「注意や指導をしても全く改善しない職員がいる」
「利用者のケアに影響が出る前に、穏便にやめてもらいたい」
このような職員に対し退職勧奨を行い、任意に退職をしてもらうことを検討している介護事業者の方もいらっしゃるのではないかと思います。その際に疑問に思われるのは、退職勧奨により退職をした場合の手続きではないでしょうか。
職員が退職する際には、「離職票」の発行が必要であり、これは退職勧奨の場合でも同様です。そして、離職票には「会社都合」の退職か、「自己都合」の退職かを記載する必要がありますが、退職理由が「会社都合」であるか、「自己都合」であるかによって、職員と事業所側にそれぞれメリットやデメリットがあります。
したがって、退職勧奨における退職時の手続きを理解する上では、離職票の記載方法や退職理由によるメリット、デメリットを把握することが不可欠であり、また、これを把握することで、職員への退職勧奨を円滑に進めることができます。
この記事では、退職理由による職員、事務所それぞれのメリット・デメリットについて解説した上、退職勧奨による退職が「会社都合」となるのか「自己都合」となるのか、これに伴う離職票の記載方法について詳しく解説します。この記事を最後まで読んでいただければ、退職勧奨による退職時の手続きを理解でき、円滑に退職勧奨を進めることができます。
この記事の目次
1.退職勧奨について
退職勧奨とは、雇用主が雇用する労働者に対し、退職することを勧める手続きのことを言います。あくまで任意の手続きであり、強制的に労働者としての地位を失わせる解雇とは異なります。
退職勧奨の具体的な手続きについては、以下の記事で詳しく解説されていますので、併せてご確認ください。
2.会社都合退職と自己都合退職の違いとは?
まず、会社都合退職と自己都合退職の意味や違いについて解説します。
2−1.そもそも会社都合退職と自己都合退職とは?
会社都合退職とは、整理解雇や会社の倒産など、会社側の事情によりやむなく退職することを意味します。また、自己都合退職とは、私傷病や結婚、職員側に重大な帰責事由がある場合の懲戒解雇など、労働者側の事情により退職することを意味します。
詳しくは後述(「2−2.会社都合退職と自己都合退職の違いは?」)しますが、会社都合退職と自己都合退職は、雇用保険(失業保険)での扱いが異なります。
会社都合退職は、会社側の事情により退職させられるため、雇用保険における失業手当の支給については、自己都合退職よりも優遇されることになります。具体的には、会社都合退職となると、自己都合退職と比べて失業手当の支給期間が延長されたり、失業手当を支給するまでの待期期間が短くなります。
2−2.会社都合退職と自己都合退職の違いは?
この項目では、会社都合退職と自己都合退職の具体的な違いについて解説します。
簡単にいえば、会社都合退職か自己都合退職かによって、退職した職員の雇用保険での取扱いが変わることになります。なお、雇用保険に関する規定は、雇用保険法と雇用保険法施行規則に定めがあります。失業手当の支給についても規定されているので、記事と併せてご確認ください。
会社都合退職となった職員は、雇用保険上の「特定受給資格者」(雇用保険法第23条1項、2項、雇用保険法施行規則36条)となります。特定受給資格者は、会社の倒産や整理解雇などが退職の理由である離職者をいいます。
一方で、自己都合退職となった職員は、原則として一般受給離職者になります。もっとも、退職について正当な理由がある場合は、雇用保険上の「特定理由離職者」(雇用保険法第13条3項、雇用保険法施行規則第19条の2)にもなります。例えば、体調不良で業務ができなくなり退職した職員は、正当な理由があると認められる場合があります。
特定受給者と特定理由離職者の範囲については、以下のページに記載されていますので、記事と併せてご確認ください。
次に、雇用保険における会社都合退職と自己都合退職の取扱いの違いについて解説します。
(1)失業保険給付の時期
失業保険給付とは、雇用保険法上の「失業等給付」(雇用保険法第10条1項)をいいます。そのうち、職員が離職する場合に給付の時期が問題となるのは「基本手当」(雇用保険法2項1号)になります。
基本手当とは、退職した職員が再就職までの求職期間において、一定期間国から支給される給付金を指します。この基本手当は、会社都合退職と自己都合退職、どちらを理由にした退職でも受給できますが、給付金を受け取ることが出来るまでの期間(待機期間)や給付日数がそれぞれ異なります。
まず、基本手当の待機期間は、原則として「7日間」となります(雇用保険法第21条)。もっとも、自己都合退職であり、特定理由離職者に該当しない場合は、最短でも待機期間7日間に「1か月間」の給付制限期間が追加されることになります(雇用保険法第33条1項)。一方で、会社都合退職の場合、給付制限期間が追加されることなく、7日間の待期期間を経れば、基本手当の支給が開始されます。
▶参考:雇用保険法第21条の条文、33条1項の条文
(待期)
第二十一条 基本手当は、受給資格者が当該基本手当の受給資格に係る離職後最初に公共職業安定所に求職の申込みをした日以後において、失業している日(疾病又は負傷のため職業に就くことができない日を含む。)が通算して七日に満たない間は、支給しない。
(給付制限)
第三十三条 被保険者が自己の責めに帰すべき重大な理由によつて解雇され、又は正当な理由がなく自己の都合によつて退職した場合には、第二十一条の規定による期間の満了後一箇月以上三箇月以内の間で公共職業安定所長の定める期間は、基本手当を支給しない。ただし、公共職業安定所長の指示した公共職業訓練等を受ける期間及び当該公共職業訓練等を受け終わつた日後の期間については、この限りでない。
2 受給資格者が前項の場合に該当するかどうかの認定は、公共職業安定所長が厚生労働大臣の定める基準に従つてするものとする。
※参照:「公共職業安定所長の定める期間」については、「雇用保険に関する業務取扱要領(令6年4月1日以降)」にて掲載されています。該当箇所を引用しておりますので、リンク先のページと併せてご覧ください。
・参照元:厚生労働省「雇用保険に関する業務取扱要領(令6年4月1日以降)」の「第9~第12[2.6MB]」(pdf)内の292頁〜293頁
(2)失業保険給付の支給期間について
また、支給期間についても会社都合退職か自己都合退職かで長さが異なります。会社都合退職の場合は「90日から最大330日」、自己都合退職の場合は「90日から最大150日」が支給期間となります(雇用保険法第22条)。
給付期間は、被保険者によって変わります。給付期間について詳しく知りたい方は、以下の公安職業安定所(ハローワーク)のページを併せてご覧ください。
(3)退職金の金額
会社都合退職と自己都合退職の違いは、退職金の金額に影響する場合があります。退職金制度は、事業所が独自に設定するものであり、事業所が設定する退職金制度によっては、会社都合退職か自己都合退職かによって、退職金の支給額が変わる場合があります。
なお、退職勧奨における退職金は、通常の退職金よりも多額の金銭が支払われたり、本来退職金が支払われない場合にもかかわらず、退職に伴って金銭が支払われる場合がありますが、このような金銭は、退職金制度における退職金とは異なります。
▶参考:退職勧奨の場面での退職金については、以下の記事で詳しく解説していますのでご参照ください。
3.退職勧奨による退職は会社都合退職
タイトルにもある通り、退職勧奨による退職は、原則として会社都合退職になります。
この項目では、なぜ会社都合退職になるのかについて詳しく解説します。
3−1.退職勧奨による退職は会社都合退職
退職勧奨による退職は、原則として会社都合退職になります。退職勧奨は会社が労働者に対して退職を勧める手続きです。労働者が同意することで退職することにはなりますが、退職のきっかけは会社側からの呼びかけにありますので、雇用保険においては会社都合退職となります。
雇用保険法とその施行規則においても、「事業主から退職するよう勧告を受けた」者は、特定受給資格者となることが規定されています(雇用保険法第23条2項2号、雇用保険法施行規則第36条9号)。
よって、退職勧奨による退職は、退職勧奨を行う理由や経緯にかかわらず、原則として会社都合退職になります。
▶参考:雇用保険法第23条2項2号の条文、雇用保険法施行規則第36条9号の条文
雇用保険法第23条2項2号
第二十三条 特定受給資格者(前条第三項に規定する算定基礎期間(以下この条において単に「算定基礎期間」という。)が一年(第五号に掲げる特定受給資格者にあつては、五年)以上のものに限る。)に係る所定給付日数は、前条第一項の規定にかかわらず、次の各号に掲げる当該特定受給資格者の区分に応じ、当該各号に定める日数とする。
(1項省略)
2 前項の特定受給資格者とは、次の各号のいずれかに該当する受給資格者(前条第二項に規定する受給資格者を除く。)をいう。
(1号 省略)
二 前号に定めるもののほか、解雇(自己の責めに帰すべき重大な理由によるものを除く。第五十七条第二項第二号において同じ。)その他の厚生労働省令で定める理由により離職したもの
雇用保険法施行規則第36条9号
(法第二十三条第二項第二号の厚生労働省令で定める理由)
第三十六条 法第二十三条第二項第二号の厚生労働省令で定める理由は、次のとおりとする。
九 事業主から退職するよう勧奨を受けたこと。
(一号から八号、十号から十一号 省略)
3−2.退職理由により会社都合退職か自己都合退職か変わる?
前述(「3−1.退職勧奨による退職は会社都合退職」)の通り、退職勧奨による退職は、原則として会社都合退職になります。
退職勧奨の理由がうつ病や病気などの体調不良である場合や、職員の能力不足やパワハラである場合があります。しかし、退職勧奨により退職の手続きをとる場合は、退職勧奨の理由にかかわらず、原則として会社都合退職となるため、退職した職員が失業手当の給付制限を受けることはなく、支給期間も延長されます。
一方で、退職勧奨を受けた職員が勧奨に応じることを拒否し、退職勧奨以外の手続きで退職することもあります。この場合、退職する理由によっては、自己都合退職に当たる可能性があり、正当な理由がないと判断されて特定理由離職者に該当しなければ、給付制限を受けるとともに、支給期間が延長されない場合があります。
例えば、事業所における勤務や通勤が難しくなった場合は、正当な理由が認められ、特定理由離職者にあたります。もっとも、職員の退職が定年や転職である場合は、原則として正当な理由があるとは言えず、特定理由離職者に該当しない場合があります。
詳しい判断基準については、厚生労働省が示した「特定受給者及び特定理由離職者の判断基準(pdf)」をご覧ください。
3−3.雇用形態により会社都合退職か自己都合退職か変わる?
退職勧奨により退職するに至った場合は、雇用形態が無期雇用職員か、有期雇用職員か、パートタイム職員かにかかわらず、会社都合退職となります。
これに対し、退職勧奨を理由としない退職の場合は、雇用形態や雇用契約の種類によって、会社都合退職か自己都合退職かが変わることがあります。
例えば、看護師として採用された職員が、看護師以外の職種に就くことになり、それに伴い賃金が低下し、職種が変わった直後(概ね3か月以内)に離職した場合、会社都合退職となる場合があります。
一方で、有期雇用契約をした職員であり、契約を更新しないこと(雇止め)による退職の場合は、3年以上雇用契約を締結していた労働者が退職する場合や、契約の更新を明示したにもかかわらず更新しなかった場合は、労働者側の期待を会社が裏切ることになるため、会社都合退職となります。
なお、パート・アルバイト職員か正職員か否かは、会社都合退職となるかに影響はありません。上記の事情があれば、パート職員であっても会社都合退職になります。
3−4.試用期間中の退職勧奨も会社都合退職?
試用期間中の職員が退職勧奨に応じて退職する場合も、「事業主から退職するよう勧告を受けた者」(雇用保険法23条2項号、雇用保険法施行規則大26条9号)に該当するため、原則として会社都合退職になります。
なお、試用期間中に退職を勧められた職員は、本採用を拒否され解雇されると誤解する可能性があります。試用期間中の職員に退職勧奨をする場合は、あくまで任意の手続きであり、解雇ではないことを丁寧に説明する必要があります。
4.会社都合退職のメリットとデメリット
ここでは、会社都合退職が事業所と職員にとってどのようなメリット、デメリットがあるかを解説します。
4−1.事業所側のメリットとデメリット
(1)メリット
退職勧奨においては、職員に対して会社都合退職になることを交渉材料として提示することができます。
前述の「2−2.会社都合退職と自己都合退職の違いは?」の通り、「会社都合退職」になることは、失業手当の待機期間の短縮や給付期間の延長、さらに退職金制度によっては会社都合の場合に退職金が増加することもあり、職員側にもメリットが大きいといえます。退職勧奨の交渉において、職員に会社都合退職となることのメリットを丁寧に説明することで、職員も退職に前向きになり、円滑に退職勧奨の手続きを進めることが期待できます。
(2)デメリット
会社都合退職の離職者がいる場合、国からの助成金が受けられない場合があります。 助成金制度においては、支給要件として一定期間「会社都合による離職者がいないこと」が設けられていることが多いです。
例えば、特定求職者雇用開発助成金、早期再就職支援等助成金(UIJターンコース)などは、定められた期間内において会社都合退職者がいる場合、支給の対象にはならないとしています。
▶参考:特定求職者雇用開発助成金
対象労働者の雇入れ日の前後6カ月間(以下「基準期間」という。)に、事業主の都合による従業員の解雇(勧奨退職を含む。)をしていないこと
・参照元:厚生労働省「「特定求職者雇用開発助成金(就職氷河期世代安定雇用実現コース)」のご案内」(pdf)の(2頁・③)
▶参考:早期再就職支援等助成金(UIJターンコース)
次の1~3のいずれかに該当する事業主は支給対象となりません。
1 計画期間の始期の前日から起算して6か月前の日から支給申請書の提出日までの間に、当該雇入れ事業所において雇用する雇用保険被保険者を事業主都合によって解雇等(勧奨退職等を含む)した場合
(2・3は省略)
4−2.職員側のメリットとデメリット
(1)メリット
既に述べたように、会社都合退職をした職員は、失業手当が早く支給され、また自己都合退職の離職者よりも長く支給を受けることができます。
(2)デメリット
退職理由が会社都合退職であると、再就職活動に影響が生じる可能性があります。
履歴書には、会社都合退職により退職したことを記載することになります。会社都合退職は、解雇された場合(職員に重大な帰責事由がある場合を除く)を含むことから、なぜ会社都合退職になったか、会社から採用面接の際に聴かれることがあります。退職勧奨を受けた理由についても深堀りして聴かれることがあり、能力不足など採用に不利な理由である場合は、返答に窮してしまうことが考えられ、そのような様子を見た面接官からマイナス評価を受ける可能性があります。
【弁護士畑山裕俊のワンポイントアドバイス】
会社都合退職は、事業所側に助成金が得られなくなるデメリットがあることから、退職勧奨における退職であっても、「自己都合退職」として処理をしてしまうことがあります。
しかし、このような扱いは、失業手当の待期期間の延長など職員側に不利な事情を考慮しないことになりますので、この点を職員が理解せずに退職し、ハローワークなどから退職勧奨は原則として会社都合退職であると知った際は、退所した後の職員から不当な措置であるとして、手続きの違法性等を指摘され場合があります。
退職勧奨においては、自己都合退職ではなく会社都合退職として処理しなければならないことを理解してください。
5.退職勧奨時に注意すべきことは?
この項目では、退職勧奨を実施するにあたっての注意点を解説します。
5−1.退職勧奨時に会社都合であることを説明すること
退職勧奨に応じる場合、会社都合退職として退職の手続きを行うことになることは、退職する職員に対し丁寧に説明することが必要です。
「4.会社都合退職のメリットとデメリット」の通り、会社都合退職は職員側にとってメリットが大きいものなので、職員が退職するきっかけにもなり得ます。
また、退職勧奨はあくまで任意の手続きですので、一方的に退職をさせることはできません。もし職員が任意に退職の意思を表示していないと評価されれば、退職が無効となり、職員が在職したままになるだけではなく、退職時からの給料の支払い(バックペイ)や損害賠償をしなければならない可能性があります。よって、退職勧奨の交渉では、職員に退職勧奨を受け入れる利点を説明し、任意で退職してもらうことが重要です。
5−2.退職の意思を証拠化すること
職員が退職勧奨を受けて退職する場合、後で「本当は退職したくなかった」「退職の意思はなかった」と言われてしまうケースもあります。
そこで、確実に退職してもらうために、職員が退職の意思を表示したことは、以下のような書面を証拠として残しておく必要があります。
(1)退職届を提出してもらう
退職届は職員が会社に対し、辞職の意思表示をする書面を意味します。
職員が退職届を出すことは、退職意思表示をしたことの証明となります。退職届は、職員が退職する意思が伝わればよく、形式面でのきまりはありませんが、退職勧奨においては「退職勧奨に応じて退職の意思を表示したこと」を記載することが望ましいです。
単に退職する旨の退職届だと、後で職員から「無理やり書かせられた」と主張されてしまうリスクがあります。 紛争を防止するためにも、退職勧奨を受けての退職である点は記載しておくことが必要です。
(2)退職合意書を締結する
退職勧奨においては、退職届よりも退職合意書を作成して、職員が退職勧奨に応じて退職の意思を表示したことを証拠化する方法が一般的です。
退職するにあたって、退職金の増額や再就職先のあっせんを行うなどの退職の条件で合意できれば、退職後に「言った」「言っていない」のトラブルを防ぐことができます。
また、退職合意書には、記載した事項以外には何らの債権債務もないことを確認する「清算条項」を入れることを推奨しています。退職の合意をした後になって、元職員から、退職時には話題になっていなかった要求がされた場合、清算条項に合意があることで、これを拒否することができます。
6.退職勧奨による退職時の離職票の書き方
退職勧奨を上手く進めることが出来れば、退職の手続きを取ることになります。その場合、失業手当の受給の関係から「離職票」を発行することが必要になります。
この項目では、退職勧奨における離職票の発行方法や書き方について解説します。
6−1.離職票の発行手続きについて
離職票(正式名称:雇用保険被保険者離職票)は、離職したことを証明する公的な書類になります。
離職票の発行手続きは、厳密にいえば事業者が行うものではありません。事業者は、ハローワークに離職票の発行を申請し、ハローワークから発行を受けた離職票を事業者が退職者に送付することなります。退職する職員が離職票の交付を希望すれば、事業者は離職票を必ず作成する必要があります。なお、退職者の年齢が59歳以上の場合は、高年齢雇用継続給付制度との関係で、退職者の希望に関わらず、離職票を作成する必要があります。
手続きの流れは以下の通りです。
- ① 退職者が離職票の発行を事業者に依頼する。
- ② 事業者が離職証明書をハローワークに提出する
- ③ ハローワークが離職証明書を確認し、離職票を事業者に交付する
- ④ 事業者が離職票を退職者に送付する
交付手続きについては、期限があることに注意が必要です。
事業者は、退職者が離職票の発行を依頼した場合は、その退職者が被保険者でなくなった日の翌日(退職日の翌々日)から10日以内に事業所を管轄するハローワークに交付手続きをする必要があります。
▶参考:ハローワークの管轄については、以下のページにおいて都道府県別に掲載されていますので、併せてご確認ください。
事業者が行う手続きとして、ハローワークに対して離職証明書(雇用保険被保険者離職証明書)を提出する必要があります。離職証明書は3枚で1綴りの複写式になっており、事業者の保管用、ハローワークへの提出用、退職者への交付用になります。離職証明書は、退職者が失業保険の手続きを進めるために必要ですので、退職者にも交付する必要があります。
6−2. 離職証明書の記入方法
離職証明書の具体的な記入方法について解説します。
▶参考:「雇用保険被保険者離職票-2」の記入例
・参照元:ハローワーク「雇用保険被保険者離職票-2」(pdf)
離職証明書については、離職者の個人情報、被保険者期間、離職理由など合計17項目(①から⑰)あります。このうち、退職勧奨による離職で最も重要なのは「⑦:離職理由」です。
「⑦:離職理由」の項目では、記載されている離職理由の中からあてはまる離職理由を選び、「具体的事業記入欄」に具体的な退職理由を記載します。
▶参考:「雇用保険被保険者離職票-2」の「⑦:離職理由」記入例
(なお、上記の具体例では、「(2)労働者の個人的な事情による離職」にチェックがあり、そのうち「⑥その他(理由を具体的に転職希望による自己都合退職 )」と記載がありますから、自己都合退職であることをハローワークに示すことになります。)
▶参考:退職勧奨による退職の場合の書き方(具体例)
【4 事業主からの働きかけによるもの(3)希望退職の募集又は退職勧奨】
【具体的事情記載欄・⑯離職者本人の判断・⑰署名欄】
退職勧奨による離職の場合は、原則として会社都合退職になります。よって、「4 事業主からの働きかけによるもの(3)希望退職の募集又は退職勧奨」にチェックをいれ、退職勧奨の理由に応じて、「①事業の縮小又は一部休廃止に伴う人員整理を行うためのもの」または「②その他」のどちらかを選択しましょう。また、「具体的事情記載欄(事業者用)にも記載が必要です。退職勧奨の場合には、「退職勧奨による合意退職」と記載すれば足ります。
上記の記入に加えて、①から⑭の項目を正確に記入します。ここまでの記入が終われば、離職者に内容を確認してもらい、「⑯:具体的事情欄(離職用)」へ記入してもらったうえで、⑰に署名をもらいます。
なお、⑯は「具体的事情記載欄(事業主用)」の記載について異議がないか確認する項目になります。仮に「有り」の項目に〇がついている場合は、ハローワークが事実確認の調査を行うため、事業者に対し追加の資料の提出を要請することになります。ハローワークは、提出された資料を参照の上、離職理由を判定することになります。
なお、注意するポイントとしては、職員が退職する場合、事業所はハローワークに対し、雇用保険被保険者資格喪失届の提出が必要になります。
退職することは、社会保険の加入者でなくなることを意味しますから、事業所としては離職票の届出と同時か、または事前に提出する必要があることに注意が必要です。
退職勧奨の場合、喪失原因は「事業主の都合による退職」となりますので、「3」を記入するようにしましょう。
▶参考:厚生労働省「雇用保険被保険者資格喪失届」の記入例
【弁護士畑山裕俊のワンポイントアドバイス】
離職票の発行手続きは事業所自身で行うことも可能ですが、発行手続きについては作成する書面も多く、また、雇用保険や社会保険の資格喪失届の提出など、他に行うべき手続きもあります。
よって、通常業務の円滑化のために、職員が退職する際に事業所側が行う手続きは、社労士などの専門家に委託することが一般的です。社労士は、企業における人材管理に関する手続きの専門家であり、離職票の書き方やその他の退職の手続きについても熟知しています。離職票の書き方は前述の通りですが、より詳しい離職票の記載方法について知りたい事業者の方は、社労士事務所に相談することをおすすめします。
7.退職勧奨に関して弁護士法人かなめの弁護士に相談したい方はこちら
弁護士法人かなめでは、介護福祉業界に精通した弁護士が、以下のようなサポートを行っています。
- (1) 退職勧奨対応サポート
- (2) 労働判例研究会
- (3) 顧問弁護士サービス「かなめねっと」
7−1.退職勧奨対応サポート
退職勧奨は、解雇等における法的な制約を受けることなく、職員との民事紛争を回避し、円満に職員に退職してもらう方法です。
一方で、進め方を誤り、職員が任意に同意することなく手続きをしてしまうと、後になって職員から不当な退職勧奨であると訴えられる可能性もあります。
弁護士法人かなめでは、そのようなトラブルを防ぎながら、退職勧奨を進めるためのアドバイスができますし、退職勧奨を進める事前準備の段階から、退職勧奨後の手続きや万が一のトラブルの対応までトータルにサポートすることが可能です。これにより、事業所の負担を軽減し、通常業務にできるだけ支障のないように支援することができます。
また、弁護士法人かなめの弁護士費用は、以下の通りです。
(1)法律相談料
- 1回目:1万円(消費税別)/1時間
- 2回目以降:2万円(消費税別)/1時間
※相談時間が1時間に満たない場合でも、1時間分の相談料を頂きます。
※法律相談は、「1,弁護士法人かなめにご来所頂いてのご相談」、又は、「2,ZOOM面談によるご相談」に限らせて頂き、お電話でのご相談はお請けしておりませんので、予めご了承ください。
※また、法律相談の申込みは、お問合わせフォームからのみ受け付けております。
※介護事業所の経営者側からのご相談に限らせて頂き、他業種の企業様、職員等一般の方からのご相談はお請けしておりませんので、予めご了承ください。
7−2.労働判例研究会
弁護士法人かなめでは、普段の労務管理の参考となる労働判例を取り上げ、分かりやすく解説する労働判例研究会を実施しています。
研究会では、参加者の皆様から生の声を聴きながらディスカッションをすることで、事業所に戻ってすぐ使える知識を提供しています。
7−3.顧問弁護士サービス「かなめねっと」
弁護士法人かなめでは、退職勧奨の対応サポートをはじめとする介護事業者向けの法務面を総合的にサポートを行う顧問契約プラン「かなめねっと」を提供しています。
具体的には、トラブルに迅速に対応するためチャットワークを導入し、事業所内で何か問題が発生した場合には、速やかに弁護士へ相談できる関係性を構築しています。そして、弁護士と介護事業所の関係者様でチャットグループを作り、日々の悩み事を、法的問題かどうかを選択せずにまずはご相談頂き、これにより迅速な対応が可能となっています。直接弁護士に相談できることで、事業所内での業務効率が上がり、情報共有にも役立っています。
介護業界に特化した顧問弁護士サービス「かなめねっと」について詳しくは、以下のサービスページをご覧ください。
また以下の動画でも詳しく説明をしていますので、併せてご覧下さい。
▶︎【介護・保育事業の方、必見】チャットで弁護士と繋がろう!!介護保育事業の現場責任者がすぐに弁護士に相談できる「かなめねっと」の紹介動画
(1)顧問料
●顧問料:月額8万円(消費税別)から
※職員の方の人数、事業所の数、業務量により顧問料の金額は要相談とさせて頂いております。詳しくは、お問合せフォームまたはお電話からお問い合わせください。
8.まとめ
この記事では、退職勧奨による退職は原則として会社都合退職となることや、退職勧奨による退職の場合の離職票の書き方について解説しました。
退職勧奨は、任意の手続きですので、職員が任意に同意すれば、法律上の制限を受けることなく退職の手続きが可能ですが、後の手続きを正しく行われなければ、紛争が蒸し返しになることもあります。退職勧奨による退職の場合は、会社都合退職であることを理解し、離職の手続きを行うようにしましょう。
退職勧奨は事業所にとって利点が多い手続きですが、その分注意する点が多い手続きでもあります。法的な知識を踏まえたうえで面談に臨むようにしましょう。
弁護士法人かなめでは、介護福祉業界、退職勧奨のいずれにも精通した弁護士が揃っており、きめ細やかなアドバイスや適時のサポートにより、事業所の皆様の負担を軽減します。退職勧奨を考えている事業所の方は、早い段階で専門家である弁護士に相談するようにしましょう。
9.【関連情報】退職勧奨に関するその他のお役立ち情報
この記事では、「退職勧奨での退職は会社都合か自己都合どっち?離職票の書き方などを解説」として、退職勧奨の場面での手続きについてを解説してきましたが、この記事でご紹介していない退職勧奨に関するお役立ち情報も以下でご紹介しておきますので、あわせてご参照ください。
・退職勧奨の場面で言ってはいけないこと3つ!面談時の注意点を解説
・退職勧奨が拒否されたら?応じない場合のその後の対応を詳しく解説
・退職勧奨が違法となる場合とは?具体例や裁判例をまじえて徹底解説
・退職勧奨がパワハラと判断される場合とは?注意点などを詳細に解説
・退職勧奨を行う際は弁護士に相談すべき?メリットや費用、サポートについて
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弁護士法人かなめでは、「介護業界に特化した弁護士」の集団として、介護業界に関するトラブルの解決を介護事業者様の立場から全力で取り組んで参りました。法律セミナーでは、実際に介護業界に特化した弁護士にしか話せない、経営や現場で役立つ「生の情報」をお届けしますので、是非、最新のセミナー開催情報をチェックしていただき、お気軽にご参加ください。
介護特化型弁護士による研修講師サービスのご案内
弁護士法人かなめが運営している社会福祉法人・協会団体・自治体向けの介護特化型弁護士による研修講師サービス「かなめ研修講師サービス」です。顧問弁護士として、全国の介護事業所の顧問サポートによる豊富な実績と経験から実践的な現場主義の研修を実現します。
社会福祉法人の研修担当者様へは、「職員の指導、教育によるスキルアップ」「職員の悩みや職場の問題点の洗い出し」「コンプライアンスを強化したい」「組織内での意識の共有」などの目的として、協会団体・自治体の研修担当者様へは、「介護業界のコンプライアンス教育の実施」「介護業界のトレンド、最新事例など知識の共有をしたい」「各団体の所属法人に対して高品質な研修サービスを提供したい」などの目的として最適なサービスです。
主な研修テーマは、「カスタマーハラスメント研修」「各種ハラスメント研修」「高齢者虐待に関する研修」「BCP(事業継続計画)研修」「介護事故に関する研修」「運営指導(実地指導)に関する研修」「各種ヒヤリハット研修」「メンタルヘルスに関する研修」をはじめ、「課題に応じたオリジナル研修」まで、介護事業所が直面する様々な企業法務の問題についてのテーマに対応しております。会場またはオンラインでの研修にご対応しており、全国の社会福祉法人様をはじめ、協会団体・自治体様からご依頼いただいております。
現在、研修講師をお探しのの介護事業者様や協会団体・自治体様は、「かなめ研修講師サービス」のWebサイトを是非ご覧ください。