記事公開日: 2022年3月19日   
記事更新日: 2022年7月5日

うつ病・適応障害からの復職!職場復帰のプロセスや注意点を解説!

うつ病・適応障害からの復職!職場復帰のプロセスや注意点を解説!
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近年、様々なストレス要因でうつ病・適応障害などの精神疾患を発症し、業務に支障を来たす職員が増えています。

これに伴い、職員を休職させ、治療に専念させる事例も増加傾向にあります。もっとも、職員を休職させる場合に必然的に発生するのが、復職の問題です。

職員から、復職の希望が出されている場合でも、事業所から見れば、休職前の業務を継続できる状況ではない場合もあり、このような場合には、職員を復職させるか、自然退職とするか、といった職員の労働者としての地位に直結する問題に直面することになります。

そのため、事業所としては、休職をさせるタイミングだけではなく、復職の際のプロセスを正確に理解することも必要不可欠となります。

この記事では、休職している職員が復職するまでにはどのようなプロセスを経るのか、そのプロセスを経ていく中で、事業所がどのような準備や対応をしていくのか、そして、復職の判断をどのように行うのかなど、復職の手続について詳しく解説します。

復職の際の判断を誤ってしまうことで、様々なトラブルに発展する可能性があります。

例えば、復職させるべき事案で退職扱いにしたことで、後日裁判となり、退職扱いにした日以降の賃金の支払いを命じられる問題に発展したり、逆に、退職扱いにすべき事案で、安易に復職させたことで、当該職員に労働災害が発生したり、他にも勤務時間中に様々なトラブルをお越し職場をかく乱し、嫌気がさした他の職員が大量の離職してしまうなどのトラブルに発展することもあります。

この記事を最後まで読んでいただくことで、復職後の職員との対応などについても詳しく学ぶことができますので、現在、精神疾患を理由に休職している職員の復職に関して不安を感じている職員の対応に悩んでいる介護事業所の方は、是非参考にしてみて下さい。

 

1.うつ病や適応障害など精神疾患による休職からの復職

うつ病や適応障害などの精神疾患により、業務に支障をきたしている職員に対しては、休職制度を活用することが有効です。

そして、休職のプロセスの中でも、復職、つまり、職員の職場復帰に向けたプロセスは非常に重要です。

休職の事情やその経過は職員によって異なることから、個別具体的な事情に応じて柔軟に対応していく必要はありますが、職場復帰へのプロセスをきちんと定めておくことは、適切な労務管理を行う上で必要不可欠です。

就業規則に定めた復職のプロセスを無視した対応を取ると、後に裁判になった際に、「就業規則で決められたプロセスを履践していない」ことを理由に敗訴することも珍しくありません。また、就業規則を単に形式的になぞるだけでは無く、個別具体的な事情に応じて柔軟な対応をすることもプロセスとして求められる時代です。この「個別具体的な対応」を疎かにしている点も、訴訟で敗訴する原因に挙げられます。

そして、裁判になった際に敗訴する原因があることは、交渉の段階でも不利になることを意味します。

適切なプロセスを経ることは、簡単なように聞こえますが、裁判例の蓄積を踏まえた法的知識を要するとても複雑で難解な取組みです。深く理解せず安直な対応をすることは、直ちに法人のリスクに繋がると言っても過言ではありません。

そこで、以下では、職場復帰のプロセスに重点を置いて解説していきます。

 

2.休職から復職までの大まかな流れ

休職から復職までの大まかな流れは次のとおりです。

 

休職から復職までのフローチャート

▶参考:上記は、うつ病や適応障害などの精神疾患を発症してから、休職や復職までの主なフローチャートです。

 

2−1.職員との事前面談

まずは、うつ病や適応障害等の精神疾患が理由で職場での不調が続いている職員と、面談を実施し、職員の体調を詳しくヒアリングします。

その際、職員が精神的な不調を訴えたり、その兆候が見られるような場合には、医療機関(メンタルヘルスクリニック)の受診を促しましょう。

 

2−2.診断書の提出

職員が医療機関を受診した後は、必ず診断書を提出してもらいましょう。

 

2−3.休職命令

診断書の内容を踏まえて、休職させることが相当であると法人が判断した場合は、職員に対して休職命令を出します。

休職命令は、休職開始日を明確にするため、必ず書面で行うようにしましょう。

休職の期間については、就業規則により事前に規定をしている場合はその期間、就業規則上の規定がなく、任意で職員の同意を得て休職扱いにする場合には、診断書上治癒に必要とされている期間や、実際の症状やこれまでの勤務期間等を考慮し、1か月から6か月程度の間で個別具体的に定めるようにします。

 

2−4.休職中の情報収集

職員は、休職期間中は療養に専念しますが、事業所としては、職場復帰を見据えて、休職期間中の職員の状態について情報収集を行う必要があります。

具体的には、本人と面談したり、本人の同意を得た上で主治医から診療情報を提供してもらうなど、職員の状態について情報を収集します。

以上のフローチャート内の「① 職員との事前面談」~「④ 休職中の情報収集」までは、以下の記事で詳しく解説していますので、詳しくはこちらをご覧下さい。

 

▶︎参照:うつ病で休職!判断基準や期間、手続きや注意点など対応方法を徹底解説

 

 

この記事では、フローチャート内の「⑤ 復職準備」以降の復職プロセスについて詳しく解説します。

 

3.復職準備

復職準備について

事業所としては、休職期間満了日の前に、復職をさせるかどうかの判断をする必要があります。

そのため、事業所としては、休職を開始した当初から、就業規則の定めに沿って計画的かつ適切なプロセスを経ながら、復職に向けての準備を進めていく必要があります。

 

3−1.就業規則の定め

復職準備において最も重要なことは情報収集です。

事業所としては、休職中の職員が、職場に復帰できる状態にまで回復しているのかどうかを見定める必要があり、そのためには「情報」が必要です。

如何に職員の健康状態に関する情報を収集することができるかは、適切な労務管理を行う上で必須のプロセスです。

そこで、就業規則においては、職員の休職中、適切な情報収集ができるよう、その根拠をしっかり定めておくようにしましょう。

もっとも、自らに不都合な事情が事業所に知られるのを避けたい、病状に関する事情を知られることに抵抗がある、などのさまざまな事情から、事業所からの情報収集を協力しない職員もいます。

そのような場合には、事業所として適切な復職の判断ができません。

そこで、情報収集に関する規程の中には、職員が情報収集に協力しない場合の効果についても、定めておくようにしましょう。

以下、規程例を掲載します。

 

▶参考:就業規則の規定例

 

第●条 私傷病休職の場合、職員は当該傷病の治療に専念しなくてはならない。治療目的から逸脱する行動及び法人の信用を失墜させるような行為が認められた場合は、休職を打ち切り、懲戒処分にすることがある。

 2 休職期間中に法人から状況の報告を求められた場合、職員はこれに応じなければならない。法人からの請求があるにもかかわらず、職員が正当な理由なく状況報告を怠り又は拒否した場合は、休職を打ち切り、休職期間が満了したものとみなすことがある。

 3 法人は、必要があると認める場合、本人の同意を得たうえで、法人が指定する医師に主治医の復職等に関する意見を求めさせ、法人に報告させることがある。

 4 主治医、家族その他法人外の者からの情報収集又は情報提供は、原則として本人の同意を得て行うものとし、同意のあった目的以外に使用しない。ただし、次の各号のすべてに該当する場合は、この限りでない。

(1)人の生命、身体又は財産の保護のために個人情報を取得する必要がある場合
(2)個人情報の取得について本人の同意を得ることが困難である場合
(3)個人情報の取得が急を要する場合

 

第●条 休職期間満了までに休職事由が消滅しない場合、当然退職とする。

 2 私傷病休職の休職事由が消滅した場合とは、休職期間満了時までに、主治医の診断書を添えて休職者から復職の申し出があった場合において、傷病等が治ゆ(休職前に行っていた通常の業務を遂行できる程度に回復すること又は見込まれることをいう。以下同じ。)したものと法人が判断した場合をいう。

 3 法人は、前項の判断を行うために、主治医との面談(診療情報提供の依頼)、休職者との面談及び法人が指定する医師の診断を指示することがある。当該指示を拒否した場合であって、復職の判断が不能であるときは、休職期間満了による退職となることがある。
また、当該指示を遂行したうえでなお法人が特に認めた場合は、休職期間を延長することがある。

 4 復職日は、第1項の判断に基づき法人が決定するものとする。この場合において、主治医の意見と法人が指定する医師の意見が異なるときは、法人が指定する医師の意見を優先する。

 5 復職した者については、本人の健康状態、業務の都合等を勘案し、その就業場所、職種又は職務を転換することがある。この場合、労働条件の変更を伴うことがある。

 

 

3−2.定期的な情報収集(対面面談、電話、Web会議、メール等での情報収集)

最終的に復職の判断を行うのは事業所です。

そこで、休職期間中には、職員と直接面談を実施するなどして、職員の状態を確認するようにしましょう。

もっとも、「情報収集をする必要がある」という理由で、休職中の職員の状態を考慮せず、面談を強行してはいけません。

 

▶参考例:ワコール事件(京都地裁 平成28年2月23日判決)

ワコール事件(京都地裁平成28年2月23日判決)では、休職中の職員に直属の上司が直接接触したことが、休職中の原告が療養に専念できるように配慮する義務に違反したとされました。

この事件では、休職中の職員の直属の上司は、当該職員から精神障害の発症と併せて、主治医から会社の関係者と会うことを止められている旨を明確に伝えられていました。

裁判所は、「原告の主治医を介して、あるいは、主治医から原告との接触の手順につき教示を受けた上で、これに従って原告と接触するなどの方策を講じるべきであり、被告の側から原告へ直接接触を図ることは差し控えるべき義務を負っていたと認めるのが相当である。」と判示し、主治医を介さず直接接触したことを違法と判断したのです。

 

このように、事業所としては、休職中の職員から情報収集を行う必要はあるものの、その具体的な方法については慎重に判断することが重要です。

例えば、面談の方法として、対面面談の他、電話やWeb面談を実施するなど、できる限り職員の状態に配慮した方法を、個別具体的に選択する必要があります。

 

3−3.復職の意思表明

休職期間の満了日が到来する前に、復職を希望する職員は、企業に対して復職を希望する旨を申し出ます。

事業所は、この申し出を受けて、職員が本当に復職できる程度にまで回復しているのかどうかを見定める必要があり、「復職したい」との申し出のみを理由に、漫然と復職させることはNGです。

万が一、症状が緩解していない職員を漫然と復帰させ、メンタルヘルス不調が悪化し、当該職員が自殺してしまったような場合、ご遺族側は、労働災害ではないか、と労働基準監督署に労災請求をするでしょうし、さらに、労災保険では補填されない賠償部分に関し企業側の安全配慮義務違反を理由に損害賠償請求を求めてくる可能性があります。

復職の意思を表明する職員の状態を把握することは、職員に対する安全配慮義務(労働契約法第5条参照)を負う企業としては、絶対に簡略化してはならない重大な手続きだと心得て下さい。

以下では、復職の意思表明において、休職中の職員が「復職したい」との申し出があった際の具体的な流れと注意点を解説していきます。

 

(1)診断書の提出

休職中の職員が復職を希望する場合、職場に対して主治医の診断書を提出することを就業規則でルール付けるようにしましょう。

もっとも、主治医が「復職可」と診断していることをもって、直ちに復職させて良い訳ではありません。

なぜなら、主治医は、通常職員本人の言い分のみから復職の有無の判断をせざるを得ず、その際に、復職の判断に必要なはずの職員の業務内容や業務量を把握しているわけではないからです。

そのため、主治医の診断書のみを持って、「復職可」の判断することは困難です。

なお、これは主治医から「復職不可」との診断書が出されている場合でも同様であり、必ずしも、この診断書をもって「復職不可」の判断をすべきでない場合もあります。

 

(2)主治医との面談

事業所としては、主治医からの診断書を踏まえて、その趣旨や具体的な判断プロセスを確認するため、主治医との面談を実施するようにしましょう。

休職中の職員は、治癒していることを会社に伝えなければ退職になってしまうことを恐れるがあまり、治癒していないにもかかわらず、主治医に「復職可能との診断書を作成して欲しい」と依頼するケースがあります。

主治医としても、このような場合、患者の意向を無碍にすることができず、言われるがまま「復職可能」と記載する場合が実際にあります。

 

例えば、主治医が復職は時期尚早であると考えていたにもかかわらず、休職中の職員から復職可能との診断をしてほしいと申し出を受け、復職可能との診断書を作成したという事実を認定した裁判例があります(J学園事件:東京地判 平成22年3月24日判決)。

さらに、後に紹介する東京キタイチ事件のように、主治医の診断書の記載から復帰可能性を否定した使用者側の判断が否定され、解雇が無効となった事例もあります(札幌高裁 令和2年4月15日判決)。

 

また、上記のような場合以外でも、主治医が、休職している職員が職場復帰した場合、どのような業務に従事するのか、現場がどのような環境なのか、を熟知しないまま「復職可能」または「復職不可」と記載するケースもあり、企業側としても、果たしてどこまで職場の状況を理解した上で診断書を作成したのかを質問する必要があります。

もっとも、個人情報保護法との関係で職員本人の同意を得た上で主治医面談を実施するようにして下さい。

主治医に面談で確認する事項は概ね以下のとおりです。

 

  • 1.発症から初診までの経過
  • 2.治療経過
  • 3.現在の状態(業務に影響を与える症状及び薬の副作用の可能性なども含めて)
  • 4.就業上の配慮に関する意見(疾患の再燃・再発防止のために必要な注意事項など)

 

これらを基本事項としつつ、その他、職場が知っておくべきと考える情報を付記するようにしましょう。

なお、主治医面談に先立ち、上記の情報収集を予め実施することも有用な手段です。

具体的には、主治医へ予め情報提供依頼書を送付し、必要な項目を書面で回答してもらう方法です。

主治医への情報提供依頼書の書式は、以下でご紹介している厚生労働省『心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き~メンタルヘルス対策における職場復帰支援~』の末尾に掲載されている『職場復帰支援に関する情報提供依頼書』という書式を活用することをお勧めします。

この回答を踏まえて、主治医面談を行うと、より職場復帰に向けて必要な情報収集を行うことができます。

仮に、休職中の職員が主治医面談等に応じない場合は、企業側としては、主治医が作成した復職可能との診断書を信頼することができません。場合によっては、その診断書を採用しないこともあり得ます。

 

▶参照:厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き~メンタルヘルス対策における職場復帰支援~」(PDF)

 

 

(3)産業医との面談

以上のように、主治医の診断書に疑問がある場合や、その診断書のみでは充分な情報が得られないと判断した場合等は、企業としては主治医以外の会社の指定する医師、例えば産業医との面談を休職中の職員に促すようにして下さい。

就業規則にも産業医面談を業務命令として言い渡すことができるように規定を設けておきましょう。

厚生労働省も『心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き~メンタルヘルス対策における職場復帰支援~』において、主治医の診断書のみで判断するのではなく、当該職員の職務内容を踏まえた主治医の意見、産業医の意見を踏まえて復職可能性の判断を行うことを推奨しています。

 

▶参照:厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き~メンタルヘルス対策における職場復帰支援~」

 

 

(4)本人・家族との面談

復職の意思を表明している本人との面談は、言うまでもなく重要なプロセスです。

事業所としては、以下の復職の判断でも詳しく解説しますが、復職できる程度にまで症状が回復しているかどうかを、本人との面談時における本人の様子も踏まえて判断する必要があります。

また、職員本人の同意が得られた場合に限りますが、本人と同居しているご家族から本人の日常生活の様子のヒアリングをすることもあり得ます。

もっとも、メンタルヘルス不調の問題に限らず、家族関係は個々人において様々です。他人が立ち入ることには種々の問題が伴い兼ねません。

仮に事業所が、「家族は困った時こそ助け合うべきだ」という考え方のもと、職員本人と家族の関わり方がどのようなものかを踏まえずに、ずかずかと踏み込むと、それをもって職員のメンタルヘルス不調が悪化するケースもあり得ます。

家族との面談については、事業所が単独で決めるのではなく、職員本人の意向を尊重しながら、実施するか否か、実施する場合、どのような方法で実施するかを慎重に検討し、決めるようにしましょう。

 

4.復職要件の検討

次に、復職要件に関して、復職タイミングの判断基準や、復職判断における注意点について、裁判例などを交えながら詳しく解説していきます。

また、厚生労働省のガイドラインなども紹介していますので、順番に見ていきましょう。

 

4−1.「復職のタイミングはいつ?」判断基準について

事業所は、職員が、うつ病や適応障害などの精神疾患により、労務提供が不能又は不完全な状態に陥ったことから休職命令を出しています。

そうすると、復職のタイミングは、原則として傷病による労務提供不能又は不完全な状態という事由が無くなった時ということになります。

より具体的には、休職期間満了日までに、従前の職務を通常の程度に行える健康状態に復したと言えなければ復職は認められないことになります。

これが原則です。もっとも、原則があれば例外があります。

 

4−2.復職の判断の注意点

近年の裁判例では、従前の職務に直ちに復帰することが困難だとしても、軽易業務に従事または配置転換させて傷病の回復を待つといった配慮を使用者側に求める傾向にあります。

 

例えば、「東海旅客鉄道(退職)事件」では、休職からの復職のケースで、「労働者が職種や業務内容を限定せずに雇用契約を締結している場合においては、休職前の業務について労務の提供が十全にはできないとしても、その能力、経験、地位、使用者の規模や業種、その社員の配置や異動の実情、難易等を考慮して、配置替え等により現実に配置可能な業務の有無を検討し、これがある場合には、当該労働者に右配置可能な業務を指示すべき」と判示しています(大阪地判 平成11年10月4日)。

 

これは、「片山組事件最高裁判決」以降の傾向です。

この最高裁判例は、休職の事案ではありませんが、職種を限定しない場合の債務の本旨に従った労務提供について判断していることから、休職から復職の際の判断基準についても参考になります。

同事件は、現場監督業務を命じられた労働者が医師の診断書等を提出して現場作業や残業ができないと申し出たことに対して、使用者が就労を拒否し自宅治療を命じて賃金を支払わなかった事案です。

裁判所は、「労働者が、職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した場合においていは、現に就業を命じられた特定の業務について労務提供が十全にはできないとしても、その能力、経験、地位、当該企業の規模・業種、当該企業における労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らして当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができ、かつ、その提供を申し出ているならば、なお債務の本旨に従った履行の提供があると解するのが相当である」としています。

 

▶参照:「片山組事件(最小平成10年4月9日)」の判例内容はこちら

 

 

この傾向は、職種限定がない労働者の場合のみならず、職種限定のある労働者の場合にも当てはまります。

本来、職種限定のある労働者は、特定の業務を実施することを前提に雇用された労働者ですから、復職の条件としても、従前に従事していた「特定の業務」を遂行可能な程度に回復しているか否かが「治癒」の原則的な基準になります。

 

もっとも、例えば、運転手として職種を特定して雇用された事案である「カントラ事件」判決では、上記の原則、すなわち、当該業務を通常の程度に遂行できなくなった場合には原則として債務の本旨に従って履行の提供ができない状況にあるとしつつ、「他に現実に配置可能な部署ないし担当できる業務が存在し、会社の経営上もその業務を担当させることにそれほど問題がないときは、債務の本旨に従った履行の提供ができない状況にあるものとはいえないものと考えられる」としています(大阪高判 平成14年6月19日)。

 

このように、裁判例では、使用者側が状況に応じて配慮することを求める傾向にありますが、就業規則の規定としては、原則をきちんと定めておくことが望ましいです。

特に、今回取り上げているケースは、うつ病や適応障害などの精神疾患を理由に休職している職員に対する復職の判断です。

上記の「東海旅客鉄道(退職)事件」で問題となった疾病は脳内出血です。「片山組事件」で問題となった疾病はバセドウ病であり、「カントラ事件」で問題となった疾病は、慢性腎不全です。いずれも身体疾患、身体的な病気です。

うつ病や適応障害などの精神疾患で、職員が業務が遂行できずに休職した場合、休職期間満了時に休職前の業務には就労できないけれど他の業務なら就労できるという可能性については、慎重に検討すべきだと思います。

なぜなら、精神疾患の内容にはよるものの、どのような業務であっても精神的負荷はかかるのであって、身体的な病気のように、配置転換して仕事の内容を変えれば問題無く業務遂行できる、と簡単に判断することが難しいからです。

そこで、就業規則上は、「治癒」の定義については、原則論に立ち戻り、「休職前に行っていた通常の業務を遂行できる程度に回復すること又は見込まれること」と定めておくべきでしょう。

その上で、労働者の状況を主治医や産業医の診断結果等に基づき、治癒の該当性を慎重に判断していくことになります。

 

▶参考例:東京キタイチ事件(札幌高裁 令和2年4月15日判決)

この事件では、第一審は、主治医の診断書の記載から復帰可能性を否定した職場の判断に問題は無いと判断され、結果として職員に対する解雇は有効と判断されましたが、控訴審では、結論が逆になりました。

つまり、解雇は無効であると判断されたのです。

その理由の一つには、主治医の診断書は、職員が障害補償給付の支給を申請するに当たり 、右小指に残存した後遺障害の程度を証明するために作成されたものであって、復職の可否等を判断するために作成されたものではないということを前提にした上で、職員は職場に対し、「仕事復帰の承諾は担当医から出ています。ただ、まだハレや痛みがあるので不安がありますが出来れば仕事復帰をしたいと思っています。」と発言していたことがあげられています。

この事案では、特に当該診断書を作成した主治医に問い合わせ、その趣旨を確認することが困難な事情は特にありませんでした。

主治医に意味合いをきちんと確認していれば、すぐに従前どおりの業務に就くことは困難でも、慣らし勤務を経て債務の本旨に従った労務の提供が可能だったと判断され、結果として解雇は無効とされたのです。

このような事情を考慮すると、就労可能性については、直接主治医から意見を求めておくことが無難です。

なお、この裁判例は、職員の休職原因は、私傷病休職ではなく、労働災害でした。労災が原因の場合は、復職の可否の判断がより慎重に行われることになります。

判決文でも「本件事故が被控訴人の業務に起因して発生したことを前提として控訴人が労災給付を受給していたことも踏まえると、かかる慣らし勤務が必要であることを理由として、控訴人に解雇事由があると認めることは相当でない。」と 判示されています。

 

4−3.厚生労働省のガイドライン

厚生労働省のガイドラインにおいても、復職の可否の判断に際しては、主治医からの意見だけではなく、産業医等の別の視点も加味することが推奨されています。

具体的には、「主治医による診断は、日常生活における病状の回復程度によって職場復帰の可能性を判断していることが多く、必ずしも職場で求められる業務遂行能力まで回復しているとの判断とは限りません。このため、主治医の判断と職場で必要とされる業務遂行能力の内容等 について、産業医等が精査した上で採るべき対応を判断し、意見を述べることが重要です。」 との記載があります。

厚生労働省のガイドラインは、以下をご参照下さい。

 

▶参照:厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き~メンタルヘルス対策における職場復帰支援~」

 

 

5.職場復帰

職場復帰について

休職していた職員が職場に復帰する際には、様々な不安が付きまといます。

以下では、職員をケアしながら、どのように職場復帰を促進していくかについて解説します。

 

5−1.復職する職員の怖さ・不安の解消

うつ病や適応障害などの精神疾患を理由に休職した職員は、復職に対し、以下のような様々な不安を抱いています。また、復職自体を「怖い」と感じています。

 

  • 復職した後、また再発してしまったらどうしよう。
  • 休職中、体力が低下してしまった。復帰後、仕事についていけるだろうか。
  • メンタルヘルス不調を理由に休んだ自分のことを職場の皆はどう思うだろうか。
  • 自分が休んでいた間に進んだ新たな動きについていけず、取り残されそうで怖い。

 

事業所としては、休職していた職員が復帰する場合には、当該職員が上記のような不安や恐怖心を抱いていることに思いを馳せ、なるべく職員をフォローアップできる体制を整えておくことが重要です。

 

5−2.復職のためのプログラム

休職からの復職に向けては、試し出勤やリワークプログラムといった職場復帰支援制度を導入している企業があります。

このような制度は法律に定めのあるものではなく、使用者の事業規模、職員の人数、業務内容により、多種多様な方法で実施されています。

就業規則で予め制度として設けるか否か、また設けるとしても、必ず実施する制度とするのか、企業側の任意で実施の有無を判断する制度とするのかなど、慎重に検討することが必要です。

 

(1)試し出勤

試し出勤とは、通勤訓練や勤務時間中に軽作業を行ったりするなど、よりスムーズに職場復帰を実現することを目的として実施される制度です。

具体的には、以下のような制度があります(厚生労働省『心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き~メンタルヘルス対策における職場復帰支援~』(PDF)参照)。

 

1.模擬出勤

勤務時間と同様の時間帯にデイケアなどで模擬的な軽作業を行ったり、図書館などで時間を過ごす。

 

2.通勤訓練

自宅から勤務職場の近くまで、通勤経路で移動し、職場付近で一定時間過ごした後に帰宅する。

 

3.リハビリ出勤

職場復帰の判断等を目的として、 本来の職場などに試験的に一定期間継続して出勤する。

なお、あくまでリハビリ出勤は、職員が正式に復職できるかどうかを見極めるために実施するものです。

そのため、リハビリ出勤を実施する場合には、事業所は、その期間はあくまで休職期間中であることを明確にしておく必要があります。

そうしなければ、リハビリ出勤をしている職員は、正式に復職することができたと思い込み、職場とのトラブルに発展する可能性があるためです。

裁判例でも、この点が争われた事件があります。

 

この裁判例では、休職期間中に実施された試し出勤について、法人側の運用面に照らし、休職中の職員が復職可能か否かを見極めるための期間という趣旨で行われたもので、試し出勤の開始をもって復職したとは認められない、と判示しています(綜企画設計事件 東京地判平成28年9月28日判決労判1179.34)。

 

リハビリ出勤制度をめぐって争いが生じることを避けるためには、リハビリ出勤期間中については、休職期間を延長するのか否か、経過が思わしくない場合にはどのような措置を講じるのか、リハビリ出勤期間中の処遇はどのように するか等をあらかじめ定め、処遇等を含め職員に十分説明し、同意書を取得する等した上で実施することが望ましいです。

特にリハビリ出勤中の賃金については、注意が必要です。

原則として、リハビリ出勤中は、本来の労務の提供はできないことが多いと思われますので、賃金を支払う必要はありません。

もっとも、作業について使用者側が指示を与えたり、作業内容が業務(職務)に当たる場合などには、労働基準法等が適用される場合があり、賃金等について合理的な処遇を行うべきことに留意する必要があります(災害が発生した場合は労災保険給付が支給される場合がある)。

就業規則上無給とされたテスト出勤中の賃金について争われたNHK(名古屋放送局)事件(名古屋高裁平成30年6月26日判決労判1189.51)では、「当該作業が使用者の指示に従って行われ、その作業の成果を使用者が享受しているような場合等には、当該作業は、業務遂行上、 使用者の指揮監督下に行われた労働基準法11条の規定 する「労働」に該当するもの」と解され、最低賃金法の適用により、賃金請求権が発生すると判断されました。

 

(2)リワークプログラム

リワークとは、「Return to Work」の略語で、「再び働く」「仕事に戻る」という意味があります。

実施主体に応じて大きく3つの種類に分かれます。

 

1.医療機関で実施するリワークプログラム

医療機関で行い、復職支援に特化したプログラムが実施され、再休職の予防を最終目標として働き続けるための病状の回復と安定を目指した治療です。

診療報酬上の枠組み(精神科デイケア、精神科ショートケア、精神科デイ・ナイト・ケア、精神科作業療法、通院集団精神療法など)で多職種の医療専門職(医師、看護師、精神保健福祉士、作業療法士、心理職など)による医学的リハビリテーションとして実施します。

健康保険制度や自立支援医療制度を利用でき、費用の一部自己負担があります。

 

2.独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構が全国の地域障害者職業センターで実施している「精神障害者総合雇用支援」

二つ目は、 独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構が全国の地域障害者職業センターで実施している「精神障害者総合雇用支援」です。

その一環で精神障害で休職していた労働者に対するリワーク支援を行っています。

リワーク支援は、センターのカウンセラーが対象となる職員、企業、主治医をコーディネートします。

合計12~16週の職業リハビリテーションを実施します。

この実施の費用は労働保険によって賄われており、支援対象者や事業主の費用負担はありません(公務員は使用できません)。

「精神障害者総合雇用支援」の制度内容については、以下の独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構のホームページにパンフレット(PDF)なども掲載されていますので、あわせてご参照下さい。

 

▶参照:精神障害者総合雇用支援について

 

 

3.企業内で実施される復職支援プログラム

三つ目は、企業内で実施される復職支援プログラムです。

3.リハビリ出勤」についてもこれに位置づけられることになります。

リワークプログラムは、それを実施することで休職期間中の職員が具体的に職場復帰可能な程度にまで回復しているのかどうか、より詳細な情報を企業側が取得しやすいという点で、企業にとってメリットのある制度です。

また、段階的に社会復帰を促すことができるので、職員にとってもメリットのある制度です。

 

裁判例では、復職中に外部の医療機関のリワークプログラムへの参加を実施させた上で、リワークプログラムにおける低い出席率の情報を復職不可の判断材料とした企業側の判断を尊重した東京電力パワーグリッド事件があります(東京地判 平成29年11月30日労判1189.67)。

 

5−3.復職後の業務

復職後の業務については、配置転換に関してや役職のある職員の対応、また治療の経過や再発防止を考慮しながら時短勤務の導入や通院の配慮など、事業所側として事前に検討すべき点があります。もっとも、必ず配置転換や時短勤務の導入等をしなければならない訳ではありません。

その点については、以下で詳しく解説していきます。

 

(1)配置転換

復職後の業務について、従前の業務内容から配置転換をした上で別の業務に従事させることは可能なのでしょうか。

ここでは、「1.それが可能かどうかと」いう問題と、「2.それをすべきなのかどうか」、という問題を切り分けて解説します。

 

1.休職前に従事していた部署から復職後に別の部署に配置転換することは可能か。

これは、当該職員が職種を限定した上で雇用された職員かどうかにより判断が分かれます。

仮に、職種限定合意の無い職員の場合は、雇用契約上、または就業規則上、企業側に配置転換を命ずる人事権がありますので、その行使が権利濫用に当たらない限りにおいて、企業側が自由に采配することができます。

言い換えると、当該職員の同意が無かったとしても配置転換を命じることができます。

これに対して、職種限定合意がある職員の場合は、雇用契約上、当該職務に従事することだけが契約内容になっているので、職員本人の同意なしに配置転換を一方的に命じることはできません。

 

2.配置転換ができるとして、それをすべきなのか。

4−2.復職の判断の注意点」で詳しく解説したとおり、裁判所は、復職にあたっては、使用者側に状況に応じた配慮を求める傾向がありますので、これを受けて、「別の部署での配置転換」を模索する使用者も多いと考えられます。

もっとも、復職後の業務について、休職前の業務から配置転換を命じて別の業務に就かせるべきかどうか、という点については、うつ病や適応障害などの精神疾患が休職事由となっている職員との関係では、やはり慎重に検討すべきと言わざるを得ません。

具体的には、うつ病や適応障害などの精神疾患を患った職員が「別の部署であれば精神的な負担が軽減される」ということはあり得るのか、という点は慎重に考える必要があります。

特に、介護現場は、人と人とのコミュニケーションが必須の職場です。

例えば、介護現場で実際に利用者のケアに従事する場合の精神的負担と、介護報酬の請求業務などの事務手続きを行う場合の精神的負担を単純に比較することはできないと思います。

後者の事務業務であったとしても、内部の職員にサービス内容の確認や勤務状況の確認や関連する他の介護事業者とのやり取りなどコミュニケーションが多発します。

そのため、「別の部署であれば精神的な負担が軽減される」といった観点で復職後の配置転換の可否を検討する場合には、休職理由となった傷病の状態に立ち戻り、議論しなければならない場合も往々にしてあるのです。

復職を焦る職員の気持ちは理解できますが、かといって、安易に配置を転換し、すぐに精神疾患が再燃してしまっては元も子もありません。仮に、その影響で、当該職員が自殺した場合などにおいては、企業の安全配慮義務違反が問われかねません。

仮に、職種限定合意が無く、または、職種限定合意があったとしても職員の同意が得られて配置転換が可能な状況であるとしても、それをすべきかどうかは、「労務提供が可能な状態にまで回復しているかどうか」という原則論に立ち戻って慎重に判断すべきです。

慎重に判断するための方法としては、休職期間を延長した上で、「(1)試し出勤」「(2)リワークプログラム」を活用することをお勧めします。

 

(2)役職の変更

復職後、職員が従前のような仕事の成果を発揮していないような場合、事業所側としては、役職を変更したいと考えることがあります。

例えば、介護施設の管理者として業務をしていた職員が、復職後、管理職業務を充分に遂行できない場合、管理者という役職を外し、一般の介護職員に降格するような場面です。

多くの介護事業所では、管理者には、管理者手当が基本給に加えて付与されていますので、管理者から一般の介護職員に降格する場合は、当然、管理者手当が付与されなくなります。

このようなケースは、職能資格の引下げ措置としての降格と位置づけられます。

このような場合に備えて、就業規則において、職能資格の引下げに伴う賃金改定があることを明示しておく必要があります。

就業規則等の根拠なく行われた、職能資格の引下げ措置としての降格は無効です。

そうすると、それに伴ってなされた賃金減額も無効になるので注意が必要です(東京地決 平成8年12月11日判決:アーク証券事件)。

もっとも、賃金の切下げが伴わない降格処分は、企業が有している人事権による降格処分と位置づけられるので、それが権利濫用に該当しない限り、問題無く行うことができます。

 

(3)時短勤務

試し出勤やリワークプログラム等の結果や、従前の業務に復帰した後の働き方を見て、従前通りに業務を継続することが困難な状況であると見受けられた場合、時短勤務を取り入れることも一つの選択肢です。

例えば、1日8時間、週40時間を前提に採用された正社員を、1日6時間、週3日のパート職員にするといったイメージです。

もっとも、これは、当然賃金の内容も大きく変わる可能性がある重大な変更であるため、当該職員とよく話し合い、その職員の真意に基づく同意の上で行うようにして下さい。

また、同意に基づいて労働条件を変更する場合には、労働条件変更合意書を新たに作成することも忘れないようにしましょう。

 

(4)通院への配慮

復職後の職員への配慮は非常に重要です。

厚生労働省のガイドラインにおいても、職場復帰後のフォローアップとして、以下の点などが例として定められています。

 

  • ア 疾患の再燃・再発、新しい問題の発生等の有無の確認
  • イ 勤務状況及び業務遂行能力の評価
  • ウ 職場復帰支援プランの実施状況の確認
  • エ 治療状況の確認
  • オ 職場復帰支援プランの評価と見直し
  • カ 職場環境等の改善等
  • キ 管理監督者、同僚等の配慮

 

 「エ 治療状況の確認」という項目もあるとおり、復職後も通院を継続する職員は多いので、主治医がどのような診断をしているのか、経過をどのように診ているのかを職員からヒアリングして、復職後の職員の状況に配慮していく必要があります。

もっとも、職場として、当該職員の通院に関しては、特別な配慮は不要です。

例えば、勤務時間中に通院することを認めてくれ、と申し出があった場合、当然職場としては、有給休暇の申請を行うよう促して対処すべきです。

有給が付与されていない場合には、給料をその分欠勤控除することで対応します。

ここで問題となっている休職、復職は、あくまで私傷病に対するものですので、復職後の配慮が必要だからといって、勤務時間中に、当然に通院を認めなければならない訳ではありません。

うつ病や適応障害などの精神疾患が私傷病である場合にメンタルヘルスクリニックに通院するという場面は、それは本来、例えば、風邪を引いたから病院に行きます、という場面と同様に考えるべきです。

「風邪を引いたから病院に行きます。仕事を休みます。」と職員から申し出があった場合、ノーワークノーペイですから、欠勤を理由にその分を給料から控除することが原則です。

精神疾患を理由にメンタルヘルスクリニックに通院する場合においても、同様に取扱うことが、職員に対する適切な労務管理だと考えられます。

 

5−4.復職後にうつ病や適応障害の精神疾患が再発したら?

厚生労働省によると、うつ病の再発率は60%と言われています。

これは、10人に6人が再発するという計算になり、確率としては非常に高くなっています。

休職中の職員や復職を控えた職員、そして、復職した職員は、内心、「復職に失敗したらどうしよう。」と焦りを抱えています。

したがって、上記に解説してきたように、職場のフォローアップはとても重要です。

もっとも、事業所としては、精神疾患の再発により休職と復職を繰り返されれば、業務に支障を来してしまいます。

例えば、職場復帰したものの、復帰後1ヶ月程度で再発し、欠勤が続くようになった場合や、うつ病で休職した職員が復帰後、次は、「適応障害」と診断され休みがちになったような場合です。

このような事態に備え、精神疾患が再発した場合の対応についても、就業規則で定めておくことが重要です。

具体的には、以下のような規程を推奨します。

 

▶参考:就業規則の規程例

職員が復職後6カ月以内に同一ないし類似の事由により前条1号ないし2号の状態(私傷病休職事由に該当する状態)に至ったときは、復職を取り消し、直ちに休職させる。この場合の休職期間は、復職前の休職期間の残期間とする。ただし、残期間が1カ月未満の場合は休職期間を1カ月とする。

 

 

以上のような定めをすることで、復職後の再発にも対応することができます。

ポイントは、「同一ないし類似の事由」というように、「類似」の症状に範囲を拡張しておくことです。

実務では、「うつ状態」「うつ病」「自律神経失調症」「適応障害」など診断名は変わるものの、欠勤や遅刻早退、労務提供が不完全な状態であることについては、類似共通した状態になるケースが多くあります。

このような事態にも対応できるように「同一」の病名だけではなく「類似の事由」には拡張しておく必要があります。

 

6.復職が難しいと判断された場合

復職が難しいと判断された場合について

最後に、うつ病や適応障害など精神疾患で休職している職員の復職が難しいと判断された場合の対応についても、正しい方法を理解しておかなければなりません。

以下で、プロセスごとに解説していますので、見て行きましょう。

 

6−1.休職期間の延長

休職期間満了時において、復職が困難な場合、直ちに復職不可として自然退職ないしは普通解雇と扱う企業もあります。

もっとも、休職制度が企業側にとっては解雇猶予の性質を有すること、職員にとっては福利厚生的性格を有することから、休職期間の延長を検討することもあり得ます。

例えば、就業規則で休職期間を最大半年間付与することが可能な場合、初回の休職期間を3か月間としていたとします。その休職期間を対象職員の状況に照らし、再度3か月間延長するといった方法です。

また、休職期間の上限を使い切った場合であっても、例えば、試し出勤を行うような場合、それに必要な期間分、休職期間を延長するといった運用も考えられます。

なお、休職命令を出す際と同様に、休職期間を延長する場合にも、漫然と口頭で実施することは避け、延長した場合の休職期間の終期、休職期間中職員が守るべきこと等を明確に記載した書面を交付しましょう。

 

6−2.再度の復職の意思表明

休職期間を延長した場合、その休職期間が満了するまでの間に職員が復職を希望する場合は、再度、復職の意思表明をしてもらうことになります。

 

6−3.復職の判断

延長後の休職満了時において、当該職員が職場復帰できる状態にあるかどうか、本人や家族との面談や、主治医・産業医等の意見を踏まえて慎重に判断していくことになります。

これは、延長前の復職の判断と同様です。

 

6−4.自然退職

休職期間満了時に傷病が治癒していない場合や、休職期間を延長しても傷病が治癒しなかった場合には、その期間の満了時をもって自然退職と扱うことになります。

 

6−5.自然退職が違法となったら?

自然退職が違法と判断されるケースとして、想定される場面は以下の3つの場面です。

 

  • (1)休職命令の発令の根拠となる休職事由を満たしていなかったにもかかわらず、休職を命じ、それを前提として自然退職扱いにした場合
  • (2)休職命令自体に問題は無いものの、復職させるべき事案で復職させず、自然退職扱いにした場合
  • (3)うつ病や適応障害などの精神疾患の原因が私傷病ではなく労働災害であった場合

 

(1) 休職命令の発令の根拠となる休職事由を満たしていなかったにもかかわらず、休職を命じ、それを前提として自然退職扱いにした場合

多くの場合、休職期間中の職員の賃金は無給とされています。これは、ノーワーク・ノーペイの原則です。

もっとも、休職命令自体が違法であった場合、そもそも、ノーワークの原因が企業にある訳ですから、職員は、企業に対する賃金支払い請求権を失いません(民法第536条2項前段)。つまり、休職期間の始期以降の賃金を支払う必要があります。

 

(2)休職命令自体に問題は無いものの、復職させるべき事案で復職させず、自然退職扱いにした場合

自然退職が違法となった場合、職員はまだ労働者としての地位が残っていることになります。

自然退職が違法になるという状態は、すなわち、当該職員を復職させるべきであったということを意味しますので、企業は、復職時以降における賃金を支払う必要があります(民法第536条2項前段)。

 

(3)うつ病や適応障害などの精神疾患の原因が私傷病ではなく労働災害であった場合

うつ病や適応障害などの精神疾患の原因が私傷病ではなく労働災害であった場合、企業の対応は大幅に変わります。

仮に、労働災害であった場合は、労働基準法第19条1項の解雇制限規定が類推適用され、自然退職と扱うことはできませんので注意が必要です。

 

6−6.必ず弁護士などの専門家に相談を!

復職に関してはこれまで解説してきたように多様な法的論点があります。

プロセスの1つ1つの場面で、個別具体的な判断が必要となり、その1つでも誤ると、復職後の配置転換や自然退職が無効となるなど、事業所運営に支障を来たす場面があり得ます。

うつ病や適応障害などの精神疾患等で業務に支障をきたしている職員がいる場合には、休職の段階から弁護士に相談し、アドバイスを受けながら適切にプロセスを履践するようにしましょう。

 

7.介護業界に特化した弁護士法人かなめによるサポート内容のご案内!

介護業界に特化した弁護士法人かなめによるサポート内容のご案内!

弁護士法人かなめでは、介護業界に精通した弁護士が、以下のようなサポートを行っています。

 

  • (1)休職、復職手続への助言、指導
  • (2)労働災害申請がされた場合の助言、対応
  • (3)職員から何らかの法的措置を取られた場合の対応
  • (4)労働判例研究会
  • (5)顧問弁護士サービス「かなめねっと」

 

7−1.休職、復職手続への助言、指導

休職制度は初期対応が非常に重要です。また、予め就業規則で定めた休職制度のプロセスを的確に履践していくことが何よりも大切です。

休職命令の発令の場面、休職期間中の対応、復職の際の対応等、それぞれの局面において、数々の裁判例の積み重ねがあるように、休職制度は法的理解が無ければ適切に運用することができません。

初期対応の段階から弁護士へ相談することで、休職制度を正しく理解した上で、その運用が可能になります。

弁護士法人かなめでは、皆様の事業所で、うつ病や適応障害等の精神疾患を理由に労務不提供になっている職員が発生した場合、弁護士に速やかに相談し、指導を受けながら休職制度を運用できる状況を作り、労務管理を行う担当者の負担軽減のための助言や指導を行います。

弁護士からの的確な指導を受けながら運用することで法的リスクを下げることが可能になり、ひいては無用の紛争を回避することが可能になります。

 

7−2.労働災害申請がされた場合の助言、対応

職員が、うつ病に罹患した原因は職場にあると主張する場合、企業側は労働災害の申請を行うようにしましょう。

労災申請に伴い、労働基準監督署や労働局から調査を受けることになりますが、その調査への対応方法についても、弁護士法人かなめがよく受ける相談の1つです。

事業所としては、慣れない調査等により、困惑し、十分な準備ができないまま回答などをしてしまい、伝えなければならないことを伝え損ねて事態が悪化するということも珍しくありません。

弁護士法人かなめは、これまでに多くの労働基準監督署対応を行っており、事業所が実際に労働基準監督署に対応する際の助言の他、事業所に変わって労働基準監督官に事情を説明したり、労働基準監督署での聞き取り調査に同行するなど、きめ細やかなサポートを行っています。

 

7−3.職員から何らかの法的措置を取られた場合の対応

職員が、うつ病に罹患した原因は職場にあると主張するようなケースでは、休職規定を適用する前後のタイミングを問わず、当該職員が労働組合や弁護士に相談に行くケースがあります。

そして、労働組合から、団体交渉の申入れがなされたり、弁護士から内容証明郵便が届き、うつ病に罹患した原因が職場にあることを前提とした損害賠償請求などの法的措置が取られることがあります。

近年、こういった労働組合や弁護士からの対応が取られることは珍しくありません。

もっとも、事業所としては、突然の事態にどのような対応を取れば良いかわからず、早期解決だけを考え、とにかく要求を安易に飲んでしまう場合もあります。

しかしながら、うつ病に罹患した原因が業務に起因するのか否か、また、それを超えて事業所側が安全配慮義務に違反したといえるかどうかは、具体的な事実関係を踏まえて慎重に議論する必要があるところであり、安易に相手の要求を飲むことは危険です。

全く事業所が悪く無いケースもあり、そのようなケースで相手方労働組合や弁護士の言い分をそのまま受け入れてしまうと、それを知った他の職員も不満を感じるでしょうし、何より、トラブルの相手方の職員がさらに過大な要求を突き付けてくることもあり得ます。

弁護士法人かなめでは、このように労働組合や弁護士から法的な要求を提示された場合でも、事業所の代理人として交渉業務を代行し、適切な法的反論を展開することが可能です。法的に根拠の無い主張に対しては安易に屈すべきではありません。弁護士法人かなめに相談することで、事業所の皆様も、安心して本来の業務に専念することができます。

 

7−4.弁護士費用

まずは、一度、弁護士法人かなめにご相談ください。

 

  • 1回目:1万円(消費税別)/1時間
  • 2回目以降:2万円(消費税別)/1時間

 

※相談時間が1時間に満たない場合でも、1時間分の相談料を頂きます。
※スポットでの法律相談は、原則として3回までとさせて頂いております。

※法律相談は、「1.弁護士法人かなめにご来所頂いてのご相談」、又は、「2.ZOOM面談によるご相談」に限らせて頂き、お電話でのご相談はお請けしておりませんので、予めご了承ください。

法律相談の申込みは、以下のお問合わせフォームから受け付けしております。

 

弁護士法人かなめの「お問い合わせフォーム」はこちら

※介護事業所の経営者側からのご相談に限らせて頂き、他業種の企業様、職員等一般の方からのご相談はお請けしておりませんので、予めご了承ください。

 

 

7−5.労働判例研究会

弁護士法人かなめでは、普段の労務管理の参考になる労働判例を取り上げ、わかりやすく解説する労働判例研究ゼミを不定期に開催しています。

ゼミの中では、参加者の皆様から生の声を聞きながらディスカッションをすることで、事業所に戻ってすぐに使える知識を提供しています。

詳しくは、以下のページをご覧下さい。

 

▶参照:弁護士法人かなめ「労働判例研究ゼミ」開催情報はこちら

 

 

7−6.顧問弁護士サービス「かなめねっと」

弁護士法人かなめでは、顧問弁護士サービス「かなめねっと」を運営しています。

弁護士法人かなめでは、トラブルに迅速に対応するためチャットワークを導入し、事業所内で何か問題が発生した場合には、速やかに弁護士へ相談できる関係性を構築しています。

具体的には、弁護士と介護事業所の関係者様でチャットグループを作り、日々の悩み事を、法的問題かどうかを選択せずにまずはご相談頂き、これにより迅速な対応が可能となっています。いつでもご相談いただける体制を構築しています。法律家の視点から利用者様とのトラブルをはじめ、事業所で発生する様々なトラブルなどに対応しています。

直接弁護士に相談できることで、事業所内社内での業務効率が上がり、情報共有にも役立っています。

顧問弁護士サービス「かなめねっと」について詳しくは、以下のサービスページをご覧ください。

 

▶参照:顧問弁護士サービス「かなめねっと」について

 

 

また以下の記事や動画でも顧問弁護士について詳しく説明をしていますので、併せてご覧下さい。

 

▶︎参照:介護施設など介護業界に強い顧問弁護士の選び方や費用の目安などを解説

 

 

 

(1)顧問料

  • 顧問料:月額8万円(消費税別)から

 

※職員従業員の方の人数、事業所の数、業務量により顧問料の金額は要相談とさせて頂いております。詳しくは、お問合せフォームまたはお電話からお問い合わせください。

 

8.まとめ

この記事では、うつ病や適応障害などの精神疾患で休職している職員が復職するまでにはどのようなプロセスを経るのか、そのプロセスを経ていく中で、事業所がどのような準備や対応をしていくのか、そして、復職の判断をどのように行うのかなど、復職の手続に焦点を当てて解説しました。

また、復職後の職員への対応などについても詳しく解説をしていますので、現在、精神疾患を理由に休職している職員の復職に関して不安を感じている職員の対応に悩んでいる介護事業所の方は、是非参考にしてみて下さい。

そして、メンタルヘルス不調を抱える職員の対応に悩んでいる介護事業所の方は、できるだけ速やかに弁護士に相談するようにしましょう。

 

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この記事を書いた弁護士

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畑山 浩俊はたやま ひろとし

代表弁護士

出身大学:関西大学法学部法律学科卒業/東北大学法科大学院修了(法務博士)。
認知症であった祖父の介護や、企業側の立場で介護事業所の労務事件を担当した経験から、介護事業所での現場の悩みにすぐに対応できる介護事業に精通した弁護士となることを決意。現場に寄り添って問題解決をしていくことで、介護業界をより働きやすい環境にしていくことを目標に、「介護事業所向けのサポート実績日本一」を目指して、フットワークは軽く全国を飛び回る。

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