記事公開日: 2022年5月30日   
記事更新日: 2022年8月31日

高齢者の経済的虐待とは?介護事業所で発生時の対応や防止対策を解説

高齢者の経済的虐待とは?介護事業所で発生時の対応や防止対策を解説
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高齢者の財産を不当に処分したり、高齢者から不当に財産上の利益を得る「経済的虐待」は在宅介護、施設介護を問わず発生します。

例えば、利用者のご家族が利用者の年金を遣い込み、利用料の滞納が生じる、施設の職員が利用者の金銭を横領し刑事罰に問われるなど、経済的虐待の問題は様々な形で介護現場に暗い影を落としています。

経済的虐待発生時の対応方法を誤ると、利用者の生活が成り立たなくなったり、介護事業所の運営にも悪影響が出ます。さらには、経済的虐待対応のノウハウを知らないと、介護現場で働く職員が馴れない業務への対応に、精神的に大きな負担を抱えることになります。

そこで、この記事では、経済的虐待の具体的な事例を通じて、それぞれの対応方法を解説する他、経済的虐待を早期に発見し、これを防止するための方法について解説します。

そして、実際に利用者家族からの利用者に対する経済的虐待を疑い、対応を検討されている事業所の皆さんや、経済的虐待に厳格に対処していこうと考えている事業所の皆さんにおかれては、この記事を読むことで、介護事業所として取り組むべき経済的虐待に対する「組織対応」について学ぶことができますので、経済的虐待に纏わるトラブルを回避したり、早期解決を図ることができるようになります。

それでは、一緒に学んでいきましょう。

 

※なお、この記事では、「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」を「高齢者虐待防止法」と略します。

 

【経済的虐待の関連記事】

経済的虐待を含む高齢者虐待全般に関する詳しい解説は、以下の記事を公開していますのであわせてご参照ください。

介護現場の高齢者虐待とは?種類や発生原因、適切な対応方法を詳しく解説

 

1.経済的虐待とは?

経済的虐待は「高齢者虐待」の一種であり、高齢者虐待防止法では以下のように定義されています。

 

▶参考情報:高齢者虐待防止法の条文

 

① 養護者又は高齢者の親族が当該高齢者の財産を不当に処分することその他当該高齢者から不当に財産上の利益を得ること(高齢者虐待防止法第2条4項第2号)

② 養介護施設の業務に従事する者が、当該養介護施設に入所し、その他当該養介護施設を利用する高齢者の財産を不当に処分することその他当該高齢者から不当に財産上の利益を得ること(高齢者虐待防止法第2条5項第1号ホ)

 

・参照:「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」の条文はこちら

 

 

イメージしやすいように具体例を挙げます。

 

「①」は利用者のご家族が高齢者を虐待をしている場面です。

例えば、重度の認知症で特別養護老人ホームに入所している利用者の息子が、利用者本人の年金が入金される通帳を管理しており、その年金を利用者のためではなく、息子自身の生活費のために費消するような場面が、これにあたります。

その結果、特別養護老人ホームの利用料の支払いが滞るなど、派生的な問題が発生します。

 

「②」は介護施設で働く職員が高齢者を虐待をしている場面です。

例えば、住宅型有料老人ホームの入居者の金銭管理をしている職員が、その入居者の金銭をこっそり自分のために使う場面や、ケアマネージャーが、自身の担当する認知症の進行した利用者に対し、「お金が必要」などと懇願し、金銭の交付を受ける場面などがこれにあたります。

 

2.経済的虐待の現状は?厚生労働省の調査データをもとに解説

ここでは、利用者家族、介護従業者による経済的虐待の状況について、厚生労働省が発表する調査結果を元に解説します。

 

2−1.利用者家族による経済的虐待

厚生労働省の調査によると、高齢者の世話をしている家族、親族、同居人等の「養護者」、すなわち利用者家族による高齢者虐待に関する市町村への相談・通報件数は年々増加しています。

 

▶参考:養護者による高齢者虐待の相談・通報件数と虐待判断件数の推移データ

養護者による高齢者虐待の相談・通報件数と虐待判断件数の推移データ

・参照元:厚生労働省:令和2年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果から抜粋

 

具体的には、養護者による高齢者虐待の相談、通報件数は、令和2年度で3万5774件であり、前年度(令和元年度)から1717件(5.0%)増加しています。

また、実際に虐待と判断された件数については、令和2年度で1万7281件であり、前年度(令和元年度)から353件(2.1%)増加しています。

さらに、このうち、経済的虐待は全体の14.6%を占めており、人数にして合計2588人の高齢者が経済的虐待を受けた、又は受けたと思われた、と判断されています。

 

▶参考:虐待の種別の割合データ

虐待の種別の割合データ

・参照元:厚生労働省:令和2年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果から抜粋(pdf)

 

なお、被虐待高齢者のうち、虐待を行った養護者と被虐待高齢者が同居している割合は、実に88.4%に及び、被虐待高齢者から見た虐待者の続柄は、「息子」が39.9%と最も多く、次いで「夫」が22.4%、「娘」が17.8%に順となっています。

 

▶参考:被虐待高齢者から見た虐待者の続柄データ

被虐待高齢者から見た虐待者の続柄データ

・参照元:厚生労働省:令和2年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果から抜粋(pdf)

 

2−2.介護従事者による経済的虐待

厚生労働省の調査によると、養介護施設従事者等、すなわち介護従事者による高齢者虐待に関する市町村への相談・通報件数は、令和元年までは年々増加していましたが、令和2年度には減少しています。

 

▶参考:養介護施設従事者等による高齢者虐待の相談・通報件数と虐待判断件数の推移データ

養介護施設従事者等による高齢者虐待の相談・通報件数と虐待判断件数の推移データ

・参照元:厚生労働省:令和2年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果から抜粋

 

具体的には、養介護施設従事者等による高齢者虐待の相談、通報件数は、令和2年度で2097件であり、前年度(令和元年度)から170件(7.5%)減少しています。

また、実際に虐待と判断された件数については、令和2年度で595件であり、前年度(令和元年度)から48件(7.6%)減少しています。

相談・通報者の内訳としては、51.1%が虐待が発生した施設の職員関係者であり、この内、元職員の割合は9.9%です(現職員の割合は26.7%、管理者等の割合は14.5%です)。

在職中は、職場の人間関係などもあって、虐待の事実について市町村に中々相談・通報ができないものの、退職した後に決心して相談・通報した、という事例は、弁護士として虐待事案に関与する中では実際によく聞くケースです。

なお、実際に虐待と判断された件数のうち、経済的虐待は全体の4.8%、人数にして合計59人にとどまり、養護者に比較すると割合が小さいことがわかります。

 

▶参考:虐待の種別の割合データ

虐待の種別の割合データ

・参照元:厚生労働省:令和2年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果から抜粋(pdf)

 

なお、虐待者の性別と介護従事者の性別を比較すると、介護従事者の数としては女性が7割以上を占めるにもかかわらず、虐待者の数は断裁が5割を超える結果となっており、相対的に男性介護従事者による虐待件数が多いことがわかります。

 

▶︎虐待者の性別と介護従業者の性別の比較

虐待者の性別と介護従業者の性別の比較

・参照元:厚生労働省:令和2年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果から抜粋(pdf)

 

さらに、虐待者の職種で分類すると、介護職が全体の79.1%、看護職が3.4%、管理職が6.1%、施設長が3.6%であり、実際に現場で介護にあたる職員以外の職員に関しても、虐待の加害者となるケースがあることがわかります。

 

▶参考:虐待者の職種データ

虐待者の職種データ

・参照元:厚生労働省:令和2年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等 に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果(添付資料)(pdf)

 

職種で分類すると、介護職が「79.1%」、看護職が「3.4%」、管理職が「6.1%」、施設長が「3.6%」という結果でした。

 

3.経済的虐待の事例

経済的虐待の事例

次に、経済的虐待のよくある事例を「利用者家族による具体例」と「介護従事者による具体例」に分けてご紹介します。

以下で順番に見ていきましょう。

 

3−1.利用者家族による具体例

利用者家族による経済的虐待の事例で多いパターンは、利用者本人のお金を利用者に無断で家族の生活費や遊興費に費消する事例です。

 

事例1:年金の遣い込み

例えば、特別養護老人ホームに入所中の利用者の年金を、キーパーソンである利用者の息子が管理している場合に、息子が自身の生活費や遊興費に年金を遣い込んでしまうケースがあります。

このような遣い込みにより、利用者の年金がほぼ費消されて終えば、施設利用料が引き落とされる預金口座から、毎月の引き落としがされなくなったり、利用者の手元にお金が残らない結果、施設利用料の支払いが滞り始めます。このような段階になると、介護事業者においても、利用者家族による経済的虐待の存在を認知することになります。

弁護士法人かなめが実際に関与したケースでは、利用者の息子夫婦が、「自分たちの生活も大変なので、年金を使って何が悪い。また、子どもの教育費用もかかるんだ。塾代に使って何が悪いんだ。」などと開き直っているケースもありました。

 

事例2:預金の遣い込み(通帳から勝手にお金を引き出す)

より酷いケースでは、利用者家族である息子が、介護サービスを利用せずに在宅で利用者を介護しているという状況の中で、自らが管理している利用者の通帳から勝手にお金を引き出し、パチンコなどの遊興費に利用していたという事例がありました。

その際、息子は、ケアマネージャーから、介護サービスを受けることを勧められたにもかかわらず、これを頑なに利用せず、食事も一日に一回だけ、スーパーなどで総菜を買ってきて与えるのみといった状況で、利用者の健康状態は非常に悪化していました。

この事例は、単に経済的虐待だけではなく、介護の放棄・放任という問題も生じています。

 

3−2.介護従事者による具体例

介護従事者による具体例では、ヘルパーやケアマネージャーが利用者の自宅に訪問する在宅の場面と、介護施設内の場面ごとにご紹介します。

 

事例1:利用者の自宅に訪問した際の経済的虐待

介護従事者の経済的虐待の具体例としては、ヘルパーやケアマネージャーが利用者の自宅に訪問した際、利用者の金品を着服・窃盗するケースがあります。

また、認知症の利用者に対して、「お金に困っているからお金が欲しい」などと直接頼み込み、正常な判断ができない利用者から金銭の贈与を受ける行為も経済的虐待に該当します。

弁護士法人かなめが、実際に相談を受けたケースでは、介護従事者が、訪問する度に数万円程度のお金を「お小遣い」としてもらい、貯めたお金で車を購入したというケースがありました。

もちろん、利用者の意思能力が正常で、利用者自身が本心から「お金をあげたい」「一生懸命頑張ってくれているから息子・娘のようだ。せめてお小遣いでも・・・」と思い、お金を渡すケースはあります。このような場合に金品を受け取ったからといって経済的虐待になる訳ではありません。

しかしながら、介護事業を運営する法人としては、職員が利用者から金品を授受することは社内ルール上、絶対的に禁止にすべきです。

法人がこれを許容・黙認すると、確実にモラルは低下し、深刻な経済的虐待事案に繋がる可能性があります。

 

事例2:介護施設内において金銭を職員が着服・窃盗するケース

介護施設内において発生する経済的虐待の例としては、介護施設において利用者の金銭を預かっている場合、その金銭を職員が着服・窃盗するケースがあります。

また、このようなあからさまなケースではなくとも、預り金等取扱い規程などを整備せず、利用者の金銭に関する入出金状況の詳細が分からなくなったことが、経済的虐待と認定される場合もあります。

 

4.経済的虐待が発生する原因

では、なぜ経済的虐待は発生してしまうのでしょうか?

この段落では、経済的虐待が発生する理由として、「利用者家族で発生するのはなぜか」と「介護従事者が経済的虐待を行ってしまうのはなぜか」、について解説していきます。

 

4−1.利用者家族による経済的虐待

利用者家族による経済的虐待が発生する原因として挙げられるのは、利用者家族自身の経済的困窮です。

具体的には、利用者家族が元々引きこもりで仕事をしておらず、経済的に困窮している状況で、そもそも利用者の年金をあてにした生活をしていたり、新型コロナウイルス感染症蔓延時期に、仕事が無くなり経済的に困窮し、利用者の金銭を使い込んでしまう、ということが挙げられます。

他にも、利用者家族がギャンブルや飲酒に依存していたり、嗜好品の購入に利用するために、利用者の金銭に手を付けるパターンがあります。

さらには、「利用者の金銭は当然の如く家族が使っても良いのだ」、という誤った知識から、当たり前のように利用者の年金を使い込み、経済的虐待が生じるケースもあります。

 

4−2.介護従事者による経済的虐待

介護従事者による経済的虐待の原因も、利用者家族による経済的虐待の場合と同様に、介護従事者自身の経済的困窮が挙げられます。

借金・ギャンブル・飲酒などが原因で経済的に困窮しており、ついつい利用者の金銭に手を付けてしまった、というパターンです。

また、施設内で預かっている金銭の管理が杜撰で、現金出納帳すらも作成しておらず、利用者の金銭を一体何にいくら使ったのかが不明になっている場合もあります。

これは、「金銭管理を行う際に、預り金等取扱い規程の整備を行ったり、現金出納帳をつけたりして、金銭管理を厳格に行う必要がある」、という知識・情報が不足して発生する経済的虐待事案と言うことができます。

さらに、「これくらいの金額の着服は問題無いだろう」といったように規範意識が鈍麻していることが原因で窃盗行為などを働き、経済的虐待が発生する場合もあります。

たとえ100円であったとしても、利用者の金銭を着服する行為は、窃盗罪や業務上横領罪といった刑事罰の対象になる犯罪行為です。

介護従事者による経済的虐待を防ぐには、定期的に職員向けの研修を実施し、高齢者虐待防止に必要な知識・情報を周知徹底することがとても重要です。

高齢者虐待防止に必要な知識や具体的な対策については、以下の記事で詳しく解説していますので、あわせてご参照下さい。

 

▶参考:高齢者虐待を防止する対策とは?具体的な対応方法を解説【具体例付き】

 

 

5.経済的虐待発見の端緒(きっかけ)

次に、経済的虐待はどのようなことがきっかけで発覚する事が多いでしょうか?

経済的虐待は、後の段落でも解説しますが、早期解決のためには早期発見することが極めて重要です。そのため、ここでは「どんなきっかけで経済的虐待が発覚することが多いのか」について、解説していきます。

 

5−1.利用者家族による経済的虐待

 

(1)利用料の滞納

利用者が介護サービスを受けている場合、当然のことながら、利用者に自己負担分の利用料支払い義務が生じます。

よくあるケースは、利用者本人が認知機能が低下しており、家族が利用料の支払いを行っている場面で、度々利用料の滞納が生じるパターンです。

介護事業所としては、「利用者さん本人は、利用料を支払うのに充分な年金を受給しているはずなのに、何故滞納が生じるのだろう。」と疑問に思い、家族に連絡すると、「自分たちの生活が今苦しくて、年金を生活費に使っているから、利用料はもう少し待って下さい。」と言われてしまい、「これは経済的虐待では?」と疑問を持ち、市町村の窓口に相談を持ち掛け、市町村も介入していくというパターンが多いです。

なお、利用料滞納については、以下の記事で詳しく解説していますので参考にご覧ください。

 

▶参考:深刻化する利用料滞納!介護事業で発生する原因と対応方法を解説

 

 

【弁護士畑山浩俊のワンポイントアドバイス】

利用者の家族の中には、原因の中でも触れたように、利用者の金銭を家族の生活費に使うことに何の疑問も抱いていない人がいます。

 

上記のように、介護事業所の職員と家族との会話の中で、利用者の金銭を勝手に使っている可能性を認識した場合は、迷わず市町村の窓口に相談をすることをお勧めします。

 

 

(2)持ち物や身なり

仕事をしていないはずの家族が、突然、ブランド物のバッグを複数持ち始めたり、華美な服装になったり、車を購入したり、一見して明らかに生活スタイルが替わるような場合、地域住民や、その家族に関わっている介護職員(ケアマネージャーやヘルパーなど)は不審に思うはずです。

この場合、地域住民の噂や介護職員とその家族との会話が経済的虐待発見の端緒になることがあります。

例えば、「●●さんは、勝手に親の所有している不動産を不動産業者に依頼して売却したらしい。」という地域住民の噂、介護職員が実際に家族と会話した際、「親は認知症だけど、不動産業者がうまいこと業者さんを手配してくれて、土地が売れたのよ。」と発言したこと、などがきっかけで、経済的虐待が発覚することがあります。

認知症の利用者は、契約に必要な意思能力が欠如しているため、有効な法律行為を単独で行うことができませんので、不動産を処分しようと思えば、成年後見制度を利用し、成年後見人が家庭裁判所の許可を得る必要があります。

そのため、仮に利用者家族のいう「不動産業者がうまいこと業者さんを手配してくれて」不動産を処分したことは事実であれば、利用者本人の財産を、正当な手続によらずに処分したことになりますから、経済的虐待である可能性が高いです。

このような情報を得た場合も、速やかに地域包括支援センターや市町村の窓口に相談することをお勧めします。

 

(3)介護サービス提供時の利用者の様子

介護サービス提供時の、利用者や自宅の様子などから、経済的虐待が発覚するケースもあります。

実際に、弁護士法人かなめがご相談を受けたケースは、以下のようなものです。

訪問介護員(ヘルパー)が利用者宅へ訪問した際、冷蔵庫の中に調理する食材が一切無く、利用者本人に確認したところ、「息子がお金をくれないから何も買えない」という発言がありました。

この利用者は、いつ訪問しても、常に顔や体に腫れや内出血があり、オムツ交換時には褥瘡があることも認められました。

そのため、訪問介護員が担当のケアマネージャーに相談し、ケアマネージャーが地域包括支援センターに相談したことで、虐待が発覚しました。

この事例は、介護放棄・放任に加え、息子による身体的虐待も認められ、さらに経済的虐待も生じていると事実認定されました。

このように、介護サービス提供時の利用者の様子から、経済的虐待・介護放棄・身体的虐待など、複数の虐待類型に該当する事実を訪問介護員やケアマネージャーが感知し、虐待の発覚に繋がるケースがあります。

 

(4)家族・親族からの虐待通報

例えば、利用者と同居している家族が経済的虐待に及んでいる場合、同居していない他の親族が実家に帰省したタイミングで、利用者の様子や自宅の様子などを不審に思い、同居している家族がきちんとした介護サービスを受けさせていないのではないか、と疑いを持つケースがあります。

具体的には、利用者の洋服が汚れていたり破れていて嫌な匂いがしている、体力が著しく低下し、明らかに痩せている、自宅がゴミだらけになり、掃除がされていないなど、以前に会った時との様子の違いから、不信を抱くケースです

このような場合に、同居していない家族や親族から市町村や地域包括支援センターに、「同居の親族が利用者の金銭を使い込み、必要な介護サービスを受けさせていない」などと通報が寄せられるケースがあります。

このように、家族・親族からの虐待通報が端緒となって経済的虐待の発覚に繋がる事例も多く見受けられます。

 

5−2.介護従事者による経済的虐待

 

(1)職員からの情報提供

例えば、一緒に働いている職員が別の職員の犯行の場面をたまたま発見し、上司や市町村に相談・通報したことがきっかけで発覚するケースがあります。

具体的には、住宅型有料老人ホームで、とある職員が居室にある入居者の財布の中からお金を抜き取った場面をたまたま見かけた職員が、思い悩んだ末に市役所へ来所し、匿名希望で虐待通報するケースがあります。

 

(2)利用者本人の発言から発覚するケース

経済的虐待は、身体的虐待と異なり、利用者本人の状態等からすぐにわかるものではないものの、利用者本人の発言の中から、経済的虐待の端緒が発見される可能性があります。

実際の事例として、とある利用者を数年来担当していたケアマネージャーが、病気が理由で、一時期、当該利用者を担当できず、その期間だけ別のケアマネージャーが担当した際、利用者が、「何故いつものケアマネじゃないのか。いつもたくさんお小遣いをあげているのに!」と怒りながら発言したことがありました。

臨時で対応したケアマネージャーがその発言を不審に思い、利用者から聴き取りをしたところ、なんと、過去数年で合計200万円以上もの金銭を前任のケアマネージャーが受け取っていたことが発覚した事例があります。

この利用者は、認知症の症状があるものの、金銭を渡したことについての認識ははっきりしており、また、受け取っていたケアマネージャーも素直に金銭授受を認めたことで、虐待通報に繋がりました。

この利用者は、独居で生活をしていたことから、頻繁に顔を合わせるケアマネージャーのことを心から信頼し、我が子のように接していたようです。

来るたびにお小遣いを渡していたようで、このケアマネージャーもついつい受け取るうちに、金額が大きく膨らんでしまった模様です。利用者は、「これだけお小遣いをあげているのだから自分の言うことは聞いてもらって当たり前だ」という態度になっていき、たまたま当該ケアマネージャーが病気で担当を外れたことで怒りが爆発し、過去の金銭の交付の事実を周りに吹聴したのです。

この事例は、利用者が自らの意思でお小遣いを渡していたことから、厳密にはケアマネージャーによる経済的虐待とは言えないかもしれませんが、実際にこの事例では、介護施設全体を巻き込んだ大騒動に発展しました。

 

前述したように経済的虐待は、身体的虐待と異なり発見しにくいケースも多いです。そのため、早期発見することが重要なポイントでもあります。

疑わしい事案を見つけた場合や、経済的虐待かどうか判断に迷うようなケースでは、早めに介護業界に精通している弁護士に相談するなどして、問題が深刻化しないように、決して放置しないようにしてください。

介護業界に精通している弁護士の選び方などについては、以下の記事で解説していますのでご参照下さい。

 

▶参考:介護施設など介護業界に強い顧問弁護士の選び方や費用の目安などを解説

 

 

6,経済的虐待を発見したら?具体的な対応方法について

実際に経済的虐待を発見した場合の対応方法については、以下のような対応方法があります。

 

  • 行政への通報
  • 成年後見申立の検討

 

等、順番に詳しく見ていきましょう。

そして、この段落では、実際に行った弁護士法人かなめの対応例などもご紹介していますのであわせてご覧ください。

 

6−1.行政への通報

例えば、訪問介護員や担当のケアマネージャーが、様々な端緒から、利用者のご家族が利用者の金銭を使い込み、利用者が必要な介護サービスを満足に受けることができていないのではないか、と感じ取った場合、決して介護事業所内部だけで悩まず、必ず、市町村・地域包括支援センターに相談・通報するようにしましょう。

高齢者虐待防止法第7条2項は、「養護者による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は、速やかに、これを市町村に通報するよう努めなければならない。」と規定しており、これは、虐待を発見した介護従事者に対して「勇気を出して行政に相談・通報するようにしましょう。」という努力義務を定めるものです。

「おかしいな」と感じ取った介護従事者が勇気を出して行動に移すことこそが「早期解決」に繋がります。

なお、介護従事者の中には、「虐待通報をすると、職務上課せられている守秘義務に違反するのではないか。」と不安に感じ、行動に移すことを躊躇する人がいます。

もっとも、高齢者虐待防止法第7条3項には、「刑法(明治四十年法律第四十五号)の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、前二項の規定による通報をすることを妨げるものと解釈してはならない。」と定められています。

要するに、高齢者虐待防止法に基づく通報の場合は、守秘義務には違反しないと考えて差し支えありません。

さて、通報を受けた行政側はどのような動きを取るのでしょうか。

この動きは意外と知られていませんので、簡単に流れを解説します。

 

【弁護士畑山浩俊のワンポイントアドバイス】
高齢者虐待防止法第7条1項には、「当該高齢者の生命又は身体に重大な危険が生じている場合は、速やかに、これを市町村に通報しなければならない。」という規定があります。これは、介護従事者が認識した利用者の状態が、重篤な寝たきり状態になっていたり、極度の栄養失調になって生命の危機に瀕しているような状態であった場合には、「努力義務」ではなく市町村への「通報義務」を課すものです。「通報しなければならない。」という文言になっている点が、同条2項の「努力義務」との相違点ですので、注意が必要です。

 

(1)家族による経済的虐待の発見時の行政側の対応について

まず、介護従事者から通報を受けた行政側は、速やかに事実確認を行い、早急に各部署や地域包括支援センター等の連携先と対応について協議を行います(「高齢者虐待対応協力者」との協議:高齢者虐待防止法第9条)。

この事実確認の一環として、高齢者やご家族への訪問調査を実施することがあります。

経済的虐待のケースでは、「お金を使い込んでいるのでは?」という疑いを掛けられている家族に対して訪問調査をする訳ですから、行政担当者も緊張感を伴って家庭訪問をしています。

この家庭訪問時において、中には、「自分たちのために使っているのではなく、利用者本人のために使っている」と様々な言い訳を並べ立てて、言い逃れしようとする人たちもいます。

ですから、介護事業所側としても、持っている情報は速やかに行政担当者に伝達する必要があります。

例えば、利用料の滞納が生じているのであれば、どの程度滞納が生じているのかなどの資料(過去の請求書データなど)や、ご家族との過去のやり取りに関する経過記録などを速やかに共有するようにしましょう。

行政側も経済的虐待と考えるケースにおいては、利用者の金銭を使い込んでいるご家族に対して、「通帳の管理を利用者本人に行ってもらうようにして下さい。」「社会福祉協議会の日常生活自立支援事業を活用してはいかがでしょうか。」などと、様々な提案を行います。

仮に、利用者本人に意思能力が欠如しているようなケースでは、成年後見制度の活用を勧めることもあります。

以下の動画でも、経済的虐待の発見時の行政対応について詳しく説明していますので、併せてご覧ください。

 

▶参考動画:【経済的虐待】行政へ伝達すべき3つの情報とは?

 

6−2.成年後見申立の検討

利用者本人の年金を同居の親族が自分たちの生活費や遊興費などに費消しているような経済的虐待の事案において、仮にその利用者本人が重度の認知症を患っているとします。

その人は、そもそも自身で金銭管理を行うことができません。

経済的虐待が生じていると、利用者本人の年金がどんどん目減りし、必要な介護サービスが受けられなくなります。引き続き同居の親族に金銭管理を任せることは危険と言わざるを得ません。

このような事態に備えて、成年後見制度が準備されています。この制度は、成年後見人・保佐人・補助人が本人の判断能力を補うことによってその人の生命、身体、自由、財産などの権利を擁護することを目的とする制度です。

成年後見制度は、原則として本人、配偶者、四親等内の親族等の家庭裁判所への申立てに基づき利用されます(民法第7条)。

経済的虐待を行っている同居の親族以外に、成年後見申立てに協力してくれる親族が見つかれば良いのですが、協力してくれる親族が現れない場合、本人保護のための成年後見制度が使用できないことになり、人権擁護の観点から望ましくありません。

そこで、このような場合に備えて、市町村長が、本来の申立人に代わって成年後見制度の申立手続きを行うことができるという例外的ルールが設けられています。

その内の一つが老人福祉法第32条です(高齢者虐待防止法第28条も成年後見制度の利用促進を規定しています)。

具体的には、老人福祉法第32条は、「市町村長は、65歳以上の者につき、その福祉を図るため特に必要があると認めるときは、民法第7条・・・(中略)・・に規定する審判の請求をすることができる。」と定めており、市町村長による成年後見の申立てが規定されています。

近年、成年後見制度に関する関心が高まり、市町村長申立ての件数も年々増加しています。直近の令和3年度の市町村長申立ての件数は9185件であり、全体の約23.3%を占め、申立人の中で最も多い比率を占めています(次いで、本人の子が約20.9%、本人が約20.8%)。

 

▶参考:申立人と本人との関係別件数・割合データ

申立人と本人との関係別件数・割合データ

・参照元:最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況―令和3年1月~12月―」より抜粋(pdf)

 

6−3.弁護士法人かなめの対応例

特別養護老人ホームに入所している利用者の施設利用料の滞納が生じているケースでの対応例を紹介します。

 

(1)事案の概要

この利用者は重度の認知症で、ほぼ寝たきりであり、意思疎通が困難な方です。キーパーソンは、次男であり、利用者の金銭管理もこの次男が行っていました。

特別養護老人ホームは、入所時に、この利用者には施設利用料を支払うのに十分な年金の受給があることを確認しています。

施設の経理担当者は、次男に催促の電話をしますが、「来月には必ず支払います。」などとその場しのぎの回答で、のらりくらりとかわされてしまうことが数ヶ月続きました。

我々弁護士法人かなめに相談が寄せられた後、すぐに、弁護士から次男に催促の電話、督促状の送付を行ったところ、数回は支払があったものの、またしばらくすると滞納が繰り返される状態に陥ります。

「年金は十分にあるはずなのに、何故滞納が生じるのですか。」と弁護士から電話で聞いたところ、「コロナの影響で事業がうまく行かず、自分たちの生活費に充てておりまして・・。」という回答がありました。

たしかに、コロナ禍で、生活苦に喘いでいる人は大勢いらっしゃいます。

しかし、だからと言って、利用者本人の年金を無断で自分たちの生活費に充てることは許されません。次男が生活苦であるのであれば、次男が福祉のサポ-トを自ら検討すべきです。

 

(2)弁護士による対応内容

弁護士としては、経済的虐待と判断し、速やかに行政窓口に虐待通報すると共に、行政担当者に経済的虐待を裏付ける根拠資料を提出しました。

具体的には、「① 次男との会話の録音データ(自分たちの生活費に使っているとの発言内容を立証するため)」、「② 介護施設の利用契約書(契約の解除事由に該当することを立証するため)」、「③ 未納状況に関する一覧表」を提出しました。

これらの資料があることで、行政担当者は、今後の調査を進めやすくなります。

虐待通報を受けると、行政担当者は事実確認のための措置を講じますが(高齢者虐待防止法第9条1項)、その一環で、経済的虐待の加害者であるキーパーソンの自宅を訪問することがあります。

今回のケースでも、行政担当者が速やかに次男宅を訪問しました。

その際、次男は、年金の使い道を質問されたとき、「利用者本人に関する支払が、施設利用料以外にもあり、そちらを支払っていると利用料が滞納になってしまう。」などと回答し、弁護士に対して、「自分たちの生活費に充てている。」と回答していた内容と矛盾する回答をしていました。

このように、行政担当者からヒアリングを受けた際、「このままではまずい。」と事態を察知したキーパーソンがのらりくらりと取り繕い、時間稼ぎをすることが良くあります。

この場合に備え、上記「① 次男との会話の録音データ(自分たちの生活費に使っているとの発言内容を立証するため)」で記載したように、行政通報する前の段階の会話を録音しておき、行政担当者に提出することが重要になります。

 

(3)対応の結果

結果として、このケースでは、成年後見の市町村長申立ての方法が採用され、家庭裁判所にて成年後見人が選任されました。

これにより、年金の管理主体が次男から成年後見人に移行します。

現在では、滞納状態も解消され、利用者本人は従前どおり、特別養護老人ホームの利用を継続しています。

 

【弁護士畑山浩俊のワンポイントアドバイス】

この事例について、介護施設の担当者は、「弁護士に介入してもらったことで、明らかに行政担当者の動きが変わった。自分たちだけで動いていたときは、中々行政担当者が重大案件として捉えてくれず、事態の進展が見られなかった。」と事案を振り返ってコメントしていました。

 

実際、行政担当者としても、どこまで踏み込んで動いて良いかわからず、結果として事態の解決が遅くなることは良くあります。

 

我々弁護士法人かなめが担当したケースでは、行政担当者に経済的虐待の通報をした上で案件の進め方を協議している際、担当者が「実は、高齢者虐待の対応部署に始めて配属されたので、私もどう進めて良いか分かりません。」と正直に打ち明けてくれたことがあります。

 

経済的虐待事案では、最終的に、成年後見人が就任して金銭管理主体が変わることがあり、利用者を取り巻く環境が大きく変化することからキーパーソンと揉めることも往々にしてあるため、行政担当者が案件を前に前に進めていくことに躊躇を覚えるのはある意味当然なのかもしれません。

 

したがって、弁護士が積極的に介入し、行政担当者にもアドバイスをしながら経済的虐待事案を解決に向けて併走していくことの重要性を感じています。なお、行政側にも弁護士に相談する仕組みはあるのですが、当該弁護士は行政内部に常駐している訳では無く、また介護施設側の事情は一切知らないので、行政内部の弁護士が積極的に経済的虐待事案の解決に向けて陣頭指揮を執る訳ではありません。

 

やはり、介護施設側に関与している顧問弁護士が積極的に事件をハンドリングし、解決に向けて施策を打っていく必要があるのです。

 

 

7.経済的虐待を防止するための法令

次に、経済的虐待を防止するための法令や、経済的虐待に該当する具体的な行為が、犯罪行為に該当する場合にどのように罰せられるのか、について解説します。

 

7−1.高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律(高齢者虐待防止法)

経済的虐待を防止するための法令としては、まずは高齢者虐待防止法が挙げられます。

高齢者虐待防止法は、介護保険制度の普及、活用が進む中、一方では高齢者に対する身体的・心理的虐待、介護や世話の放棄・放任等が、家庭や介護施設などで表面化し、社会的な問題となったことを背景に制定されました。

この法律は、高齢者の権利保護や、高齢者虐待の早期発見、早期対応の施策を国及び地方公共団体に整備させることを目的としています。

高齢者虐待防止法では、国及び地方公共団体、国民、保健・医療・福祉関係者、要介護施設の設置者、養介護事業者それぞれの責務を定め、さらに市町村、都道府県、国及び地方公共団体の役割について定めています。また、保健・医療・福祉関係者の責務も定められています。

高齢者虐待防止法について詳しくは、こちらの記事をご参照下さい。

 

▶参考:高齢者虐待を防止する対策とは?具体的な対応方法を解説【具体例付き】

 

 

7−2.刑法

経済的虐待という概念は、あくまで高齢者虐待防止法上の概念です。

経済的虐待に該当する場合は、「7−1.高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律(高齢者虐待防止法)」で記載したとおり、高齢者虐待防止法に基づき、様々な対応が取られることになります。

もっとも、経済的虐待に該当する具体的な行為が、刑法上の犯罪行為に該当する場合には、刑法によって罰せられることになります。

 

(1)介護従事者が犯罪行為に及んだ場合の事例

 

事例1:窃盗罪

例えば、サービス付高齢者向け住宅において、介護職員が入居者の居室内にある財布からお金を抜き取ったとします。

これは、「他人の財物を窃取した」という刑法235条の構成要件に該当する行為ですので、窃盗罪となり、「十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金」に処せられることになります(刑法235条)。

 

事例2:業務上横領罪

例えば、サービス付き高齢者向け住宅で、とある入居者の金銭管理を事務所内で行っている場合、その金銭管理の責任者であるホーム長が、管理している入居者の金銭を勝手に流用し、私用の買い物のための費用に充てたとします。

これは、「業務上自己の占有する他人の物を横領した」という刑法253条の構成要件に該当する行為ですので、業務上横領罪となり、「十年以下の懲役」に処せられることになります(刑法253条)。

 

事例3:詐欺罪

例えば、介護職員が利用者に対し、「今月は、特別に利用料が増えたので、現金でこの金額を支払って欲しい。」などと虚偽の事実を伝えて、騙された利用者から金品を交付させたとします。

これは、「人を欺いて財物を交付させた」という刑法246条1項の構成要件に該当する行為ですので、詐欺罪となり「十年以下の懲役」に処せられることになります(刑法246条1項)。

 

このように、経済的虐待に該当する行為が、刑法上の犯罪行為に該当する場合は、刑法によって罰せられることになります。

このような犯罪行為を罰することを予め法定している刑法という法律があることで、経済的虐待行為への一定の抑止力が働いていると言えます。

 

(2)家族や親族が犯罪行為に及んだ場合の事例

では、家族や親族が上記に挙げた行為に及んだ場合はどうなるでしょうか。

例えば、利用者にとっての直系血族である別居中の長男が、実家に帰省した際、利用者の財物を盗る行為は窃盗罪の構成要件に該当する行為です。

もっとも、刑法244条1項では、配偶者、直系血族又は同居の親族との間で窃盗罪を犯した者は、その刑を免除すると定められています。

つまり、この長男は罰せられないのです。

また、配偶者、直系血族又は同居の親族以外の親族との間で窃盗罪を犯したとしても、告訴がなければ刑事裁判にかけられることはありません(刑法244条2項)。

これは、詐欺罪、横領罪においても同様の扱いになっています(刑法251条、同255条)。この特例を親族相盗例(しんぞくそうとうれい)といい、「法は家庭に入らず」という考え方から出来たルールです。

親族間における経済的虐待行為は、このように刑法上の犯罪行為として罰することができない、若しくは難しい行為です。したがって、高齢者虐待防止法で定められている対応方法を駆使して、早期発見・早期対処することが何よりも重要です。

 

8.経済的虐待を防止するための対策について

最後に、経済的虐待を防止するためには、どのような点に気をつけておき、どんな対策を予めしておくべきなのか、について解説しておきます。

 

8−1.利用者家族からの経済的虐待には早期発見が重要

利用者家族からの経済的虐待の問題は、家庭内で発生する問題ですので、発覚までに時間がかかることが多いです。

介護事業所の皆様が「あれ、おかしいな。」と異変を感じた場合は、一人で悩まずに所属している法人に相談したり、担当のケアマネージャーに相談したり、異変を周囲に伝えるようにして下さい。

それが早期発見に繋がる重要な一歩です。

 

8−2.介護従事者からの経済的虐待の防止

介護従事者からの経済的虐待の防止については、必ず、事業所内で定期的に虐待防止に関する研修を実施するようにしましょう。

介護従事者の中には、知識不足等から経済的虐待に及んでしまう者もあり、このような行為が、刑法上犯罪になり得る行為であることにも思い至らない場合があります。

そのため、どのような行為が経済的虐待となるのか、経済的虐待に及んだ結果、介護従事者自身や事業所がどのような責任を負うのかなどを、具体的な事例を通じて定期的に学ぶことで、確実に介護従事者からの経済的虐待の発生件数を減少させることができます。

 

9.介護業界に特化した弁護士法人かなめによるサポート内容のご案内

介護業界に特化した弁護士法人かなめによるサポート内容のご案内!

弁護士法人かなめでは、介護業界に精通した弁護士が、以下のようなサポートを行っています。

 

  • (1)経済的虐待発見時の対応サポート
  • (2)虐待防止の研修
  • (3)ヒヤリハット研究会
  • (5)顧問弁護士サービス「かなめねっと」

 

9−1.経済的虐待発見時の対応サポート

弁護士法人かなめでは、経済的虐待発生時の対応サポートを行っております。

経済的虐待が生じた時、介護事業所の職員の方々は、その解決に向けて様々な取組みを行っていく必要があります。

 

  • 高齢者虐待防止法に基づく行政への相談、通報
  • 行政担当者のヒアリングへの対応
  • 経済的虐待の加害者であるご家族(キーパーソン)への連絡
  • 未納になっている利用料の回収業務

 

等々、取るべき手続きは多岐にわたります。

介護事業所の方々が介護現場における通常業務を行いながら、上記の手続きを行うことは困難ですので、弁護士との連携が非常に重要です。

弁護士法人かなめでは、この全ての局面においてサポート体制を整備しています。

行政担当者が経済的虐待事案への対応に不慣れなケースも多く、弁護士主導で案件を前に進めていく必要性を強く感じています。

また、利用者の年金を使い込んでいる家族との交渉や面談の立会いなど、弁護士がサポートすることで介護職員の方々の精神的負担は大幅に軽減されます。

介護事業所の方々が本業に専念することができるようサポートします。

 

9−2.虐待防止の研修

令和3年4月1日より、「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関 する基準等の一部を改正する省令」(令和3年厚生労働省令第9号)が施行され、 全ての介護サービス事業者を対象に、利用者の人権の擁護、虐待の防止等の観点か ら、「① 虐待の防止のための対策を検討する委員会を定期的に開催すること」、「② 虐待の防止のための指針を整備すること」、「③ 虐待の防止のための研修を定期的に実施すること」、「④ 虐待の防止に関する措置を適切に実施するための担当者を置くこと」が義務づけられました。

当該規定は、令和6年4月1日から完全施行となり、今から準備しておくことが重要です。特に大切な点は、「③ 虐待の防止のための研修を定期的に実施すること」の定期研修の実施です。

経済的虐待は、発見後、如何に迅速に対応できるかでその後の高齢者の環境が大きく変わります。

そして、実際に経済的虐待の事案に関わっている弁護士の立場からすると、迅速に対応するためには、関係各所との「連携」をどのように行うのかを知ることが最も大切です。

連携方法についての知識が無ければ行動に移すことができないのです。

介護職員の方々は、とても熱心な人が多く、「困っている人の為には何としても動いてあげたい」というホスピタリティ精神に満ち溢れた人が多いです。

定期研修の目的は、その方々の熱意を行動に変えるための知識を学ぶことです。

弁護士法人かなめでは、実際に弁護士として介入した経済的虐待の事例を紹介することで、経済的虐待事案にはどのようなケースがあるのかを具体的に学び、その個々のケースに対してどのように関係各所と連携して解決まで導くのかについても具体的に学びます。

 

▶参考:弁護士法人かなめへの個別研修のご依頼について

個別研修のご依頼は、1回当たり10万円(消費税別・交通費別、顧問契約有の場合は5万円)でお受けしておりますので、是非お問合せ下さい。

弁護士法人かなめの「お問い合わせフォーム」はこちら

 

 

9−3.弁護士費用

弁護士法人かなめへの法律相談料は以下の通りです。

 

  • 1回目:1万円(消費税別)/1時間
  • 2回目以降:2万円(消費税別)/1時間

 

※相談時間が1時間に満たない場合でも、1時間分の相談料を頂きます。

※スポットでの法律相談は、原則として3回までとさせて頂いております。

※法律相談は、「1,弁護士法人かなめにご来所頂いてのご相談」、又は、「2,ZOOM面談によるご相談」に限らせて頂き、お電話でのご相談はお請けしておりませんので、予めご了承ください。

※また、法律相談の申込みは、お問合わせフォームからのみ受け付けしております。

 

弁護士法人かなめの「お問い合わせフォーム」はこちら

 

 

※介護事業所の経営者側からのご相談に限らせて頂き、他業種の企業様、職員等一般の方か らのご相談はお請けしておりませんので、予めご了承ください。

 

9−4.ヒヤリハット研究会

弁護士法人かなめでは、介護事業所の方々と共に、実際に生じた事例、裁判例を元にゼミ形式で勉強する機会を設け、定期的に開催しています。

実際に介護事業所の現場から得た「気づき」を参加者で共有し、それぞれの参加者の介護事業所の現場にフィードバックができる機会として、ご好評を頂いています。

詳しくは、以下のページをご覧下さい。

 

弁護士法人かなめの「ヒヤリハット研究会」についてはこちらから

 

 

9−5.顧問弁護士サービス「かなめねっと」

弁護士法人かなめでは、顧問弁護士サービス「かなめねっと」を運営しています。

具体的には、弁護士法人かなめでは、トラブルに迅速に対応するためチャットワークを導入しています。事業所内で何か問題が発生した場合には、速やかに弁護士へ相談できる関係性を構築しています。

具体的には、弁護士と介護事業所の関係者様でチャットグループを作り、日々の悩み事を、法的問題かどうかを選択せずにまずはご相談頂き、これにより迅速な対応が可能となっています。

いつでもご相談いただける体制を構築しています。法律家の視点から利用者様とのトラブルをはじめ、事業所で発生する様々なトラブルなどに対応しています。

直接弁護士に相談できることで、事業所内社内での業務効率が上がり、情報共有にも役立っています。

顧問弁護士サービス「かなめねっと」について詳しくは、以下のサービスページをご覧ください。

 

▶参考:顧問弁護士サービス「かなめねっと」について

 

 

以下の動画でも詳しく説明をしていますので、併せてご覧下さい。

 

 

 

(1)顧問料

 

  • 顧問料:月額8万円(消費税別)から

 

※職員従業員の方の人数、事業所の数、業務量により顧問料の金額は要相談とさせて頂いております。詳しくは、お問合せフォームまたはお電話からお問い合わせください。

 

10.まとめ

この記事では、経済的虐待の具体的な事例を通じて、それぞれの対応方法を解説する他、経済的虐待を早期に発見し、これを防止するための方法について解説しました。

経済的虐待が放置されることで、利用者自身の財産だけでなく、生命身体にも関わる大きな問題に発展するばかりか、経済的虐待の可能性を意識しながら行政への通報などの対応を怠れば、指導の対象になる可能性の他、利用料の回収すらままなくなる可能性があります。

どのような対応をすれば良いのか迷ってしまった時、相談をすべきは、法令上の義務や具体的な事例に精通した弁護士です。

この記事を読んで、経済的虐待に真剣に取り組んでいくため、「弁護士のサポートを受けてみたい!」と思われた方は、是非ご相談下さい。

 

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この記事を書いた弁護士

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畑山 浩俊はたやま ひろとし

代表弁護士

出身大学:関西大学法学部法律学科卒業/東北大学法科大学院修了(法務博士)。
認知症であった祖父の介護や、企業側の立場で介護事業所の労務事件を担当した経験から、介護事業所での現場の悩みにすぐに対応できる介護事業に精通した弁護士となることを決意。現場に寄り添って問題解決をしていくことで、介護業界をより働きやすい環境にしていくことを目標に、「介護事業所向けのサポート実績日本一」を目指して、フットワークは軽く全国を飛び回る。

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