません。

 

例えば、犯罪行為について、「業務の内外、または、事業所内外を問わず、犯罪行為により罰金以上の刑に処せられたこと」と言うような事由を懲戒理由として定めていた場合、これに該当することをもって懲戒処分ができるかどうかは、この行為が事業所の企業秩序違反に当たるかどうかによることとなります。

 

そのため、「就業規則に規定しているから」と調査を怠ることなく、実際に解雇をする際にはしっかりと解雇理由の精査が必要となります。

 

もっとも、普通解雇理由や懲戒解雇理由として、はっきりと明文で規定をすることで、職員自身に自戒を促す契機にもなります。

 

就業規則の雛形をそのまま使用している事業所も多いかもしれませんが、事業所としては、就業規則の策定時から、しっかりと専門家の意見を仰いだ上で内容を決定し、さらに事業所内の労務状況の実態を定期的に調査して、就業規則の改訂等を検討していくことが重要です。

 

 

4―3.整理解雇の解雇理由

整理解雇の解雇理由は、経営不振、事業規模縮小による人員削減の必要性です。

裁判所は、人員削減の必要性について、基本的には雇用主の経営判断を尊重する傾向にあります。

しかしながら、企業の財政状況に全く問題がない場合や、整理解雇を実施しているににもかかわらず、新規採用をするといったような矛盾した行動をとっている場合は、人員削減の必要性が否定されることもあります。

 

5.不当な解雇は絶対にNG!

職員は、解雇されることによって突然労働者の地位を失います。

これは、職員の生活へ多大な影響を与えることになるので、当然事業所としても、安易に行ってはいけません。

事業所として、できる限りの手続を踏み、それでもなお解雇が無効になる場合はやむを得ませんが、初めから不当な解雇理由によって解雇をすることは絶対にあってはいけません。

近年、労働者の権利意識は向上しており、インターネットで容易に労働問題の知識を検索できるため、不当な解雇理由により解雇をすれば、確実に解雇の無効が争われると考えておくべきです。

 

5―1.解雇が無効となったらどうなるか?

解雇が無効になることにより、次の3つの問題が発生します。

 

  • (1)職員が職場に戻ってくる
  • (2)バックペイの支払い
  • (3)慰謝料の発生

 

以下、順に見ていきます。

 

(1)職員が職場に戻ってくる

解雇が無効ということになれば、当該職員は労働者の地位を失っていないことになります。

その場合、実は最も恐るべきことは、当該職員が職場に戻ってくることです。

事業所として、解雇の判断をした職員が職場に戻って来れば、これによる職場環境の悪化は避けられません。

通常は、一度解雇された職場に戻ってくる職員は少ないですが、事業所にとっては最も避けたいことの1つです。

 

(2)バックペイの支払い

解雇が無効になるということは、職員は労務を提供できる状況であったにもかかわらず、事業所側が理由なく労務提供を拒否していたことになるため、事業所側の賃金の支払い義務は無くなりません。

そのため、事業所は解雇をした時以降の賃金を支払わなければならなくなります。

 

(3)慰謝料の発生

さらに、解雇が違法とされた場合、このような解雇をされたことに対する慰謝料請求も発生します。

特に、その解雇理由が不当なものであった場合、行為の悪質性から慰謝料額が増額される可能性もあります。

また、解雇の無効を主張しながら、職場復帰を望まない職員からは、「(2)バックペイの支払い」の相当額を加味した損害賠償請求をされる可能性があるため、事業所としては、職員が職場復帰することは避けられたとしても、結果として紛争が終了するまでの期間の給与相当する金額を支払わなければならなくなります。

 

5―2.不当な解雇の例

以下では、不当な解雇の例を紹介します。

 

(1)調査不足による解雇

使用者が、気に入らない職員を解雇するために、ありもしない理由をでっち上げることはもちろん論外ですが、一部の他の職員から聴取した事情を、特段の精査もすることなく間に受け、これを理由に解雇することも不当です。

例えば、一部の職員から使用者に対して、ある職員の問題行動について報告があった場合、その報告の真偽は、多角的に調査をする必要があります。

その報告をした職員が、普段信頼のおける職員であればなおさらです。

なぜなら、当該職員が、虚偽の報告をしているとは考えられないまでも、見間違いや勘違い、さらに他の職員からの又聞きによる不正確な情報を伝えている可能性もあり得るからです。

信頼のおける職員からの報告だからこそ、仮にそれが不正確であった場合、報告された内容を理由として解雇をし、解雇が無効となれば、むしろ報告をした職員も、職場での立場が危ぶまれます。

解雇が、職員にとって重大な影響を与えるものであることを肝に銘じ、事業所としては、信頼のおける職員からの報告を契機としながらも、実際に当該職員の言動を見極め、さらに他の職員からの聴取等も経た上で、調査を尽くし、解雇理由の有無を判断する必要があります。

 

(2)他の職員との不均衡

解雇理由そのものとしては、必ずしも不当でないとしても、その理由により解雇をすることが他の職員への対応と不均衡になる場合には、不当となり得ます。

例えば、同じ日数の欠勤をしているにもかかわらず、一方の職員は注意指導程度で収めているにもかかわらず、他の職員にはこれを理由に解雇するとなると、当然解雇された職員は事業所に対して不信感を抱きます。

事業所としては、解雇に臨む前に、事業所内での運用をしっかりと見直す必要があります。

 

【弁護士 畑山 浩俊からのコメント】

「この職員、本当に問題があって、やめさせたいんです!」と、顧問先の事業所の管理者から相談を受けることは少なくありません。

 

しかしながら、その相談を詳しく聞いているうちに、確かに当該職員には問題行動があるものの、そのような問題行動を取るようになった原因に、事業所側のこれまでの対応が関係していることが、実はよくあります。

 

例えば、欠勤や遅刻等が多い理由として、当該職員が入社した当初から、他の職員も含めて、欠勤や遅刻等に関してほとんど注意指導がされてきた運用がない、能力不足であるにもかかわらず、何も言わずに他の職員がフォローをしていたせいで、本人がそのことに気付けていないなど、今解雇に踏み切るのは違うのではないか、と思われる事情が多々あるのです。

 

このような振り返りをせずに解雇に踏み切れば、当該職員からは当然反撃を受けます。

 

事業所としては、解雇を考える際には、労働問題に詳しい弁護士とディスカッションし、まずは事業所の内部に問題がないかを検討し、問題がある場合にはその問題を見直すことから始めるようにしましょう。

 

また、辞めさせたい職員に対する対応方法については、以下の記事で詳しく解説していますので、参考にご覧ください。

 

▶参照:辞めさせたい問題社員!解雇など適法で正しい対応方法を解説

 

 

 

6.解雇理由の通知義務と方法

解雇の理由は、解雇される職員にとって非常に重要です。

以下では、解雇理由の通知義務について説明します。

 

6− 1.解雇理由の通知義務

使用者は、労働者から退職の理由について証明書を請求された場合には、遅滞なく交付する必要があります(労働基準法22条1項)。

この、いわゆる「解雇理由証明書」は、解雇や解雇の予告を通知する書面とは異なるもので、事前に発行する必要はありませんが、請求されれば遅滞なく交付する必要があり、もし請求があったにもかかわらず発行しなかった場合には、30万円以下の罰金に処される可能性があります(労働基準法120条1号)。

 

6―2.解雇理由の通知の仕方

解雇の際に交付する解雇(予告)通知書には特段の決まりはありませんが、解雇理由証明書については、労働者の請求しない事項を記載してはいけないことになっています(労働基準法22条3項)。

労働者から、解雇理由証明書が請求される趣旨としては、解雇に納得ができず、何らかの法的措置を考えている場合の他、新たな雇用先へ提出するために請求をする場合もあります。

このような場合に、労働者にとって不利益な事項が記載されていると、再就職等に支障をきたすことから、不必要な記載はしてはいけないことになっているのです。

これに関連して、労働者が解雇の事実のみの記載を請求した場合は、解雇理由を記載してはならないこととされています。

 

▶︎参照:厚生労働省「平成11年1月19日基発45号、第3、2号」

 

 

(1)解雇理由証明書の記載例(サンプル書式あり)

具体的な解雇理由証明書の記載すべき事項としては、労働基準法22条1項に記載のある「使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由」のうち、労働者が求める事項となります。

解雇理由証明書の記載方法については、宮城労働局のホームページに書式が掲載されているので、参考にしてみてください。

 

1.解雇理由証明書のサンプル書式(厚生労働省 宮城労働局より)

厚生労働省(宮城労働局)「解雇理由証明書の記載例(サンプル書式)」

 

▶参照:厚生労働省(宮城労働局)「解雇理由証明書」(Word)書式ダウンロード

 

 

6―3.後付けの解雇理由はNG!

解雇時に、口頭や別途の通知で解雇理由を伝えたり、解雇理由証明書によって解雇理由を通知している場合、あくまで当該解雇の理由は、ここで証明されている内容に限定されます。

しかしながら、主張していた解雇理由が、後に適法な解雇理由に当たらない、または、解雇に至るに達していないとなった後、別の解雇理由を追加して主張をしようとすることがあります。

仮に、後から追加した解雇理由であれば、解雇理由として有効であると考えられる場合でも、これは解雇の有効性を基礎付けるものにはなりません。

なぜなら、当該解雇理由が、解雇通知時や、その後の解雇理由証明書発行時などに明らかにされていないものである以上、当該解雇理由が解雇の理由であったとは考えられないからです。

事業所としては、解雇をするにあたって、解雇理由は必ず整理しておきましょう。

 

7.解雇理由を基礎づけるためには証拠が必要

これまでに見てきた通り、解雇をするにあたっては、粘り強い注意指導や懲戒処分を重ねることが不可欠です。そして、さらに重要なことは、このような解雇に向けた手続を行ってきたことの証拠が残っていることです。

以下では、それぞれの場面に応じた証拠の集め方について解説します。

 

7―1.証拠の集め方

 

(1)録音

職員の問題のある言動や、当方からの口頭での注意指導を残すには、録音が適切です。

録音は、相手の許可を得ずに行うことも可能ですので、常にICレコーダーを持っておいて録音ができる状況を作っておきましょう。

録音については、以下の動画でも詳しく説明しているので、ご覧ください。

 

▶参照:【無断録音】こっそり録音することは違法か?

 

 

▶参照:【無断録音!】実際にあったミス3選!弁護士が解説します!

 

 

(2)報告書やメモの作成

突発的な状況で注意指導をする際などには、録音を残すことが難しい場合もあります。そのため、注意指導を行った後は、注意指導についてのメモや報告を残しておくことが重要です。

例えば、注意指導の記録を、自分宛のメールに打ち込んで送信しておくと、その日に注意指導をした記録を作成したことが明らかとなるので、証拠として、後から都合のいい事情をメモしたなどと言われなくなります。

または、注意指導をした職員から管理者に報告を上げさせる形でメールを送信させる方法も有効です。これに加えて、メールやチャット等を利用して注意指導している場合は、その記録を残しておき、念のためバックアップとして、プリントアウトしたり、スクリーンショットを撮るなどしておくことが重要です。

さらに、書面による注意指導を行った場合は、相手方に交付する書面の写しは必ずとっておくようにしましょう。

 

(3)注意指導の記録

注意指導については、各注意指導について、録音や書面等の記録を残してくことも重要ですが、継続的に注意指導を行ってきたことがわかるよう、誰がいつ、どのような形で注意指導したかが一目瞭然となるように、記録をつけておくことも有効です。

例えば、エクセルファイル等を利用し、

 

  • 1.日付
  • 2.注意指導をした職員
  • 3.場所
  • 4.注意指導の内容
  • 5.注意指導に対する職員の態度
  • 6.注意指導の方法(メール、電話、口頭他)

 

などを、簡単に記録しておき、各注意指導の証拠と照合できるようにしておくのです。

このような整理をすることは、証拠を残すことと合わせ、事業所としての職員の管理体制が一目瞭然となり、管理者の間での情報共有にも利用できます。

 

8.解雇後の処理

解雇後の処理

以下では、職員を解雇した後の事業所の手続のうち、解雇理由に関係する点についてに説明します。

 

8− 1.解雇は会社都合

職員の退職には、「自己都合」退職と「会社都合」退職があります。

「自己都合」退職とは、その名の通り職員が自らの意思で退職をすることをいいます。雇用保険上は、「一般離職者」と呼ばれています。

一方「会社都合」退職とは、本人の意思によらない退職のことをいいます。雇用保険上は、「特定受給資格者」と呼ばれています。

解雇は、会社都合退職の代表例ですが、その他、職場内でのハラスメント等で失業を余儀なくされた場合などもこの「会社都合」退職にあたります。

 

8―2.会社都合退職の際の問題点

「会社都合」退職をさせることによる事業所にとっての最大のデメリットは、助成金の支給要件に抵触する可能性があることです。

事業所が受けている助成金の支給要件の中には、6ヶ月以内に会社都合による離職者がいないこと、という要件のあるものが多数存在します。

助成金の内容や詳しい支給要件は、以下のページをご覧ください。

 

▶︎参照:厚生労働省「平成31年度 雇用・労働分野の助成金のご案内(詳細版)」(PDF)

 

 

解雇は、事業所にとってやむに止まれず行う手続ですが、事業所運営に影響を与えることも予想される手続なので、この点の確認も解雇のプロセスの中には不可欠です。

 

9.介護業界に特化した弁護士法人かなめによるサポート内容のご案内!

介護業界に特化した弁護士法人かなめによるサポート内容のご案内!

弁護士法人かなめでは、介護業界に精通した弁護士が、以下のようなサポートを行っています。

 

  • (1)解雇に向けた指導
  • (2)労働判例研究ゼミ
  • (3)顧問サービス「かなめねっと」

 

9-1.解雇に向けた指導

従業員を解雇するためには、求められるプロセスを確実に踏んでいくことが重要です。

しかしながら、既に事業所内で、当該職員に関する問題が顕在化している場合、このようなプロセスを踏んだ対応が難しく、無効な解雇をしてしまうことが避けられません。

そのため、解雇を検討するかなり初期のタイミングから、専門家の意見を仰いでおくことが重要なのです。

早期に相談を受けられれば、証拠の残し方、注意指導をする際の準備などを、計画的にサポートした上、実際に解雇を行うタイミングも含め、指導することが可能です。

 

9-2.労働判例研究会

弁護士法人かなめでは、普段の労務管理の参考になる労働判例を取り上げ、わかりやすく解説する労働判例研究ゼミを不定期に開催しています。

ゼミの中では、参加者の皆様から生の声を聞きながらディスカッションをすることで、事業所に戻ってすぐに使える知識を提供しています。

 

9-3.顧問弁護士サービス「かなめねっと」

弁護士法人かなめでは、「9−1」、「9−2」のサービスの提供を含めた総合的なサービス提供を行う顧問契約プラン「かなめねっと」を運営しています。

具体的には、トラブルに迅速に対応するためチャットワークを導入し、事業所内で何か問題が発生した場合には、速やかに弁護士へ相談できる関係性を構築しています。

そして、弁護士と介護事業所の関係者様でチャットグループを作り、日々の悩み事を、法的問題かどうかを選択せずにまずはご相談頂き、これにより迅速な対応が可能となっています。

現場から直接弁護士に相談できることで、事業所内での業務効率が上がり、情報共有にも役立っています。

 

▶参照:顧問弁護士サービス「かなめねっと」のサービス紹介はこちら

 

 

9-4.料金体系

また、弁護士法人かなめの弁護士費用は以下の通りです。

 

(1)顧問料

  • 月額8万円(消費税別)から

 

※職員の方の人数、事業所の数、業務量により顧問料の金額は要相談とさせて頂いております。詳しくは、お問合せフォームまたはお電話からお問い合わせください。

 

(2)法律相談料

  • 1回目:1万円(消費税別)/1時間
  • 2回目以降:2万円(消費税別)/1時間

 

※相談時間が1時間に満たない場合でも、1時間分の相談料を頂きます。

※法律相談は、「1,弁護士法人かなめにご来所頂いてのご相談」、又は、「2,ZOOM面談によるご相」に限らせて頂き、お電話でのご相談はお請けしておりませんので、予めご了承ください。

※また、法律相談の申込みは、お問合わせフォームからのみ受け付けおります。

※介護事業所の経営者側からのご相談に限らせて頂き、他業種の企業様、職員等一般の方からのご相談はお請けしておりませんので、予めご了承ください。

 

10.まとめ

この記事では、「解雇理由」について、普通解雇、懲戒解雇、整理解雇という解雇の種類による解雇理由の違いなどを、それぞれ法令、判例等を紹介しながら解説し、さらには、具体的な解雇理由としてどのようなものがあるかについて紹介しました。

また、不当解雇をすることの問題点として、

 

  • 1.解雇した職員が職場に戻ってくること
  • 2.バックペイが発生すること
  • 3.慰謝料が発生すること

 

について解説しました。

さらには、実際に解雇をするにあたって、その前提となる注意指導についての記録の残し方についても解説しておりますので、実際に解雇に向けて何か行動を取ろうと考えている事業所の方は参考にしてみて下さい。

その上で、なるべく早期に弁護士へ相談するようにして下さい。

 

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この記事を書いた弁護士

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畑山 浩俊はたやま ひろとし

代表弁護士

出身大学:関西大学法学部法律学科卒業/東北大学法科大学院修了(法務博士)。
認知症であった祖父の介護や、企業側の立場で介護事業所の労務事件を担当した経験から、介護事業所での現場の悩みにすぐに対応できる介護事業に精通した弁護士となることを決意。現場に寄り添って問題解決をしていくことで、介護業界をより働きやすい環境にしていくことを目標に、「介護事業所向けのサポート実績日本一」を目指して、フットワークは軽く全国を飛び回る。
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中野 知美なかの ともみ

弁護士

出身大学:香川大学法学部法律学科卒業/大阪大学法科大学院修了(法務博士)。
介護現場からの相談を数多く受けてきた経験を活かし、一般的な法的知識を介護現場に即した「使える」法的知識に落とし込み、わかりやすく説明することをモットーとしている。介護事故、カスタマーハラスメント、労働問題、行政対応など、介護現場で発生する多様な問題に精通している。

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