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労働審判とは?制度内容や手続きの流れ、実際の事例、必要な費用などを解説

労働審判とは?制度内容や手続きの流れ、実際の事例、必要な費用などを解説
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介護事業者にとって、元職員や現職スタッフとの間で発生する労務トラブルは、事業所運営における重大なリスクの一つです。その解決手続きとして近年活用されているのが、「労働審判制度」です。労働審判とは、解雇や賃金の未払い、ハラスメント等の労働問題に関する使用者と労働者間の紛争を解決するための手続きです。

労働者から労働審判の申立てがされると、裁判所から事業所へ「労働審判手続申立書」が送付されます。裁判所から突然このような書面が届くと、経営者にとっては「どのように対処すれば良いのか分からない」「法外な金銭の請求がされるのではないか」「解雇した職員を復職させなければならないのではないか」等、多かれ少なかれ焦りや不安を抱くことでしょう。

しかし、労働審判は事業所を一方的に裁く場ではありません。双方の話合いによる和解を目指して早期かつ柔軟にトラブルを解決する場であり、事業所にリスクばかりがあるわけではないのです。むしろ現実的な条件で早期に紛争を解決し、事業所運営を見直す機会にもなります。

ただし、労働審判特有の進め方や対応ポイントを正しく理解していないと、不当に不利な結果を招くリスクがあることも事実です。つまり、労働審判に適切に対応するためには、労働審判の基本的な流れや特徴を予め把握しておくことが重要なのです。

本記事では、労働審判制度の概要や手続きの流れ、解決事例や費用相場等、事業所側の対応に必要な知識について詳しく解説します。この記事を最後まで読んでいただくことで、現在、労働審判を申立てられて困っている事業者の方は、労働審判制度を正しく理解して、どのように対処していくべきか動きだすことができるようになります。労働者からの申立てに対して適切かつ冷静に対応するための実践的な手引として、是非最後までご覧下さい。

 

▶参考:介護業界に特化した弁護士法人かなめの労働審判の事業所側のサポート内容についてはこちら

 

1.労働審判とは?

労働審判とは?

労働審判とは、個々の労働者と事業主との労働関係のトラブルを、迅速、適正かつ実効的に解決するための裁判所での法的手続きです。労働審判で主に申立がされている事件類型としては、解雇、雇止め、賃金(残業代)の未払い、ハラスメント(パワハラ・セクハラ等)があります。労働審判は、通常の訴訟手続きよりも短期間で柔軟な解決が期待できることから、2006年の制度施行以降、紛争解決のために多く採用されています。

ここでは、労働審判の制度の概要や、手続きの流れ、通常の裁判との違い等について詳しく解説します。

 

1−1.労働審判制度の特徴

労働審判は、個別労働関係事件についての簡易迅速な紛争解決手段として、2006年(平成18年)4月に施行された制度です。労働審判制度ができるまでは、労働問題に関するトラブルは基本的に通常の民事訴訟を提起して解決することが一般的でしたが、解決までに時間がかかりすぎたり、弁護士費用等のコストが高くなるといった問題がありました。それに加えて、審理を行う裁判官が、労働問題に関する現場の実情に疎い部分があり、実態に即した解決が必ずしもできていないという現状がありました。そのような問題を解決するために作られた制度が労働審判です。

労働審判制度の主な特徴としては、以下のようなものが挙げられます。

 

  • 期日が原則3回と定められている。
  • 裁判官1名に加えて、労働関係問題に関する知識・経験を有した専門家である労働審判員2名が審理を行う。
  • 調停(和解)を中心とした話合いによる解決を図る。
  • 労働審判に不服がある場合、訴訟に移行することができる。
  • 非公開の手続きである。
  • 調停が成立した場合、通常の裁判での確定判決と同様の効力をもつ。(強制執行が可能)

 

1−2.労働審判はどのような構成で行われる?

通常の裁判では、裁判官のみが事件の処理を行いますが、労働審判では、労働審判官(裁判官)1名と労働審判員2名で構成される「労働審判委員会」が審理を進めます。労働審判員とは、労働関係に関する専門的な知識や経験を有する民間人であり、事件ごとに裁判所から任命されます。労働審判員は、労働者又は使用者の立場で実際に個別労働紛争の処理等に携わった経験があり、その中で労働関係についての実情や慣行、人事制度等の知識を身につけた労使関係者が想定されており、具体的には、労働組合の執行委員や企業の人事労務経験者等から選ばれます。

労働審判において、審判員は裁判官と対等な立場で事件を評議することができるため、より個々の事件の実情や当事者の意向に即した実効性の高い解決が期待できると考えられています。

 

1−3.労働審判と通常裁判との違いは?

労働審判は、通常の裁判と同様に裁判所で行われる手続きになりますが、以下の3つの点で大きな違いがあります。

 

  • (1)解決までの期間
  • (2)主な解決方法
  • (3)審理の形式

 

それぞれ詳しく見ていきましょう。

 

(1)解決までの期間

通常の裁判では、判決まで争う場合、平均で1年程度かかるのが一般的です。事実関係が複雑であったり、当事者の対立が激しく最後まで争う場合などは、2年以上の期間を要することもあります。

一方、労働審判の場合は、申立から40日以内に第1回期日を行うことや、期日の回数が原則3回で終了することが定められているため、平均審理期間は約3ヶ月程度となっています。第1回期日から、調停(和解)が試みられることも多く、調停が成立した時点で審理は終了となるため、早い場合は第1回期日で手続きが終了となるケースもあります。紛争の早期解決が期待できることは、労働審判の大きなメリットになっています。

 

(2)主な解決方法

通常裁判では、客観的な証拠に基づく法的判断が厳格に行われるため、書面に基づいた審査が中心に手続きが進みます。通常の裁判でも和解による解決は可能ではあるものの、全体3〜4割程度にとどまり、判決での解決が一般的です。判決になると、基本的には原告の請求を認めるか認めないかの2択になるため、お互いの主張を加味した中間的な解決はできなくなります。

一方、労働審判では、期日における口頭での話合いが中心に審理が進みます。当初から調停成立を目指して話合いが進められるため、和解での解決が約7割と、ほとんどのケースが和解で終了します。3回の期日の中で調停が成立しなかった場合には、労働審判委員会の決定で審判が言い渡されます。審判確定での終結は全体の約2割程度です。審判に不服がある場合は「異議申立て」をすることによって、訴訟手続きへ移行させることができます。

 

(3)審理の形式

通常の裁判は公開の法廷で行われ、一般の方も自由に傍聴することが可能です。一方、労働審判は円卓のある会議室のような部屋で行われ、労働審判委員会と労使の各当事者のみが出席します。当事者以外が出席するためには許可が必要になります。このような形式であるため、事業所の内部情報や人間関係等の情報を漏らさずに話合いができます。

なお、通常の裁判においても、当事者双方に代理人が就任している場合は、非公開の手続きである弁論準備手続に付されることが多いです。もっとも、証人尋問等の証拠調べや判決言渡しなどは公開の法廷で行われるため、労働審判の審理の形式とは大きく異なります。

 

▶参考:労働審判・通常訴訟の比較表

比較項目 労働審判 通常訴訟
解決までの期間 平均 3〜5ヶ月程度 1年前後(事案により数年)
主な解決方法 調停(話し合い)による
和解が約7割
和解は3〜4割
判決が一般的
審理の形式 ・非公開
・会議室のような部屋で行われる
・公開
・法廷で行われる

 

1−4.労働審判はどれぐらいの期間で行われる?

労働審判の大きな特徴は、手続きの迅速な処理です。労働政策研究・研修機構による2023年の資料によると、労働審判の平均審理期間は3.5月となっており、多くの場合半年以内で終結しています。

 

労働審判はどれぐらいの期間で行われる?

▶参照元:労働政策研究・研修機構(JILPT)労働政策研究報告書No.226『労働審判及び裁判上の和解における雇用終了事案の比較分析』より抜粋

 

1−5.労働審判の現状は?

労働審判の現状データ

▶参照元:日本弁護士連合会「労働審判事件の新受・既済件数(地裁)」

 

労働審判制度が開始された2006年から2009年にかけて申立件数は急増しており、その後年間3500件前後で横ばいになっている状況で、最新の統計情報によると2024年の申立件数は3359件となっています。

2024年は、労働関係の民事訴訟事件の新受件数が4214件と過去最高となっている一方、労働審判事件は前年度に比べ微減しているものの、これまでと同程度の件数が申立てられています。

労働審判は労働関係の紛争解決手段として、広く活用されている制度といえるでしょう。

 

2.労働審判は事業者側にとって不利?受けるダメージとは?

日本の労働法は、労働者保護の要請が強く反映されているため、労働審判制度も事業者側にとって不利に進むのではないかと不安を抱く事業所の方は少なくありません。確かに、解決金の支払いや不当解雇の認定といった経営的なダメージを受けるリスクはあります。

しかし、労働審判の特徴を正しく理解した上で準備をすれば、紛争を早期に解決し、組織運営の立て直しを早めることができる手続きでもあります。

以下で詳しく説明します。

 

2−1.労働審判は事業者側にとって不利?

労働審判は事業者側にとって不利?

労働審判は、手続き上、事業者側に不利に働く部分はあるものの、通常訴訟に比べると、紛争の泥沼化や長期化を防ぎ、経営リスクを最小限に抑えることができる制度になっています。

以下で、労働審判における事業者側のメリット・デメリットをまとめて解説します。

 

(1)労働審判のメリット

 

1,紛争の早期解決が期待できる

労働事件は、事業所側に何らかの支払義務がある場合、紛争が長引くほどバックペイの額がふくらみ、支払額が増加してしまうリスクがあります。バックペイとは、労働者の解雇が無効とされた場合に、解雇後から紛争解決時点までに労働者に支払われるべきだった賃金(利息を含む)のことです。紛争が長引けば、その分バックペイの金額が増えるため、事業所運営に深刻なダメージを与えてしまう可能性があります。

このようなリスクを回避できる点で、労働審判手続で早期解決を図ることは、事業所の経営判断としても合理的な解決方法といえます。

 

2,柔軟な解決が可能である

通常訴訟の判決による解決では、0か100かの二者択一的な判断しかできず、実態に即した柔軟な解決をすることはできません。一方、労働審判における調停では、双方の話合いによる合意によって、当事者の意向を踏まえた解決が可能になっています。

例えば、客観的証拠からは解雇無効と判断される事案であったとしても、労働者が復職を希望しない場合は、復職をせずに解決金を支払って合意退職とする、といった解決方法が可能です。

調停が成立せず、審判が出された場合も、通常訴訟の判決に比べて柔軟な判断がされる点も大きな特徴です。労働審判で審判を行うに際しては、「当事者の権利関係」を踏まえて審判をすると同時に「手続の経過を踏まえて」行うと定められています。

したがって、解雇の手続きに問題があると判断された場合でも、労働者側が一定のまとまった金銭の支払いを受けることで紛争を解決してもよいという意向が明らかである場合には、「解決金〇〇円を支払い、労働者は本日をもって退職とする」という審判をすることができます。

一方訴訟による判決では、解雇手続きの不備が認められた場合は「解雇無効」と判断されてしまい、解雇した労働者を復帰させて、裁判期間中の給与を支払うことも命じられることになります。

 

「バックペイの恐ろしさ」

 

月収25万円の職員と訴訟で2年間争い、解雇無効となった場合のバックペイの額:
25万円×24ヶ月=600万円+利息

 

労働審判でこれを3ヶ月で解決していれば、このバックペイの金額を大幅に軽減できる可能性があります。

 

(2)労働審判のデメリット

 

1,準備期間が短い

労働審判手続の全体の流れ

▶参照元:労働審判員連絡協議会「知ってますか労働審判」

 

上記図のとおり、労働審判では、労働者側から労働審判が申立てられると、40日以内に第1回期日を設定することが定められており、期日の約1週間前には、事業所側の作成すべき書面である答弁書の提出期限が設定されます。つまり、事業所側の第1回期日までの準備期間は、約3週間から1ヶ月程度しかありません。

労働審判における事業所側の交渉の上で非常に重要なポイントが、答弁書の作成と第1回期日での話合いです。通常訴訟では、相手方の出方を見て後で主張を追加していくことができますが、労働審判では期日の回数が限られているため、初回期日からすべての主張・反論を出し尽くす必要があります。そのため、事業所側の主張は答弁書にすべて書ききった上で、第1回期日を迎えることが手続きのポイントになります。

事業所側にとっては、書面の作成や証拠収集の為の時間が十分に確保できない点で、労働者側に比べると不利であるといえます。

 

2,解決に金銭的負担が伴う

労働審判では、基本的に双方の歩み寄りによる和解での解決を目指して、審理が進みます。
和解による解決では、一般的には事業所側から「解決金」と呼ばれる金銭を労働者側に支払うことが前提となります。たとえ、事業所側に落ち度がないと考えていたとしても、早期解決のために一定の金銭の支払を行うというケースも少なくありません。解決金の額は事案によって様々ですが、労働者の賃金の3〜6ヶ月分(数十万~数百万円)程度のケースが多いです。

しかし、このような支出も、通常訴訟と比較すると、数年にわたる裁判費用や、敗訴した場合の多額のバックペイの支払い額に比べて、労働審判で支払う金銭の方が総合的に見て低コストで済む傾向があるため、一概にデメリットになるものではありません。

 

2−2.労働審判で事業者側が受けるダメージとは?

労働審判で事業者側が受けるダメージとは?

労働審判の申し立てがされると、その対応のために費用がかかったり、人員や時間を割く必要が生じるため、事業所の運営にとって一定の損失や悪影響が生じることは事実です。労働審判で事業者側が受ける可能性があるダメージは以下のようなものが考えられます。

 

  • 金銭的負担が発生する
  • 業務量増加による負荷が大きくなる
  • 社内外への悪影響を与える

 

(1)金銭的負担が発生する

前述の通り、労働審判では、事業所側から申立てた労働者に対して、解決金と呼ばれる一定の金銭の支払いをして和解を行うケースが多いです。もちろん、中には事業者側の主張が全面的に認められ、支払をしなくて済んだり、少額の金額で済むケースもありますが、多くの事案で解決金の支払いが求められることは事実で、ケースバイケースではありますが、数十万~数百万円程度の支出を想定しておく必要があるでしょう。

また、労働審判手続きは専門性の高い手続きであるため、弁護士に手続きを委任することが一般的です。弁護士費用には着手金・報酬金・日当・実費等が想定され、これもケースバイケースですが、総額で100万円程度は見込んでおく必要があります。

 

(2)業務量増加による負荷が大きくなる

通常の業務をこなしながら労働審判の手続きを進めていくことは、身体的にも精神的にも大きな負荷がかかります。特に、第1回期日までの約1ヶ月の期間は、答弁書の作成のため主張内容の整理をしつつ、証拠資料の収集や関係者等への聞き取り等を行う必要があります。期日当日には、事情をよく知る担当者や代表者が出席する必要もありますし、通常業務への影響は少なからず発生することになるでしょう。

 

(3)社内外への悪影響を与える

労働審判対応による業務量の増加によって、他の職員にも業務負担が生じる可能性が高く、それによって職員のモチベーションが下がってしまったり、業務負担や精神的な負担により、最悪の場合、離職に繋がってしまうケースも考えられます。他にも、職員が触発されて不満の声を挙げることに繋がり、紛争を拡大してしまう可能性も考えられます。

また、労働審判は非公開の制度ですので、紛争の内容が漏れることはありませんが、訴訟に移行した場合は事件の内容が公になってしまうので、事業所に対するイメージや社会的評価に関して悪影響を及ぼす可能性があります。

 

▶参考情報:労働審判における会社側が受ける可能性のあるダメージや、手続きを有利に進めるためのポイントについて詳しくはこちらの記事をご覧ください。

労働審判での解決は会社側に不利ではない!その理由や対応のポイントを弁護士が解説

 

 

3.労働審判のよくある事例

労働審判の対象となる紛争は、「個別労働関係民事紛争」であるため、使用者と個別の労働者間の権利義務に関するものに限られます。したがって、企業と組合の集団的紛争や、公務員の懲戒処分取消などの紛争は、労働審判では対象になりません。

労働審判で争われる事件類型は多岐にわたるものの、中でも「未払賃金の請求」「パワハラ(パワーハラスメント)」「不当解雇」に関する紛争が多くなっています。ただし、一つの事件で一つの請求のみがされるというよりも、複数の請求が併せて行われるケースが大半です。

例えば、退職した職員が「地位確認(解雇無効)」を請求し、かつ上司からのパワハラによる精神的苦痛を被ったと「慰謝料の請求」も併せて行う、といった例が典型的です。各事件類型について、その特徴と具体的な事例を紹介します。

尚、以下に紹介する事例は、参考文献「事例で知る労働審判制度の実際」(労働新聞社)に紹介されている事例の一部で、弁護士である筆者本人や所属事務所の弁護士が代理人を勤めた事例、もしくは日本弁護士連合会のシンポジウムで紹介された事例であり、事件の当事者に同意を得た上で掲載されているものです。

 

3−1.未払賃金の請求

退職した職員から過去数年分の未払い残業代を請求をされるケースが典型的です。

特に介護事業所では、職員に夜勤勤務を求めることも多く、その際に支払われるべき割増賃金や夜勤の手当について、正しく支給されていないとして退職後にまとめて請求するケースが散見されます。このような事例の場合、残業・深夜・休日の労働時間数や割増賃金の算定基礎となる賃金が争点となることが多いです。下記は、割増賃金の算定基礎となる賃金が争点となった事例です。

 

事例

XはYに運転手として入社し、深夜に大手食品会社の配送センターで製品を積み込み、各店舗に配達する業務に従事していた。入社後4年が経過後、配送センターの移転により残業が恒常的となったため、コースの短縮と残業代等の支払いを要求したが、Yは応じなかった。Xは労基署に相談したが、各種手当を算定基礎に含むかどうかで争いが生じたため、Yを退職し労働審判の申立てをした。

 

審理の経過

Xの賃金は、基本給11万円のほか、各種手当が約21万円であり、その中に住宅手当3万円、フリー手当4万円、C手当(配送地域がC市へ移転したことによる手当)3万円、通勤手当7000円が含まれていた。Xは、基礎賃金として除外されるのは通勤手当のみであると主張したのに対し、Yは、通勤手当、住宅手当の他、時間外労働に対する賃金であるフリー手当とC手当であると主張し、意見が食い違った。

結果的には、労働審判委員会はC手当を残業代見合いと認め、通勤手当とC手当を除外した賃金をベースに計算した金額での調停を打診した。これを受けて、第2回期日で解決金380万円、2回の分割払い、との調停が成立した。

 

3−2.パワハラ(パワーハラスメント)

近年、組織の人間関係をめぐって精神的苦痛を受けたとして、事業所や上司等を相手に慰謝料を請求する申立が増加してきています。

ハラスメント事案は、実務においては、事実の立証が困難な事件類型であり、当初は期日回数の制限のある労働審判では解決が困難と言われていましたが、加害行為者を関係人として審理に参加させ、集中的に口頭による審理を行えることを活かして迅速な事実認定を行うことにより、解決が可能になっています。

 

事例

高校卒業後、石油、石油製品等の販売を業とするYに就職したXは、正社員として入社し、ガソリンスタンドに配属となった。同店では、店長、副店長、2人の主任、Xとアルバイト数人が働いていた。その後Xは「抑うつ状態、適応傷害」となり、退職するに至った。Xは、直属の上司である主任から、教育・指導として暴力・暴言を加えられたために発症したもので、会社がこれを放置してきたとして、損害賠償を求めて労働審判の申立てをした。

 

審理の経過

Xの申立ては、主任であるAの暴行等で「抑うつ状態、適応傷害」となり、職場を退職し、治療中で就労できないため、Yに半年分の賃金相当損害金と慰謝料の合計300万円強を請求したものであった。第1回期日では、A主任による①X(未成年)への飲酒の強要、②平手打ちによる暴行が認められたが、他の暴行等は双方の供述が食い違ったままだった。

第2回期日で調停の打診があり、労働審判委員会が心証を開示して調停案がまとまったが、Yは社長の決裁が必要としたため、第3回期日にて調停が成立した。内容は、①Yは社員がXを平手打ちした事件について遺憾の意を表明、②Yは社員が未成年であるXの飲酒を阻止しなかったことについて遺憾の意を表明、③Yは本件解決金50万円を支払う、というものであった。

 

3−3.不当解雇

能力不足や勤怠不良、整理解雇等の理由で解雇した職員から、解雇は無効であると訴えられるケースです。請求内容としては、労働契約上の地位確認+バックペイを請求する事例が典型的です。

解雇無効が認められれば当然に労働者としての地位が認められるため、使用者側は復職させる必要がありますが、中には再就職をしてから労働審判を起こし、バックペイや慰謝料等は請求するが、復職は望まない、といったケースも少なくありません。解雇には納得できないが復職は望まないという解雇事案の大半を占めるケースにおいて、労働審判の特徴である柔軟な解決を活かした解決方法だといえます。

以下の事例は、再就職後に労働審判の申立てを行い、訴訟移行後、慰謝料150万円を含む判決が確定した事例です。

 

事例

キャリアアップのため転職に応じた証券営業マンXが、入社3ヶ月後に「手数料収入が定額で証券会社の営業員としての適格性を欠く」として解雇された。Xは他社へ再就職後、解雇無効、不法行為による損害賠償等をもとめてY(転職会社)に対し労働審判の申立てをした。

 

審理の経過

第1回、第2回と期日が開催され、第2回期日において労働審判委員会が金銭解決の調停案を提示したが、Yが受託を拒否し、労働審判となった。内容は①解決金400万円、②その余の申立棄却、であったが、Yの異議申立てにより訴訟移行となった。その後の一審判決で、①2か月間のバックペイ60万円弱、②残業代69万円強及び同額の付加金、③慰謝料150万円と弁護士費用15万円、が認められた。

 

3−4.その他

上記のような典型例以外にも、労働審判では様々な紛争事例があります。

 

(1)債務不存在確認

会社の業務命令によって講習を受け、資格を取得した労働者が、約1年経過後に退職を申し出たところ、講習費用として会社から約30万円の返還請求を受けたため、債務不存在確認の労働審判を申立てた。会社側が期日に出頭せず、労働者の請求がそのまま認められて確定した。

 

(2)配転命令無効

介護施設のケアマネージャーが深夜勤務を含む3交代制のケアワーカーへの配転命令を受け、一旦は応じたが、持病の悪化等を理由として配転無効を主張し、労働審判を申し立てた。調停は不調となり、深夜勤務を外した就労を求める等の労働審判が出された。

 

(3)セクハラ等による慰謝料等の請求

眼科医院で受付等に従事していた女性労働者が、院長からセクハラ・パワハラを受けたためうつ病に罹患し就労不能になったとして、賃金・慰謝料等をもとめて労働審判を申し立てた。労働審判委員会はセクハラ等の事実を認めた上で調停案を示し、解決金200万円、不必要な身体接触で性的不快感を与えたことにつき謝罪する等の調停が成立した。

 

4.労働審判はどうやって申し立てる?

労働審判は、裁判所の手続きであるため、管轄の裁判所に所定の書面を提出することで申立ることができます。

以下で、労働審判の申立てについて詳しく解説します。

 

4−1.労働審判を申し立てられるのはどんな人?

労働審判は、紛争の当事者が裁判所に対して申立てることができます(労働審判法第5条)。つまり、労働者側だけではなく、使用者である事業所側も申立をすることは可能ですが、実際には労働者側から申立がされることがほとんどです。

雇用形態を問いませんので、正規・非正規を問わず申立をすることができますし、在職中・退職後も問いませんので、自己都合で辞めた職員が数ヶ月後に労働審判を申し立ててくる、といったケースもあり得ます。一方で、個別労働関係民事紛争のみの取扱いなので、労働組合との紛争や、公務員の労働問題については申し立てできません。

 

▶参照:労働審判法第5条

当事者は、個別労働関係民事紛争の解決を図るため、裁判所に対し、労働審判手続の申立てをすることができる。

・参照元:「労働審判法」条文

 

 

4−2.労働審判はどこに申し立てる?

労働審判は、以下のいずれかの住所地を管轄する地方裁判所に申し立てることができます。

 

  • ①相手方の住所、居所、営業所若しくは事務所の所在地を管轄する地方裁判所
  • ②個別労働関係民事紛争が生じた労働者と事業主との間の労働関係に基づいて当該労働者が現に就業し若しくは最後に就業した当該事業主の事業所の所在地を管轄する地方裁判所
  • ③当事者が合意で定める地方裁判所

 

例えば、主たる事業所が東京にあり、他に大阪にも事業所がある法人であれば、申立人である労働者は、東京にある主たる事業所を管轄する地方裁判所に申し立てることもできますし、就業していた場所が大阪の事業所であれば、大阪にある事業所を管轄する地方裁判所に申し立てることもできます。

 

▶参照:労働審判法第2条

労働審判手続に係る事件(以下「労働審判事件」という。)は、相手方の住所、居所、営業所若しくは事務所の所在地を管轄する地方裁判所、個別労働関係民事紛争が生じた労働者と事業主との間の労働関係に基づいて当該労働者が現に就業し若しくは最後に就業した当該事業主の事業所の所在地を管轄する地方裁判所又は当事者が合意で定める地方裁判所の管轄とする。

・参照元:「労働審判法」条文

 

 

4−3.労働審判を申し立てる際に必要な書類とは?

 

(1)必ず提出が必要な書類

 

・1.労働審判手続申立書

申立ての趣旨や申立ての理由等を記載する書面です。

 

・2.証拠書類

申立書に記載した主張等を裏付けるための証拠を添付します。タイムカードや雇用契約書、録音の記録等です。

 

・3.証拠説明書

各証拠の一覧を記載する書面です。各証拠によって何を証明したいかを記載します。

 

(2)場合によって必要な書類

 

・1.資格証明書(申立人もしくは相手方が法人の場合)

法人の登記簿謄本等

 

・2.委任状(弁護士が代理人として申立てる場合)

 

▶参照:労働審判手続きの申立てに必要な書類について詳しくはこちらをご参照下さい。

裁判所「労働審判手続きの申立てに必要な書類について」(pdf)

 

 

4−4.労働審判の申立書の雛形ダウンロード方法

労働審判の申立書の雛形は裁判所HPにてダウンロードすることができます。

以下が現在公開されている労働審判手続申立書の雛形です。

 

▶参照:労働審判の申立書の雛形はこちら

「労働審判手続申立書(退職金)」の雛形ダウンロードはこちら(pdf)

「労働審判手続申立書(地位確認等)」の雛形ダウンロードはこちら(pdf)

 

その他、各種書式の雛形や書式の記入例については、裁判所ホームページ「労働審判で使う書式」をご覧ください。

「労働審判で使う書式」はこちら

 

 

5.労働審判を申し立てられた場合の流れとは?

労働審判を申し立てられた場合の流れとは?

労働審判の手続きの大まかな流れは、以下の通りです。

 

  • ①裁判所へ労働審判手続申立書が提出される。
  • ②裁判所から相手方へ、労働審判手続申立書の副本が送付される。
  • ③相手方は、答弁書を作成し、証拠資料と共に裁判所へ提出する。
  • ④期日に出頭する。(原則3回以内)
  • ⑤和解が成立し、調停での解決となる。
  • ⑥和解が成立しなかった場合、労働審判委員会による審判が言い渡される。
  • ⑦審判に不服がある場合、異議申立てを行い、訴訟へ移行する。

 

以下では主に事業者側の観点からの流れについて解説していきます。

 

5−1.答弁書の作成、提出

答弁書とは、労働者の主張に対する事業所側の反論や主張を記載した書面です。

労働者側から労働審判が申立てられると、裁判所から相手方である事業所に「労働審判申立書」が送付され、第1回期日の日程と答弁書の提出期限が設定されるので、事業所側はその内容を確認した上で、速やかに答弁書の作成を開始し、裁判所へ提出します。提出期限は第1回期日の1週間程度前に設定されるため、答弁書の準備期間は約3週間程度になることが多いです。

通常の訴訟では、お互いの主張を伝えるための書面を裁判所に提出する機会は数回あることが一般的なのですが、労働審判においては、迅速な解決を行うため、原則として、最初に提出する答弁書に事業所側のすべての主張・反論を記載し、証拠を提示し尽くすことが求められます。答弁書の内容によって、第1回期日に臨む際の労働審判委員会の心証もある程度形成されますので、審判の結果を左右する重要な局面であり、内容は熟慮して記載しなければなりません。

 

▶参考:答弁書の重要性や、記載すべき内容等について、詳しくはこちらの記事をご覧下さい。

労働審判の答弁書とは?書き方や重要な反論ポイントを解説【書式付き】

 

 

5−2.労働審判期日への出廷

労働審判が申立てられると、申立てがされた日から40日以内の日に第1回期日が指定されます。申立人及び相手方それぞれの事件関係者は、期日に裁判所に出廷しなければなりません。

期日では、労働審判委員会から、事実関係の確認や、具体的な和解の提案がされます。審判官からの質問にうまく答えられないと、話合いが不利に進んでしまう可能性がありますので、期日に出頭する人は、事実関係をよく知る職員と、ある程度和解に関して決定権限のある役員等が望ましいでしょう。

弁護士に依頼する場合は、弁護士から回答することもできますが、会社側担当者に直接質問をされることも多いので、事前に想定問答集を作成してリハーサルする等して十分に打合せを行っておくことが一般的です。

 

5−3.反論・和解案の検討

第1回期日では、最初に争点整理のため、双方に適宜質問をしながら事実関係の確認が行われます。そこである程度お互いの主張を出し合った後、労働審判委員会が具体的な和解案について検討し、労使双方に個別で和解について打診がされます。

この際、労働審判委員会から、労働者側と使用者側別々に部屋に呼ばれ、個別に解決案の提示がされます。なお、最初の事実関係の確認から、労働者側と使用者側で別々に話を聞かれるケースもあります。

 

5−4.和解の成立

労働審判委員会からの解決案で、双方納得ができれば調停成立となり、手続きは終結となります。第1回期日で和解ができなければ、第2回・第3回と続けて審議が行われます。

 

5−5.労働審判

3回の期日で合意に至らない場合、労働審判委員会による審判となります。この場合、審判主文と審判理由の要旨を記載した「審判書」が当事者双方に送達されるのが一般的ですが、期日にて口頭で伝えられる場合もあります。

 

5−6.異議申立て

労働審判委員会の審判に対して不服がある場合は、裁判所に対して異議申立てを行うことができます。異議申立ては、「審判書の送達を受けた日」または「労働審判の告知を受けた日」から二週間以内に裁判所に行います。その期間内に異議申し立てがない場合は、労働審判は裁判上の和解と同一の効力で確定します。

 

5−7.通常訴訟への移行

適法に異議申立てがされると、労働審判はその効力を失い、通常の訴訟手続きに移行します。その場合、労働審判の記録は引き継がれますが、改めて証拠調べや主張を繰り返すことになり、解決までさらに長期間を要することになります。

 

6.労働審判を申し立てられた場合の事業者側の対応ポイントとは?

労働審判を申し立てられた場合の事業者側の対応ポイントとは?

事業者側が労働審判を申立てられた場合、もっとも意識すべきポイントは「迅速な初動対応」と「落としどころの見極め」です。

それぞれ詳しく解説します。

 

6−1.迅速な初動対応

前述の通り、労働審判では、申立てから40日以内に第1回期日が設定されます。事業所側が提出すべき答弁書の提出期限は第1回期日の1週間程前に指定されるので、事業所側としての準備期間は、約3週間~1ヶ月程度しかありません。その期間に、答弁書の作成・証拠収集・関係者への聞き取り・第1回期日に向けての方向性の確認等、準備すべきことが山積みです。

第1回期日に向けて適切に準備を進めていくためには、専門的な法的知識が不可欠ですので、労働審判申立書が事業所に届いたら、労働問題に関する法的な専門知識を持つ弁護士に早期に相談することが重要です。

 

6−2.落としどころの見極め

労働審判では、7~8割が話合いによる解決がなされており、和解による解決の場合、事業所側が解決金と呼ばれる一定の金銭を労働者側に支払うことがほとんどです。

早期解決のために、解決金を支払って和解をするか、和解をするにしても、解決金はいくらまでなら支払えるか、時間はかかったとしても譲歩せずに徹底的に争うか、といった落としどころを事前に決めておくことことで、手続きを有利に進めていくことができます。

 

6−3.事業者側の対応としてやってはいいけない対応

一方、事業所側の対応としてやってはいけないことは、「裁判所からの期日の呼出しに出頭しない」「答弁書の内容をおろそかにする・期限までに提出しない」ことです。

裁判所からの呼出しは法律に規定されているものであり、これを無視して出頭しない場合は、5万円以下の過料が科されます。その上、答弁書の提出もせず何の反論もしない場合、労働者側の主張がそのまま認められることになってしまいます。裁判所からの呼出しは無視せずに、必ず出頭するようにしましょう。

 

▶参考:労働審判を申し立てられた場合の事業者側の対応ポイントについて詳しくはこちらの記事をご覧下さい。

労働審判を起こされたら?会社側の対応ポイントと注意点を詳しく解説

 

 

7.労働審判にかかる費用はいくらか?解決金や弁護士費用など解説

労働審判にかかる費用はいくらか?

事業所側として労働審判にかかる費用の総額は、約100万円~250万円程度になることが多いです。費用の内訳としては、労働者側に支払う解決金、弁護士費用、その他出頭に要する交通費等があります。

労働者側にかかる費用の総額としては、弁護士に依頼した場合、約30万円~100万円程度と考えられます。主な費用の内訳としては、労働審判の申立てのための費用、弁護士費用、裁判所への出頭に要する交通費等の費用になります。

それぞれ詳しく解説します。

 

7−1.事業所側にかかる費用

 

(1)解決金

 

1.解決金の相場

解決金の金額は、事案の内容や労働審判委員会の心証等の様々な要因によって決まるため、この場合にはこの金額、と一概にいうことはできません。

ただ統計的には、厚労省が行った労働審判の解決金についての調査によると100万円~200万円の解決金になるケースが最も多いようです。解決金の算出方法は、「労働者の給与の〇ヶ月分」「請求金額の〇割」等事案の内容によって異なります。

 

▶参考:解決金について詳しくは、こちらの記事をご覧下さい。

労働審判における解決金の相場は?金額の決まり方や事例ごとに詳しく解説

 

 

2.解決金を無視して支払わない場合どうなる?

労働審判手続きで決定した調停の内容は、通常裁判での確定判決と同様の効力があります。つまり、支払いを怠ると、労働者側は裁判所に申立てて、事業所の資産を強制的に差し押さえることができるようになるのです。そうすると、例えば銀行口座が凍結されてしまったり、事業所の備品や不動産等の資産が競売にかけられたりするようなリスクがあります。

労働審判で決定した解決金は、必ず支払うようにしましょう。

 

(2)弁護士費用

労働審判手続きには法的な専門知識が必要であるため、弁護士に依頼して手続きを代理してもらうことが一般的です。弁護士費用は、全体で約60万円~100万円が相場です。

具体的には、「①相談料 ②着手金 ③報酬 ④実費 ⑤日当」があります。

 

1.相談料

相談料は、弁護士に法律相談をする場合にかかる費用です。スポットでの法律相談の際にかかることが多いです。

 

2.着手金

着手金は、弁護士が事件に着手する際に必要となる費用で、事件の対応を依頼した時点で支払わなければならない費用です。 その結果のいかんにかかわらず、返金されないのが原則です。約30万円~50万円が相場です。

 

3.報酬

報酬は、事務処理の結果に成功不成功がある事件等について、事件が解決した際にその成功の程度に応じて支払う費用です。労働者側からの具体的な請求金額がある場合は、その請求金額から減額した場合、減額した金額に一定のパーセンテージをかけて報酬の計算をします。

パーセンテージは以下のように設定されるのが通例です。

 

▶参照:報酬金の例

事業所側が減額できた金額(経済的利益) 報酬金の算出式(解決時に支払う)
300万円以下の場合 減額できた金額 × 16%
300万円を超え 3,000万円以下の場合 減額できた金額 × 10% + 18万円
3,000万円を超え 3億円以下の場合 減額できた金額 × 6% + 138万円

 

他にも、解決時に支払う報酬の額を予め定額で決めておく方法もあります。

 

4.実費

実費は、 事件の手続きのために必要となる諸費用で、郵送費用、コピー代、交通費、印紙代等があります。

 

5.日当

委任事務処理のために、 事務所所在地を離れ、移動によってその事件等のために拘束されることの対価です。

 

(3)出頭に要する交通費等

労働審判の期日には、事業所の代表者や事情をよく知る担当者等が出頭する必要があります。期日は労働審判の申立てがされた裁判所で行われるため、場合によっては遠方になることもあります。

 

7−2.労働者側にかかる費用

 

(1)申立費用

労働審判を裁判所に申立てる際には、申立のための手数料(収入印紙)と裁判所が書類を送付するための郵便切手代(予納郵券)が必要です。

 

1.申立手数料(収入印紙)

申立書表紙に印紙を貼付します。手数料額は、相手方に請求する金額によって決まります。例えば、請求金額が100万円の場合、5000円の収入印紙を貼付します。労働審判手続きでは、通常訴訟の半額となっています。

 

▶参照:申立手数料(収入印紙)の早見表は、以下をご参照ください。

裁判所「手数料額早見表」(pdf)

 

 

2.郵便切手(予納郵券)

申立の際に、裁判所が相手方に書面を送達する際等に使用するための郵便切手を予め提供する必要があります。最終的に使用しなかった郵券は返還されます。予納郵券の額は、3000円程度が相場ですが、各地方裁判所によって異なりますので、裁判所ホームページで確認するか管轄裁判所に問合せをして確認をしましょう。

 

(2)弁護士費用

労働審判は労働者本人が申立てることができますが、法的な専門知識なしに的確な主張をする行うことは困難であり、相手方である会社側には弁護士がつくことが多いことも踏まえると、弁護士に依頼する方が賢明な選択といえるでしょう。

弁護士費用としては全体として60万円~100万円が相場です。

 

(3)出頭に要する交通費等

事業所側と同様に、期日には申立人である労働者本人が出頭する必要があります。

 

8.労働審判で解決することのメリットとデメリットは?

労働審判手続きにおける労働者側・事業所側それぞれのメリット・デメリットは以下の通りです。

 

メリット デメリット
労働者側 ・早期解決ができる。
・弁護士費用等のコストを抑えられる。
・裁判官だけでなく、労使の実情に精通した専門家にも審理してもらえる。
・解決金を得ることが期待できる。
・解決金の額が訴訟より低くなる傾向がある。
・期日が原則3回と制限されているので、主張を尽くせないと感じることがある。
・和解が成立せず、会社側が異議申し立てを行うと、訴訟になってしまう。
事業所側 ・紛争を早期に解決できる。
・非公開で行われるため、企業秘密やスキャンダルが漏れにくい。
・和解により、将来の紛争の蒸し返しを防ぐことができる。
・敗訴判決のリスクを避け、事業所側にとって現実的な金額で交渉ができる。
・準備期間が非常に短く、初動の負担が大きい。
・審判官から一定の譲歩を強く促される傾向がある。
・役員や人事担当者等が対応のために拘束される。

 

以下、主に事業所側にとってのメリット・デメリットについて詳しく解説します。

 

8−1.労働審判で解決することのメリットは?

事業所側にとって、労働審判手続きの大きなメリットは、早期に柔軟な解決が可能であるということです。

労働審判は、ほとんどの場合、退職した労働者から申立てられますので、事業所としてはできるだけ紛争を長引かせたくないと考える方が大半ではないでしょうか。通常の民事訴訟では、解決までの期間が1年以上かかることが一般的ですが、一方で労働審判は、長くても半年程度で手続きは終了します。

 

手続きの種類 平均的な期間 回数の目安
労働審判 約3ヶ月~5ヶ月 原則3回以内
通常訴訟 約12ヶ月~18ヶ月 おおむね月1回ペースで開催

 

特に労働紛争においては、紛争が長期化するほど、解決に要する金銭的負担が増える傾向がありますので、早期解決できることは大きなメリットになります。

また、労働審判では和解による解決が中心になりますので、解決金の金額の他にも、お互いの債権債務が他に存在しないことの確認や、労働者が事業所から貸与されているものの返還をすること等、細かい取り決めを行うことが可能であることも、通常訴訟との違いです。

 

8−2.労働審判で解決することのデメリットは?

事業所側にとってのデメリットは、労働者側と比べて準備期間が短いことと、解決にあたって、一定の金銭的負担が求められることです。

事業所側の準備期間が短いことは前述の通りで、初動対応への負担はかなり大きいと考えられます。

また、労働審判では、基本的に双方の和解を目指して審理が進められ、早ければ第1回期日から、審判官から具体的な解決金の提案がされます。事業所側としては落ち度がないと考えている事案であっても、早期解決のために解決金の支払を促されることもあり、事業所側としては納得がいかないと感じることもあるかもしれません。

労働審判では、和解ができずに審判となると異議申し立てができますが、訴訟になるとさらに紛争が長期化するというリスクがあります。一定の解決金を支払って早期解決を図るか、徹底的に争うかは、事案の性質や事業の経営状況等を総合的に考慮して判断する必要があります。

 

▶参考:労働審判のメリット・デメリットについて詳しくはこちらの記事をご覧下さい。

労働審判での解決は会社側に不利ではない!その理由や対応のポイントを弁護士が解説

 

 

9.労働審判を申し立てられたら弁護士に早急に相談しなければいけない理由とは?

労働審判を申し立てられたら、出来る限り早急に弁護士に相談すべきです。それは通常の裁判と比較すると、かなりの時間的制約があること、労働審判制度の仕組み上、第1回期日が非常に重要であることが主な理由です。

 

9−1.準備期間が短い

労働審判手続申立書が事業所に届いてから、第1回期日までは約40日しかありません。これは法律で規定されている期間なので、例外はありません。また、答弁書の提出期限は期日の1週間~10日前に設定されるため、実質的な準備期間は2~3週間ほどしかありません。期日の日程変更も原則認められていませんので、準備は要領よく適切に進めていく必要があります。

 

9−2.第1回期日で9割方の勝負が決まる

労働審判は第1回期日が天王山と言われるほど、初回期日でほとんどのことが決まります。期日の回数が限られているので、主張や証拠の後だしが出来ず、第1回期日ですべての主張を出し尽くすことが求められるからです。したがって、第1回期日までの準備が非常に重要になるのです。

このように、事業所側にとっては、期日までの準備期間が手続きの山場になり、法的な専門知識なしにこれらのタスクをすべて適切に処理するのは非常に困難です。労働審判を申し立てられたら、すぐに労働問題に精通している弁護士に相談しましょう。

 

▶参考:労働審判を弁護士に依頼するメリットや、弁護士費用、手続きにおける弁護士の役割等について詳しくはこちらの記事をご覧下さい。

労働審判対応を弁護士に相談するメリットとは?費用や相場なども解説

 

 

10.実際に弁護士法人かなめが労働審判の事業者側の対応をサポートした事例

 

10−1.自主退職した職員から、不当解雇を理由とした解雇無効及び損害賠償と長時間労働による未払いの割増賃金の請求をされた事案

この事例は、事業所を自主退職した職員から、実際には自主退職ではなく不当解雇であったことに基づく解雇無効及び損害賠償と、長時間労働による未払いの割増賃金の請求がされた事案です。

主な争点となったのは、自主退職に至る経緯と、実際の労働時間数です。

具体的には、当該職員は自ら「退職します」と発言はしていたものの、その発言が出るまでの間に、事業所からの注意指導から派生した言い争いがあり、当該職員が退職すると発言した後すぐに荷物をまとめさせてその日のうちに退職手続きをしてしまったような状況がありました。

また、当該事業所ではタイムカードによる打刻がされていたものの、職員側からは、休憩時間がなかったことや、自宅に持ち帰って仕事をしていたという趣旨の主張がされていました。

事業所側は、当該職員には元々素行に問題があり、繰り返し注意指導する中で、本人の退職するという言葉のみを受けて退職手続きをしてしまったのは事実であるが、それを解雇とされるのは納得がいかないこと、休憩時間や持ち帰り残業については確かに明確に管理はできていないが、事業所としては休憩を取るようにとの指示はしていたし、持ち帰って仕事をするよう指示をしたことはないことから、当該職員の主張について全て争いたい意向を持っていました。

もっとも、事業所としては、当該職員が事業所に戻ってくることだけは避けたいとの思いがありました。そこで、事業所側の方針としては、当該職員の主張は争うものの、最優先事項は当該職員の退職を確定させることとし、一定の解決金の支払いを想定した上で労働審判期日に臨みました。

 

サポートした解決結果

労働審判期日では、当該職員の主張を争いながら、最優先事項は当該職員の退職の確定であること、一定の解決金を支払う意向があることを裁判所に伝え、その金額についての擦り合わせを早い段階から進めてほしい旨伝えました。

この申し出を前提に、2回目以降は主張の応酬ではなく、解決金の金額に関するやり取りがメインとなり、結論としては、当該職員の退職の確認と、3ヶ月分の給与相当額をベースにした解決金の支払いで調停が成立しました。

この金額は、当該職員側の主張する金額よりは低い金額でしたが、早期に解決金の支払いをすることなどを条件として加えたことで、合意することができました。

 

この事例のポイント解説

この事例では、事業所側に、明確な希望(当該職員の退職)があり、一定の割増賃金相当額の支払いはやむを得ないと考える土壌があったことが、方針を決める上でのポイントとなりました。

そのため、法的な主張としては受け入れ難い部分があるものの、当該職員を退職させるという目的の達成のため、法的な主張の応酬を早々にやめ、早期の解決と解決金の額にしぼった議論に切り替えたことも、合意がしやすい状況を作ることができた大きな要因だと考えています。

労働審判は、ただ法的な主張を戦わせる場と言うだけでなく、事業所運営を早期に適正化するため、柔軟な解決を図ることができる手続きでもあります。労働事件の経験が豊富な弁護士と相談しながら、何が事業所にとって最も利益となるかを総合的に捉えつつ進めていくことが重要です。

 

11.労働審判について弁護士法人かなめの弁護士に相談したい方はこちら

介護業界に特化した弁護士法人かなめによるサポート内容のご案内!

弁護士法人かなめでは、労働関係紛争に精通した弁護士が労働審判手続きに関して以下のようなサポートを行っています。

 

  • (1)労働審判の代理業務
  • (2)介護事業者の法務面を総合的にサポートする顧問弁護士サービス「かなめねっと」

 

11−1.労働審判の代理業務

労働審判手続きにおける事業主側の代理人として、以下のような業務をすることができます。

 

  • 答弁書の作成、提出
  • 証拠資料の収集、精査
  • 関係者への聞き取り
  • 残業代等の金額の算定
  • 金銭的解決を図るのであればその額の算定
  • 期日への出頭

 

これらの他にも、事案に応じて事業主側が対応すべき手続きを代理人としてトータルに行いつつ、事業主側の対応のサポートや助言もできますので、事業主側の負担の軽減を図り、金銭的損害を最小限に抑えることができます。

 

11−2.介護事業者の法務面を総合的にサポートする顧問弁護士サービス「かなめねっと」

弁護士法人かなめでは、「11−1.労働審判の代理業務」サービスなど介護事業者の法務面を総合的にサポートする顧問弁護士サービス「かなめねっと」を運営しています。

具体的には、トラブルに迅速に対応するためチャットワークを導入し、事業所内で何か問題が発生した場合には、速やかに弁護士へ相談できる関係性を構築しています。そして、弁護士と介護事業所の関係者様でチャットグループを作り、日々の悩み事を、法的問題かどうかを選択せずにまずはご相談頂き、これにより迅速な対応が可能となっています。直接弁護士に相談できることで、事業所内での業務効率が上がり、情報共有にも役立っています。

顧問弁護士サービス「かなめねっと」について詳しくは、以下のサービスページをご覧ください。

 

▶参照:顧問弁護士サービス「かなめねっと」について

 

 

また以下の記事、動画でも詳しく説明をしていますので、併せてご覧下さい。

 

▶︎参考:介護施設など介護業界に強い顧問弁護士の選び方や費用の目安などを解説

▶︎参考:【介護・保育事業の方、必見】チャットで弁護士と繋がろう!!介護保育事業の現場責任者がすぐに弁護士に相談できる「かなめねっと」の紹介動画

 

 

弁護士法人かなめには、介護業界や労働問題の分野に精通した弁護士が所属しており、丁寧なアドバイスと適切なサポートを行うことで、介護事業所の皆様の問題解決までの負担等を軽減させることができます。現在労働審判手続きについてお悩みの事業所の方は、早い段階でお問い合わせ下さい。

 

弁護士法人かなめの「お問い合わせフォーム」はこちら

 

 

11−3.弁護士費用

 

(1)顧問料

  • 顧問料:月額8万円(消費税別)から

※職員の方の人数、事業所の数、業務量により顧問料の金額は要相談とさせて頂いております。詳しくは、以下のお問合せフォームまたはお電話からお問い合わせください。

 

また、顧問弁護士サービス以外に弁護士法人かなめの弁護士へのスポットの法律相談料は、以下の通りです。

 

(2)法律相談料

  • 1回目:3万円(消費税別)/1時間

※相談時間が1時間に満たない場合でも、1時間分の相談料を頂きます。

※法律相談は、「1.弁護士法人かなめにご来所頂いてのご相談」、又は、「2.ZOOM又はGooglemeetsの面談によるご相談」に限らせて頂き、お電話でのご相談はお請けしておりませんので、予めご了承ください。

※介護事業所の経営者側からのご相談に限らせて頂き、他業種の企業様、職員等一般の方か らのご相談はお請けしておりませんので、予めご了承ください。

 

弁護士法人かなめの「お問い合わせフォーム」はこちら

 

 

12.労働審判に関するよくある質問

労働審判に関してよくご質問いただく事項についてご回答します。

 

12−1.期日は変更できる?

期日の変更は原則として認められていません。

 

12−2.呼出しを無視して出頭しなかった場合どうなる?

労働審判の申立に対し、答弁書も提出せず、裁判所からの呼出しにも出頭しない場合、労働者側からの申立書と証拠のみで審理されるため、労働者側の主張が全面的に認められた審判がされる可能性が極めて高くなります。さらに、正当な理由なく出頭しない場合は、5万円以下の過料が科される可能性もあります。

 

12−3.労働審判は非公開で行われる?

労働審判は、原則非公開の手続きです。通常裁判のような法廷ではなく、会議室のような円卓のある場所で、労働審判委員会と労使双方の関係者のみで行われます。ただし、労働審判委員会は相当と認める者の傍聴や同席を許可することができます。

審判に対して異議申立てを行い訴訟に移行した場合は、通常訴訟となるので、公開の法廷の場で手続きがされることになります。

 

12−4.あっせんとの違いは?

あっせんとは、各都道府県の労働局等が実施する無料の公的制度で、労働者と事業主との間で労働条件等に関係するトラブルが発生した場合に、労働問題の専門家が仲介役となって、トラブルの解決を図る制度です。あっせんで決定した事項については法的拘束力はなく、強制執行等の手続きはできません。

一方、労働審判は裁判所が実施する手続きであり、労働審判での決定は通常の裁判での判決と同様の拘束力を持ちます。つまり、相手方から解決金の支払等がない場合は、強制執行することが可能です。

 

12−5.弁護士ではなく、社労士、税理士、行政書士などに相談できる?

相談することはできますが、代理人として答弁書を作成したり、裁判所に出頭したりできるのは、弁護士に限られています。厳密にいえば、法令上、弁護士でない者を代理人とすることを裁判所が許可することは例外的に認められていますが、この運用は極めて限定的ですので、ほとんどの場合認められることはありません。

 

13.まとめ

本記事では、労働審判制度の概要や、手続きの流れ、手続きにかかる費用等を中心に解説をしました。

記事でも解説した通り、事業所側にとって労働審判は迅速かつ適切な初動対応が非常に重要なポイントになります。トラブルを早期に解決し、安定したサービスの提供とよりよい職場環境づくりに集中するためにも、労働審判対応については、介護現場の労働問題に精通した弁護士に相談するようにしましょう。

 

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畑山 浩俊はたやま ひろとし

代表弁護士

出身大学:関西大学法学部法律学科卒業/東北大学法科大学院修了(法務博士)。
認知症であった祖父の介護や、企業側の立場で介護事業所の労務事件を担当した経験から、介護事業所での現場の悩みにすぐに対応できる介護事業に精通した弁護士となることを決意。現場に寄り添って問題解決をしていくことで、介護業界をより働きやすい環境にしていくことを目標に、「介護事業所向けのサポート実績日本一」を目指して、フットワークは軽く全国を飛び回る。

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