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降格とは?処分の内容や降格人事との違い、違法になる場合や注意点を解説

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「パワーハラスメントが散見され、上長としての適性に欠けているばかりか、度重なる注意を行っているのに、改善が見られない」「不適切介護に対し注意指導を継続的に行ってきたが、利用者を傷つけるような態度や行動が改善されない」など、問題行動に対する注意指導を行い、戒告や減給などの懲戒処分を行ったにも関わらず状況が改善されない場合、次にどのような対応が適切であるか、という判断は事業所にとって非常に難しいものです。

特に、役職者である職員は勤怠管理や業務指導などを行う立場にあり、職場の規律を保つうえで一般の職員の模範となる姿勢が求められることから、厳しく対応する必要があります。また、何らかの役職に就いている職員の非違行為や、他の職員を管理する立場の職員による業務怠慢は、他の職員の問題行動を誘発する可能性もあり、早急な対応が求められます。

そもそも、事業所は、すべての職員に対して安全配慮義務を負っており、職場環境を健全に保ち、事業所の秩序を守る責任がありますが、現場で職場環境の整備や実際に指導を行うのは、上長やリーダーとなる職員です。

そのような役職者である職員が、問題行動の多い職員を放置したり、自身が業務怠慢や非違行為を続けた場合、職場環境が劣悪になり、他の職員のメンタルヘルスの不調を引き起こしたり、結果的に退職に繋がる可能性もあります。

このように事業所が、問題職員に対して適切な対応をしないなど職場環境の整備を怠った結果、メンタルヘルス不調や退職の原因となった場合、損害賠償請求を受けることもあり、事業所にとって、問題職員への対応は決して無視ができない重要な課題なのです。

問題行動を繰り返す職員や、その役職に見合わない業務を行う職員に対する対処法のひとつとして、降格処分があります。

降格処分は、懲戒処分の中でも、「懲戒解雇」「諭旨解雇」の次に厳しい処分であり、役職や職務上の資格を下位に引き下げる処分です。役職等の引き下げに伴い、これまで給与とともに支給されてきた手当や役職給が支払われなくなることが一般的であり、処分を受けた職員にとっては、減給処分とは異なり、継続的に給与が減少するため、経済的な影響が非常に大きい処分です。

そのため、職員から処分の内容や有効性を争われることも珍しくなく、他の軽い懲戒処分に比して、適切なプロセスを踏まなければ、処分が無効になるリスクも高くなります。一方で、降格処分は非常にインパクトの強い処分であることから、適切に行うことができれば、企業秩序が守られ、職場環境を健全に保つことに繋がるため、事業所で働く他の職員の利益にも繋がります。

降格処分を効果的に活用するためには、懲戒事由の発覚時から計画的な準備、正しい判断と手続きのもと、降格処分を行うことが非常に重要なのです。

この記事では、降格の種類や他の懲戒処分との違い、また、降格処分を含む懲戒処分の根拠などを紹介した上で、降格処分を行うべき事例や具体的な手続きについて解説します。最後までお読みいただくことで、問題のある職員に対する懲戒処分の選択肢として、降格処分を有効に利用することができるようになります。

それでは、見ていきましょう。

 

1.降格とは?意味や定義について

降格(「降格(こうかく)」と読みます。)と言われるものには、一般的に、以下のの2つがあります。

 

  • ①役職や職位を引き下げるもの(いわゆる「昇進」に対する「降格」)
  • ②職能資格制度における資格や、職務等級制における等級を引き下げる(給与を下げる)もの(いわゆる「昇格」に対する「降格」)

 

▶参考:職能資格制度とは?

職能資格制度とは、従業員の職務遂行能力を基準として人事考課を行う制度のことです。職務や職種に関わらず、配置転換をしても人事考課が可能なことからジェネラリストの育成に向いており、転勤や配属などが多くある日本企業で発展したといわれています。

 

▶参考:職務等級制とは?

職務等級制とは、職務の価値の大きさによって序列を作る制度で、属人的な要素(学歴や勤続年数など)に関係なく、職務の種類と業績により横断的な人事考課を行います。実力主義の欧米文化に根付いており、転属で職務内容が変わった場合や等級が下がった場合、支給される賃金額が変更されます。

 

 

①と②のいずれも、役職または職務上の資格や等級を下げる点では同じですが、①が役職の権限のみを剥奪するのに対し、②は給与の減額を伴う点で違いがあります。

 

1−1.「降格」には2種類がある

「降格」には2種類がある

「降格」には、「懲戒処分としての降格」と「人事権の行使としての降格(降格人事)」の2種類があります。本記事は「懲戒処分としての降格」にスポットを当てた記事ではありますが、「人事権の行使としての降格」との違いについて知っておくことは「懲戒処分としての降格」を行う上でも非常に重要なポイントとなりますので、ここでは、その違いについて解説します。

なお、詳しくは「4.懲戒処分としての降格処分と人事権の行使としての「降格」の違いは?※ページ内リンク 」で解説します。

 

(1)懲戒処分としての「降格処分」とは?

懲戒処分としての「降格処分」とは、懲戒処分の中でも、「懲戒解雇」「諭旨解雇」の次に厳しい処分であり、他の懲戒処分同様、事業所で勤務する職員に規律違反行為があった場合の制裁罰です。職員の役職または職能資格や資格等級を引き下げ、これまで与えられていた権限が剥奪されるだけでなく、それに伴って、役職手当や資格給などが不支給となることもあり、経済的な影響が非常に大きい処分です。

懲戒処分としての降格を行う場合には、以下の3点が必要となります。

 

  • 就業規則に懲戒処分として降格できる旨を規定し、周知していること
  • 当該懲戒事由に相当する問題行為があったこと
  • 当該懲戒処分に相当性があること

 

(2)人事権行使としての「降格」とは?(降格人事)

「人事権」とは、採用、配置、異動、人事考課、昇進、降格、休職、解雇など、企業組織における労働者の地位の変動や処遇に関する使用者側の決定権限のことをいいます。

企業や組織には、経営判断の観点から、各労働者の適性や資格などを見極め、適材適所に配置することが当然に認められています。そのため、労働者は労働契約を締結している以上、原則として、この人事権の行使に服する必要があります。

例えば、責任のある役職に就いた職員について、管理者としての適性や能力不足が発覚した場合、事業所側は当該職員を「不適任」として、その役職や資格を変更することができます。また、組織改編や事業所の合併などで役職自体がなくなる場合、当該役職に就いていた職員を別の部署に配置転換した結果、実質的に元々の役職より権限が制限されることがあります。これが、人事権の行使としての「降格」(降格人事)です。

なお、人事権の行使としての「降格」の場合も、権利の濫用となる場合は無効になる可能性があります。特に、給与に影響がある場合には、人事権の行使が権利の濫用とならないように慎重な判断が必要です。

 

1−2.「降職」「降給」「降任」との違いは?

「降格」と似た言葉で「降職」「降給」「降任」などの言葉があります。以下では、その違いについて見ていきましょう。

 

(1)降職

降格と同じ意味で使われる言葉ですが、主に職位や役職を解く、又は引き下げる処分のことを言います。等級や資格を引き下げる場合を「降格」と表現し、明確に分けて使用することもありますが、実務上はいずれも区別せずに「降格」と表現することが多いです。

 

(2)降給

賃金の減額を指す言葉です。降格にともなう役職手当や職務手当の不支給のことを指すことがほとんどですが、就業規則や個別の労働契約で定めている場合には、基本給の一部減額を指すこともあります。

 

(3)降任

公務員に対し、下位の職位や等級に引き下げることを言います。一般企業でも使用されることがありますが、その場合は、何らかのプロジェクトのリーダーになっているなど、具体的な任務を与えられていて、その任務から外れることを指します。

 

1−3.降格処分の効果は?

降格処分を行うことで、問題職員や事業所の職場環境にはどのような効果があるでしょうか。

第一に、降格処分は、懲戒処分のなかでも非常に重い処分ですので、問題職員が自分の行動を改めて見直し、改善するための強い働きかけになります。同時に、他職員への業務懈怠や問題行動への抑止力になり、事業所の企業秩序が保たれます。

第二に、事業所の職場環境が改善されることにより、他職員のメンタルヘルスの問題や離職を防ぐことができます。また、職員の問題行動が是正されることで、社員教育や業務管理が行いやすくなるため、事業所全体の士気が上がり、利用者へのサービスの向上へ繋がります。

降格処分は、非常に重い懲戒処分であるとともに、より良い職場環境を維持するために、有効な手段であるといえます。

 

2.降格処分の根拠

以下では、降格処分の根拠について説明します。

 

2−1.法令上の根拠

懲戒処分そのものについては、法令上の根拠はありませんが、裁判所は企業秩序定立権の一環として、当然に使用者が有する権利であるとしています。ただし、使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておく必要があります。

なお、就業規則は、その内容について、適用を受ける事業所の労働者に周知する手続が採られることで、拘束力が生じます。

以下は、就業規則が周知されているかが問題となった事案です。

 

▶参考:最高裁 平成15年10月10日判決

●事案の概要

化学プラント設計等を目的とする株式会社Y社の設計部門のあるセンターに勤務していたXが得意先担当者らの要望に十分に応じず、トラブルを発生させたり、上司に暴言を吐くなどとして職場の秩序を乱したことなどを理由に、約2ヵ月前に施行された新就業規則の懲戒規定に基づき懲戒解雇された。同規則については、本件解雇の直前に、労働者代表の同意を得て労基署への届出がなされていた。また、それ以前にY社の労働者に同規則が周知されたという証拠はない。

そこで、Xは(1)Y社に対し本件懲戒解雇は無効であるとして雇用契約上の地位確認および未払いの賃金等の支払のほか本件懲戒解雇は違法であるとして不法行為に基づく損害賠償請求を(2)Y社の代表取締役Aらに対し、不当解雇の決定に携ったとして、民法709条ないし商法266条の3に基づき損害賠償等を請求した。

 

●裁判所の判断

本件については、新就業規則による懲戒解雇は認められず、旧就業規則に基づく懲戒解雇が可能か否かという点が争点であった。

一審・二審ともに「就業規則について労働者の同意を得た日以前の原告Xの非違行為については、新規則と同内容の旧就業規則上の懲戒解雇事由該当性を検討する」としたうえで、「旧就業規則は労働者の同意を得て制定・届出された事実が認められる以上、これがセンターに備え付けられていなかったとしても、センター勤務の労働者に効力を有しないとはいえない」とし、旧就業規則の懲戒解雇事由が存在する原告Xの本件懲戒解雇を有効として、原告Xの控訴が棄却された。

一方で、最高裁は「旧就業規則が労働者の同意を得て、制定・届け出されていたことで周知されていなかった(センターに備え付けられていなかった)としても、十分にセンター勤務の労働者に効力を有する」と判断した第一審及び控訴審の判断を「審理不十分」とし、下級審に差し戻しを行った。

つまり、懲戒処分を行うに当たっては「労働者の同意を得て、制定・届け出が行われた就業規則であっても、センターや事業所に備え付けられているなど、職員が閲覧できる状況にしておくこと」が職員に対して、十分な周知になると考えられているということである。

 

 

また、労働契約法15条は、使用者が懲戒処分をする権限があることを前提として、以下のような定めをしています。

 

▶参考:労働契約法第15条

(懲戒)
第15条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

・参照:「労働契約法15条」の条文はこちら

 

 

2−2.就業規則上の根拠

裁判所は、懲戒処分については、あらかじめ就業規則に懲戒の種別及び事由を定めておくことが必要であると考えています。

これは、懲戒処分が、使用者が従業員に対して課す「制裁罰」であるという観点から、あらかじめその懲戒事由と制裁罰の内容を就業規則に規定し、従業員の予測可能性を確保する必要があるという点にあります。

例えば、以下のような規定を置くことが考えられます。

 

▶参考:懲戒事由の就業規則の規定例

  • (1)正当な理由なく、欠勤したとき
  • (2)正当な理由なく、遅刻、早退もしくは就業時間中無断外出したとき、又は職場を離脱して業務に支障をきたしたとき
  • (3)勤務に関する手続き、届出を偽り、又は怠ったとき
  • (4)業務上の書類、伝票等を改変したとき
  • (5)報告を疎かにした又は虚偽の申告、届出をし、事業所の正常な運営に支障をきたしたとき
  • (6)業務に対する誠意を欠き、職務怠慢と認められるとき
  • (7)素行不良で事業所の秩序又は風紀を乱したとき
  • (8)就業時間中に許可なく私用を行ったとき
  • (9)業務上の指示、命令に従わないとき
  • (10)事業所の運営方針に違背する行為のあったとき
  • (11)酒酔い運転又は酒気帯び運転をし、検挙されたとき
  • (12)利用者への応対態度が悪いとき
  • (13)不法又は不正の行為をして職員としての体面を汚したとき
  • (14)事業所内において業務上不必要な火気、凶器その他これに準ずべき危険な物を所持していたとき
  • (15)タイムカードの打刻、出勤簿の表示を他人に依頼し、又は依頼に応じたとき
  • (16)事業所の車両を私用に供し、又は他人に使用させたとき
  • (17)協調性に欠け不当に人を中傷する等、他の職員等とそりの合わないとき
  • (18)事業所の発行した証明書類を他人に貸与し、又は流用したとき
  • (19)許可なく事業所の文章、帳簿、その他の書類を部外者に閲覧させ、又はこれに類する行為のあったとき
  • (20)規則、通達、通知等に違反し、前各号に準ずる程度の不都合な行為があったとき
  • (21)過失により業務上の事故又は災害を発生させ、事業所及び利用者に損害を与えたとき
  • (22)事業所内で暴行、脅迫、傷害、暴言又はこれに類する行為をしたとき
  • (23)事業所に属するコンピューター、電話(携帯電話を含む)、FAX、インターネット、電子メールその他の備品を無断で私的に使用したとき
  • (24)過失により事業所の建物、施設、備品等を汚損、破壊、使用不能の状態等にしたとき、又はハードディスク等に保存された情報を消去又は使用不能の状態にしたとき
  • (25)服務規定に違反した場合であって、その事案が軽微なとき
  • (26)安全衛生規定に違反した場合であって、その事案が軽微なとき
  • (27)事業所が定める各規定に違反した場合であって、その事案が軽微なとき
  • (28)法令違反等の不正行為の真偽を確認せず又は公益通報者保護法第3条第3号に規定する要件に該当することなく外部通報を行った結果、法人・事業所の信用を害し、損害を与えたとき
  • (29)他の職員をして前記各事項に違反するよう教唆し、もしくは煽動したとき
  • (30)前号までの事項において懲戒した後も、改悛の状が認められなかったり、繰り返したりして、改善の見込みがないと事業所が認めたとき
  • (31)その他前各号に準ずる程度の不適切な行為があったとき

 

 

3.降格処分の懲戒処分の中での重さの位置付け

降格処分は前段でも述べたように、一般的に、「懲戒解雇」「諭旨解雇」に次いで3番目に重い懲戒処分であり、職員との労働契約を維持したままの懲戒処分としては、最も重い処分です。

下の図は、降格処分を含む懲戒処分の軽重を左から順に示しています。

降格処分の懲戒処分の中での重さの位置付け

 

3−1.戒告・譴責

戒告、訓戒、訓告は、懲戒処分のなかでも軽い部類に位置し、過失や失態、非行などのある職員の将来を戒めるために、文書または口頭で注意し、場合によっては始末書等の提出を求める処分です。なお、労働者の地位や給与に影響のある処分ではなく、その態様自体は注意指導と大きく異なるものではありませんが、懲戒処分であることから、賞与やその後の懲戒処分等にも影響を与え得るものです。

 

▶参考:戒告については、以下の記事でも解説していますので、併せてご覧ください。

戒告とは?処分の意味や重さ、具体的な内容、通知方法など進め方を解説

 

 

3−2.減給

減給処分は、賃金の一部を減額する処分のことを言います。これは、降格処分のように労働者の地位に影響を与え、給与に含まれる手当が減額されるような継続的なものではなく、減額する賃金には労働基準法91条による制限があります。具体的には、減給処分の限度は、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が一賃金支払いにおける賃金の総額の10分の1を超えてはならないことになっています。

 

▶参考:減給については、以下の記事でも解説していますので、併せてご覧ください。

減給とは?上限額の計算方法や処分のルール、違法にならないための注意点

 

 

3−3.出勤停止

出勤停止処分は、職員との労働契約を継続したまま、労務提供義務の履行を一時的に停止させる懲戒処分で、出勤停止期間中は、労務提供がないため、事業所はその期間の給与を職員に支払う必要はありません(ノーワークノーペイの原則)。また、労働者の地位を変更し、役職手当や資格給が給与から継続的に減額される降格処分とは異なり、給与の減額は出勤停止期間に相当する部分だけにとどまります。

 

▶参考:出勤停止については、以下の記事でも解説していますので、併せてご覧ください。

出勤停止とは?処分の重さやルール、目安の日数、違法にならない注意点を解説

 

 

3−4.降格

降格は、職員の役職または資格等級を引き下げ、与えられていた権限を制限する懲戒処分です。この処分に伴って、役職手当や資格給などが不支給となることもあります。この意味で、降格処分は、減給や出勤停止同様、賃金の減少を伴う処分とされています。ただし、減給処分はその上限額が法令で定められており、出勤停止処分は労務提供を禁止する期間が処分の際に決定されるため、一定程度の給与の減少となりますが、降格については、降格処分により給与が減額された場合、次に昇格するまでは減額された賃金が継続して支給されることから、処分を受けた職員にとっては、経済的に影響の大きい処分です。

 

3−5.諭旨解雇

諭旨解雇は、懲戒解雇相当の事由がある場合でも、本人に反省が認められる時に、解雇事由に関して本人に説諭し、退職届を提出するよう勧告する懲戒処分です。退職届の提出がない場合には、懲戒解雇を実施することが予定されており、懲戒解雇に次いで重い懲戒処分です。他の懲戒処分を実施したにもかかわらず、問題行動に改善の見込みがない場合や職場環境に大きい影響を与える非違行為に対して行います。

 

▶参考:諭旨解雇については以下の記事でも解説していますので、併せてご覧ください。

諭旨解雇とは?意味や諭旨退職との違い、要件や手続について【事例付き】

 

 

3−6.懲戒解雇

懲戒解雇は、職員を一方的に解雇する処分であり、懲戒処分の中では最も重い処分です。企業の信頼を失墜させるような非違行為に対して行われます。

 

▶参考:懲戒解雇については以下の記事でも解説していますので、併せてご覧ください。

懲戒解雇とは?有効になる理由や手続きを事例付きで弁護士が解説

 

 

4.懲戒処分としての降格処分と人事権の行使としての「降格」の違いは?

「懲戒処分としての降格処分」と「人事権の行使としての降格」の違いを詳細に見ていきましょう。

 

4−1.適用場面の違い

「懲戒処分としての降格処分」と「人事権の行使としての降格」は適用場面が異なります。

「懲戒処分としての降格処分」は、その他の懲戒処分と同様に、従業員に規律違反や問題行動があった際の制裁罰として就業規則に定めている処分のことを言います。

一方で、「人事権の行使としての降格」は、あくまでも原則的に使用者側の裁量に委ねられ、人事権に基づいて運用されます。

例えば、業務上の組織編制などで必要のなくなった役職が取り消される場合や、従業員の適性や能力面から管理職には不適任となった場合など、経営判断の観点から「従業員を適材適所に配置する」という意図で行使されます。また、労働者本人の体調や家庭の事情など、現在のポストでは業務を継続することが難しい場合は、労働者本人と相談の上、降格人事を行い、可能な範囲での労働の継続を維持するような場面も考えられます。

「人事権の行使としての降格」は「懲戒処分としての降格処分」よりも適用範囲が広く、就業規則に明確に定められていなくても労働契約の内容に当然に含まれるものという解釈が一般的です。

ただし、社会通念上、著しく妥当性を欠く場合など、裁量の範囲を逸脱するような降格人事は、権利の濫用として無効とされることもありますので、注意が必要です。

「8.降格処分が違法となる場合とは?(※内部リンク)」では、降格処分が違法と判断された実際の例を交えて解説していますので、ご参照下さい。

 

4−2.条件・要件の違い

「懲戒処分としての降格処分」は就業規則に「懲戒処分として降格できる」旨の根拠規程があり、それを職員全体に周知していることが条件となります。

一方で、「人事権の行使としての降格」は就業規則に明確に規定されている必要はなく、労働契約に当然に含まれており、使用者側が一方的に決定することができる手続きと考えられます。

 

4−3.判断基準の違い

懲戒処分としての降格処分を実施する場合、まずは就業規則に、降格処分を懲戒処分として規定していることを前提に、規定した懲戒事由に該当する非違行為があり、かつ、降格処分をすることが、降格処分に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であれば、有効に懲戒処分を実施することができます(労働契約法15条)。

一方で、人事権の行使としての降格は、就業規則上の根拠は不要であり、人事権の行使については原則としては使用者側に大きな裁量があります。しかし、降格は労働者の生活などに大きな影響を与えるものであることに鑑みれば、使用者の人事権の行使は無制約に行使することができるものではなく、濫用することはできません。

具体的には、当該人事権の行使として降格をすることにつき、業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、当該降格が他の不当な動機・目的を持ってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情の存する場合でない限りは、権利の濫用になるものではないとされています。

以下の判例は、人事権の行使としての転勤命令に関する事案ですが、人事権の行使の際の判断基準を示した事案として参考になります。

 

▶参考:「東亜ペイント事件 最高裁昭和61年7月14日判決」について

 

 

5.どんな時に降格処分をするの?事例付きで解説

では、降格処分をするのはどのような場合でしょうか。

懲戒事由については、「※ページ内リンク 2−1.懲戒処分として降格処分の根拠」の「(2)就業規則上の根拠」で解説した通りですが、以下ではより具体的にどのような場面で降格処分を選択するかについて解説します。

 

5−1.降格処分をする理由は様々

降格処分は、懲戒処分の中で労働者の精神的にも経済的にも影響を与える重い処分と言えます。そのため、降格処分を選択する場面としては、以下の2つがあります。

 

  • ①すでに軽い懲戒処分を実施した後に同じ懲戒事由が繰り返された場合
  • ②懲戒事由の程度が重く、他の軽い処分では足りないと判断される場合

 

以下ではこの観点から、降格処分をする具体的な理由について解説します。

 

5−2.降格処分をする具体的な理由

 

(1)不適切介護

不適切介護には、いわゆる虐待行為のみではなく、虐待行為に該当しうる行為も含みます。

不適切介護の類型としては、身体的虐待に該当しうるものだけではなく、心理的虐待、ネグレクト、性的虐待、経済的虐待に該当しうるものなども含まれます。

身体的虐待は傷や痣ができるなど、問題行為が可視化されやすく、一度であっても利用者の身体に大きな影響を与えるようなものであれば、初めから降格処分以上の懲戒処分も検討しなければなりません。(降格処分をする理由②の場合)

一方で、心理的虐待やネグレクトについても、明確に虐待行為に該当するような場合は、初めから降格処分以上の懲戒処分も検討する必要があります。(降格処分をする理由②の場合)

もっとも、その性質上、明確な線引きが難しく、日常的に繰り返し行われていても問題が表面化するのに時間がかかることも少なくありません。業務を行う上で、不必要に強い口調や利用者の気持ちや言葉を無視するような行為は、繰り返し行われることで利用者を深く傷つけていきます。心理的虐待やネグレクトに該当しうる行為が見られる場合、繰り返し注意指導を行い、業務の改善を促すことはもちろんですが、再三の指導によっても改善されない場合、戒告や譴責など軽い懲戒処分を行い、それでもなお改善されない場合は、降格処分など重い懲戒処分を行うことも検討しましょう。(降格処分をする理由①の場合)

また、事業所全体で虐待や不適切介護などの悪質な介護を行わないようにするための指導は、監督する立場の役職者が行う業務です。役職者である職員が、部下の不適切介護に気が付きながら放置する行為は、利用者やその家族を深く傷つけることになり、その責任は不適切介護をおこなった職員だけではなく、その上司である職員にもあります。事業所の規律を整えることを故意に怠り、利用者への悪影響を見過ごすことは、管理を行う役職者である職員の業務怠慢です。

そのため、役職者である職員の管理能力不足が目立ち、注意指導を行ったにもかかわらず、状況に改善が見られない場合は、当該職員を役職者としての立場に据え置くことは、事業所全体に影響を与えるため、最初から降格処分をすることもあります。(降格処分をする理由②の場合)

 

(2)職員へのハラスメント

ハラスメント行為が行われている職場では、当事者だけではなく、そのほかの職員の人間関係もぎくしゃくしたものになり、配置転換を検討したり、日常業務の割り振りに際して職員間の相性を考慮する必要があるなど、健全な職場環境であれば不要な配慮の必要が生じることがあります。

また、ハラスメント行為が役職者や上長による、立場を利用した悪質なものであった場合、被害者となった職員はハラスメントを止めてほしい旨をはっきり伝えることができず、メンタルヘルスの問題や離職へつながることもあります。

職員間のハラスメント行為については、パワーハラスメントやセクシュアルハラスメント、マタニティハラスメントなどがありますが、今回はパワーハラスメントで降格処分が行われた判例を参考に見ていきましょう。(降格処分をする理由②の場合)

 

▶参考:東京地裁 平成27年8月7日判決

 

●事案の概要

不動産会社である被告Yに現在も勤務する原告Xが、複数の社員に対する過去のパワーハラスメント(人格を傷つけるような言動、直接業務にかかわりのない私生活に立ち入った注意指導、退職約束文書を強要し書かせたこと、理不尽な要求をし精神的苦痛を与えたこと、またこのようなパワハラを継続的に行っていたこと)を理由に被告Yから降格処分を受けたところ、同処分が違法・無効であるとして、同処分の無効確認を求めた事案である。

原告Xは「理事(8等級)、担当役員補佐兼丸の内流通営業部長」という地位から「副理事(7等級)、担当部長(一般仲介事業グループ担当役員特命事項担当)」という地位に降格処分を受け、平成25年3月13日の降格処分以降、平成26年9月末時点までに受けた給与及び賞与の減額金の合計は265万2527円にのぼった。

主な争点は、本件裁判を行うことで原告に利益があるか(地位確認の利益)、パワーハラスメントを原告が行ったか(パワハラの存否)、また、同様の行為で懲戒処分を受けた常務Aへの処分は出勤停止処分にとどまったことを鑑みると、原告Xの受けた降格処分は現在および将来にわたって給与及び賞与の減少という経済的不利益を被ることから不相当であり(本件処分の相当性)、また、降格処分という懲戒処分のなかでも重い処分であったにも関わらず、反論や弁明の機会が適正に設けられず、一方的なものであったこと(本件処分の手続きの適法性)である。

 

●判決の内容

裁判所は、被告Yの「コンプライアンスの手引き」及び「コンプライアンス・マニュアル」に定義されたパワハラの内容に基づき、原告Xの行った複数のパワーハラスメントが懲戒事由に該当し、手続き上、適切なプロセスを踏んだ処分であって、本件降格処分は有効であると判断した。

具体的には、被告Yの「コンプライアンス・マニュアル」に定義された「パワハラ定義」は下記の通りであり、被告が行った「人格を傷つけるような言動」「直接業務にかかわりのない私生活に立ち入った注意指導」「退職約束文書を強要し書かせたこと」「理不尽な要求をし精神的苦痛を与えたこと」「またこのようなパワハラを継続的に行っていたこと」等は「パワハラ」に該当することが認められた。

  • ア パワハラは権力や地位を盾にした、いやがらせである。
  • イ パワハラは、上司が部下に対し、業務の範囲を超えて継続的に、人格と尊厳を傷つける言動を行うことである。
  • ウ パワハラは部下に雇用不安を与える可能性があることや周囲の働く環境を悪化させる重大なコンプライアンス違反行為である。
  • エ パワハラの例として以下が挙げられる。
    (ア)上司が部下に対し、教育や指導の名の下に、言葉や態度による暴力を振るうこと。
    (イ)上司が部下に対し、できもしない執拗な要求で精神的に苦痛を与えること。
    (ウ)上司が部下に対し、できもしない目標を掲げさせ、あるいはノルマを与えて達成しなかった場合、部下を精神的に追い詰めること。

また、同様のパワハラ行為を行った常務Aに対する処分は、出勤停止処分のみならず、執行役員という地位からの降格処分も受けており、原告Xに対する処分とも均衡が保たれており、処分の相当性も認められ、手続き上の不備(反論や弁解の機会がなかったこと)についても、被告Yから「弁明の機会の通知」という書面を発出したところ、原告X作成の「回答書」でパワハラの事実を否定していることから、十分ではなかったとはいえ、機会が与えられなかったとまでは言えない(手続き上の適法性はある)と判断された。

 

 

(3)能力不足

事業所の管理職や、グループのリーダーなど、職員の業務を適切に管理し、職場環境を整えるべき立場にいる職員がその職務を怠った結果、事業所の秩序が乱れ、職員が疲弊してしまうようなケースがあります。

業務時間の管理や職場環境の整備は、事業所の管理者や本部職員が行うべき重要な職務ですが、直接的に利用者やその家族などにサービスを提供するのとは異なり、目に見えにくい業務とも言えます。

一方で、業務時間を管理し、職場の人間関係の調整やハラスメント行為への対応など、職員が気持ちよく業務を行うためには非常に重要な業務であり、役職者である職員が十分に業務を行わず、職場環境が劣悪な場合、利用者やその家族に間接的に影響が出ることも考えられます。

職員が働きやすい環境を整え、利用者やその家族へ十分なサービスを提供できるようにすることが役職者である職員の重要な業務である一方で、そういったマネジメント能力は一般の職員が働くうえでは必ずしも必要とされない能力でもあり、業務内容やその人事考課の基準も曖昧なものになってしまうことが多いため、事実確認や問題の有無については、慎重に見極める必要があります。

下記の通り、管理職がその職務を懈怠し、長時間労働の実態を把握せず、対応が不十分であったことや、職員間のハラスメント行為に対する適切な対応がとられなかったことが懲戒事由に相当すると判断された例があります。もっとも、この事案では、降格処分が懲戒事由に対し重過ぎるとして、無効とされているため注意が必要です。

能力不足での懲戒処分に対し、降格処分を用いる場合は、これまでの降格処分の事例や問題職員のこれまでの懲戒歴などを確認し、そのほかの懲戒処分も検討したうえで、降格処分より軽微な懲戒処分では制裁として不十分であると考えられる場合に実施することが肝要です。

 

▶参考:東京地裁 令和4年11月17日判決

 

●判決の内容:原告の請求の一部認容

懲戒事由はあるものの、懲戒処分の程度が社会通念上相当とは認められず(降職処分は重過ぎる)、懲戒権の濫用にあたる。

 

●事案の概要

学校法人である被告Yとの間で労働契約を締結し、大学院事務部長として勤務していた原告Xが、管理職としての職務懈怠を理由に被告から1職階の降職及びこれに伴う降給(賃金減額)を内容とする本件降格処分を受け、図書部次長に降職された。

この降職処分について、原告Xは被告である学校法人Yに対し、

  • (1)本件降職処分は権限濫用により無効であり、これに基づく賃金減額も無効であることの確認
  • (2)労働契約に基づく未払賃金の支払い
  • (3)本件降職処分は原告に対する不法行為を構成するとして、200万円の慰謝料の支払い

を求め訴えを提起した。

本事案では、

  • (あ)原告Xの部下であったB掛長の長時間労働の実態と原因の調査、把握及び対応策の策定に関する原告Xの管理職としての対応の不十分さ
  • (い)原告XがC課長及びD掛長のB掛長に対する不適切発言に関して管理職として十分に対応していたとはいい難い点

は原告Xの管理不足により業務に支障が生じたと認められ、原告には被告の就業規則所定の懲罰事由(いわゆる懲戒理由)があると認められた。

しかし、懲戒事由があり(原告Xによる部下の長時間労働の実態の管理の甘さ、部下の不適切発言に対する対応不足は懲戒事由に相当する)、その責任の程度が重いとはいえ、原告Xには本件降職以前に懲戒処分歴はなかったこと、被告Yが規程するキャンパス・ハラスメント防止規定に定めていた降職処分の基準(降職処分は「被害者の人格的利益を侵害する行為又は職員としての適性を損ねる行為に当たり、それに社会的非難可能性が強く認められる場合」に行う)に照らせば、そこまでの事情はないということを前提とし、本件降職処分は社会通念上相当とは認められず、懲戒権の濫用に当たり、無効とするのが相当であるとされた。

他方、本件降職処分が一般不法行為法上の違法性を帯びるとまでは認め難いなどとして、請求を一部認容した。

 

 

(4)その他(職務怠慢・業務上のミスなど)

事業所での業務は、所定の手続きやマニュアルがあり、それを適切に行うことで、業務上の過失を防止することが徹底されるべきですが、職員の注意不足や業務懈怠などで業務上のミスが発生することがあります。

軽度のミスが頻発する場合、注意指導を行ったうえで、状況が改善しなければ譴責や減給など軽度の懲戒処分を行い、職員自身で業務上の態度を改めさせるよう促すことが必要です。また、同じミスでなくとも、同様の原因(注意不足や業務懈怠)に起因する非違行為や同じ類型の非違行為が続く場合、さらに重い懲戒処分(出勤停止や降格処分)を行うことも可能です。

ただし、業務上のミスについては、当該職員以外の職員が同様のミスをする場合も想定されるため、処分の相当性や公平性を欠くことがないよう注意が必要です。

以下は、役職者である職員の勤務態度不良に対する降格処分を有効とした事例です。

 

▶参考:東京地裁 平成21年8月31日判決

 

●事案の概要

被告Yが原告Xに対してした降格処分は違法かつ無効であるとして、同処分前の地位にあることの確認及び本判決確定までの賃金(同処分前)の支払い、債務不履行に基づく損害賠償、不法行為に基づく損害賠償(賞与減額分)及び慰謝料などを求めた事案。

 

●判決の内容

原告Xは、本件降格処分が、原告が労働組合を立ち上げて、執行委員長に就任したことへの報復であり違法である旨主張してたが、裁判所は、当該主張を排斥した上、本件降格処分は、製品の不具合に気が付いていたにもかかわらず、所定の手続きをとらずに自己判断して作業を継続し業務上のミスをしたことや、遅刻や居眠りといった勤務態度によるものであると認定し、降格処分は違法無効ではないと判断した。

 

 

裁判例を見るとわかるように、降格処分は非常に判断の難しい処分であり、客観的な証拠や適切なプロセスを経ても、降格の程度や資格等級の下げ幅について慎重に判断しなかった場合、「不当な扱いを受けた」と訴えられるリスクの高い処分です。

降格処分を検討する際は、裁判例や具体的な事案を検討するとともに、弁護士など専門家の意見を聞くことが重要です。

なお、国家公務員関係法令等では、国家公務員については、懲戒処分が厳正に行われるよう懲戒処分の指針を「平成12年3月31日職職―68」に定めており、懲戒事由にあたる非違行為があった場合、組織として適切な対応を行う方針を明示しています。

 

▶参考:人事院「懲戒処分の指針について(平成12年3月31日職職―68)(人事院事務総長発)」

 

 

6.降格処分の際の給与減額の限度額は?

では、実際に問題職員に対して、降格処分を行う場合、どの程度の給与の減額を行うことが可能でしょうか。

 

6−1.降格処分の際に減額の限度額はある?

降格処分に伴う給与の減額については、限度額の定めはありません。

一方で、減給処分については、労働基準法で減給処分の限度額が定められていることから、同様の制限があるのではないかという相談をいただくことがありますが、減給処分の際に適用される制限は、降格処分には適用されません。

減額処分における上限額については、こちらの記事(※ページ内リンク)で詳しく解説していますので、併せてご覧ください。

但し、民法第90条は「公の秩序または善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。」(▶参考:「民法」の条文) と定めており、このいわゆる「公序良俗」の観点から考えると、懲戒事由とされる非違行為に対し、減額幅があまりに大きすぎる場合には、権利の濫用として、労働契約法15条に違反し、無効となる場合もあります。

 

6−2.降格処分の際の給与減額の具体例

懲戒処分における降格を行った場合、役職や等級が下がるだけではなく、処分に伴って給与額も低下することがあります。降格による役職解任や等級の下げ幅によっては、給与額の大幅な減額に繋がることもあり、決定には注意が必要です。

降格処分に伴う給与の減額について、判断した裁判例を紹介します。降格処分の際の参考にしてください。

 

▶参考1:東京地裁 令和4年4月28日判決

降格に伴う月額給与の減額(56,800円)が有効と判断された事例

 

●事案の概要

被告である信用金庫Yに勤務する総合職職員である原告Xが、部下であるA職員の業務上のミスに対する叱責が原因となり、A職員が休職を余儀なくされたことが就業規則における懲戒事由に該当するとして、本部事務部長という役職からの降格処分を受けたことが、懲戒権の濫用であり無効であるとして争った事案。

この降格処分により、役職手当5万円及び職能給6800円が月額賃金より減額されることとなった。

 

●判決の内容

降格処分は有効。

原告Xは、当該叱責は通常業務の指導の範囲であると主張したが、裁判所は、原告Xによる部下への発言の内容や態様が正当な業務上の注意や指導と評価できるものでないことや、本件降格処分以前にも取引先個人データの不適切な取扱いや部下職員の人格を否定するような不適切発言などで懲戒処分(出勤停止10日間)を受けていたこと、懲戒処分に至るまでの被告Yのとったプロセス(不祥事委員会の設置、ヒアリング調査の方法、原告Xへの十分な弁明及び反論の機会、懲戒事由の該当性の協議及び処分の審議、決定)も適切であったことから、降格処分は有効であるとして、原告Xの訴えは棄却された。

 

▶参考2:東京地裁 令和4年2月10日判決

降格に伴う月額給与の減額(24,300円)が有効とされた例

 

●事案の概要

被告である学校法人Yの運営する大学及び大学院の教授であった原告Xが、研究の一環として熊本県内の酒造への出張報告を行ったが、その出張自体が虚偽の報告であったことや報告書に添付した写真が同出張時期に撮影されたものではなく、撮影時期を意図的に改変されたものであると認められることなど理由に降格処分を言い渡されたことについて、降格処分が無効であるとして争った事例。

この降格処分により、月額の基本給与が2万4300円減額された。

 

●判決の内容

降格処分は有効。

原告Xは、出張費の不正請求を否定したが、裁判所は、原告Xが不正に出張費の申請を行った行為があったと認定し、当該行為が、被告である学校法人Yの定める教員規則の懲戒事由に該当し、降格処分を有効と認めた。

 

▶参考3:神戸地裁 令和元年11月27日判決

降格処分に理由はあるが、月額賃金から6,720円を減給されたことは社会通念上相当性を欠くとされ、降格処分が無効とされた事例

 

●事案の概要

原告Xが、勤務先である被告Yの行った降格処分が、懲戒権を濫用したもので無効であることをそれぞれ求めた事案。

 

●判決の内容

降格処分は無効。

裁判所は、原告Xの勤務時間内の私的PCの利用及び業務に無関係な投資サイトの閲覧などは、懲戒処分に関する就業規則所定の事由に該当し、しかも多数回にわたっていることから、本件降格処分には客観的に合理的な理由があるものの、原告Xに対する処分として、減給処分が被告Y内で十分に検討されたとは言えないことなどからすれば、いささか重きに失するものであり、社会通念上の相当性を欠く無効なものであるとして地位確認請求の全部及び差額賃金請求の一部(原告の請求した月額賃金差額のうち6,720円)を認めた。

 

 

【弁護士畑山浩俊のワンポイントアドバイス】

 

降格に伴う給与の減額幅の制限について、ご相談をいただくことが多くあります。減給処分のように、降格処分に伴う給与の減額についての法的な制限はありません。その一方で、裁判になった場合、役職や等級が下がったことに起因する役職給や資格給などの減額は認められやすく、基本給自体の減額は認められにくい、というのが実情です。

 

降格処分が就業規則に懲戒処分として定められていることは当然に必要ですが、その運用の際には、従前に行われた降格処分と比較した際に降格の幅に妥当性があるかや、それに伴う減給の幅が社会通念上相当であるか、などは訴訟となった際、降格処分が無効と判断されるか否かの重要なポイントであるといえます。

 

降格処分をする際に、どういった種類の給与がどの程度減額されるのか、という点の判断は非常に難しいものですので、事前に弁護士に相談することをお勧めします。

 

 

7.降格処分の具体的な方法

これまで説明してきた通り、降格処分を行う際は、正しいプロセスで進めなければ職員との間で重大なトラブルに発展してしまうリスクがあります。

そのため、ここでは降格処分の具体的な方法を確認しておきましょう。

 

7−1.降格処分には事前準備が重要

降格処分に相当する非違行為が発覚した場合、以下の点をを確認したうえで、降格処分を進めることがが重要です。

 

  • 就業規則上「降格」を懲戒処分として行うことができる旨の規程があり、周知されているか
  • 当該懲戒事由に足る非違行為か否か
  • 非違行為に対し、「降格処分」に相当性があるか
  • 「降格処分」までのプロセスが適切に履践されているか

 

そもそも、就業規則上に根拠のない懲戒処分はできませんので、就業規則に明確な定めがあるかを確認し、当該非違行為が懲戒事由に該当するかを判断するための調査を行ったうえ、降格処分を行うに足る非違行為であったかどうかの判断をする必要があります。

そして、当該非違行為が降格処分に値するほどの非違行為である場合であっても、その判断も含め、降格処分を実施するためのプロセスがしっかり履践されていなければ、降格処分が無効とされてしまう可能性があります。

以下では、降格処分に向けての具体的な方法を説明します。

 

7−2.具体的な降格処分までの流れ

 

(1)事実の調査、確定

職員による非違行為が発覚した場合、その調査及び事実認定を行うのは事業所です。迅速に対応することで、適切なタイミングで懲戒処分を行うことが可能になります。

ここでは、その事実調査および非違行為の確定までの具体的な方法を説明します。

まず、事業所に非違行為の申告をしてくれた職員など非違行為発覚のきっかけを作った職員または利用者からの聞き取り(聴取)を行います。問題職員本人以外からの聞き取りについては、聴取する相手がハラスメント行為の被害者である可能性もあるため、相応の注意が必要です。また、特定の職員や利用者からだけではなく、複数の職員、場合によっては利用者から話を聞いた上で事実認定を正確に行う必要があります。

聞き取りには、ヒアリングを行う職員1名と記録者の1名で同席し、ヒアリングが公正に行われたものであることを補完できるようにします。一方的に問い詰めるような態度を避けることはもちろんですが、誘導するような質問も避け、あくまでも客観的な事実の確認を行いましょう。その際、具体的な日付や非違行為の態様が残っているメールや録画画像、録音など客観的な証拠があれば、それも一緒に提出を促します。また、聞き取った内容を議事録に残すのはもちろんのことですが、了解を得たうえで録音し、内容に不備がないようにすることも肝要です。

これらのヒアリングにおいて、対象の問題職員の言い分以外の非違行為の内容をまとめます。

その上で、まとめた非違行為の内容が事実であるかを確認するため非違行為を行ったとされる職員本人への聞き取りを行います。

前提として、対象となっている職員本人には事業所の秩序を守るため、真実を述べ、事実確認に協力をする義務があります。調査を行うなかで、問題職員が非違行為に関する聴取に非協力的な態度をとる場合は、その旨も聞き取り報告書に記載をします。

また、規模のあまり大きくない事業所などでは、問題職員と聞き取りを行う職員が顔見知りである場合も多く、聞き取り調査を行うなかで、客観的な対応ができない場合があります。そういった場合、公正な判断を期すため、聞き取りの担当職員と懲戒処分を検討する職員を別にする、または、弁護士など第三者の専門家の協力をあおぐことも一つの方法です。

また、問題職員への聴取の際もしくは懲戒処分をする際には、弁明の機会を与えることも必要です。降格処分は、職員にとって非常に影響の大きい処分であることから、仮に、弁明の機会を与えず、一方的に事実確認をし調査を終了した場合、後から処分手続きの不備を指摘され、訴訟等の紛争になる可能性もありますので、注意が必要です。

皆様の事業所で使用している就業規則では、弁明の機会を付与する懲戒処分を懲戒解雇や諭旨解雇に限定しているものがあります。これ自体、直ちに問題がある訳ではありませんが、前述のように降格処分はそれを受ける職員にとって影響力の大きい処分です。

そこで、就業規則上、降格処分を行う際には弁明の機会を付与することがルール化されていなかったとしても、念のため、適正手続を重視する観点から弁明の機会を付与することが望ましいです。

問題職員本人及び関係者への聞き取りが終了したら、事実認定を行います。事実認定を行う場合、注意すべき点は次の4点です。

 

  • 対象の問題職員の聴取の内容と客観的事実(証拠)との整合性
  • 対象の問題職員の聴取の内容が不自然ではないかという点
  • 対象の問題職員の聴取の内容が変遷していないかという点
  • 対象の問題職員の聴取を行う職員と問題職員の間に利害関係がないかという点

 

就業規則における非違行為が実際に行われており、それに対する客観的な証拠がそろっているかを確認することが重要です。もっとも、客観的な証拠が残っていることは残念ながら稀です。

その場合には、他の職員の供述を参考にすることになりますが、供述の信用性を判断するにあたって、問題を起こした職員と周りの職員との関係性から、問題職員を不当に陥れるようなことが行われていないか、など、多面的な見方をすることも大切です。

 

【弁護士畑山浩俊のワンポイントアドバイス】

 

弁護士法人かなめでは、職員に対して懲戒処分をするかどうか、また、懲戒処分をするとして、どの処分を選択するかの判断のための調査業務も多く対応しています。

 

具体的には、弁護士が直接、対象職員の他、関係する職員からヒアリング調査をし、その他の客観的な事実とを合わせて、事実認定をした上、依頼者様向けに、認定した事実に基づいてどのような処分が妥当であるかの意見書を提出します。もちろん、意見書提出後の、実際の懲戒処分や注意指導時の交付書面の作成などにも対応しています。

 

懲戒事由の調査や、懲戒処分の認定に不安のある皆様は、ぜひ弁護士法人かなめにご相談ください。

 

 

(2)粘り強い注意指導

一般的に、懲戒処分を行う場合は、口頭やメール、書面などで注意指導を行い、その指導状況や経緯を、可能な限り客観的な証拠となる形(ビデオ、録音、書面など)で残しておくのが非常に重要です。ただし、降格処分を行う場合、懲戒事由に相当する問題行動が非常に重大であるケースが多いことから、注意指導の積み重ねを必要とせず、発覚した時点で、処分の検討に移ることも多くあります。

 

▶参考:問題職員への具体的な指導方法については、以下の記事で詳細に解説していますので、併せて参照してください。

問題職員の指導方法とは?正しい手順と注意点などを指導例付きで解説

 

 

(3)他の懲戒処分の実施

粘り強く注意・指導を行っているにも関わらず、状況が改善されない場合、就業規則に則って、懲戒処分を検討します。比較的軽度な業務懈怠や就業規則違反が繰り返されている場合、戒告や減給処分など軽度の懲戒処分を行って、問題職員の反省を促すという方法を選択することもあり得ますが、企業秩序を大きく乱したり、企業の信頼を失墜させるような重大な非違行為の場合、最初から降格処分を行う場合も多くあります。

いずれの場合も、職員の業務改善を促すために行う処分ですので、職員のどの行為が懲戒事由に該当するのか、改善に向けた注意指導や今後の対応なども含め、十分に説明をすることが重要です。

 

(4)降格処分の手続

ここからは、具体的に降格処分を行う際の手続きや注意点を見ていきましょう。

 

1.面談の実施

降格処分は懲戒処分のなかでも重い処分であるため、面談を行う場合には、非違行為を行った職員に弁明する機会を与えることが肝要です。一方的に処分内容を通知し、弁明の機会を与えなかった場合、懲戒処分における手続きが不当であったと、処分後に、処分が無効であると主張される場合もありますので、注意しましょう。

就業規則上、降格処分を行う際には弁明の機会を付与することがルール化されていなかったとしても、念のため、適正手続を重視する観点から弁明の機会を付与することが望ましいことは前述したとおりです。

また、面談の際には、必ず懲戒処分の通知書面を準備し、面談を実施しましょう。処分内容については、口頭で説明を行いますが、降格処分は「懲戒処分によるもの」と「人事権によるもの」の2種類あるため、今回の処分が「懲戒処分によるもの」と明確にするために書面を準備し、どちらの処分であるのかを明記しておくことが肝要です。また、ほかの懲戒処分同様、面談の際には注意指導を合わせて行うことを忘れないようにしましょう。

降格処分は、懲戒処分でも重い処分であるため、非違行為の程度も重大なものが多く、初めから降格処分をすることがある一方で、これまでに何度も注意指導を繰り返しているにも関わらず、問題行動に改善がない場合もあります。

その場合、すでに、面談を実施せずに戒告等の軽い懲戒処分を行っている場合もあるため、今回の処分がこれまでに行ってきた注意指導や軽度の懲戒処分とは異なることを明確にするためにも、面談を実施し、降格処分の通知書を渡した上で、改めてしっかり注意指導をしましょう。

また、面談時には、正確に記録を残す観点(「言った、言わない」のトラブルを防ぐため)から、必ず録音は取っておきましょう。この際の録音は、秘密録音でも問題はありませんが、「正確に記録を残すために録音しますね。」と堂々と伝えてから録音を実施しても良いでしょう。

 

▶参考:録音については、以下の動画もあわせてご参照ください。

・【無断録音】こっそり録音することは違法か?

 

 

・【無断録音!】実際にあったミス3選!弁護士が解説します!

 

 

2.降格処分の通知【書式(テンプレート)付き】

降格処分の通知書は、以下のポイントをしっかり押さえて作成しましょう。

 

  • 降格処分の対象となる職員の行為を可能な限り具体的に記載する。
  • 職員の行為が、就業規則上どの項目に該当するかについて、条項をしっかり指摘する。
  • 具体的な降格の等級や役職を明記する。

 

以下では、利用者への不適切な行動と、他の職員や上司へのハラスメント行為を理由とした降格処分の通知のテンプレートを用意しましたので、参考にしてみてください。

 

▶参照:「懲戒処分通知書(降格処分)」書式テンプレートのダウンロードはこちら(docx)

 

 

7−3.降格処分後も問題行動が続く場合は?

では、降格処分を行ったにも関わらず、状況が改善されない場合、どういった対応が可能でしょうか。

 

(1)降格処分以外の懲戒処分

懲戒処分は、就業規則に定めていることを前提に、職員の非違行為に対する制裁罰として行使されます。一般的には、処分が労働者に与える影響の軽いものから順に規定されており、大きく分類すると次の3つに分けられます。

 

  • 職員への影響が比較的軽い懲戒処分となる戒告、譴責(けんせき)
  • 職員の給与への影響がある減給、出勤停止
  • 職員の地位や労働契約の本質部分に影響のある重い懲戒処分となる降格処分、諭旨解雇、懲戒解雇

 

 

懲戒処分を検討する際には、これまでに行ってきた注意指導や他の懲戒処分の存在も考慮の上、その内容を決めます。

どういった懲戒事由に関するものか、その程度等によって、降格処分後の対応を決める必要があります。軽微な問題である場合は、再度、注意指導を行い、戒告や譴責などを行って業務態度を改めるように促すことが想定されますし、他方、当該問題行動が職場やそのほかの職員に与える影響が大きいものであったり、企業の信用を失墜させるようなものである場合は、さらに重い処分に進むことを検討することになります。

 

(2)退職勧奨

退職勧奨は、懲戒処分の解雇とは異なり、強制力のあるものではありませんが、問題となっている職員に自主的な退職を促し、職員の納得を得られた場合、職員の自主的な意思により退職手続きに進むことができる手段です。

降格処分に至るような問題行動があり、態度が改善されない場合には、企業秩序が著しく乱されている状況と言わざるを得ず、事業所としても他の職員にとっても非常に良くない状況です。また、問題職員本人も、自分自身の状況を変えることができず、困っている可能性もあります。環境を変えるという意味でも、退職勧奨することは、問題職員・事業所・他の職員の三者にとって非常に有効な手段になり得ます。

退職勧奨を行う場合、事業所と職員の双方で協議し、職員の自主的な意思により、退職手続きを行うため、退職時のさまざまな条件の取り決めができるなど、うまく利用することができれば、非常に効果的です。

 

▶参考:退職勧奨に関する全般的な説明や進め方、退職勧奨を行う際の注意事項については、以下の記事や動画で詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてください。

【参考記事】

退職勧奨とは?具体的な進め方、言い方などを弁護士が解説

 

【参考動画】

10分動画解説:問題行動を繰り返す職員に退職勧奨をする方法を解説(YouTube)

 

 

(3)解雇

粘り強い注意指導をし、軽度のものから順に懲戒処分を行っていき、退職勧奨をしたにもかかわらず、問題行動が改善されることも、自主的に退職することもなかった場合、事業所は解雇の検討を行わざるを得なくなります。

解雇には、普通解雇と懲戒解雇がありますが、いずれの場合も、職員は労働者としての立場を失うため、非常に厳しい対応となります。そのため、裁判所は、いずれの解雇の場合についても、雇用主側に厳しい態度をとっています。

しかしながら、これまでに解説してきたプロセスを踏んできた場合、記録や書面をもとに必要な資料はそろってきているはずです。

実際に、粘り強い注意指導を続けた末に解雇をした事案で、解雇が有効とされた裁判例として、日本マイクロソフト事件(東京地裁 平成29年12月15日判決労判1182.54)などが参考になります。この裁判例では、モンスター社員に対する注意指導や、注意指導に対するモンスター社員の態度がメールのやりとりで残っており、その上で書面での注意指導も行なうなど、解雇に向けたプロセスが確実に履践されています。

 

▶参考:なお普通解雇、懲戒解雇については、以下の記事で詳しく解説していますので、合わせてご覧ください。

普通解雇したい!無効とならない事例や手続きをわかりやすく弁護士が解説

懲戒解雇したい!有効になる理由や事例・手続きをわかりやすく弁護士が解説

 

 

【弁護士畑山浩俊のワンポイントアドバイス】

 

降格処分を理由に退職をした場合は、自己都合退職?会社都合退職?について解説します。

 

降格処分を行うことで、処分を受けた職員が退職をするケースがあります。その場合の退職は退職勧奨した上での退職でない限り、「自己都合」での退職となります。

 

一方で、「自己都合」による退職と「会社都合」による退職は、失業手当の受給までの待機期間や受給期間、国民保険の加入など退職後の取り扱いが異なることから、「会社都合」での退職を希望する職員が多いことも事実です。そのため、降格を含む懲戒処分の後、退職を考える際に、処分を受けた職員が「懲戒処分は会社の下した決定だから、会社の都合によるもの」と主張し、会社都合の退職とするよう訴えてくることも少なくありません。

 

しかし、懲戒処分はあくまでも就業規則にのっとった経営管理上、必要な処罰です。決して、会社の都合で行っているものではなく、社内秩序の健全化や会社の社会的信頼を保つための処分ですので、懲戒処分後、職員がそれを不服として自ら退職した場合は「自己都合」ということになります。

 

但し、懲戒処分として行った降格が、適切なプロセスを踏まず、社会通念上相当ではない処分だった場合、処分を受けた職員から「退職を促すような不当な降格が行われた」と訴えられるだけではなく、退職時の理由を「会社都合」にするよう求められることがあります。

 

降格処分を行う際には、就業規則に定めた懲戒事由の該当性、処分の程度の相当性など、慎重に検討し決定することが重要です。

 

 

7−4.降格処分に納得できない場合の職員の態度

降格処分は、役職や等級を低下させる処分のため、職員にとっては、これまで与えられていた権限を奪われる結果を伴います。手当や給与の減額に関わらず、職務上の権限を奪われたこと自体にプライドを傷つけられ、降格処分に納得できない場合、職員はどういった行動に出るでしょうか。

 

(1)労働基準監督署への駆け込み

労働者にとって、職務上の不満や不当な業務命令などに対し、職場内で相談することが困難な場合、各都道府県に設置されている厚生労働省管轄の労働基準監督署へ駆け込むことが想定されます。

降格処分については、役職や資格等級が低下するため、職場内の人には相談しにくい内容であり、職員自身で懲戒処分の相当性などについても判断が難しい部分も多いため、労働基準監督署の相談窓口で社会保険労務士や弁護士などに相談することが考えられます。

 

(2)あっせんの申立て

あっせんとは、紛争当事者の間に、公平・中立な第三者として労働問題の専門家(弁護士、大学教授、社会保険労務士など)が入り、双方の主張の要点を確かめ、調整を行い、話し合いを促進することにより、紛争の解決を図る制度です。

制度は無料で利用することができ、代理人として弁護士を立てる必要もなく、原則一回の期日で手続きが終了するため、労働審判や裁判に比べて簡便に利用ができます。

また、手続きは非公開で行われるため、紛争当事者のプライバシーは保護される点がメリットと言えます。

 

▶参考:手続きの詳細な内容は、厚生労働省の「個別労働紛争解決制度(労働相談、助言・指導、あっせん)」のページをご確認ください。

厚生労働省「個別労働紛争解決制度(労働相談、助言・指導、あっせん)」

 

 

(3)労働審判の申し立て

労働審判手続は、懲戒処分や給料の不払など、労働者と事業主との間の労働関係のトラブルを迅速かつ適正に解決するための実効的な手続です。可能な限り、労働者と事業主に負担なく行えるように、審判期日は3回以内で行われ、非公開の手続きとなっています。また、事案の解決には、労働審判官(裁判官が担当)だけではなく、労働審判委員という専門家(雇用関係の実情や労使慣行等に関する詳しい知識と豊富な経験を持つ者の中から任命される裁判官以外が2名で担当)が期日に同席し、調停という話し合いを中心に実情に即した解決を行えるように促してくれます。

 

▶参考:労働審判の詳細な内容は、最高裁判所の「労働審判手続」のページをご確認ください。

裁判所「労働審判手続」

 

 

(4)訴訟の提起

労働審判で話し合いがまとまらなかった場合、2週間以内に訴訟が提起されると民事訴訟に移行します。民事訴訟は一般的な裁判ですので、労働審判手続に比べると判決が出るまでの期間が長くなり、訴訟の内容は原則公開(誰でも傍聴可能)になります。また、調停のような当事者を交えた話し合いは行われず、裁判所を介して書面や証拠のやりとりを行い、審理を尽くしたうえで裁判官に判断を委ねる手続きになります。

訴訟に移行するメリットは、双方の主張が明らかになり、どちらの主張が正しいかを明確にできる点ですが、一方で、「職員から提訴された=職場環境がよくない」というようなレッテルを貼られ、法人内部・外部からの信頼を失う可能性がある点は事業所にとっては非常に大きなデメリットと言えます。

なお、労働審判を経ずに訴訟を提起することも可能です。

 

【弁護士畑山浩俊のワンポイントアドバイス】

 

降格処分は公表しても良い?

 

「降格処分を含む懲戒処分を行ったことを社内で公表したいが、構わないか。」というご相談をいただくことがありますが、懲戒処分の公表については、積極的にはお勧めはしていません。

 

そもそも、懲戒処分は社内秩序を守るための制裁罰であり、処分を行うこと自体が非違行為自体への罰となりますので、その内容を社内全体に公表することに、どのようなメリットがあるのか、という点で疑問が残るからです。

 

懲戒処分を公表したいとおっしゃる方の中には、社内でどういった行為に対して、どの程度の懲戒処分を行ったのかを公表することで、他の社員への抑止力になるというメリットを挙げられる方も多くいらしゃいますが、一方で、具体的な事例を挙げることにより、誰がどういった行為で懲戒処分になったかを周知してしまい、処分を受けた職員だけではなく、被害者がいる場合、被害者となった職員も職場にいづらくなってしまう、というデメリットもあります。

 

つまり、懲戒処分自体は適切に行われたにも関わらず、処分を公表したことによって、別のトラブルに発展する可能性を孕んでしまうということです。

 

それでもなお、「懲戒処分は公表し、社内の規律を保ちたい!」とお考えの場合は、就業規則や懲戒規則に「懲戒処分については社内に公表する」という旨を明記し、社内公表の場合は、弁護士などの専門家に相談の上、具体的な内容は避け、あくまでも懲戒事由と処分の内容にとどめるなど、当事者が特定されないよう配慮するようにしましょう。

 

また、こちらの動画でも解説をしていますので、併せてご覧ください。

 

▶参考:【米澤先生と対談!!】懲戒処分って社内公表していいんですか???

 

 

8.降格処分が違法となる場合とは?

降格処分は、職員への影響が大きい懲戒処分であるため、処分後に職員から「不当な処分を受けた」と訴えられるケースは少なくありません。ここでは、降格処分が違法となった場合のデメリットについて解説します。

ここでは、どのようなケースで、降格処分が違法となるのか、また降格処分が違法となった場合のデメリットについても解説します。

降格処分を含む懲戒処分については、法令上の明確な定めがないため、就業規則に定めたうえで、職員に周知しておくことが必要です。

また、懲戒処分は、対象の非違行為を具体的に特定・立証したうえで、非違行為の内容に比して相当な処分をする必要があります。特に降格処分は、非常に重い処分なので、このような要請が非常に強まる傾向にあります。

そのため、問題職員への降格処分において、就業規則に明記されていない事由での処分、非違行為が十分に特定・立証できていない処分、又は、相当性を欠く過度な処分を行った場合などには降格処分が無効になる可能性があります。

 

8−1.降格処分が違法になるとどうなるか?

降格処分が違法になった場合、処分によって職員が受けた不利益を遡って補填する必要があります。

処分によって職員が受けた不利益の補填とは、給与や賞与の減額された差額を遡って支払ったり、処分によって受けた職員の名誉棄損や信頼の回復に対する損害賠償を支払ったりすることです。

下記に、降格処分が違法と判断された事例を取り上げています。

本件では、降格処分は懲戒事由に対して不当に重く、仮に降格処分が有効であったとしても降格の程度(本件では4等級低下。それに伴う給与は元の水準の56%となった。)がその他の事案に対して均衡がとれていないと判断され、本件降格処分は無効とし、原告の職位は元の地位にあることが裁判所により認められ、減額された給与と元の給与との差額を原告にすべて支払うことを会社に命じています。

裁判例を見てもわかるように、降格処分を行う場合は、その他の懲戒処分同様、慎重な判断が必要となりますが、降格の程度やそれに伴う給与の減額など、これまでに行った降格処分との均衡がとれていることが重要視され、特定の案件や特定の職員のみ処分の程度が重い場合には、不当な目的での性分と評価されと違法と判断されることになります。降格の判断をする際には、懲戒による降格のみならず、人事権による降格などこれまでに行った降格と見比べて、慎重に検討をしましょう。

 

▶参考:東京地裁 平成29年3月17日判決

 

●事案の概要

原告Xは、金融機関である被告Yに支店長として勤務していた。店舗改装の折、取引先や得意先からの祝儀(4万)を着服したことや、行内の違算金(帳簿と合わない現金250円)を隠蔽しようとしたこと、行内の人間関係を調整する立場にも関わらず、その言動などから他の職員を委縮させていたことなどから、支店長職を解かれる降格処分を受けたことにより、役職手当及び職能給を合わせて、月額賃金が23万6900円の減額(元の給与水準の56%)になった。

原告Xは、本件懲戒処分を受ける前の被告Yとの間の雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認及び本件配転命令で命じられた勤務先で勤務する義務のないことの確認並びに本件懲戒処分で減額された賃金等の支払を求めたほか、不当な本件配転命令という不法行為に基づき、損害賠償を求めた。

 

●判決の内容

降格処分は社会通念上相当とは認められず、懲戒権の濫用に当たり無効であるとして、原告の請求(給与減額分の支払い)など、一部を認め、会社に支払いを命じた。

裁判所は、原告Xが本件支店の顧客らからの新店舗開店に係る祝儀を着服したことは、被告Yの本件就業規則の規定にいう「横領」に当たるとした上で、当該行為が顧客からの預り金の着服と比べて悪質性が高くないことや金額が比較的些少な額にとどまっていたこと等からすると、相当性に関する原告Xの交友関係の問題や過去の処分歴に係る被告Yの主張を検討しても、本件懲戒処分は、社会通念上相当なものとは認められず、懲戒権の濫用に当たり、無効であり、また、本件配転命令も自主退職を迫るという不当な目的の下でなされたもので、人事権の濫用に当たり、無効であるとしたほか、降格処分後に行われた配転命令についても、自主退職を迫る目的の下でなされたもので人事権の濫用に当たるとし、損害賠償請求を認めた。

 

 

9.降格処分による職員への影響

降格処分は、職員の労働者としての地位を引き下げる懲戒処分ですが、それに伴って給与の一部を減額することが一般的です。また、降格処分の性質そのもの以外にも、賞与(ボーナス)、昇級、退職金支給、転職の場面など、職員に影響を与える場面があります。

ここでは、それぞれについて解説します。

 

9−1.給与の減額

降格処分は、職員の役職や等級を下げる懲戒処分ですが、給与に役職給や資格手当を支払っている場合、役職の低下とともに、当該役職給や資格手当も給与から減額されることになります。また、職務等級制度を採用している場合、等級の低下とともに基本給が減額されることもあります。

いずれの場合も、就業規則と給与規定に役職給や等級制度について明記されていることが前提となりますが、職務等級制度を採用している場合は、基本給を減額するため、就業規則や給与規程に等級や基本給に関する詳細な記載だけでなく、減額の計算方法や基準を定めておくことが必要です。

また、降格に伴い、給与額を減額することは、職員にとっても経済的な影響が大きく、納得しがたい部分があることは当然のことです。降格処分を行う際には、通知書に「懲戒規定のどの事由に相当するのか」「どの程度の降格処分になるか」等を明確に記載の上、口頭できちんと説明しましょう。

 

9−2.賞与(ボーナス)の減少

降格処分が行われた後の賞与については、降格に伴う降給があった場合、賞与額も低下する可能性があります。賞与(ボーナス)は、就業規則にその内容が定められている場合や、事業所と職員との間の労働契約で合意した場合に支払い義務が発生します。

その形態は、以下の2種類に分けられます。

 

  • ①賞与支給額の計算方法が明確に定められているもの
  • ②査定により決定するもの

 

「①賞与支給額の計算方法が明確に定められているもの」について、次のように賞与の算定方法が就業規則に定められていて、役職や資格に手当が付与される職能資格制度の場合、役職給や資格手当は、基本給には含まれないため、降格処分が賞与に影響する可能性はありません。しかし、職務内容やその難易度によって職員の等級を決定する職務等級制度の場合、職員の等級によって基本給が変更されますので、降格処分後、賞与(ボーナス)の支払いが行われる場合には、変更後(降格後)の基本給で計算し、支払うことは可能です。ただし、降格がどのタイミングで行われたか、など、賞与算定の基準日や基準額などを給与規程などに明確に定めておくことが必要です。

 

▶参照:規定例

賞与は、基本給の2か月分とする。

 

 

一方で「②査定により決定するもの」のように、賞与(ボーナス)について、以下のような規定をしている事業所も多いのではないかと思います。

 

▶参照:規定例

賞与は、会社の業績に応じ、従業員の能力、勤務成績、勤務態度等を人事考課により査定し、その結果を考慮して、その都度決定する。

 

 

この場合、賞与の算定においては、対象期間における職員の能力、勤務成績、勤務態度等を考慮して決定され、人事考課が賞与に影響を及ぼすことは明白です。そのため、懲戒処分の対象となった問題行動を理由として、他の職員に比して賞与(ボーナス)を減らすことは可能です。

しかしながら、この人事考課については、懲戒規定同様に基準を明確に定め、公平かつ合理的な運用をしていることが非常に重要となります。単に「対象期間の勤務態度を総合的に考慮する」といった曖昧な規定をするだけでは、恣意的な運用をしていると取られかねません。

また、懲戒処分を受けた場合は一律に賞与を0円にするなどといった極端な運用も他の職員との公平性を著しく欠くことになり得ますので避けるべきです。

評価制度において、実際に賞与の金額に差を設ける場合には、問題行動の性質だけでなく、懲戒処分の程度や回数など、客観的な基準を設けておくと利用しやすくなります。

 

9−3.昇級への影響

降格後の昇級については、通常通り、行うことが可能ですが、人事考課や昇級制度を会社がどのように定めているかがポイントになります。一般的に、人事考課の際、査定期間内の業務成績を基に職員の等級を上げるか否かを判断しますが、懲戒処分の有無も人事考課の判定材料としている事業所もあります。

その場合、降格処分が行われたことが、人事考課にマイナスに作用しますので、通常であれば昇級すべきところ、懲戒処分歴があることで昇級しない、もしくは昇級の程度が通常より少ないという判断をすることも可能です。

但し、懲戒処分後の昇級や人事考課についても、就業規則などに判断基準を明記し、職員に周知して、通常昇給する場面で昇級しない場合には、職員への丁寧な説明が不可欠です。

 

9−4.退職金への影響

退職金は、一般的に、勤務年数、退職時の基本給、退職理由を主な考慮要素として、算定されます。

就業規則において、例えば懲戒処分の中でも諭旨解雇や懲戒解雇をした場合や、これらの懲戒処分に相当するような行為をした場合に、退職金の減額、不支給、返還等を定めることはありますが、降格処分等、それよりも軽い懲戒処分を理由として、退職金の額を変動させる仕組みとすることは一般的ではありません。

ただし、職務等級制度を採用している場合、降格を行うことによって、基本給が減額される場合があります。その場合、退職金の算定方法にもよりますが、基本給が低下しているため、退職金の額も減少することが想定されます。

退職金の算定の際に、基本給を基礎とする場合、過去に行った降格処分で退職金の額が低下することも考えられますので、就業規則や給与規程に退職金の算定方法を明確に規定し、過去の降格処分によって、退職時にトラブルにならないようにしておきましょう。

 

9−5.転職時の履歴書への記載

転職時に、降格処分を含む懲戒処分の有無について、履歴書に記載する必要はありません。ただし、転職先としては、なぜ転職しようとしているのか、前職を退職した理由などについて知りたいと考えるのは通常のことです。

そのため、履歴書には書いていなくても、面接の際に退職理由や懲戒処分を受けたことがあるか否かについて口頭で確認することは一般的であり、その際に故意に秘匿したり、虚偽の事実を伝えたりした場合、転職後に懲戒処分等を含めた何らかの処分を受ける可能性があります。

なお、履歴書に記入欄のある「賞罰」に記載すべき「罰」とは刑法上の犯罪による懲役刑、禁錮刑、罰金刑といった有罪判決を受けて科された「罰」(刑事罰)のことを指しており、行政罰や就業先での懲戒処分は含みません。

 

10.職員への制裁として降格処分を行う前に弁護士に相談したほうがよい理由

懲戒処分には、賃金の一部減額を行う「減給処分」や、労働者の労務提供を禁止し、その期間の給与を支給しない「出勤停止処分」がありますが、「降格処分」は労働者の職位を引き下げたうえで、賃金と一緒に支給されていた役職給や手当を継続的に低下させる非常に重い懲戒処分です。

降格処分を受けた職員は、昇格するまでの間、低下した賃金が支払われ続けるという経済的な影響もあるばかりか、職務上の権限も制限されるため、経済的にも精神的にもダメージの大きい処分です。そのため、確実な準備や検討を経ずに、処分の決定をした場合、問題職員からの強い反発を受け、その効力を争われる可能性は高くなります。

つまり、降格という処分をするためには、懲戒事由の発覚時から計画的な準備をするなど、正しいプロセスを踏むことが重要になるということです。懲戒事由が発覚した際に、すぐに相談ができる労働法に強い弁護士、介護業界に明るい弁護士がいることは、どの事業所にとっても心強いものです。

懲戒処分に至る前の注意指導段階から弁護士へ相談することで、問題職員の業務改善を適正に行うことはもちろんのこと、今後の懲戒処分への対応が必要になることも見据えて、必要な証拠を揃えていくことが可能です。

事業所として対応に苦慮する状況になることは可能な限り避け、取るべき手段がまだ数多く残されているうちに、弁護士に相談することを心がけましょう。

 

11.降格に関して弁護士法人かなめの弁護士に相談したい方はこちら

介護業界に特化した弁護士法人かなめによるサポート内容のご案内!

弁護士法人かなめでは、介護業界に精通した弁護士が、以下のようなサポートを行っています。

 

11−1.降格処分に関する手続の指導

降格処分は、懲戒処分の中でも一歩踏み込んだ手続きであることに加え、法令に定められていない手続きになるため、その判断基準を明確にし、求められるプロセスを確実に踏んでいくことが重要です。

そのため、降格処分を検討するにあたっては、初期のタイミングから専門家の意見を仰いでおくことが重要なのです。

弁護士法人かなめでは、介護事業所の労務管理に精通した弁護士が、証拠の残し方、注意指導をする際の準備などを、計画的にサポートした上、手続を行うタイミングも含め、指導します。

これにより、従業員への降格処分を確実に実施でき、実施後の紛争も最小限に抑えることが可能になります。

 

11−2.かなめゼミ(労働判例研究会)

弁護士法人かなめでは、顧問先様を対象に、降格処分を含む懲戒処分の手続をはじめとして退職勧奨など、普段の労務管理の参考になる労働判例を取り上げ、わかりやすく解説するかなめゼミを不定期に開催しています。

研究会の中では、参加者の皆様から生の声を聞きながらディスカッションをすることで、事業所に戻ってすぐに使える知識を提供しています。

 

11−3.顧問サービス「かなめねっと」

弁護士法人かなめでは、「1 1−1.降格処分に関する手続の指導」及び「11−2.かなめゼミ(労働判例研究会)」のサービスの提供を総合的に行う顧問弁護士サービス「かなめねっと」を運営しています。

事業所内で何か問題が発生した場合には、速やかに弁護士へ相談できる関係性を構築しています。

具体的には、弁護士と介護事業所の関係者様でチャットグループを作り、日々の悩み事を、法的問題かどうかを選択せずにまずはご相談頂き、これにより迅速な対応が可能となっています。いつでもご相談いただける体制を構築しています。法律家の視点から利用者様とのトラブルをはじめ、事業所で発生する様々なトラブルなどに対応しています。

直接弁護士に相談できることで、事業所内社内での業務効率が上がり、情報共有にも役立っています。

顧問弁護士サービス「かなめねっと」について詳しくは、以下のサービスページをご覧ください。

 

▶参照:顧問弁護士サービス「かなめねっと」について

 

 

また以下の記事、動画でも詳しく説明をしていますので、併せてご覧下さい。

 

▶︎参考:介護施設など介護業界に強い顧問弁護士の選び方や費用の目安などを解説

▶︎参考:【介護・保育事業の方、必見】チャットで弁護士と繋がろう!!介護保育事業の現場責任者がすぐに弁護士に相談できる「かなめねっと」の紹介動画

 

 

弁護士法人かなめには、介護業界や問題職員対応などの労働問題の分野に精通した弁護士が所属しており、丁寧なアドバイスと適切なサポートを行うことで、介護事業所の皆様の問題解決までの負担などを軽減させることができます。現在、問題職員に対する懲戒処分の進め方などでお悩みの事業所の方は、早い段階でお問い合わせください。

 

12,まとめ

この記事では、降格処分を含む懲戒処分の根拠や「懲戒処分としての降格」と「人事権行使としての降格」の違い、また、降格処分を行うべき事例や具体的な手続きについて解説しました。

降格処分の大きな特色は、一時的な賃金の低下を伴うその他の懲戒処分(減給や出勤停止)とは異なり、一度、降格処分を受けると次に昇格・昇級するまで、賃金が低下したまま支給されるという経済的に影響の大きい処分であるとともに、それまで付与されていた権限も奪われるため、職員を精神的にも傷つける制裁罰である点です。また、そのほかの懲戒処分同様、その内容には法令の定めがなく、降格の範囲(職位低下の幅)については、各事業所の就業規則に委ねられているため、懲戒事由が就業規則に定められているかや降格処分に相当する非違行為かなど、処分決定には慎重な調査検討が必要です。

その一方で、度重なる就業規則違反やハラスメント行為など、悪質な勤務態度の問題職員に対しては、これまでの注意指導、懲戒処分歴、懲戒事由の程度などを考慮しながら、効果的に利用することができる処分でもあります。

問題職員にお困りの事業所の皆様は、労働分野、介護分野に詳しい弁護士に相談の上、計画的かつ効果的に降格処分を利用していきましょう。

 

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この記事を書いた弁護士

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畑山 浩俊はたやま ひろとし

代表弁護士

出身大学:関西大学法学部法律学科卒業/東北大学法科大学院修了(法務博士)。
認知症であった祖父の介護や、企業側の立場で介護事業所の労務事件を担当した経験から、介護事業所での現場の悩みにすぐに対応できる介護事業に精通した弁護士となることを決意。現場に寄り添って問題解決をしていくことで、介護業界をより働きやすい環境にしていくことを目標に、「介護事業所向けのサポート実績日本一」を目指して、フットワークは軽く全国を飛び回る。

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