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BCP(事業継続計画)とは?介護事業所で義務化!対策と対応方法を解説

BCP(事業継続計画)とは?介護事業所で義務化!対策と対応方法を詳しく解説
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2020年からの新型コロナウイルス感染症の蔓延により、介護事業所では、感染症への対策の他、スタッフのやりくりなどに非常に苦労されているのではないでしょうか。

介護事業所を取り巻く危険は、感染症だけではありません。

近い将来に発生すると言われている南海トラフ地震、年々激しさを増していく台風、豪雨、土砂災害など、毎年日本中のどこかで、大きな災害が発生しています。

このような中、介護事業所に対しては、2021年4月から「BCP(事業継続計画)」の策定が義務化されることになりました。

しかしながら、「BCP(事業継続計画)」という言葉自体を知らない、3年の経過措置があると言われても、どのように取り組めばいいのか検討もつかない、といった介護事業所も多いのではないでしょうか。

そこで、この記事では、そもそもBCP(事業継続計画)とはどう言うもので、どのような理由で作成するのかについて解説し、その上で、BCP策定のポイントの他、感染症の場合のBCPと天災の場合のBCPの違いについて解説します。

加えて、もしBCP(事業継続計画)を策定していない場合に、介護事業所がどのような責任を負い得るのか、そしてBCP策定後、実際にどのような運用をすべきなのかについて、実際の災害時の事例等を紹介しながら解説します。

BCPの策定はゴールではありません。この記事を読んで頂き、BCPの策定を通じて、有事の際にでも事業を継続できる、感染症や災害に強い事業所を作ることの重要性を再確認して下さい。

それでは見ていきましょう。

 

1.BCP(事業継続計画)とは?

BCP(事業継続計画)とは?

「そもそもBCPって何?」令和3年度の介護報酬改定によって、初めて「BCP」という言葉を聞いた介護事業所も多いかもしれません。

まずは、「BCP」とは何かについて解説します。

 

1−1.BCPの正式名称は?

BCPは、「Business Continuity Plan」の略であり、事業継続計画、業務継続計画と呼ばれています。

内閣府のガイドラインによると、以下のように定義されています。

 

「大地震等の自然災害、感染症のまん延、テロ等の事件、大事故、サプライチェーン(供給網)の途絶、突発的な経営環境の変化など不測の事態が発生しても、重要な事業を中断させ ない、または中断しても可能な限り短い期間で復旧させるための方針、体制、手順等を示し た計画のこと」

 

▶︎参照:内閣府「事業継続計画ガイドライン」(PDF)

 

 

1−2.BCMとの違いは?

BCMは、 「Business Continuity Management」の略であり、BCP策定や維持・更新、事業継続を実現するための予算・資源の確保、事前対策の実施、取組を浸透させるための教育・訓練の実施、点検、継続的な改善などを行う平常時からのマネジメント活動(事業継続マネジメント)のことを言います(参照:内閣府「事業継続計画ガイドライン」)。

つまり、策定したBCP(事業継続計画)をどのように運用していくか、という点に主眼が置かれているのがBCMであり、BCPとは車の両輪といっても過言ではないほど、切っても切れない関係にあります。

 

【弁護士 畑山 浩俊のコメント】

この後にも解説をする通り、BCP(事業継続計画)は策定するだけでは片手落ちであり、いかに運用していくか、その前提として、いかに運用できる内容となっているかが非常に重要になってきます。

 

せっかく策定したBCP(事業継続計画)が運用できなかった結果、職員や利用者になんらかの影響が出た場合、介護事業所が責任を負う可能性も高くなりますし、何より、事業継続に大きな支障を来すことになります。

 

「義務になったから」ではなく、介護事業所の事業継続を支える重要な武器として、BCP策定に真剣に取り組みましょう。

 

 

2.BCP策定の意義

BCPを策定する意義について、ここで確認をしておきましょう。

 

2−1.防災計画とは何が違うの?

災害等の有事の発生時に備えて作成するものの中に、「防災計画」があります。

「防災計画」、「防災マニュアル」というような名称で備え置いている介護事業所も多いのではないでしょうか。

防災計画は、災害等に平常時から備えるとともに、非常災害時における関係機関への通報、連絡体制、安全確保のための行動手順並びに計画に関する利用者及び従業者への周知方法を整備するための非常災害に関する具体的計画として策定し、利用者及び従業者の安全を確保し,災害(火災,震災,風水害)が起きた場合の被害の防止及びその軽減を図ることを目的としたものです。

防災計画が主眼を置いているのは、発生した災害等から利用者や職員の生命、身体を守り、被害を最小限に抑えることです。

そのため、BCPで策定すべき項目と重なる点は多々あるものの、事業継続のためではなく、あくまで、いかに利用者や職員を守るかという視点で策定されることになります。

また、あくまで「防災」であることから、感染症蔓延時など、あらゆる事業中断の原因となり得る発生事象には対応できません。

防災計画も、なくてはならない災害等の有事への備えの1つですが、これだけでは十分ではありません。事業を継続するためにはさらに先を見据えた計画が必要です。

 

2−2.なぜBCP(事業継続計画)が必要なの?

では、なぜ防災計画では不十分なのでしょうか。

防災計画は、利用者や職員の生命、身体を守ることに主眼が置かれているので、利用者や職員の安全が確保ができることが計画のゴールです。

しかしながら、介護事業所や医療機関等は、むしろ有事の時こそ事業継続が求められる事業です。

例えば、感染症が蔓延したからといって、スタッフ全員を自宅待機させ、利用者へのサービスを全て停止することはできません。介護サービスを受けられなければ、日常生活を送ることさえも難しい方は大勢いるのです。

つまり、介護事業所にとって、介護サービスを提供し続けること、すなわち事業を継続することは使命なのです。

例えば、利用者や職員の生命、身体を守るために必要な備品の種類や量と、事業を継続するために必要な備品の種類や量は自ずと異なってきます。

また、事業を継続するとは言っても、当然、災害等発生前と完全に同じ事業を継続することは難しい場合が多いことから、業務に優先順位をつけなければならず、事前に事業所内でこれが周知され、準備されていなければ、必要な業務に職員や備品を割けなくなってしまいます。

このように、事業を継続するためには、利用者や職員の生命を守る以上に事前の準備が必要となり、そのために、BCPを策定しておく必要があるのです。

 

3.BCP(事業継続計画)の導入状況

帝国データバンクが、令和3年5月18日から31日までに、全国2万3724社(全事業者対象)に対して行った意識調査によると、BCPを「策定している」と回答した企業の割合は17.6%(令和2年5月の調査では16.6%、令和元年5月の調査では15.0%)であり、年々緩やかに策定率は上昇しているものの、未だ低水準にとどまっています。

これを規模別に見ると、大企業が32.0%、中小企業が14.7%と、規模による差が見られます。

BCPを「策定している」、「現在策定中」、「策定を検討している」と回答した企業の合計の割合は、49.6%となっています。

 

3−1.BCP策定している理由

BCPを「策定している」、「現在策定中」、「策定を検討している」企業が想定しているリスクとしては、地震や風水害、噴火などの「自然災害」が72.4%(複数回答、以下同)で最も高く、次いで新型コロナウイルスなどの「感染症」が60.4%と高水準になっています。

これに加え、「設備の故障」(35.8%)や「情報セキュリティ上のリスク」(32.9%)などは増加傾向であり、サイバー犯罪の検挙率の増加などから、情報系のリスクに対する意識の高まりが見られます。

 

3−2.BCP策定していない理由

BCPを策定していない理由では、「策定に必要なスキル・ノウハウがない」(41.9%)がトップ (複数回答、以下同)で、突出して高く、策定における人材、時間、費用の確保が課題となっていることがわかります。

また、中小企業では「必要性を感じない」(23.8%)「自社のみ策定しても効果が期待できない」(23.2%)の割合が高く、BCPに対して懐疑的に考えている様子がうかがえます。

 

3−3.BCP策定の効果

BCP策定の効果については、既に策定している企業では「従業員のリスクに対する意識が向上した」が55.5%でトップ(複数回答、以下同)であり、次いで「事業の優先順位が明確になった」(33.4%)、「業務の定型化・マニュアル化が進んだ」(33%)との回答がされています。

 

BCPの導入状況について詳しくは、以下の「帝国データバンク」サイトを参考にご覧ください。

 

▶︎参照:帝国データバンク「事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査(2021年)」

 

 

4.BCP(事業継続計画)が想定する場面

BCP(事業継続計画)が想定する場面

BCP(事業継続計画)は「大地震等の自然災害、感染症のまん延、テロ等の事件、大事故、サプライチェーン(供給網)の途絶、突発的な経営環境の変化など不測の事態」に対応をするために策定されるものであり、想定される不足の事態は多岐にわたります。

以下では、想定される不測の事態のうち、代表的なものを紹介します。

 

4−1.自然災害

自然災害は、帝国データバンクの意識調査の中でも、BCPを「策定している」、「現在策定中」、「策定を検討している」企業が想定するリスクとして上位に位置付けられているものです。

具体的には、地震、風水害、噴火など、あらゆる自然災害を指しますが、近年は特に風水害による影響が顕著となっています。

 

1.近年発生した風水害の事例

例えば、平成30年6月28日から同年7月8日かけて、西日本を中心に北海道や中部地方を含む全国的に広い範囲で発生した、台風7号及び梅雨前線等の影響による集中豪雨(平成30年7月豪雨、西日本豪雨とも呼ばれています)では、死者224名、行方不明者8名、負傷者459名(重傷114名、軽傷343名、程度不明3名)、住家全壊6758棟、半壊10878棟、一部破損3917棟、床上浸水8567棟、床下浸水21913棟という甚大な被害がもたらされました。

この時、全国各地で断水や電話の不通等ライフラインに被害が発生したほか、鉄道の運休等の交通障害が発生しました。

 

▶︎参照:気象庁「平成30年7月豪雨(前線及び台風第7号による大雨等)」

 

 

その後も、令和元年9月7日から同月10日までの令和元年房総半島台風(台風第15号)による大雨、暴風等では、千葉県を中心に記録的な暴風、大雨で広範囲で大規模な停電が発生、同年10月10日から同月13日までの令和元年東日本台風(台風第19号)による大雨、暴風等では、記録的な大雨、暴風、高波、高潮が発生し、立て続けに同月24日から同月26日まで、低気圧等にる大雨で、千葉県と福島県で記録的な大雨が観測されています。

令和2年に至っては、7月3日から同月31日までの長期間にわたり、西日本から東日本、東北地方の広い範囲で大雨が観測され、同月4日から7日にかけての九州での記録的な大雨で、球磨川などの大河川の氾濫が相次いだり、同年の12月14日から21日までの大雪では、関越道等で多数の車両の立ち往生が発生しています。

このような風水害は、令和3年になっても顕著であり、令和3年7月1日から3日までの東海地方、関東地方南部を中心とした大雨で、静岡県熱海市で土石流が発生したことは記憶に新しいところです。

 

▶︎参照:気象庁「災害をもたらした気象事例(平成元年~本年)」

 

 

【弁護士畑山浩俊のワンポイントアドバイス】

 

弁護士法人かなめで実際にあった風水害に関する相談事例も1つご紹介しておきますので参考にしてください。

 

●実際の相談事例

 

「特別養護老人ホームに出勤していた職員の自家用車が台風の被害により破損してしまった場合に法人は責任を負うのでしょうか。台風接近中にもかかわらず出勤してくれた職員のことを思うと不憫でならないです。事業継続(BCP)の観点からこのような場合に法人として備えておくべきことがあれば教えて頂けないでしょうか。」という相談の内容です。

 

●アドバイスの内容

 

台風接近中であったとしても高齢者への介護サービスの提供を途絶えさせるわけにはいきません。災害時にも労務提供をしなければならないことは、雇用契約上、予定されている事態と言えるので、台風接近の中で出勤を命じたこと自体で、直ちに法人としての法的責任が問われる訳ではありません。

 

土地工作物責任(民法第717条)の成立も難しいと考えられます。ただ、台風の被害が増加している近年において、このような事態が生じることは珍しいことではありません。

 

そこで、災害見舞金の制度設計を見直す、もしくは新たに創設することをアドバイスしました。法人に法的責任があるかどうかではなく、あくまで災害による被害にあった職員に対する「お見舞い」の趣旨で交付する金員です。

 

介護施設における事業継続においては、如何に災害時においても現場に来てくれる職員を確保できるかが重要なカギとなります。災害見舞金制度を創設することで、法人から職員に対する感謝・労いの気持ちの表すことができ、職員間の連帯感の醸成に繋がるはずです。

 

事業継続の観点からも災害見舞金の制度設計を今一度見直しておくことをお勧めします。

 

こちらの事例については、以下の動画でも詳しく解説していますので、あわせてご参照ください。

 

 

 

 

2.今後発生が予想されている災害について(南海トラフ地震)

さらには、発生が切迫していると言われている南海トラフ地震では、静岡県から宮崎県にかけての一部では震度7となる可能性があるほか、それに隣接する周辺の広い地域では震度6強から6弱の強い揺れになると想定されています。

また、関東地方から九州地方にかけての太平洋沿岸の広い地域に10mを超える大津波の襲来が想定されており、東日本大震災に勝るとも劣らない被害が発生することが予想されます。

 

▶︎参照:気象庁「南海トラフ地震について」

 

 

このような自然災害の発生により、否が応でも業務は一時的な停止、縮小を余儀なくされます。

近年反省する多くの自然災害を目の当たりにしている企業として、自然災害を、想定すべき災害として認識することは必然であると言えるでしょう。

 

4−2.感染症蔓延

介護事業所は、今般の新型コロナウイルス感染症の蔓延以前より、様々な感染症に毎年脅かされています。

例えば、インフルエンザやノロウイルスなどの季節性の感染症は、毎年のように発生し、その対策のため、介護施設内での面会の制限や禁止、消毒の徹底など、様々な対応が必要となります。

そして、その蔓延が顕著となり、職員、利用者の多くが感染症に罹患してしまったり、感染症への罹患を恐れて離職や休職が相次ぐようになると、事業所運営にも支障をきたしていまします。

 

4−3.その他(停電他)

その他の不測の事態としては、以下のようなものが考えられます。

 

  • 情報の漏洩等情報セキュリティ上の問題
  • 火災・爆発事故
  • 取引先の被災や倒産
  • 自社業務管理システムの不具合・故障
  • 経営者や管理者の不測の事態(急死、急病、逮捕等)
  • 戦争やテロ

 

このように、BCPが想定する場面は多岐にわたります。

BCPの策定が難しいのは、想定される事態によって、職員、設備、利用者等の状況が大きく異なることから、統一的な策定が難しいことにあります。

例えば、取引先(出入り業者等)が被災や倒産した場合、職員、設備、利用者等には直接的な影響はないことから、備品等の仕入れ先を変更することや、それまでに必要な備蓄をしておくことが重要となりますし、経営者や管理者に不足の事態があった場合は、指揮系統の再構築が必要となるなど、不測の事態の内容によって、準備すべきことが変わっていくのです。

重要なことは、様々な不測の事態はあるものの、BCP(事業継続計画)の運用を念頭において、実際にその場面で使えるBCPを策定するため、焦らず取り組んでいくことです。

 

【弁護士畑山浩俊のワンポイントアドバイス】

色々な状況を想定したBCP(事業継続計画)を、1つ1つ策定していくことは非常に骨が折れる作業です。

 

もっとも、1つでもBCPの策定ができれば、これを応用して様々なパターンを策定していくことも容易になります。

 

例えば、自然災害に対するBCP(事業継続計画)は、様々な要素が複合的に発生しています。設備や自社管理システムの故障、利用者や職員が被災者となり、当然取引先も被災者となっていますし、場合によっては経営者や管理者などに不測の事態が発生していることもあります。

 

そうであれば、自然災害に対するBCPを策定することにより、これら1つ1つの事象に対するBCP(事業継続計画)は、これを参考にして抜粋すれば利用できることになります。

まずは作ってみる、という積極的な姿勢が重要なのです。

 

 

5.BCP策定のメリット

BCPの策定は、事業を継続するという重要な目的のために行うので、これを策定すること自体に大きなメリットがあります。

もっとも、BCPを策定することで、色々な優遇が受けられる場合もあります。

ここでは、その一部を紹介します。

 

5−1.補助金

令和元年7月16日に、「中小企業の事業活動の継続に資するための中小企業等経営強化法等の一部を改正する法律(中小企業強靭化法)」が施行され、その中で、中小企業が自社のBCPを国に提出し、その内容が適切であると認められた場合には、財政的・被財政的援助を受けられることになりました。

具体的には、補助金採択にあたっての優遇措置として、事業継続力強化計画の認定を受けた中小企業・小規模事業者が補助金採択にあたって加点措置が受けられるなどの措置が検討され、さらには、大規模災害時等の停電に備え、中小企業・小規模事業者の事業の中断を未然に阻止する体制を確保するため、石油製品等を用いる自家発電設備等の設置に要する経費の一部が補助されることになりました。

中小企業の事業活動の継続に資するための中小企業等経営強化法等の一部を改正する法律(中小企業強靭化法)については、以下の経済産業省のサイトも参考にご覧ください。

 

▶︎参照:経済産業省「中小企業強靭化法」の概要について(PDF)

 

 

また、公益財団法人東京都中小企業振興公社は、一定の条件を満たしたBCPを策定した中小企業者等に対し、当該BCPを実践するために必要な設備・物品の購入、設置にかかる費用を助成金の対象としています。

 

▶︎参照:東京都中小企業振興公社「令和3年度 BCP実践促進助成金 申請案内」

 

 

また、補助金の募集を行っている地方自治体もあり、例えば兵庫県では、県内に所在するBCPの策定済みの事業所に対して、従業員に策定したBCPの理解を促す研修やBCPに基づく訓練を実施するにあたり、講師謝金、講師旅費、研修費、印刷製本費、書籍購入費、消耗品費(非常食等)、委託料等などが補助対象となります。

 

このように、BCP策定やその運用のために補助金を支出している団体や地方自治体は多くありますので、気になる方は、ご自身の地方自治体のホームページ等で確認してみて下さい。

 

5−2.税制優遇

さらに、中小企業強靭化法では、以下のような優遇・支援が受けられことが規定されています。

 

●中小企業防災・減災投資促進税制

事業継続力強化計画の認定を受けた中小企業・小規模事業者の設備投資に対する特別償却(20%)

 

【対象設備】

事前対策を強化するために 必要な防災・減災設備

 

【具体例】

機械装置(100万円以上)

:自家発電機、排水ポンプ 等

 

器具備品(30万円以上)

:制震・免震ラック、衛星電話 等

 

建物附属設備(60万円以上)

:止水板、防火シャッター、排煙設備 等

 

 

また、金融支援としても、以下のような優遇を受けられます。

 

●信用保証

事業継続力強化計画の認定を受けた中小企業・小規模事業者の信用保険の保証枠を別枠追加。

 

●日本政策金融公庫・BCP融資の拡充

津波、水害及び土砂災害に係る要対策地域に所在する者の土地に係る設備資金について、貸付金利を引き下げ。加えて、事業継続力強化計画の認定を受けた中小企業・小規模事業者の防災に係る設備資金の貸付金利を基準金利から引き下げ。

 

 

5−3.感染症蔓延時のワクチンの優先接種

また、新型インフルエンザ等対策特別措置法は、医療の提供並びに国民生活及び国民経済の安定を確保するため緊急の必要があると認めるときに、

 

  • 医療の提供の業務又は国民生活及び国民経済の安定に寄与する業務を行う事業者であって厚生労働大臣の定めるところにより厚生労働大臣の登録を受けているもののこれらの業務に従事する者
  • 新型インフルエンザ等対策の実施に携わる地方公務員

 

に対して、臨時に予防接種を行うことを規定しています。

 

▶参考:新型インフルエンザ等対策特別措置法

 

(特定接種)

第28条 政府対策本部長は、医療の提供並びに国民生活及び国民経済の安定を確保するため緊急の必要があると認めるときは、厚生労働大臣に対し、次に掲げる措置を講ずるよう指示することができる。

一 医療の提供の業務又は国民生活及び国民経済の安定に寄与する業務を行う事業者であって厚生労働大臣の定めるところにより厚生労働大臣の登録を受けているもの(第三項及び第四項において「登録事業者」という。)のこれらの業務に従事する者(厚生労働大臣の定める基準に該当する者に限る。)並びに新型インフルエンザ等対策の実施に携わる国家公務員に対し、臨時に予防接種を行うこと。

二 新型インフルエンザ等対策の実施に携わる地方公務員に対し、臨時に予防接種を行うよう、当該地方公務員の所属する都道府県又は市町村の長に指示すること。

(2項以下省略)

 

・引用元:「新型インフルエンザ等対策特別措置法」の条文

 

 

ここに出てくる「登録事業者」になるために、登録対象となる業種等を行う事業者であることと合わせて、①産業医を選任し、かつ、②BCPを作成している事業者であることが求められているのです(なお、介護事業においては、①産業医を選任しているという要件は不要です)。

介護事業は、医療の提供や、国民生活・国民経済の安定を確保するための事業として、事業が継続されることが前提とされている事業です。

そのため、BCP(事業継続計画)を作成した、事業継続への意識が高い介護事業所の職員に対しては、優先的に予防接種を受けられるようにする仕組みが作られています。

 

▶︎参照:厚生労働省「内閣官房新型インフルエンザ等対策室:新型インフルエンザ等対策・特定接種について」(PDF)

 

 

新型インフルエンザ等対策特別措置法は、新たな感染症が発生すると、対象となる感染症の範囲を、法改正等により変更したり、または当該感染症が対象に含まれることを明確にするなどして、同法による感染症への対策を行っています。

新型コロナウイルス感染症も、同法の対象となる感染症に含まれることが明確にされていますが、今後も新たな感染症等の発生時には、同様の措置がとられていくものだと考えられます。

そのため、BCPを策定し、登録事業者として登録を受けておくことで、予防接種等の特定接種を受ける対象となれ、いち早く感染症対策の中での事業継続を目指すことができます。

 

6.BCP策定が義務化された

介護事業所で、BCPの策定が義務付けられた、とよく耳にするものの、具体的には何を義務付けられたのでしょうか。

以下で詳しくみていきましょう。

 

6−1.令和3年度の介護報酬改定

令和3年度の介護報酬改定では、以下の目標のため、感染症や災害が発生した場合であっても、利用者に必要なサービスが安定的・継続的に提供される体制を構築することを目指した改定が行われました。

 

「新型コロナウイルス感染症や大規模災害が発生する中で「感染症や災害への対応力強化」を図るとともに、団塊の世代の全てが75歳以上となる2025年に向けて、2040年も見据えながら、「地域包括ケアシステムの推進」、「自立支援・重度化防止の取組の推進」、 「介護人材の確保・介護現場の革新」、「制度の安定性・持続可能性の確保」を図る。」

 

具体的には日頃からの備えと業務継続に向けた取組の推進として、

 

  • 感染症対策の強化
  • 業務継続に向けた取組の強化
  • 災害への地域と連携した対応の強化
  • 通所介護等の事業所規模別の報酬等に関する対応

 

について改定がされ、この中で、BCPの策定が義務付けられたのです。

令和3年度の介護報酬改定の主な内容については、以下の厚生労働省の情報を参考にご覧ください。

 

▶︎参照:厚生労働省「令和3年度介護報酬改定の主な事項について」(PDF)

 

 

6−2.具体的に何が義務化されたの?

BCP(事業継続計画)に関係しているのは、これらの改定事項の中の「業務継続に向けた取組の強化 」です。

具体的には、感染症や災害が発生した場合であっても、必要な介護サービスが継続的に提供できる体制を構築する観点から、 全ての介護サービス事業者を対象に、業務継続に向けた計画等の策定、研修の実施、訓練(シミュレーション) の実施等を義務づけることとされました。

これは、事業形態を問わず全てのサービスに適用され、3年間の経過措置が設けられています。

 

▶︎参照:厚生労働省「令和3年度介護報酬改定における改定事項について」(PDF)

 

 

6−3.BCP対策は急務!

3年間の経過措置があっても、そもそもBCP(事業継続計画)という概念自体を初めて知る介護事業所にとっては長い猶予期間ではありません。

日々の多忙な業務の傍ら、令和6年4月までにBCPを策定しなければならないとなると、今すぐに始めなければ、3年後に間に合わせることはできません。

直前になって、「とりあえずインターネットで拾った他の事業者のものをそのまま使おう」とコピーアンドペーストしてしまうと、事業所の状況に合っていない、運用のできないBCP(事業継続計画)ができてしまい、せっかく義務化がされた目的を果たせなくなってしまいます。

BCPの策定は、今すぐに始める必要がある、急務なのです。

 

7.介護事業所におけるBCP策定のポイント

では、実際に介護事業所がBCPを策定しようと考えた場合、何に気をつければ良いでしょうか。

以下では、介護事業所と他の企業との違い、事業所別のポイント、対象別のポイントについて解説します。

なお、ここからは、想定する不測の事態は、BCP策定において中軸となる、自然災害発生時と感染症蔓延時を念頭において解説します。

 

7−1.他の企業と介護事業所との違い

介護事業所は、要介護者、家族等の生活を支える上で欠かせないものであり、自然災害、感染症蔓延のいずれの不測の事態にあっても、業務継続し、または一時的に停止した業務を速やかに再開しなければなりません。

これは、利用者の多くは日常生活・健康管理、さらには生命維持の大部分を介護事業所等の提供するサービスに依存しており、 サービス提供が困難になることは利用者の生活・健康・生命の支障に直結するからです。

このような理由から、介護事業所にとっては他の業種よりもサービス提供の維持・継続の必要性が高いのです。

 

7−2.事業所別のポイント

以下では、居宅系サービスと施設系サービスについて、それぞれのポイントを見ていきましょう。

 

(1)共通のポイント

共通のポイントとしては、居宅系サービスであっても、施設系サービスであっても、サービス提供の維持・継続の必要性が高いことは同じです。

 

(2)居宅系サービス事業所

居宅系サービスの場合、デイサービスやショートステイなどの通所系サービスで実際に施設に利用者がいる時に災害が発生すれば、施設系サービスと同様に、まずは人命安全の確保や避難経路、方法等の確保が重要となります。

しかしながら、居宅系サービスのうち、通所系サービスで、利用者を家族に引き渡した後や、訪問系サービスの場合には、介護の必要性に応じて利用者を分類し、優先順位を決めることで、より重要な業務の継続のため、あえて一部の業務を中断するまたは頻度を減らすことも考えられます。具体的には、要介護度やご家族の支援の程度などにより,サービスの優先順位を決めることが考えられます。

実際に、新型コロナウイルス感染症の蔓延に伴って、家族等による見守りが可能である場合には、デイサービスの利用を一時的に停止している事業所も多く見られました。

 

(3)施設系サービス事業所

施設系サービスの場合、実際に運営中の施設に利用者が入居していることから、災害時には、人命安全のルール策定とその徹底が最重要となります。

特に、施設に入居する利用者の中には、全面的な介助がなければ移動も困難である利用者が多く、どのように避難をするか、という避難経路や方法の確保も非常に重要です。

また、高齢である利用者は、感染症の蔓延時には重症化リスクが高く、集団感染が発生した場合、深刻な被害が生じる恐れがあります。

そのため、いずれの場合であっても、利用者の健康、身体、生命を守る機能を維持することがサービスの継続の主眼となります。

 

7−2.対象別のポイント

自然災害後の事業継続と、感染症蔓延時の事業継続とでは、業務回復への流れが大きく異なります。

以下では、自然災害の場合と感染症蔓延時の場合の、それぞれのポイントについて解説します。

 

(1)自然災害の場合

自然災害の発生時には、まず避難誘導・安否確認などの災害時業務に対応することや、インフラの停止等により、通常の業務対応は一時的に完全に停止、または、著しく減らさざるを得なくなります。

その後、時間の経過とともに、優先度の高い業務から回復させていくことになります。

 

自然災害時の「業務量の時間的経過に伴う変化」のイメージ図

上記は、自然災害時の「業務量の時間的経過に伴う変化」のイメージ図です。

 

(2)感染症蔓延時の場合

一方、感染症蔓延時には、自然災害時のように通常の業務対応が完全に停止することはありません。むしろ、感染者への対応、感染防止対策を講じるなどで業務量が増えることが想定されます。

例えば、自施設で感染者が発生した場合、施設系サービスの場合はこれが顕著となります。

その後、職員自身の感染や濃厚接触者認定などにより、一時的に職員が不足し、対応可能な業務量が減ってしまう、という事態は発生し得ますが、それでも業務量は減らないことから、いかに優先順位をつけて業務を継続するかが重要となります。

 

感染症蔓延時の入居系サービスの場合「業務量の時間的経過に伴う変化」のイメージ図

上記は、感染症蔓延時の入居系サービスの場合「業務量の時間的経過に伴う変化」のイメージ図です。

 

一方、同様に自施設の利用者や職員から感染者が発生した場合でも、通所系サービスの場合には、流行の状況や感染症の人数、勤務可能な職員数などを踏まえた上で、業務の縮小や休業の検討を行う必要があります。

その後、感染症対策を講じた上で、優先すべき業務から順に再開をしていくことになります。

 

感染症蔓延時の通所系サービスの場合「業務量の時間的経過に伴う変化」のイメージ図

上記は、感染症蔓延時の通所系サービスの場合「業務量の時間的経過に伴う変化」のイメージ図です。

 

8.BCP策定の手順

ここからは、BCP策定の流れについて、その概要を紹介します。

 

8−1. BCPガイドラインを参考にしよう!

BCPを策定しようと考えた時、一から全て作ろうと思うと非常に労力も時間もかかってしまいます。

そこで、BCPのを策定する際には、国が出しているガイドラインや資料などが参考になります。

 

(1)内閣府「事業継続ガイドライン」

例えば、内閣府は、「事業継続ガイドライン -あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応-」を公開しています。

このガイドラインは、業種・業態・規模を問わず全ての企業・組織を対象としており、網羅的な解説がされています。

実際のガイドラインについては、以下をご覧ください。

 

▶︎参照:内閣府「事業継続ガイドライン -あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応-(令和3年4月)」(PDF)

 

 

(2)厚生労働省「介護施設・事業所における事業継続ガイドライン」

また、厚生労働省は、介護施設・事業所における業務継続ガイドラインを公開しています。

ここでは、新型コロナウイルス感染症発生時と、自然災害発生時に分けてガイドラインが公開されており、BCP(事業継続計画)のひな形や様式ツールなども併せて公開されています。

さらには、厚生労働省は同じページで「介護施設・事業所における業務継続計画(BCP)作成支援に関する研修」として、研修動画や資料を公開しており、サービス類型ごとの作成ポイントやアドバイスを動画で学ぶことができます。

厚生労働省が公開している介護施設・事業所における業務継続ガイドラインについて、ひな形や様式ツール、研修動画や資料は、以下よりご覧ください。

 

▶︎参照:厚生労働省「介護施設・事業所における業務継続計画(BCP)作成支援に関する研修」

 

 

BCP(事業継続計画)を作成するにあたって、このような資料を参考にすることで、まずはある程度の形を掴んで見ましょう。

 

【弁護士畑山浩俊のワンポイントアドバイス】

ひな型や、他の事業所が公開しているBCP(事業継続計画)を参考にすることは、決して悪いことではありません。

 

例えば、元々形式的な部分が整っていることで、どこに何を記載すれば良いのかを含め、全体像を把握することができ、BCPの策定のヒントにもなりますし、時間短縮にもつながります。

 

しかしながら、ひな型や他の事業所が公開しているBCP(事業継続計画)は、あくまで一般的な事情や、各事業所の事情を前提として策定されているのであり、必ずしも全ての事業所の事情に合うものではありません。

 

例えば、自然災害や感染症の情報を得るべき情報源としては、国の他、各事業所のある地方自治体の連絡先やホームページを整理しておく必要がありますし、引用しておくべきハザードマップ等も各事業所の所在地によって異なります。

 

また、備品等を大量に備蓄するような計画を立てたとしても、事業所のスペース等の関係で収納が足りず、実現可能性がない場合や、確保するとした避難経路が、実際には他の建物や工作物があって避難できないなど、せっかく策定をしても使えないという場合が発生し得るのです。

 

ひな型や他の事業所の公開しているBCP(事業継続計画)は、あくまで形式面の時間短縮のために利用し、そのBCP(事業継続計画)が事業所に適したものになるよう、事業所全体で検討、検証を行うことに時間を割くようにしましょう。

 

 

8−2.具体的な策定方法

BCPの策定においては、検討すべき事項は多岐に及びます。

しかしながら、ガイドラインを参照しながら、ひな形を埋めていくことである程度の対応が可能です。

そこで、ここからは、自然災害時と、新型コロナウイルス感染症発生時における業務継続計画 について、各ガイドラインで公開されているフローチャートを元に、検討すべき事項の概要を説明します。

なお、各ガイドラインや書式は、以下のページからご覧ください。

 

▶︎参照:厚生労働省「介護施設・事業所における業務継続計画(BCP)作成支援に関する研修」

 

 

(1)自然災害時

 

自然災害時のBCP(事業継続計画)の全体像のフローチャート図

上記は、自然災害時のBCP(事業継続計画)の全体像のフローチャート図です。

 

▶参照元:厚生労働省「自然災害発生時の業務継続ガイドライン」(PDF)

 

 

自然災害時のBCP(事業継続計画)では、大きくは5つのフェーズが想定されています。

 

  • 総論
  • 平常時の対応
  • 緊急時の対応
  • 他施設との連携
  • 地域との連携

 

具体的には、上記のように分類され、それぞれについて定めるべき事項がピックアップされています。

 

1.「総論」

例えば「総論」では、不測時の事態が発生していない段階で検証しておくべき内容として、リスクの把握や、優先業務の選定の他、緊急時に備えて研修や訓練、BCPの検証や見直しをするタイミングやその方法を定めることになります。

 

2.「平常時の対応」

そして、「平常時の対応」として、緊急時に発生が予想される様々な問題に対して、対処方法、代替手段等を検証し、情報を集約しておくことが想定されています。

例えば、電力供給の停止によりシステムが停止すれば、パソコン、サーバー等が利用できなくなるため、ローカルなネットワーク上やノートパソコン等にバックアップをとっておいたり、プリントアウトしておくなどの方策が取り得ます。

このような具体的な方策を、1つ1つ検証しておくことで、緊急時に向けた心構えも備わっていきます。

 

3.「緊急時の対応」

「緊急時の対応」では、緊急時に整えるべき対応体制や拠点、安否確認、避難方法などの具体的な内容や方法を定める他、職員が取るべき行動指針や、実際にどのような状況となった場合に、BCPが発動するのかを明確に定めることが重要になります。

そして、BCPの特徴である、「重要業務の継続」、「復旧対応」などについても、具体的に定めることが求められます。

 

4.「他施設との連携」と「地域との連携」

そして、「緊急時の対応」と並行して行われる「他施設との連携」「地域との連携」では、相互に助け合って利用者等の安全を確保したり、介護サービスの提供を継続できるような環境を整えるため、日頃からネットワークを持っておくことが重要となります。

 

(2)新型コロナウイルス感染(疑い)者発生時

新型コロナウィルス感染(疑い)者発生時のBCP(事業継続計画)の「入所系」のフローチャート図

新型コロナウィルス感染(疑い)者発生時のBCP(事業継続計画)の「通所系」のフローチャート図

新型コロナウィルス感染(疑い)者発生時のBCP(事業継続計画)の「訪問系」のフローチャート図

上記は、新型コロナウィルス感染(疑い)者発生時のBCP(事業継続計画)の「入所系」、「通所系」、「訪問系」それぞれの対応フローチャート図です。

 

▶参照元:厚生労働省「新型コロナウイルス感染症発生時の業務継続ガイドライン」(PDF)

 

 

新型コロナウイルス感染(疑い)者発生時のBCP(事業継続計画)は、大きくは「平時対応」「感染疑い者の発生」「初動対応」「感染拡大防止体制の確立」の4つのフェーズに分かれていますが、通所系サービスについては、「感染拡大防止体制の確立」の前に「休業の検討」というフェーズが入っています。

これは、利用者が施設に通所するという性質上、感染者又は感染疑い者が施設で出た場合、感染者の出た施設へわざわざ通所させることは危険を伴うため、保健所等からの休業要請があった場合や、事業所内で明確に定めた基準に従って、感染疑いが払拭されるまで、又は、感染拡大防止対策が万全になるまでは一時的にサービスを休止する必要があるからです。

「平時対応」については、自然災害時のBCP(事業継続計画)と同様に備品の確保や研修、訓練の実施、BCPの検証、見直しの他、「感染疑い者の発生」時に、「初動対応」に臨むにあたって必要な体制構築や整備をしておくことが必要です。

その他、「感染拡大防止体制の確立」として、感染症に特有の保健所との連携や濃厚接触者への対応などの対策が求められていますが、自然災害時のBCP(事業継続計画)と異なる点として、過重労働・メンタルヘルス対応が含まれていることが特徴的です。

これは、感染症蔓延時においては、自然災害時と異なり業務量の増加が見込まれ、それに比して職員の確保が難しくなる状況が予想されることから、少数の職員の心身に過大な負担がかかることを想定し、事前の対策を求めているのです。

ガイドラインには、具体的にどのようなことを定めるべきかについての案文や、検討事項なども詳細に説明されていますので、BCP策定時には、必ず一読するようにしましょう。

 

【弁護士畑山浩俊のワンポイントアドバイス】

BCPの項目について、どのように定めればいいかわからない部分があった場合には、まずはガイドラインなどで紹介されている例を当てはめた上で、一通り策定してみることが重要です。

 

BCP策定のフローチャートの中には、BCP(事業継続計画)を検証し、見直すことが当然に含まれています。まずは策定をした上で、実際の研修や実習の中で、もし事業所に合わない部分があれば、その都度改定をしていけば良いのです。

 

まずは作り上げること、そして常に検証し、事業所の実情に合ったものにアップロードすることが重要です。

 

 

9.BCP(事業継続計画)にまつわる事業所の責任

ここでは、BCP(事業継続計画)に関して事業所が負い得る責任について解説します。

 

9−1.BCPを策定していなかった場合

もし、令和6年4月までの経過措置期間までに、BCPを策定していなかった場合には、行政上の指導を受けることは当然です。

さらに、BCPの策定が義務付けられているにもかかわらずなんらの措置も講じていなかった結果、事業継続の体制が整っていなかったことが理由で利用者や職員になんらかの被害が出た場合には、安全配慮義務違反に基づく損害賠償義務違反を問われる可能性もあります。

 

9−2.BCPを策定していたのに、運用ができていなかった場合

BCPの策定はしていたものの、内容が事業所内で周知されておらず、また、対策自体も事業所の実情にあっておらず、運用ができていなかった場合には、同様に安全配慮義務違反に基づく損害賠償義務違反を問われる可能性があります。

BCPや介護事業所の例ではありませんが、策定していたマニュアルが運用されていなかった結果、悲惨な事故を招いた事例を紹介します。

 

(1)参考:日和幼稚園バス津波被災事件(仙台地裁平成25年9月17日判決)の事例

​​平成23年3月11日に発生した東日本大震災の際、園で作成されていた災害対策マニュアルの内容を実践しなかった結果、園児5名が津波に巻き込まれ、尊い命が失われてしまった件について、同園を運営する法人等の法的責任が争われた日和幼稚園バス津波被災事件(仙台地裁平成25年9月17日判決、なお、同事件は高裁にて和解により終結)です。

・参照:「日和幼稚園バス津波被災事件(仙台地裁平成25年9月17日判決)

 

1.事例の解説

この園では、災害対策マニュアルが作成されており、その内容は、「地震の震度が高く、災害が発生するおそれがある場合は、全員を北側園庭に誘導し、動揺しないように声掛けして、落ち着いて園児を見守る。園児は保護者のお迎えを待って引き渡すようにする。」というものでした。

日和幼稚園は高台に位置していたことから、「大規模地震の際の津波の可能性に鑑みて、一旦園で待機させる」、という災害対策マニュアルは、園の実態に合った合理的な内容でした。

しかしながら、このマニュアルは職員間で共有されておらず、ほとんどの職員がその内容を知りませんでした。

そして、あろうことか、同園の園長は、大震災発生直後、「園児にとっては保護者の元にいるのが一番安心できるだろう」と考え、園児を保護者の元へ送るべく、「園から園児を乗せたバスを出してしまう」、というマニュアルとは正反対の指示を出してしまったのです。

その結果、園児を乗せたバスは津波に巻き込まれ、バスは横転し、園児5名が車内で火災に巻き込まれ死亡するという悲惨な事故が発生したのです。

なお、津波は、高台にあった日和幼稚園にまでは到達しませんでした。

このマニュアルの不周知とその不徹底が、尊い園児の命を奪い、実際に裁判では、園児1人につき4000万円を超える損害賠償が認められています。

 

これは、BCP(事業継続計画)が適切に運用されなかった場合にも起こり得る事件であり、事業所として責任を免れるため、何より、利用者や職員を守ると言う視点から、BCP(事業継続計画)は確実に運用できるものでなければならないのです。

 

9−3.BCPを策定した上、しっかり運用をしていた場合

事業所の実情に合ったBCPを策定した上、事業所内でしっかりと周知徹底され、運用がされていた場合に、それでもなお利用者や職員になんらかの損害が被った場合には、事業所としては予見可能な危険に対して、できる限りの結果回避義務を果たしたものと言え、損害賠償請求を免れることになります。

BCPの策定と運用により、被害を完全に抑えることはできなくても、できる限り被害を最小限にし、事業所としての責任を免れることが可能になるのです。

 

10.BCP(事業継続計画)に関して弁護士法人かなめの弁護士に相談したい方はこちら

介護業界に特化した弁護士法人かなめによるサポート内容のご案内!

弁護士法人かなめでは、介護業界に精通した弁護士が、以下のようなサポートを行っています。

 

10−1.BCP(事業継続計画)に関する研修の実施

  • 「BCPとはそもそも何か」
  • 「なぜ策定の必要があるのか」

 

そもそもの出発点として、このような疑問を有している事業所は多いのではないでしょうか。

弁護士法人かなめでは、BCP(事業継続計画)に関する研修を実施し、その重要性や、策定時、運営上のポイントなどを、基礎から指導し、職員に対して、BCP(事業継続計画)に対する意識付けをすることができます。

 

10−2.法的観点からのBCP策定のアドバイス

BCPの策定にあたっては、防災の専門家、感染症の専門家等の意見を聞くことも重要ですが、法的な観点からの指摘も非常に重要になってきます。

弁護士法人かなめでは、事業所が法的責任を負う場合について紹介をしながら、どのような対策を取ることで法的責任を免れるかなどを、具体的にアドバイスすることができます。

 

10−3.顧問弁護士サービス「かなめねっと」

弁護士法人かなめでは、「10−1」及び「10−2」のサービスの提供を総合的に行う顧問弁護士サービス「かなめねっと」を運営しています。

具体的には、弁護士法人かなめでは、トラブルに迅速に対応するためチャットワークを導入しています。事業所内で何か問題が発生した場合には、速やかに弁護士へ相談できる関係性を構築しています。

具体的には、弁護士と介護事業所の関係者様でチャットグループを作り、日々の悩み事を、法的問題かどうかを選択せずにまずはご相談頂き、これにより迅速な対応が可能となっています。いつでもご相談いただける体制を構築しています。法律家の視点から利用者様とのトラブルをはじめ、事業所で発生する様々なトラブルなどに対応しています。

直接弁護士に相談できることで、事業所内社内での業務効率が上がり、情報共有にも役立っています。

顧問弁護士サービス「かなめねっと」について詳しくは、以下のサービスページをご覧ください。

 

▶参考:顧問弁護士サービス「かなめねっと」について

 

 

以下の記事、動画でも詳しく説明をしていますので、併せてご覧下さい。

 

▶︎参照:介護施設など介護業界に強い顧問弁護士の選び方や費用の目安などを解説

 

 

 

10−4.弁護士費用

また、弁護士法人かなめの弁護士費用は、以下の通りです。

 

(1)顧問料

  • 月額8万円(消費税別)から

 

※職員従業員の方の人数、事業所の数、業務量により顧問料の金額は要相談とさせて頂いております。詳しくは、お問合せフォームまたはお電話からお問い合わせください。

 

(2)法律相談料

  • 1回目:1万円(消費税別)/1時間
  • 2回目以降:2万円(消費税別)/1時間

 

※相談時間が1時間に満たない場合でも、1時間分の相談料を頂きます。

※スポットでの法律相談は、原則として3回までとさせて頂いております。

※法律相談は、「1,弁護士法人かなめにご来所頂いてのご相談」、又は、「2,ZOOM面談によるご相談」に限らせて頂き、お電話でのご相談はお請けしておりませんので、予めご了承ください。

※また、法律相談の申込みは、お問合わせフォームからのみ受け付けおります。

※介護事業所の経営者側からのご相談に限らせて頂き、他業種の企業様、職員等一般の方か らのご相談はお請けしておりませんので、予めご了承ください。

 

11.まとめ

この記事では、「介護事業所におけるBCP(事業継続計画)」について、その定義や作成すべき理由などについて説明しました。

その上で、BCP策定のポイントの他、感染症の場合と天災の場合のBCP(事業継続計画)の違いについて解説しています。

加えて、もしBCPを策定していない場合に、介護事業所がどのような責任を負い得るのか、そしてBCP策定後、実際にどのような運用をすべきなのかについて、実際の災害時の事例等を紹介しながら解説していますので、BCP(事業継続計画)を作成する際の参考にしてください。

BCPの策定はゴールではありません。

この記事を読んで頂き、BCPの策定を通じて、有事の際にでも事業を継続できる、感染症や災害に強い事業所を作るため、専門家の知見も入れながら、時間をかけてじっくりと、事業所にあったBCPを策定していきましょう。

 

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この記事を書いた弁護士

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畑山 浩俊はたやま ひろとし

代表弁護士

出身大学:関西大学法学部法律学科卒業/東北大学法科大学院修了(法務博士)。
認知症であった祖父の介護や、企業側の立場で介護事業所の労務事件を担当した経験から、介護事業所での現場の悩みにすぐに対応できる介護事業に精通した弁護士となることを決意。現場に寄り添って問題解決をしていくことで、介護業界をより働きやすい環境にしていくことを目標に、「介護事業所向けのサポート実績日本一」を目指して、フットワークは軽く全国を飛び回る。
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中野 知美なかの ともみ

弁護士

出身大学:香川大学法学部法律学科卒業/大阪大学法科大学院修了(法務博士)。
介護現場からの相談を数多く受けてきた経験を活かし、一般的な法的知識を介護現場に即した「使える」法的知識に落とし込み、わかりやすく説明することをモットーとしている。介護事故、カスタマーハラスメント、労働問題、行政対応など、介護現場で発生する多様な問題に精通している。

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