事業所に突然、裁判所からの書面が届くと、多くの方は「どうすれば良いのだろうか」と困惑してしまうのではないのでしょうか。労働者から労働審判が申し立てられると、裁判所から事業所宛に「労働審判手続申立書」と記載された書面が送付され、同封される「呼出状」には、裁判所に出頭すべき期日と答弁書の提出期限が記載されています。
ここで、何の対応もせずに放置してしまったり、事前準備をせず第1回期日を迎えたりしてしまうと、労働者側の請求がそのまま認められ、多額の金銭支払に応じなければならなかったり、労働者の復職を受け入れざるを得なくなってしまう等、事業所にとって大きな不利益を被る可能性があります。
そのため、労働審判が申し立てられた際には、事業者側はどんな流れで、どのように対応をしていかなければいけないのかを予め正しく理解しておくことが非常に重要です。
実は、労働審判は、訴訟を提起された場合よりも早期に紛争を解決できる可能性が高く、柔軟な解決を図ることができるため、事業所側にとってもメリットのある手続きになっています。したがって、申立てに対して早期に、適切に対応することによって、事業所側の損失を最小限に抑えることが期待できるのです。
そこで本記事では、労働審判を起こされた場合の事業所側の対応方法について、分かりやすく解説します。この記事を最後まで読んでいただくと、申立書を受けとったら具体的に何をすべきなのか、期日までに何を準備しておくべきなのかといった、労働審判での紛争解決にあたり事業所としてすべきことが明確になりますので、労働審判の対応にお困りの方は、是非最後までご覧ください。
この記事の目次
1.そもそも、労働審判とは?
労働審判とは、労働者個人と事業主との間で発生した労働関係のトラブルを、迅速・適正かつ実行的に解決するための裁判所での手続きです。通常の訴訟と比べて解決までの期間が平均して約3ヶ月と短く短期での解決が図れること、裁判官だけでなく、労働関係の事情に詳しい専門家を交えた審理で、調停を中心とした柔軟な解決が可能であること、非公開の手続きであること等の特徴があります。
2006年の制度開始から申立件数は増加し、現在年間3000件以上の申立件数があり、労働審判制度は労働関係紛争の解決方法として広く採用される手続きとなっています。
労働審判で審議される事件類型の中でも、特に「解雇・雇止め」「賃金・残業代請求」に関する紛争が多くを占め、他にもパワハラ等のハラスメント関連の件数も上昇傾向にあります。

▶参照元:日本弁護士連合会HPより「労働審判事件の新受・既済件数(地裁)」(pdf)
2.労働審判を申し立てられた場合の流れ(全体の流れ)とは?
労働審判が申し立てられた場合の手続きの流れは、次の通りです。
2−1.労働審判の申立と答弁書の提出
労働審判が申立てられると、裁判所から事業所に「労働審判手続申立書」という書面が送付されます。そうすると、事業所側は、指定された期日までに答弁書を作成し裁判所に提出する必要があります。第1回期日は、労働審判の申立がされた日から40日以内の日に指定され(労働審判規則第13条)、答弁書の提出期限は第1回期日の1週間~10日前までに設定されますので、答弁書の準備期間は1ヶ月程度になります。
2−2.期日での話合い
労働審判では、原則として期日の回数は3回とされています。期日では、労働審判委員会(審判官1名、審判員2名)が中心となって、解決に向けての話合いが行われます。期日ではある程度お互いの主張や事実関係の整理を行った後は、主に調停の試みがされます。
2−3.調停及び審判等
調停の試みは第1回から行われることが多く、調停が成立した段階で、期日は終了となります。したがって第1回期日で手続きが終了となる場合もあります。調停が成立しなかった場合は、労働審判委員会による審判という判決のような決定が行われます。審判内容に不服があるときは、異議の申し立てにより、訴訟に移行することができ、労働者側・事業所側双方どちらからでも異議申立てが可能です。
以下の図も併せてご参照下さい。
▶参考:労働審判手続きの全体像

3.労働審判を申し立てられた場合の会社側の対応ポイントとは?
労働者から労働審判の申立てをされた場合、事業所は適切かつ迅速に対応することが求められます。なぜなら、申立がされてから第1回期日までの約1ヶ月の期間が、事業所側に有利な解決につなげるための非常に重要な期間であるためです。ここでは、事業所の対応として「やらなければいけない対応」と「やってはいけない対応」について、手続きの段階別に詳しくポイントを解説します。
3−1.会社側の対応としておさえておかなければいけない重要ポイント
(1)申立て~第1回期日前のポイント

① できるだけ早期に弁護士に相談する。
事業所に「労働審判手続申立書」が届いたら、まずすべきことは、早期に弁護士に相談することです。理由については、「6.労働審判を申し立てられたら弁護士に早急に相談しなければいけない理由とは?」で詳しく解説していますので、ご覧下さい。
② 早急に答弁書の作成を開始する。
「答弁書」の作成は、事業所側にとって労働審判手続きの結果に大きく影響する非常に重要なポイントになります。労働審判では、事業所側からの主張や反論については、第1回期日前に提出する「答弁書」にすべて書ききり、主張等を裏付けるための証拠もすべて提出する必要があります。
提出された「答弁書」を元に、労働審判委員会の心証もある程度形成された上で第1回期日が開催されますので、「答弁書」はできるだけ内容の充実した、分かりやすい書面であることが、手続きを事業所側に有利に進めるための重要なポイントとなります。
答弁書の提出期限は、労働審判申立書と共に送付される「第1回労働審判手続期日呼出状及び答弁書催告状」に記載されていますので、必ず確認し、期限までに提出するようにしましょう。
▶参考:答弁書の記載内容や書き方などについては、以下の記事で詳しく解説しています。あわせてご参照ください。
③ 何を申し立てられているかを正しく把握する。
労働者側からの主張は、すべて「労働審判手続申立書」に記載されています。「申立ての趣旨」には、労働者側が事業所側に何を求めているのかが簡潔に書かれています。まずはその記載を読み取り、どのような請求がされているのか(金銭の請求なのか、復職の要求なのか等)を確認しましょう。その上で、「申立ての理由」の内容を確認します。「申立ての理由」には、労働者側の主張が詳細に記されています。一文ずつ、丁寧に記載を確認し、事業所側の認識と相違がある点はどこか、反論すべき点はどこかを整理していきましょう。
④ 事実確認と証拠資料の収集を行う。
申立内容を確認したら、申立人の主張する事実について事実関係の確認を行いましょう。必要であれば、申立人の上司や同僚等に聞き取りを行うこともあります。労働審判で証拠として提出する場合が多い資料は次の通りです。これらの資料は、すぐに準備できるようにあらかじめ用意しておきましょう。
- 就業規則等の諸規程
- 雇用契約書(労働条件通知書)
- 給与明細書
- タイムカード等の勤務時間が確認できる書類
- 業務日報
⑤ 解決金の相場を知っておく。
労働審判では、調停による解決の場合、事業所側から労働者側へ「解決金」を支払って和解するケースがほとんどです。調停の試みは第1回期日から行われますので、早期解決を目指す場合には、期日が始まる前に、当該事案の場合に支払うべき解決金がどのくらいかの相場感をもっておくことで、交渉が進めやすくなります。
解決金の金額は、労働者側からの請求金額、労働者の年収や年齢、証拠資料の有無、労使双方の感情、事業所側の経営状況等、様々な要因によって決まります。法的な専門知識や経験がないと判断は難しいので、解決金については労働事件に詳しい弁護士に確認するようにしましょう。
▶参考:労働審判における解決金の相場については、以下の記事で詳しく解説しています。こちらもあわせてご参照ください。
⑥ 落としどころを決めておく。
労働審判は調停以外にも、労働審判委員会の審判を受ける、訴訟に移行するといった解決方法があります。早期解決を望むのであれば、ある程度解決金を高く支払っても調停での解決が良い場合もありますが、一方で、事業所として譲歩しない態度を示すという意味で、事業所側の主張が認められない場合は訴訟に移行してでも争う方が良い場合もあり、落としどころはケースバイケースです。事業所としてどのような対応方針で進めるかをあらかじめ決めておくことは、手続きを有利に進めていくためのポイントになります。
労働審判において、事業所側としては、第1回期日までの期間でどれだけ入念に準備できるかが、手続きの結果を左右することになります。上記「① できるだけ早期に弁護士に相談する。」~「⑥ 落としどころを決めておく。」のポイントを念頭において、できれば第1期日までに、労働者や労働審判委員会から想定される質問を整理し、事前にリハーサルを行っておくことが望ましいでしょう。
(2)労働審判期日のポイント

① 理事長や取締役等、決裁権限のある役員や、事案の事情に詳しい担当者が出席するようにする。
労働審判期日では、労働審判委員会から直接当事者に質問がされます。この際、質問にうまく答えられなかったり、曖昧な回答を繰り返してしまったりすると、労働審判委員会の心証が悪くなり、話合いが不利に進んでしまう可能性がありますので、事情をよく知る職員が出頭することが望ましいでしょう。
また、労働審判では、第1回期日から調停が試みられるため、初回から具体的にどのくらいの解決金で和解をするかの打診がされることも多いです。話合いの中で、事前に想定していた以上の解決金を要求された場合にどのように対応をするかは、決裁権限のない担当者ではその場で決めることが難しくなります。そこで、期日を長引かせないためには、権限のある役員等が出頭し、柔軟な判断が可能にしておくことがポイントです。
② 感情的にならず、冷静な対応を心がける。
労働審判期日では、裁判所から事業所側に対して、あまり議論が進んでいない段階から、事業所側に問題があることを前提とするかのような言い方がされたり、そもそも事実関係を棚上げした上で、いきなり「いくら払えますか」と聞いてきたりするような場面があり得ます。
そのため、労働審判期日に出席した代表者や担当者の方の中には、「どうして裁判所は事業所側が悪いと決めつけるんだ!」と腹を立て、態度が悪くなったり、強い言葉で反論をして険悪なムードを作ってしまうことがあります。
しかし、裁判所は、必ずしも事業所側が悪いと決めつけているわけではなく、あくまで労働審判の目的によるところが大きいケースが多々あります。つまり、労働審判では、調停での解決を目指すことに主眼が置かれており、その解決方法として、事業所側が一定の解決金を払う、というケースが多いのが実情です。
そのため、裁判所としても、1回目の早い段階から、事業所側がどの程度の解決金の支払いを想定しているのか知りたいと考え、場合によっては事業所側の責任を前提としたような物言いになることがあるのです。
感情的に発言してしまうと、事前に弁護士と相談して話すことを決めていた内容を話せなくなったり、場合によっては、口が滑り、事業所側に不利にとられかねない発言をしてしまうことさえあります。そのため、労働審判期日に出席する際は、このような労働審判の目的を前提に、裁判所側の態度に一定の理解を持って臨むことで、必要以上に感情的になることを防ぐことができます。
なお、事業所側として反論すべき場合はもちろんあります。その際は、冷静に、かつ、説得的な説明をするため、弁護士としっかり相談し、発言をするようにしましょう。
(3)調停成立時のポイント

① 調停の合意内容について詳細に決めておく。
調停の内容は、法的な規定があるわけではなく、労働者側との話合いによって自由に決めることができます。将来の紛争の予防のためにも、労働者側と確認しておきたいこと、約束しておきたいことについては、詳細に取り決めをしておきましょう。
例えば、以下のような内容を定めることができます。
- 調停の内容や事案の経緯等について第三者に口外しないことを約束する(口外禁止条項)。
- 調停の内容以外に労働者側から請求できる権利はないことを確認する(権利放棄条項)。
- 調停で取り決めた内容以外は、お互いに何ら請求することはできないことを確認する(包括的清算条項)。
- 退職日の合意をする。
- 業務の引継ぎ義務があることを確認する。
- 貸与していたものの返還を約束する。
- 退職金や解決金などの支払い方について詳細に明記する(税金の控除についてや支払い先等)。
② 解決金の支払方法について明確にしておく。
解決金の支払いに関して注意すべきことの一つとして、課税関係の問題があります。実質課税の原則から、「解決金」という名目での支払いだとしても、その性質が実質的に賃金の性質がある支払いであれば、源泉所得税の納付が必要となり、事業所側の損失が増えることになってしまいます。
例えば、申立人である労働者側からの請求が当初から「慰謝料」請求のみであれば、当該案件の解決金の性質は「慰謝料」であると考えられますので、この場合は課税されることはありません。ただし、労働審判で慰謝料のみの請求を行うケースは少なく、多くの場合、残業代や退職金等と一緒に請求されますので、「解決金」の中に様々な性質の金銭が混同していると考えられます。
このような課税リスクがある場合の対処法としては、調停の際に予め源泉所得税額も考慮に入れて解決金金額の設定を行うことです。この方法であれば、解決金から源泉所得税分を控除して支払うことを取り決めするよりも、労働者側や審判官の合意も得やすいと考えられます。
このように、課税関係の問題があることを念頭において、解決金の話合いを行うことがポイントです。詳しくは、顧問税理士の先生にご確認ください。
3−2.会社側がやってはいけない対応とは?

労働審判で事業所側に有利に進めていくためにやってはいけない対応は、以下の2つです。
- ① 裁判所からの期日の呼出しに出頭しない。
- ② 答弁書の内容をおろそかにする・期限までに提出しない。
以下で、解説します。
(1)裁判所からの期日の呼出しに出頭しない。
労働者側から労働審判の申立がされると、裁判所から事業所宛てに、「労働審判手続申立書」の写しと、「第1回労働審判手続期日呼出状及び答弁書催告状(以下、呼出状といいます。)」が送付されます。
呼出状には、答弁書の提出期限と第1回期日の日程が記載されています。労働審判における裁判所からの呼出しは、法律に規定されているものであり、これを無視して出頭しない場合、五万円以下の過料が科されます。それだけではなく、答弁書の提出もせず、事業所側が出頭しない場合は、労働者側の請求がそのまま認められた審判がされる可能性があります。裁判所からの呼出状は絶対に無視せず、期日には必ず出頭するようにしましょう。
▶参考:労働審判法第31条
(不出頭に対する制裁)
第三十一条 労働審判官の呼出しを受けた事件の関係人が正当な理由がなく出頭しないときは、裁判所は、五万円以下の過料に処する。
・参照元:「労働審判法」の条文
(2)答弁書の内容をおろそかにする・期限までに提出しない。
「答弁書」は労働者側の主張に対する事業所側の主張・反論をまとめた書面です。労働審判手続きにおいては、「答弁書」の内容が結果を左右するといっても過言ではない程、事業所側にとって重要な書面になります。なぜなら、労働審判は短期決戦であるため、労働審判委員会は、期日前に提出される答弁書を読み込み、あらかじめ心証を形成した上で第1回期日を迎えるためです。
答弁書にきちんとした主張・反論がされていない場合は、労働者側が有利な状況で期日が始まり、口頭だけでの主張では流れを変えることが難しい場合があります。期限までに提出しないことも、同様に労働審判委員会に悪い印象を与えてしまうことになりますので、答弁書はできるだけ分かりやすく、丁寧に作成し、期限までに提出するようにしましょう。
4.労働審判は事業者側にとって不利なのか?
事業所運営をされている方の中には、労働者保護の観点から、労働審判制度は事業所側に不利なのではないかと不安に感じられる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、労働審判は、事業所側にとって決して不利な制度ではありません。
確かに労働審判の申立てがされると、事業所側としては解決金と呼ばれる一定の金銭の支払が必要となることが多いですし、申立てに対する答弁書の提出までの期間が短いため、反論のための準備期間を十分に確保することが難しい点も事業所側にとってはデメリットとなるでしょう。
しかし、一方で、労働審判は訴訟に比べて短期間で解決を図ることができ、経済的負担も軽減できる可能性があること、調停になれば和解のための条件を細かく取り決めることができること等、事業所側にとってメリットとなる点も多い制度なのです。
したがって、労働審判の制度の特徴を理解した上で適切に進めていくことで、むしろ事業所側に有利な解決をすることが期待できます。
▶参考:労働審判は事業所側にとって不利ではないことや、その理由などについては、以下の記事で詳しくは解説しています。こちらの記事もあわせてご参照下さい。
5.労働審判の事業者側の費用はいくらか?

労働審判対応において事業所側に必要となる費用は主に以下の3つがあります。
- (1)解決金
- (2)弁護士費用
- (3)出頭に要する交通費等
もちろん案件の内容によって金額は変動しますが、解決金は100万~200万円、弁護士費用は60万〜100万円程度であることが多いようです。
以下で詳細について解説します。
5−1.解決金
解決金とは、事業所側が労働者側に対して紛争の解決のために支払う金銭のことです。労働審判では、基本的に両者の話合いによる解決(調停)を図りますが、その場合、事業所側から労働者側に一定の金銭の支払いを行って解決することが一般的です。
解決金の金額については、目安として厚生労働省の行った調査が参考になります。この調査によると、労働審判事件における解決金の中央値は150万円となっており、最も件数の多い解決金額は、100万~200万円となっています。
ただし、解決金の金額は、事件の類型、労働者の勤続年数や収入、事業所側の経営状況、労使双方の感情等、様々な要因によって決定されますので、事案によって異なります。事案によって、少ない解決金で済むこともあれば、より高額の支払が必要となる場合もありますので、参考程度にとどめておくようにして下さい。

・参照元:厚生労働省「労働審判事件等における解決金額等に関する調査に係る主な統計表」より(pdf)
▶参考:労働審判の解決金の相場や金額の決まり方などについて詳しくは以下の記事で解説しています。あわせてご参照ください。
5−2.弁護士費用
事業所側の労働審判手続きについては、弁護士に依頼することが一般的です。弁護士に依頼した場合、弁護士費用として必要となる費用は、主に以下の5つがあります。
(1)相談料
相談料は、弁護士に法律相談をする場合にかかる費用です。 スポットでの法律相談の際にかかることが多いです。一般的には30分5000円や1時間1万円からが相場です。
(2)着手金
着手金は、弁護士が事件に着手する際に必要となる費用で、事件の対応を依頼した時点で支払わなければならない費用です。その結果のいかんにかかわらず、返金されないのが原則です。着手金の金額は、相手方からの請求金額や請求内容で決まりますが、30万~50万円程度であることが多いです。
(3)報酬
報酬は、事務処理の結果に成功不成功がある事件等について、事件が解決した際にその成功の程度に応じて支払う費用です。報酬の金額は、弁護士が事件対応した結果得られた経済的利益から算定されます。
(4)実費
実費は、事件の手続きのために必要となる諸費用で、郵送費用、コピー代、交通費、印紙代等があります。
(5)日当
委任事務処理のために、事務所所在地を離れ、移動によってその事件等のために拘束されることの対価です。移動時間や拘束時間を基準に、弁護士1人あたり〇万円等といった定めをすることが一般的です。
5−3.出頭に要する交通費等
労働審判手続きでは、最大で3回の期日が設けられています。期日には、労働者側と事業所側双方の代表者が裁判所へ出頭し、お互いの主張や意見を述べなければいけません。期日の流れによって、早い段階で調停が成立すれば期日の回数も少なくなりますし、調停が成立しなければ、3回の出頭が必要となります。
ここで注意が必要なのが、複数の事業所がある法人の場合、出頭する裁判所が遠方になってしまう可能性があることです。
期日の行われる裁判所は、労働者側から労働審判の申立がされた裁判所になりますが、労働者側は申立をする裁判所を下記の3つから選ぶことができます。(労働審判法第2条第1項)
- ①相手方の住所、居所、営業所若しくは事務所の所在地を管轄する地方裁判所
- ②個別労働関係民事紛争が生じた労働者と事業主との間の労働関係に基づいて当該労働者が現に就業し若しくは最後に就業した当該事業主の事業所の所在地を管轄する地方裁判所
- ③当事者が合意で定める地方裁判所
事業所が全国にあるような法人の場合、労働者側が「②」を選択すると、当該労働者の就業場所によっては、出頭する裁判所が遠方になってしまい、交通費も高額になってしまう可能性があります。
6.労働審判を申し立てられたら弁護士に早急に相談しなければいけない理由とは?
労働審判手続きでは、裁判所から事業所側へ申立書が送付された時点で、答弁書の提出期限が2週間~1ヶ月程度で設定されるため、事業所側の準備期間が非常に短く、その中で事業所側の意見や反論の整理、証拠の収集、答弁書の作成といった準備が必要になるため、申立書を受取ったら、できるだけ早急に弁護士に相談することが重要です。
以下で詳しく見ていきましょう。
6−1.準備期間が短い
労働審判が申し立てられると、事業所側は「答弁書」という書面の提出が求められます。「答弁書」とは、申立書に記載された労働者側の主張に対する、事業所側の意見や反論を書いた書面です。労働審判では、その制度の性質上、「答弁書」に記載する内容が非常に重要なポイントとなり、手続きの結果を左右するといっても過言ではありません。
答弁書の提出は、前述の通り、申立書が事業所に届いてから2週間~1ヶ月程度で提出期限が設けられます。したがって、申立書が届いた段階で、出来るだけ早く弁護士に相談して準備を開始する必要があります。
6−2.法的な専門知識が不可欠
労働審判手続きにおいては、手続きの各場面で法的な専門知識が求められます。
例えば、「答弁書」の作成においては、労働者側から「解雇は無効である」という主張があった場合、具体的にどのような事実があったのかを調査して「解雇の正当性があるかどうか」を法的な枠組みや過去の判例に照らし合わせて判断し、その上で適切な証拠資料を収集し、労働審判委員会が事実関係や主張内容を理解しやすいように「答弁書」にまとめて提出する必要があります。このような法的な判断や判断の元になる事実の整理は、非常に高度な専門知識が求められます。
また、裁判所における期日での調停(和解の試み)に関しても、審判官から提示される解決金の相場感は、労働関係の紛争解決の経験がないと、事業所側にとって有利であるか、不利であるかは判断することが難しいです。
このような各場面でも、弁護士に対応してもらうことで、事業所の負担を軽減できますし、結果として手続きを有利に進めることが期待できます。
▶参考:労働審判手続きを弁護士に相談するメリットについては、以下の記事で詳しく解説しています。あわせてご参照ください。
7.実際に弁護士法人かなめが労働審判の事業者側の対応をサポートした事例
ここでは、実際に弁護士法人かなめの弁護士が、介護事業所で発生した労働審判トラブルに関しての対応をサポートした解決事例をご紹介します。
7−1.自主退職した職員から、長時間労働による未払いの割増賃金の請求と、メンタルヘルス不調となったことに対して損害賠償の請求をされた事案
(1)事例の概要
この事例は、事業所を自主退職した職員から、長時間労働による未払いの割増賃金の請求と、長時間労働によりメンタルヘルス不調となったことに対して損害賠償の請求をされた事案です。
主な争点となったのは、実際の労働時間数です。具体的には、当該事業所ではタイムカードによる打刻がされていたものの、職員側からは、始業時の打刻をする以前から出勤していた事実や、終業時の打刻をする以後も勤務していた事実が主張され、その証拠として、出退勤時に家族に送っていたチャットアプリの送信履歴や、業務に利用していたパソコンの操作ログなどを提出していました。
事業所側としては、当該職員が一定の長時間労働をしていたことは認識していましたが、事業所からはかなりこまめに「早く帰るように」「そんなに早い時間に来なくて良い」との指導をしており、その中での長時間労働の主張は納得ができない、と言う思いを持っていました。
また、実際に、提出されたチャットアプリの送信利益やパソコンの操作ログなどは、割増賃金の請求期間の一部であり、毎日早朝出勤、夜遅くまでの勤務がされていたと言うことはないとの主張もありました。
そこで、事業所側の方針としては、一定の割増賃金相当額は支払うことを前提に、その金額について、タイムカード通りに計算した場合の労働時間、提出された証拠に基づいて、一部のみ職員側の主張を認めた場合の労働時間、職員側が主張する労働時間などを元に、裁判所で認められる可能性のある割増賃金の額を想定しつつ、その上で解決金の額について事前に上限を打ち合わせた上で、労働審判期日に臨みました。
(2)サポートした解決結果
労働審判期日では、事業所側の主張としては、タイムカード通りの労働時間が正しい労働時間である、としつつも、一定の解決金を支払う意向があることを裁判所に伝え、その金額についての擦り合わせを早い段階から進めてほしい旨伝えました。
この申し出を前提に、2回目以降は主張の応酬ではなく、解決金の金額に関するやり取りがメインとなり、結論としては、職員が主張する労働時間のうち、証拠上認定ができる労働時間をベースとして計算した金額に、解決金としていくらか上乗せした金額で調停が成立しました。
この金額は、職員側の主張する金額の半分程度の金額でしたが、早期に解決金の支払いをすることなどを条件として加えたことで、合意することができました。
(3)この事例のポイント解説
この事例では、事業所側に、一定の割増賃金相当額の支払いはやむを得ないと考える土壌があったことや、実際、勤務中の当該職員は、業務指示には反していたものの事業所のために一生懸命働いていたことを担当者も認識していた、と言う事情がありました。
そのため、法的な主張としては受け入れ難い部分があるものの、当該職員の退職までの事業所への貢献などを加味して解決金の額を考えることができた点が、早期解決に繋がったと考えています。また、法的な主張の応酬を早々にやめ、解決金の額にしぼった議論に切り替えたことも、当該職員の気持ちを逆撫でせず、合意がしやすい状況を作ることができた大きな要因だと考えています。
労働審判は、ただ法的な主張を戦わせる場と言うだけでなく、事業所運営を早期に適正化するため、柔軟な解決を図ることができる手続きでもあります。労働事件の経験が豊富な弁護士と相談しながら、何が事業所にとって最も利益となるかを総合的に捉えつつ進めていくことが重要です。
8.労働審判の事業者側の対応を弁護士法人かなめの弁護士に相談したい方はこちら

弁護士法人かなめでは、労働関係紛争に精通した弁護士が労働審判手続きに関して以下のようなサポートを行っています。
8−1.労働審判の代理業務
労働審判手続きにおける事業主側の代理人として、以下のような業務をすることができます。
- 答弁書の作成、提出
- 証拠資料の収集、精査
- 関係者への聞き取り
- 残業代等の金額の算定
- 金銭的解決を図るのであれば適切な解決金額の算定
- 期日への出頭
これらの他にも、事案に応じて事業所側が対応すべき手続きを代理人としてトータルに行いつつ、事業所側の対応のサポートや助言もできますので、事業所側の負担を軽減し、金銭的損害を最小限に抑えることができます。
8−2.介護事業者の法務面を総合的にサポートする顧問弁護士サービス「かなめねっと」
弁護士法人かなめでは、「8−1.労働審判の代理業務」サービスなど介護事業者の法務面を総合的にサポートする顧問弁護士サービス「かなめねっと」を運営しています。
具体的には、トラブルに迅速に対応するためチャットワークを導入し、事業所内で何か問題が発生した場合には、速やかに弁護士へ相談できる関係性を構築しています。そして、弁護士と介護事業所の関係者様でチャットグループを作り、日々の悩み事を、法的問題かどうかを選択せずにまずはご相談頂き、これにより迅速な対応が可能となっています。直接弁護士に相談できることで、事業所内での業務効率が上がり、情報共有にも役立っています。
顧問弁護士サービス「かなめねっと」について詳しくは、以下のサービスページをご覧ください。
また以下の記事、動画でも詳しく説明をしていますので、併せてご覧下さい。
▶︎参考:介護施設など介護業界に強い顧問弁護士の選び方や費用の目安などを解説
▶︎参考:【介護・保育事業の方、必見】チャットで弁護士と繋がろう!!介護保育事業の現場責任者がすぐに弁護士に相談できる「かなめねっと」の紹介動画
弁護士法人かなめには、介護業界や労働問題の分野に精通した弁護士が所属しており、丁寧なアドバイスと適切なサポートを行うことで、介護事業所の皆様の問題解決までの負担等を軽減させることができます。現在労働審判手続きについてお悩みの事業所の方は、早い段階でお問い合わせ下さい。
8−3.弁護士費用
(1)顧問料
- 顧問料:月額8万円(消費税別)から
※職員の方の人数、事業所の数、業務量により顧問料の金額は要相談とさせて頂いております。詳しくは、以下のお問合せフォームまたはお電話からお問い合わせください。
また、顧問弁護士サービス以外に弁護士法人かなめの弁護士へのスポットの法律相談料は、以下の通りです。
(2)法律相談料
- 1時間3万3000円(税込み)
※相談時間が1時間に満たない場合でも、1時間分の相談料を頂きます。
※法律相談は、「1.弁護士法人かなめにご来所頂いてのご相談」、又は、「2.Zoom面談によるご相談」に限らせて頂き、お電話でのご相談はお請けしておりませんので、予めご了承ください。
※介護事業所の経営者側からのご相談に限らせて頂き、他業種の企業様、職員等一般の方か らのご相談はお請けしておりませんので、予めご了承ください。
9.まとめ
この記事では、労働審判が申立てられた場合の事業所側の対応方法について解説しました。
事業所としてするべき対応としてはいけない対応をまとめると以下の通りです。
【労働審判が申立てられた場合の事業所側がすべき対応】
- 申立書が届いたら早期に弁護士に相談する。
- 申立書をよく読み、何を請求されているかを把握する。
- 答弁書の作成に早急にとりかかり、証拠書類の収集を丁寧に行う。
- 解決金の相場について知る。
- 事業所の方針(落としどころ)を決めておく。
【事業所側がやってはいけない対応】
- そのまま放置し、何も対応しない。
- 期日に出頭しない。
- 答弁書の作成をおろそかにする、または提出しない。
事業所にとって労働者とのトラブルは大きな負担となりますが、労働審判は早期に紛争を解決できるチャンスととらえ、誠実に、丁寧に対応することが事業所の今後の経営にとってもプラスになります。労働審判の申立がされたら、事業所の負担を軽減しつつ納得のできる解決ができるように、早期に労働紛争に詳しい弁護士に相談するようにしましょう。
「弁護士法人かなめ」のお問い合わせ方法
介護事故、行政対応、労務問題 etc....介護現場で起こる様々なトラブルや悩みについて、専門の弁護士チームへの法律相談は、下記から気軽にお問い合わせください。
「受付時間 午前9:00~午後5:00(土日祝除く)」内にお電話頂くか、メールフォーム(24時間受付中)よりお問合せ下さい。
介護事業所に特化した法務サービス「かなめねっと」のご案内
弁護士法人かなめではトラブルに迅速に対応するためチャットワークを導入しています。他にはない対応力で依頼者様にご好評いただいています。
「かなめねっと」では、弁護士と介護事業所の関係者様、具体的には、経営者の方だけでなく、現場の責任者の方を含めたチャットグループを作り、日々現場で発生する悩み事をいつでもご相談いただける体制を構築しています。
法律家の視点から利用者様とのトラブルをはじめ、事業所で発生する様々なトラブルなどに対応します。 現場から直接、弁護士に相談できることで、社内調整や伝言ゲームが不要になり、業務効率がアップします!
介護業界に特化した経営や現場で使える法律セミナー開催情報


弁護士法人かなめが運営する「かなめねっと」では、日々サポートをさせて頂いている介護事業者様から多様かつ豊富な相談が寄せられています。弁護士法人かなめでは、ここで培った経験とノウハウをもとに、「介護業界に特化した経営や現場で使える法律セミナー」を開催しています。セミナーの講師は、「かなめ介護研究所」の記事の著者で「介護業界に特化した弁護士」の畑山が担当。
介護施設の経営や現場の実戦で活用できるテーマ(「労働問題・労務管理」「クレーム対応」「債権回収」「利用者との契約関連」「介護事故対応」「感染症対応」「行政対応関連」など)を中心としたセミナーです。
弁護士法人かなめでは、「介護業界に特化した弁護士」の集団として、介護業界に関するトラブルの解決を介護事業者様の立場から全力で取り組んで参りました。法律セミナーでは、実際に介護業界に特化した弁護士にしか話せない、経営や現場で役立つ「生の情報」をお届けしますので、是非、最新のセミナー開催情報をチェックしていただき、お気軽にご参加ください。
介護特化型弁護士による研修講師サービスのご案内
弁護士法人かなめが運営している社会福祉法人・協会団体・自治体向けの介護特化型弁護士による研修講師サービス「かなめ研修講師サービス」です。顧問弁護士として、全国の介護事業所の顧問サポートによる豊富な実績と経験から実践的な現場主義の研修を実現します。
社会福祉法人の研修担当者様へは、「職員の指導、教育によるスキルアップ」「職員の悩みや職場の問題点の洗い出し」「コンプライアンスを強化したい」「組織内での意識の共有」などの目的として、協会団体・自治体の研修担当者様へは、「介護業界のコンプライアンス教育の実施」「介護業界のトレンド、最新事例など知識の共有をしたい」「各団体の所属法人に対して高品質な研修サービスを提供したい」などの目的として最適なサービスです。
主な研修テーマは、「カスタマーハラスメント研修」「各種ハラスメント研修」「高齢者虐待に関する研修」「BCP(事業継続計画)研修」「介護事故に関する研修」「運営指導(実地指導)に関する研修」「各種ヒヤリハット研修」「メンタルヘルスに関する研修」をはじめ、「課題に応じたオリジナル研修」まで、介護事業所が直面する様々な企業法務の問題についてのテーマに対応しております。会場またはオンラインでの研修にご対応しており、全国の社会福祉法人様をはじめ、協会団体・自治体様からご依頼いただいております。
現在、研修講師をお探しのの介護事業者様や協会団体・自治体様は、「かなめ研修講師サービス」のWebサイトを是非ご覧ください。








