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退職勧奨での退職金と解決金とは?相場や交渉方法をわかりやすく解説

退職勧奨での退職金と解決金とは?相場や交渉方法をわかりやすく解説
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事業者の皆様の中には、職員への退職勧奨に際して、退職勧奨に応じることを条件に「退職金」や「解決金」の支払いを検討したことがあるのではないでしょうか。

退職勧奨は、あくまで任意による退職を求める手続きであることから、退職勧奨に応じてもらいやすくするために、一定の金額を「退職金」や「解決金」の支払いを条件に、退職の合意をするケースはよく見られます。

退職勧奨の際に提示する金額は、当然高い方が職員の納得を得られやすくなります。しかしながら、事業所としても無尽蔵に金額を提示できるわけではなく、支払える金額には限度があります。

一方で、全く退職金や解決金を支払わない場合は、職員が退職勧奨に応じるメリットが少なくなり、かえって交渉が難航する可能性があります。その後、退職勧奨を職員が拒否すれば、職員を辞めさせるには解雇手続きに移行しなければならず、解雇が無効となるリスクを背負わなければなりません。

そのため、事業所としては、支払うべき金額の相場をしっかり押さえた上で、当該職員に退職してもらうメリットとそれに対する対価を適切に比較衡量して経営判断をしていく必要があるのです。

そこで、この記事では、退職勧奨時の「退職金」と「解決金」に関する基礎的な知識や、実際の退職勧奨における金額の相場や交渉方法について解説します。最後まで記事を読んでいただければ、退職勧奨において効果的に「退職金」や「解決金」を提示でき、これにより退職勧奨を円滑に進めることができるようになります。

それでは見ていきましょう。

 

1.退職勧奨における退職金とは?

退職勧奨は、事業所などの雇用主が、雇用する職員に対して退職をするよう勧めることをいいます。退職勧奨は、あくまで任意に職員の退職を勧める手続であるため、何らの強制力や法的な効果を有するものではありません。そのため、職員から退職の合意を引き出す条件として、一定の退職金や後に解説する解決金を提示することがあります。

 

▶参考:退職勧奨の手続きの流れについては、以下の記事でも解説していますので、併せてご覧ください。

退職勧奨とは?こちらから

 

 

以下では、退職勧奨における退職金の法的根拠や退職金の特徴について解説します。

 

1−1.退職金の法的根拠は?

退職金は、雇用主と職員との労働契約が終了する際に、職員に対して支払われる手当をいいます。退職金は、当該職員の賃金額を基準に、勤続年数によって増額することが一般的です。その性質としては賃金の後払いの側面がありますが、退職理由によっても支給額の差を設けることが多く、功労報償としての側面もあります。

退職金は法律上の支払義務はありませんが、日本では、現在においても終身雇用制が採用されている会社が多く、退職後の生活保障の一環として、退職金制度を採用している会社も多いです。医療・福祉事業においても、7割を超える事業所において退職金制度が採用されています(令和5年就労条件総合概況)。

 

▶参考:「第16表 退職給付(一時金・年金)制度の有無、退職給付制度の形態別企業割合」内の「医療・福祉」分野のデータ

「第16表 退職給付(一時金・年金)制度の有無、退職給付制度の形態別企業割合」内の「医療・福祉」分野のデータ

・参照元:厚生労働省「令和5年就労条件総合調査概況」(pdf)

 

退職金制度を設ける場合、事業者は、職員との労働契約に支払われる退職金の内容について明示する必要があります(労働基準法第15条、労働基準法施行規則第5条1項4号の2)。また、退職金制度に関する事項は、就業規則の必要記載事項であるため(労働基準法89条3号の2)、就業規則、または、就業規則本則から委任された退職金規程に規定する必要がありますが、仮に退職金制度に関する事項が就業規則等に明示的に規定されていない場合でも、慣例として退職金を支払っていた経緯があれば、慣行に基づいて退職金の支払い義務が認められる場合もあります(学校法人石川学園事件:横浜地裁平成9年11月14日労働判例728号44頁)。

なお、社会福祉法人の場合、法人独自の退職金制度のみならず、独立行政法人福祉医療機構(WAM)が運用する「社会福祉施設職員等退職共済制度」の利用が可能であり、公的機関から退職金の支払いを受けるケースもあります。

 

▶参考:労働基準法第15条、労働基準法施行規則第5条 四の二号、労働基準法第89条 三の二号の条文

 

●労働基準法15条

第十五条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。

 

●労働基準法施行規則第5条 四の二号

第五条 使用者が法第十五条第一項前段の規定により労働者に対して明示しなければならない労働条件は、次に掲げるものとする。ただし、第一号の二に掲げる事項については期間の定めのある労働契約であつて当該労働契約の期間の満了後に当該労働契約を更新する場合があるものの締結の場合に限り、第四号の二から第十一号までに掲げる事項については使用者がこれらに関する定めをしない場合においては、この限りでない。
四の二 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項

(※四の2号以外の号は省略)

 

●労働基準法第89条 三の二号

(作成及び届出の義務)
第八十九条 常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
三の二 退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項

(※三の二号以外の号は省略)

 

・参照元:「労働基準法」の条文

・参照元:「労働基準法施行規則」の条文

 

 

1−2.退職勧奨における退職金の特徴は?

退職勧奨によって退職をする場合にも、退職金規程に基づいて退職金が支払われるため、退職勧奨における退職金も、通常の退職金と本来的には異なるものではありません。一方で、退職勧奨において、「退職金」と呼称しているものの、実際には退職金制度に基づかずに支払われる金員があります。これは、退職に応じるためのインセンティブの役割として、退職金制度における退職金とは別に、プラスアルファで支払う金員であり、本来の「退職金」ではなく「解決金」を指しています。

 

2.退職勧奨における解決金とは?

前述のように、退職勧奨における解決金とは、退職勧奨に応じてもらうために、退職金制度によらずに支払われる金員のことをいいます。解決金を支払う目的は、職員に対し円滑に退職を促すことにあります。

例えば、元々事業所において退職金制度がないような場合、通常であれば退職勧奨に応じて退職をしても、退職金が支払われることはありません。

もっとも、事業所側として、当該職員にスムーズに退職をしてもらうため、一定の解決金を支払うことを条件として、退職を促すのです。また、退職金制度に基づく退職金に一定の金額を上乗せして支払うこともあります。この場合に上乗せされる金額も、退職金制度に基づく支払いではないため、解決金となります。

この記事では、以降、退職金制度に基づいて支払う金員のことを「退職金」、退職金制度に基づかずに支払う金員のことを「解決金」として解説します。

 

3.退職勧奨の退職金と解決金の関係

以下では、退職勧奨の退職金と解決金との関係について具体的に解説します。

 

3−1.退職金規程に基づいて退職金を支払う場合

退職勧奨によって退職した場合に支払う金銭の中で、退職金規程に基づいて支払うものは退職金です。これは、「退職勧奨に応じた」ことにより支払うものではなく、「退職した」ことにより支払うものなので、純粋な「退職金」となります。

 

3−2.本来発生しない「退職金」名目で解決金を支払う

1−2.退職勧奨における退職金の特徴は?」で解説した通り、退職金規程がない場合でも、退職勧奨時に「今退職してくれるなら、退職金を支払いますよ」と説明した上で、実際に退職時に金銭を支払うケースは多々あります。

ここでいう「退職金」の性質は、あくまで「解決金」であり、単に「退職の際に支払う金銭」という趣旨で「退職金」と呼称されているに過ぎません。

 

3−3.退職金に一定額を上乗せして支払う

退職勧奨の対象となる職員に対して、退職金制度に基づく退職金を支給する前提で、退職勧奨に応じることを条件に、さらに一定の金額を上乗せして支払うことを提案する場合もあります。この場合、上乗せする金額については、退職金制度によるものではないので、性質としては「解決金」となります。

 

4.退職勧奨での解決金の目安・相場は?

退職勧奨での解決金の目安・相場は?

退職金を支払う場合は、退職金制度に則って支払をすることになります。一方で、退職金制度によらずに支払う解決金は、金額が定まっているものではないため、事業所内部での検討が必要です。

退職勧奨の際に支払われる解決金の相場は、退職する職員の状況や事業所の規模によって大きく変わります。この場合、「解決金をいくら支払うか」という検討も重要ですが、退職勧奨の際に、職員に対して金額の根拠をどのように説明するかも重要です。

例えば、相場となる金額を検討する際に、以下のような視点で検討することが一般的です。

 

  • (1)退職月の翌月までの給与相当額を支払う:給与1か月分
  • (2)再就職までの生活保障に必要な金額を支払う:給与1~3か月分
  • (3)未消化の有給の買い取り金額を支払う:日給×有給日数分

 

この項目では、「(1)退職月の翌月までの給与相当額を支払う:給与1か月分」ないし「(3)未消化の有給の買い取り金額を支払う:日給×有給日数分」のそれぞれの視点から、解決金の目安の根拠について説明したうえで、どのように職員に対し説明するかについて解説します。

 

【弁護士畑山浩俊のワンポイントアドバイス】

 

退職勧奨の対象となる職員は、問題職員であることが多く、事業所としては、問題職員に対しわざわざお金を支払って辞めてもらうことに抵抗感を覚えるかもしれません。

 

お気持ちは大変理解できますが、退職勧奨の手続きはあくまで任意の手続きであるため、職員が応じなければ退職の効果は生じません。職員にとっては、退職は、労働者としての地位を失うことであり、生活の基盤を失うことでもあるので、そう簡単に承諾できるものではありません。事業所として、他の職員や事業運営を適正化するためには、経営判断として、一定の支出を伴うことを決断すべき場面もあるのです。

 

 

4−1.(1)退職月の翌月までの給与相当額を支払う

職員の立場からは、退職勧奨に応じれば、当然のことながら退職日以降の給与が得られなくなるため、たちまち生活に困窮することになります。そのため、退職勧奨における解決金として、退職月の翌月までの給与相当額の支給を提案することがあります。

仮に即時解雇した場合には解雇予告手当として30日分以上の平均賃金を支払うこと必要がありますので(労働基準法第20条本文)、 直ぐに辞めてほしい職員に対して退職勧奨を行う場面においても少なくとも給与1か月分の提示を行うことが穏当だと思います。

 

▶参考:労働基準法第20条の条文

(解雇の予告)
第二十条 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
(1項・2項省略)

・参照元:「労働基準法」の条文

 

 

4−2.(2)再就職までの生活保障に必要な金額を支払う

職員は退職すれば生活の基盤を失うため、退職後の生活に不安を感じていることが通常です。この点は、退職勧奨に応じない理由で多く挙げられるものの一つです。これを翻ってみれば、退職勧奨において一定額の支払いがあれば、職員が退職勧奨に応じる可能性があります。

したがって、このような職員に対する説明としては、就職までの生活を保障するために、解決金を支払うことを伝えることが有効です。

生活保障に重きをおいて退職勧奨時の解決金の相場を検討する際には、職員の再就職までの期間を考慮する必要があります。もっとも、意図的に再就職をしない場合まで保障する必要はありませんから、再就職までの平均的な期間を参考にして、金額を決定することになります。

行政による失業継続期間(失業の状態になってから脱するまでの期間の長さ)の調査によると(ユースフル労働統計2023・84頁)、男性が平均4.4ヵ月、女性が平均2.9ヵ月であり、男女合計で平均3.6ヵ月という結果がでています。

つまり、退職勧奨時の退職金や解決金の金額の相場を考える上で、再就職までの生活保障という観点から決定する場合、平均して3.6ヵ月の間生活が可能な金額を目安に判断することになります。

 

▶参考:「失業継続期間(失業の状態になってから脱するまでの期間の長さ)」の調査データ

「失業継続期間(失業の状態になってから脱するまでの期間の長さ)」の調査データ

・参照元:独立行政法人労働政策研究・研修機構「7 各種の失業指標 |ユースフル労働統計 2023」(pdf)

 

以上を踏まえると、退職勧奨における解決金は、現在の月給を基準に、職員が再就職するまでの失業期間を乗じて算出することが考えられます。結果として、「職員の給与3.6か月分」が支払う金額の相場の基準となります。

なお、再就職先のあっせんを退職の条件としている場合、再就職までの期間の見通しが可能であるため、再就職までの期間が約3.6か月より短い場合は、少額の解決金で足りるケースもあります。

そして、解決金の説明に際しては、きりの良い金額や数字の方が納得しやすい傾向にあります。そこで、就職までの生活保障という観点から解決金を支払う場合、提示する金額の相場は、「給与の1か月分から3か月分」が目安となります。

 

【弁護士畑山浩俊のワンポイントアドバイス】

 

退職勧奨による退職は、原則として会社都合退職となりますが、事業所としては助成金の関係から、自己都合退職が望ましい場合もあります。このとき、職員は、仮に自己都合退職をすると、失業保険の2か月の給付制限がかかってしまいますので、退職勧奨に応じるメリットはほとんどありません。

 

そこで、職員に対して、自己都合での退職をしてもらいたいと考える場合に、一定期間失業保険の受給が受けられない代わりに、解決金として給与2か月分の給与相当額を支払うことを提案することも考えられます。

 

なお、職員に対して自己都合による退職を強制することはできませんので、注意してください。

 

▶参考:厚生労働省「「給付制限期間」が2か月に短縮されます ~ 令和2年10月1日から適用 ~」(pdf)

 

 

4−3.(3)未消化の有給の買い取り金額を支払う

未消化の有給休暇の買い取りとして、有給日数分の日給を解決金として支払うと提案することもよくみられます。

有給休暇は労働者に与えられた権利であり(労働基準法第39条)、全ての有給休暇を消化してから退職を希望することが通常です。もっとも、退職勧奨による退職の場合、計画的に有給休暇を消化してから退職することは難しい場合もあるため、退職勧奨に応じてもらう条件として、未消化分の有給日数分の給与相当額を支払うことも考えられます。

 

▶参考:労働基準法第39条の条文

(年次有給休暇)
第三十九条 使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。
(2項から10項は省略)

・参照元:「労働基準法」の条文

 

 

また、退職する職員の側から、有給休暇を買い取るよう提案される場合があります。事業所側として、退職勧奨の条件として受け入れても構いませんが、有給休暇の買い取りは、あくまで任意のものであって、事業所側の義務ではありません。むしろ、「指定された日に退職をしてもいいけど、今日からその日までは有給休暇を利用したい」と回答する職員に対して、これを拒否して有給休暇を買い取ることは、労働働基準法第39条に違反し違法となります。

なお、職員から退職勧奨の際に、「残りの有給休暇を使ってから退職したい」との申し出があった場合、最終出勤日と退職日を調整すれば、有給休暇を全部消化してから退職することも可能な場合があります。事業所の判断とはなりますが、退職勧奨に応じてもらうことを優先するのであれば、検討の余地はあります。

 

▶参考:有給買取が違法になるケースについては、以下の動画もあわせてご覧下さい。

有休買取りは違法です!!【原則と例外】を知ろう

 

 

4−4.(4)まとめ

職員に提示する金額を決定するにあたっては、「(1)退職月の翌月までの給与相当額を支払う:給与1か月分」ないし「(3)未消化の有給の買い取り金額を支払う:日給×有給日数分」で説明した解決金を組み合わせることも可能です。例えば、給与の2か月分に加えて、有給休暇の買い取り分をを上乗せして支払うこともあり得ます。

重要なことは、職員に対して、いかに「今退職勧奨に応じるほうが得だ」と理解してもらうことです。それぞれの項目に記載した説明のポイントを意識しつつ、説得的な交渉を心がけましょう。

 

5.退職勧奨の場面での退職金や解決金の交渉方法

以下では、退職勧奨時に解決金を支払うにあたって、具体的な交渉方法について解説します。

 

5−1.条件提示のタイミングは?

退職勧奨は、あくまで職員との間の任意の交渉となるため、条件提示のタイミングに定石はありません。

例えば、職員自身が、これまでにも度重なる注意指導を受けており、本人も退職のタイミングを図っているような状況であれば、あえて解決金を提示する必要はない場合もありますし、逆に事業者側で決めた解決金を初めから提示することで、スムーズに退職手続きがすす場合もあります。
他方、当該職員が退職に対して難色を示すことが予想されるような場合には、まずは退職の意思があるのか否かを確認の上、解決金の支払いを切り出し、条件交渉をスタートさせることになります。

 

5−2.解決金の上限を設定する

条件交渉となった場合、退職勧奨に応じるか否かは、職員の自由であるため、職員によっては足元を見て、解決金の金額を吊り上げる可能性があります。近年は、職員がインターネットで退職勧奨について下調べを行っており、事業所側から解決金の提案をする前に、職員側から解決金を請求されるケースもあります。

解決金の額について交渉をする場合、金額が高ければ、交渉が成立する可能性が高いことは言うまでもありません。もっとも、退職勧奨の理由、事業所の経営状況、他の職員への影響などを考えれば、解決金の支払いについては、事業所内で金額を検討の上、いくらまで支払うことができるのかという上限を設定しておくことが重要です。

例えば、事業所として、当該職員が職場に在籍し続けること自体が、他の職員へ多大な影響を及ぼす(他の職員から退職者が出る可能性があるなど)場合で、かつ、任意に退職をしてもらう必要がある場合(解雇の手続きをするためにはプロセスが不十分である場合など)などには、ある程度高額となっても、解決金を支払って退職をしてもらうメリットがあります。

他方で、高額すぎる解決金を支払うことで、逆に他の職員から「なんであの職員にそんな高額を払うんだ」と不満が出る場合もあり得ます。また、いくら直ちにやめてもらいたいからと言って、全く根拠のない高額な解決金の支払いに応じることはできません。

対象の職員から、高額な解決金の支払いを求められた場合には、退職勧奨を打ち切り、次の手続きに早々に移ることも必要です。

事業所としては、解決金の提示の前に、今回の退職勧奨の趣旨をしっかり事業所内で共有し、解決金の上限や交渉の打ち切りのタイミングをあらかじめ決めておきましょう。

なお、退職勧奨の際の交渉は、職員の性質、事業所が置かれているタイミングなどによって臨機応変に行う必要があり、解決金についても、支払いを切り出すタイミングや金額の検討など、判断が困難な場面も多いです。したがって退職勧奨の交渉にあたっては弁護士など専門家への相談をお勧めします。

 

6.退職金や解決金を支払わない場合のリスクは?

退職勧奨時に、退職金規程で定められた退職金を支払わないことは、当然労働法令に違反します。他方もっとも、解決金については、必ずしも支払う義務があるわけではありません。しかしながら、解決金を支払わない退職勧奨には、以下のようなリスクがあります。

それぞれ詳しく解説していきます。

 

6−1.合意することができず、解雇手続きに移行してしまう

職員が退職勧奨を拒む主な理由の一つは、再就職までの経済的不安です。そうすると、退職時になんらの金銭も受け取れないとなれば、職員の不安を取り除くことができません。

その結果、職員は退職勧奨を拒否することになりますが、職員が自ら退職をしない場合、それでもなお事業所側が、職員の労働者としての地位を失わせようと思えば、解雇をするしかありません。

解雇の条件は法令上厳しく制限されており(労働契約法第16条)、解雇後、職員に労働者としての地位を争われ、仮に裁判で解雇が無効と評価されれば、職員は事業所に戻ってきてしまいますし、違法な解雇をされたことを理由に、職員から損害賠償請求がされたり、解雇時から解雇の無効が決まるまでの期間、支払っていなかった給与の支払い(バックペイ)を求められることになります。

 

▶参考:労働契約法第16条の条文

(解雇)
第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

・参照元:「労働契約法」の条文

 

 

▶参考:解雇の条件については、以下の記事で詳しく解説していますのであわせてご覧ください。

具体的な解雇理由とは?違法にならない解雇の条件や要件を解説

 

 

6−2.解雇と評価される場合がある

退職勧奨時の合意が、職員にとって著しく不利な条件であった場合、職員から、後になって「無理やり退職させられた」として、退職の合意をしたのではなく解雇されたのだと主張される場合があります。

一般的に、職員にとって、労働者の地位を失うことは生活の基盤を失うことであり、すでに転職先が決まっているなどの事情がない限り、事業所からの退職勧奨に無条件で応じるメリットはありません。

その際、実際には、退職合意書等に現れない様々な配慮があったとしても、退職までの交渉経緯などが正確に記録されていない場合に、職員からの主張が認められ、最悪の場合解雇とみなされる場合があり得ます。

そして、このような解雇が、法律上の解雇の条件を充足しているケースはほとんどありませんので、その結果として、退職が無効となり、職員が事業所に復帰するばかりか、慰謝料やバックペイを支払わなくてはならなくなります。

このような危険性があるため、退職勧奨においては、解決金を提示し、相手の真意に基づく退職の意思を引き出し、きちんと退職合意書を取り交わすことが肝要なのです。

 

7.退職金と解決金の税金について

職員に支払われる退職金は、職員の退職所得となり、源泉所得税や住民税の課税対象となります。

他方、解決金については、退職時に支払われるものではありますが、退職によって当然に支払われるものではなく、あくまで「退職に応じる」ことへの対価として支払われるものですので、課税の対象とはなりません。

そのため、事業所の対応としては、退職金と解決金を明確に分け、所得税が発生する退職金部分については、源泉徴収を行う必要があります。もっとも、退職所得には控除額が設定されているので、退職金の金額が控除金額を下回る場合、所得税の課税はされません。

 

▶参考:退職所得控除額の計算方法

勤続年数 退職所得控除額
20年以下 40万円 × 勤続年数
20年超 800万円+70万円 ×(勤続年数 − 20年)

・参照元:国税庁「退職金と税」

 

なお、上記の優遇税率は、「退職所得の受給に関する申告書(退職所得申請書)」の提出を職員から受けている場合に限ります。

提出がない場合、20.42%の所得税(所得税+復興特別所得税)と住民税10%が徴収されることになり、退職者本人も退職所得について確定申告が必要になります。

退職の合意に至った場合、税金に関する説明をしておき、職員に対し退職所得申請書を交付し、署名又は記名捺印して提出するよう指示しておくことが穏当です。

 

▶参考情報:国税庁「No.2732 退職手当等に対する源泉徴収」

 

 

8.退職勧奨の退職金・解決金に関して弁護士に相談したい方はこちら

介護業界に特化した弁護士法人かなめによるサポート内容のご案内!

弁護士法人かなめでは、介護業界に精通した弁護士が、以下のようなサポートを行っています。

 

  • (1)退職勧奨の交渉サポート
  • (2)労働判例研究会
  • (3)顧問サービス「かなめねっと」

 

以下で、順番に説明します。

 

8−1.退職勧奨の交渉サポート

退職勧奨は、その行為単体だけではなく、解雇や他の不利益処分等とも密接に関連し、計画的且つ状況に応じた対応が求められます。前述の通り、退職勧奨における退職金や解決金の金額の決定や、条件提示のタイミングは交渉の経過によって様々なケースが考えられます。

そのため、いざ退職勧奨を実施しようとしたタイミングではなく、「この職員、何か問題行動が多いな…」と感じたタイミングから、専門家の意見を仰いでおくことが重要なのです。早期に相談を受けられれば、証拠の残し方、実際に退職勧奨をする際の準備などを、計画的にサポートできますし、契約内容を見直すタイミングで効果的な指導等ができる可能性もあります。

弁護士法人かなめでは、このような初期段階から、現場の責任者からの相談を受け、初動からきめ細やかなサポートをすることで、労務問題に対して適時に助言をすることができます。

 

(1)ご相談方法

まずは、「弁護士との法律相談(有料)※顧問契約締結時は無料」をお問合わせフォームからお問い合わせください。

 

お問い合わせフォームはこちら

 

※法律相談の申込みは、お問合わせフォームからのみ受け付けております。

※法律相談は、「① 弁護士法人かなめにご来所頂いてのご相談」、又は、「② ZOOM面談によるご相談」に限らせて頂き、お電話でのご相談はお請けしておりませんので、予めご了承ください。

※顧問契約を締結していない方からの法律相談の回数は3回までとさせて頂いております。

※介護事業所の経営者側からのご相談に限らせて頂き、他業種の企業様、職員等一般の方からのご相談はお請けしておりませんので、予めご了承ください。

 

 

(2)弁護士との法律相談に必要な「弁護士費用」

  • 1回目:1万円(消費税別)/1時間
  • 2回目以降:2万円(消費税別)/1時間

※相談時間が1時間に満たない場合でも、1時間分の相談料を頂きます。

 

8−2.労働判例研究会

弁護士法人かなめでは、顧問先様を対象に、退職勧奨の手続きや団体交渉をはじめとして、普段の労務管理の参考になる労働判例を取り上げ、わかりやすく解説する労働判例研究会を不定期に開催しています。

研究会の中では、参加者の皆様から生の声を聞きながらディスカッションをすることで、事業所に戻ってすぐに使える知識を提供しています。

 

▶参考:「労働判例研究会」の紹介はこちら

 

 

8−3.顧問弁護士サービス「かなめねっと」

弁護士法人かなめでは、これらのサービスの提供を総合的に行う顧問契約プラン「かなめねっと」を実施しています。

具体的には、トラブルに迅速に対応するためチャットワークを導入し、事業所内で何か問題が発生した場合には、速やかに弁護士へ相談できる関係性を構築しています。そして、弁護士と介護事業所の関係者様でチャットグループを作り、日々の悩み事を、法的問題かどうかを選択せずにまずはご相談頂き、これにより迅速な対応が可能となっています。直接弁護士に相談できることで、事業所内での業務効率が上がり、情報共有にも役立っています。

介護業界に特化した顧問弁護士サービス「かなめねっと」について詳しくは、以下のサービスページをご覧ください。

 

▶︎参考:顧問弁護士サービス「かなめねっと」のサービス紹介はこちら

 

 

また以下の動画でも詳しく説明をしていますので、併せてご覧下さい。

 

▶︎【介護・保育事業の方、必見】チャットで弁護士と繋がろう!!介護保育事業の現場責任者がすぐに弁護士に相談できる「かなめねっと」の紹介動画

 

 

(1)顧問料

●顧問料:月額8万円(消費税別)から

※職員の方の人数、事業所の数、業務量により顧問料の金額は要相談とさせて頂いております。詳しくは、お問合せフォームまたはお電話からお問い合わせください。

 

9.まとめ

この記事では、退職勧奨における退職金や解決金の基礎知識から、実際の金額の相場や交渉方法について解説しました。

退職勧奨は職員との交渉です。退職勧奨における退職金と解決金は、職員との交渉において、合意に至るための道具であることを意識することが重要です。一方で、退職金や解決金を支払うことを提示すれば、必ず職員が退職勧奨に応じるものではありません。退職勧奨を拒否することがお金の問題ではない場合も相応にしてあります。

したがって、退職勧奨における退職金や解決金の金額を検討するにあたっては、事業所として支払える金額の上限を設定し、職員に対し、金額の根拠を説明できる準備をしておくことが肝要です。

なお、交渉は水物といえますから、事業所にとって十分な対応をすることが難しい場合が多いです。交渉にあたっては、入念な準備が必要となります。したがって、退職勧奨を実施する前の早期の段階から、弁護士に相談することが望ましいです。

退職勧奨をお考えの介護事業所の方や、退職勧奨における退職金や解決金の支払いについてお悩みの方は、お気軽に弁護士法人かなめまでお問い合わせください。

 

10.【関連情報】退職勧奨に関するその他のお役立ち情報

この記事では、「退職勧奨での退職金と解決金とは?相場や交渉方法をわかりやすく解説」として、退職勧奨の場面での退職金や解決金についてを解説してきましたが、この記事でご紹介していない退職勧奨に関するお役立ち情報も以下でご紹介しておきますので、あわせてご参照ください。

 

退職勧奨の場面で言ってはいけないこと3つ!面談時の注意点を解説

退職勧奨が違法となる場合とは?具体例や裁判例をまじえて徹底解説

 

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介護事業所に特化した法務サービス「かなめねっと」のご案内

介護事業所に特化した法務サービス「かなめねっと」

弁護士法人かなめではトラブルに迅速に対応するためチャットワークを導入しています。他にはない対応力で依頼者様にご好評いただいています。

「かなめねっと」では、弁護士と介護事業所の関係者様、具体的には、経営者の方だけでなく、現場の責任者の方を含めたチャットグループを作り、日々現場で発生する悩み事をいつでもご相談いただける体制を構築しています。

法律家の視点から利用者様とのトラブルをはじめ、事業所で発生する様々なトラブルなどに対応します。 現場から直接、弁護士に相談できることで、社内調整や伝言ゲームが不要になり、業務効率がアップします!

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介護業界に特化した経営や現場で使える法律セミナー開催情報

介護業界に特化した「弁護士法人かなめ」運営の法律メディア「かなめ介護研究会」

弁護士法人かなめが運営する「かなめねっと」では、日々サポートをさせて頂いている介護事業者様から多様かつ豊富な相談が寄せられています。弁護士法人かなめでは、ここで培った経験とノウハウをもとに、「介護業界に特化した経営や現場で使える法律セミナー」を開催しています。セミナーの講師は、「かなめ介護研究所」の記事の著者で「介護業界に特化した弁護士」の畑山が担当。

介護施設の経営や現場の実戦で活用できるテーマ(「労働問題・労務管理」「クレーム対応」「債権回収」「利用者との契約関連」「介護事故対応」「感染症対応」「行政対応関連」など)を中心としたセミナーです。

弁護士法人かなめでは、「介護業界に特化した弁護士」の集団として、介護業界に関するトラブルの解決を介護事業者様の立場から全力で取り組んで参りました。法律セミナーでは、実際に介護業界に特化した弁護士にしか話せない、経営や現場で役立つ「生の情報」をお届けしますので、是非、最新のセミナー開催情報をチェックしていただき、お気軽にご参加ください。

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介護特化型弁護士による研修講師サービスのご案内

介護特化型弁護士による「かなめ研修講師サービス」 介護特化型弁護士による「かなめ研修講師サービス」

弁護士法人かなめが運営している社会福祉法人・協会団体・自治体向けの介護特化型弁護士による研修講師サービス「かなめ研修講師サービス」です。顧問弁護士として、全国の介護事業所の顧問サポートによる豊富な実績と経験から実践的な現場主義の研修を実現します。

社会福祉法人の研修担当者様へは、「職員の指導、教育によるスキルアップ」「職員の悩みや職場の問題点の洗い出し」「コンプライアンスを強化したい」「組織内での意識の共有」などの目的として、協会団体・自治体の研修担当者様へは、「介護業界のコンプライアンス教育の実施」「介護業界のトレンド、最新事例など知識の共有をしたい」「各団体の所属法人に対して高品質な研修サービスを提供したい」などの目的として最適なサービスです。

主な研修テーマは、「カスタマーハラスメント研修」「各種ハラスメント研修」「高齢者虐待に関する研修」「BCP(事業継続計画)研修」「介護事故に関する研修」「運営指導(実地指導)に関する研修」「各種ヒヤリハット研修」「メンタルヘルスに関する研修」をはじめ、「課題に応じたオリジナル研修」まで、介護事業所が直面する様々な企業法務の問題についてのテーマに対応しております。会場またはオンラインでの研修にご対応しており、全国の社会福祉法人様をはじめ、協会団体・自治体様からご依頼いただいております。

現在、研修講師をお探しのの介護事業者様や協会団体・自治体様は、「かなめ研修講師サービス」のWebサイトを是非ご覧ください。

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この記事を書いた弁護士

介護業界に特化した「弁護士法人かなめ」運営の法律メディア「かなめ介護研究会」

畑山 浩俊はたやま ひろとし

代表弁護士

出身大学:関西大学法学部法律学科卒業/東北大学法科大学院修了(法務博士)。
認知症であった祖父の介護や、企業側の立場で介護事業所の労務事件を担当した経験から、介護事業所での現場の悩みにすぐに対応できる介護事業に精通した弁護士となることを決意。現場に寄り添って問題解決をしていくことで、介護業界をより働きやすい環境にしていくことを目標に、「介護事業所向けのサポート実績日本一」を目指して、フットワークは軽く全国を飛び回る。
介護業界に特化した「弁護士法人かなめ」運営の法律メディア「かなめ介護研究会」

石田 雅大いしだ まさひろ

弁護士

出身大学:関西大学法学部法学政治学科卒業/大阪大学法科大学院修了(法務博士)。
祖父母との同居生活や、障がい者支援の活動に参加した経験から、社会における福祉事業の役割の重要性を実感し、弁護士として法的なサポートを行いたいと思い、弁護士法人かなめに入所。介護事業所からの相談や行政対応を担当し、「働きやすい福祉の現場をあたりまえにする」というミッション実現のために日々奮闘している。

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