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出勤停止とは?処分の重さやルール、目安の日数、違法にならない注意点を解説

出勤停止とは?処分の重さやルール、目安の日数、違法にならない注意点を解説
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度重なる注意指導や戒告などの懲戒処分をすでに行っているにもかかわらず、指導や懲戒の原因となった問題行動が改善されず、次の一手をどうするべきか、対応に苦慮することはありませんか。

勤務態度に問題がある職員に対して、注意や指導を繰り返し行うことは、通常業務の妨げとなる可能性があり、その結果、他の職員が疲弊し、メンタルヘルスの問題や離職へと繋がることがあります。

事業所は、職員に対して安全配慮義務を負っており、職員の問題行動を認識しながら放置したり、適切な対応をしなかった場合には、メンタルヘルスの不調を訴えた他の職員や退職せざるを得なくなった他の職員から、損害賠償請求を受けることもあります。事業所にとっては、問題職員への対応は決して無視ができない重要な課題なのです。

度重なる注意指導や懲戒処分にもかかわらず、問題行動が改善されない職員への対処法のひとつとして、出勤停止処分があります。

出勤停止処分は、懲戒処分の中では、一般的には、減給処分の次に重い処分であり、労働契約を存続させつつ、労働者の労務を提供する義務の履行を停止させる処分です。処分を受けた職員にとっては、一定期間の出勤を禁じられたうえに、その期間の給与を支払われないという非常にインパクトのある処分です。

他方で、インパクトのある処分である以上、出勤停止処分は慎重に実施する必要があり、あくまでも就業規則に定めた範囲で、かつ正しい手続きを踏まなければ、処分を受けた職員から「不当な処分を受けた」と訴えられるリスクもあります。誤った判断基準や手続きで、安易に出勤停止処分を下すことは、当該職員だけでなく、事業所の不利益になりかねません。

この記事では、出勤停止処分を含む懲戒処分の根拠や、出勤停止とその他の処分との違いなどを紹介した上で、出勤停止を行うべき事例や具体的な手続について解説します。最後までお読みいただくことで、問題のある職員に対する懲戒処分の選択肢として、出勤停止を有効に利用することができるようになります。

それでは、見ていきましょう。

 

1.出勤停止処分とは?

出勤停止処分とは?

出勤停止処分とは、懲戒処分の1つであり、事業所に勤務する職員に、一定期間の出勤を禁止し、その期間に相当する賃金を支払わない処分のことを言います。具体的には、事業所に勤務する職員が就業規則や事業所の指示に従わず、事業所の秩序を乱すような行為をした場合などに、その職員との労働契約を継続したまま、労務提供義務の履行を一時的に停止させる懲戒処分です。

出勤停止期間中は、労務提供がないため、事業所はその期間の給与を職員に支払う必要はありません(ノーワークノーペイの原則)。

出勤停止処分の期間は、就業規則に7日から30日以内程度と定められることが多いです。出勤停止処分は、一定期間の賃金不支給を伴うので、減給よりも重い処分です。また、出勤停止期間は、就業規則や退職金規定において、退職金算定期間にも算入されないと定められている場合もあります。

ただし、その具体的な処分内容については、そのほかの懲戒処分同様、法令上、明確な定めがなく、各事業所の就業規則に定めた内容に基づいて行われることとなります。

 

1−1.「自宅待機」「自宅謹慎」との違いは?

では、似たような言葉で

 

  • 自宅謹慎
  • 自宅待機

 

もありますが、これらと「出勤停止」の違いは何でしょうか。

 

(1)自宅謹慎との違い

「自宅謹慎」は、法律上の用語ではありませんが、懲戒処分である「出勤停止」と同義で使用される場合もある用語です。

また、企業だけでなく、学校等で使用されるケースも多く、その場合は、各団体における重大な規則違反があった際に、その調査と処罰の検討に一定の期間を要するため、すぐに聴取可能な状況を確保するためのに行う業務命令(指導)と言えます。

 

(2)自宅待機との違い

「自宅待機」とは、一般的に、人事権の行使の一環として、事業所が職員に「業務命令」として自宅での待機を命じた場合を言います。自宅待機をさせる理由は様々ありますが、下記に挙げるような場合が代表的です。

 

  • 職員の不正やハラスメント行為が発覚し、その調査のために一定期間を要する場合
  • 新型コロナウイルス等の感染症のため、事業所での勤務が困難な場合
  • 事業所が災害等で一時的に使用することが難しくなった場合

 

「自宅待機」の場合、懲戒処分による「出勤停止」とは性質が異なり、あくまでも「業務命令」の一環のため、有給であることが一般的です。また、自宅待機の理由が傷病に関するものである場合には、傷病手当や休業手当を受給できる場合もあります。

 

【弁護士畑山浩俊のワンポイントアドバイス】

 

就業規則の中には、懲戒処分(特に懲戒解雇)の原因の調査のために自宅待機をさせる場合には、無給とする旨を規定している場合もあります。

 

弁護士法人かなめでもよく、事業所の方から「自宅待機中は無給でもいいですよね?」との相談を受けることがあります。

 

確かに、懲戒処分原因が明確であり、それが懲戒解雇に相当するような重大な問題行動であるような場合で、出勤をさせることによる業務遂行上の問題が大きい場合には、無給とすることも可能な場合があります。もっとも、懲戒処分の内容の決定後、懲戒処分の有効性と併せて、自宅待機期間の給与の不支給が違法であると争われる場合もあります。

 

そのため、懲戒処分の原因が明らかであり、それが懲戒解雇に相当するような重大な問題行動である場合を除き、リスクヘッジや争点の整理のためにあえて有給とするようアドバイスをすることが多いです。

 

このような判断は、非常に慎重な検討が必要となりますので、必ず労務問題に強い弁護士に相談するようにしましょう。

 

 

1−3.出勤停止処分の効果

出勤停止処分は問題職員に出勤の停止を命じるだけでなく、その期間に相当する給与の支払いを行わない懲戒処分であることから、職員にとっては想定外の減収となり、非常にインパクトのある処分と言えます。

加えて、懲戒処分は事業所の秩序を保ち社会的信用を保持するために、就業規則に定めることのできる制裁罰であるため、問題行動のある職員に対して、その問題行動を抑制する効果もあります。

出勤停止処分は、懲戒処分のなかでも中程度の重みのある処分であり、その期間については法令上の上限がなく、それに伴って給与も減少する、という面で、注意・指導といった形式をとる戒告・訓告・訓戒や減給処分(減給額に上限あり)とは一線を画した処分です。

 

2.出勤停止処分の根拠

以下では、出勤停止処分の根拠について説明します。

 

2−1.法令上の根拠

出勤停止処分を含む懲戒処分については、減給処分を除き、法令上の根拠はありませんが、裁判所は、企業秩序定立権の一環として、当然に使用者が有する権利であるとしています。

 

(1)参考判例:最高裁 昭和54年10月30日判決

労働組合又はその組合員が使用者の許諾を得ないで使用者の物的施設を利用して組合活動をしたことが懲戒事由にあたり得るかどうかが問題となった事案。

 

●判例の内容:

「企業は、その存立を維持し目的たる事業の円滑な運営を図るため、 それを構成する人的要素及びその所有し管理する物的施設の両者を総合し合理的・ 合目的的に配備組織して企業秩序を定立し、この企業秩序のもとにその活動を行う ものであって、企業は、その構成員に対してこれに服することを求めうべく、その 一環として、職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢を確保するため、その物的施設を許諾された目的以外に利用してはならない旨を、一般的に規則 をもって定め、又は具体的に指示、命令することができ、これに違反する行為をする者がある場合には、企業秩序を乱すものとして、当該行為者に対し、その行為の中止、原状回復等必要な指示、命令を発し、又は規則に定めるところに従い制裁と して懲戒処分を行うことができるもの、と解するのが相当である。」とした上で、労働組合又はその組合員が使用者の許諾を得ないで使用者の所有し管理する物的施設を利用して組合活動を行うことは、これらの者に対しその利用を許さないことが当該施設につき使用者が有する権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除いては、当該施設を管理利用する使用者の権限を侵し、企業秩序を乱すものであり、正当な組合活動にあたらないとした。

 

▶参照:「最高裁 昭和54年10月30日判決」の判決内容はこちら

 

 

また、労働契約法15条は、使用者が懲戒処分をする権限があることを前提として、以下のような定めをしています。

 

▶参考:労働契約法第15条

(懲戒)
第15条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

・参照:「労働契約法15条」の条文はこちら

 

 

2−2.就業規則上の根拠

裁判所は、懲戒処分については、あらかじめ就業規則に懲戒の種別及び事由を定めておくことが必要であると考えています。

これは、懲戒処分が、使用者が従業員に対して課す「制裁罰」であるという観点から、あらかじめその懲戒事由と制裁罰の内容を就業規則に規定し、従業員の予測可能性を確保する必要があるという点にあります。

例えば、以下のような規定を置くことが考えられます。

 

▶参考:懲戒事由の就業規則の規定例

  • (1)正当な理由なく、欠勤したとき
  • (2)正当な理由なく、遅刻、早退もしくは就業時間中無断外出したとき、又は職場を離脱して業務に支障をきたしたとき
  • (3)勤務に関する手続き、届出を偽り、又は怠ったとき
  • (4)業務上の書類、伝票等を改変したとき
  • (5)報告を疎かにした又は虚偽の申告、届出をし、事業所の正常な運営に支障をきたしたとき
  • (6)業務に対する誠意を欠き、職務怠慢と認められるとき
  • (7)素行不良で事業所の秩序又は風紀を乱したとき
  • (8)就業時間中に許可なく私用を行ったとき
  • (9)業務上の指示、命令に従わないとき
  • (10)事業所の運営方針に違背する行為のあったとき
  • (11)酒酔い運転又は酒気帯び運転をし、検挙されたとき
  • (12)利用者への応対態度が悪いとき
  • (13)不法又は不正の行為をして職員としての体面を汚したとき
  • (14)事業所内において業務上不必要な火気、凶器その他これに準ずべき危険な物を所持していたとき
  • (15)タイムカードの打刻、出勤簿の表示を他人に依頼し、又は依頼に応じたとき
  • (16)事業所の車両を私用に供し、又は他人に使用させたとき
  • (17)協調性に欠け不当に人を中傷する等、他の職員等とそりの合わないとき
  • (18)事業所の発行した証明書類を他人に貸与し、又は流用したとき
  • (19)許可なく事業所の文章、帳簿、その他の書類を部外者に閲覧させ、又はこれに類する行為のあったとき
  • (20)規則、通達、通知等に違反し、前各号に準ずる程度の不都合な行為があったとき
  • (21)過失により業務上の事故又は災害を発生させ、事業所及び利用者に損害を与えたとき
  • (22)事業所内で暴行、脅迫、傷害、暴言又はこれに類する行為をしたとき
  • (23)事業所に属するコンピューター、電話(携帯電話を含む)、FAX、インターネット、電子メールその他の備品を無断で私的に使用したとき
  • (24)過失により事業所の建物、施設、備品等を汚損、破壊、使用不能の状態等にしたとき、又はハードディスク等に保存された情報を消去又は使用不能の状態にしたとき
  • (25)服務規定に違反した場合であって、その事案が軽微なとき
  • (26)安全衛生規定に違反した場合であって、その事案が軽微なとき
  • (27)事業所が定める各規定に違反した場合であって、その事案が軽微なとき
  • (28)法令違反等の不正行為の真偽を確認せず又は公益通報者保護法第3条第3号に規定する要件に該当することなく外部通報を行った結果、法人・事業所の信用を害し、損害を与えたとき
  • (29)他の職員をして前記各事項に違反するよう教唆し、もしくは煽動したとき
  • (30)前号までの事項において懲戒した後も、改悛の状が認められなかったり、繰り返したりして、改善の見込みがないと事業所が認めたとき
  • (31)その他前各号に準ずる程度の不適切な行為があったとき

 

 

3.出勤停止の懲戒処分の中での重さの位置付け

それでは、出勤停止処分は、懲戒処分の中ではどのような位置付けになるのでしょうか。

以下では、他の懲戒処分との関係性について解説します。

 

3−1.出勤停止と戒告、訓戒、訓告

戒告、訓戒、訓告は、懲戒処分のなかでも軽い部類に位置し、過失や失態、非行などのある職員の将来を戒めるために、文書または口頭で注意し、場合によっては始末書等の提出を求める処分です。なお、その態様自体は注意指導と大きく異なるものではありませんが、懲戒処分であることから、賞与やその後の懲戒処分等にも影響を与え得るものです。

一方で、出勤停止処分は、問題職員の出勤を禁じたうえで、その期間の給与を支払わない処分であり、懲戒処分の中でも一歩踏み込んだ処分です。そのため、出勤停止処分を行う前に戒告、譴責、減給等の処分が行われることもよくあります。

例えば、業務怠慢を繰り返すような職員であれば、注意指導を適切に行ったうえで、懲戒処分として戒告をし、それでも業務態度に変化が見られない場合には、次の段階である減給処分を行い、なお改善の様子が見られない場合は出勤停止処分を行うというようなイメージです。

また、職員の懲戒処分に該当する行為の軽重によっては、戒告や減給処分を経ずに最初から出勤停止処分とすることもあります。

 

▶参考:戒告については、以下の記事でも解説していますので、併せてご覧ください。

戒告とは?処分の意味や重さ、具体的な内容、通知方法など進め方を解説

 

 

3−2.出勤停止と降格

降格は、役職または職能資格・資格等級などを低下させる懲戒処分です。役職または職能資格・資格等級などが低下することにより、与えられていた権限が制限されるのみならず、役職手当がなくなったり、等級の低下による給与の減少なども、予想されます。

出勤停止処分が一時的な減収となるのに対し、降格の場合には、降格となった後の役職等からまた昇格しない限り、低下した給与額は変わらないため、減給処分よりも重く、職員の今後に対しても大きな影響を与える処分です。

 

3−3.出勤停止と減給

減給処分とは、有効に成立した賃金を減額する処分のことを言います。これは、恒常的なものではなく、その範囲には上限があり、労働基準法91条に定められる通りです。具体的には、減給処分の限度は、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が一賃金支払いにおける賃金の総額の10分の1を超えてはならないことになっています。

減給処分の場合、その範囲に上限があることから、出勤停止処分に比べるとやや軽い懲戒処分と言えます。

 

▶参考:減給については、以下の記事でも解説していますので、併せてご覧ください。

減給とは?上限額の計算方法や処分のルール、違法にならないための注意点

 

 

3−4.出勤停止と解雇

出勤停止処分を行ったにもかかわらず、非違行為の改善がなされない場合、事業所としては問題職員の解雇を検討する必要があります。懲戒処分としての解雇には、一般的に懲戒解雇と諭旨解雇があります。

まず、懲戒解雇は、職員を一方的に解雇する処分であり、懲戒処分の中では最も重い処分です。一方で、諭旨解雇は、懲戒解雇相当の事由がある場合でも、本人が反省しており、解雇事由に関する事業所からの説明に対し、本人が納得したうえで退職届を提出した後、事業所が解雇する懲戒処分です。退職届の提出がない場合には、懲戒解雇を実施することが予定されており、懲戒解雇に次いで重い懲戒処分です。

出勤停止処分と異なり、懲戒解雇は、職員の労働者としての立場も奪う懲戒処分の中の極刑であること、諭旨解雇はそれに次いで重い懲戒処分であることから、正しいプロセスを得ずに強引に進めた場合、無効となるリスクもあります。そのため、懲戒解雇・諭旨解雇の手続きに進む前には、原則として、注意指導や出勤停止処分を含めた比較的軽い懲戒処分を積み重ねておくことが重要です。

 

▶参考:懲戒解雇、諭旨解雇については以下の記事でも解説していますので、併せてご覧ください。

懲戒解雇とは?有効になる理由や手続きを事例付きで弁護士が解説

諭旨解雇とは?意味や諭旨退職との違い、要件や手続について【事例付き】

 

 

4.処分期間中の給与について

出勤停止処分期間中の給与について

出勤停止処分の期間中の給与については、支払う必要があるのでしょうか?

以下で、処分期間中の給与についてと、有給休暇の扱いについて説明します。

 

4−1.出勤停止中の給与の扱いはどうなる?

出勤停止処分期間中の給与は、支払う必要はありません。その理由としては、出勤停止処分が「職員との労働契約を継続したまま、その職員の労務提供義務の履行を一時的に停止させる懲戒処分」であるからです。

事業所と職員は、その労働契約により、職員が事業所に対し労務を提供し、事業所はその対価として、職員に給与を支払うことを約束しています。しかし、出勤停止期間中は、職員は労務提供義務の履行を一時的に停止されており、労務提供できないため、事業所はその期間中の給与を職員に支払う必要はありません(ノーワークノーペイの原則)。

 

4−2.処分期間中の有給休暇は認められる?

有給休暇とは「一定期間勤続した労働者に対して、心身の疲労を回復しゆとりある生活を保障するために付与され、有給で休むことのできる休暇」のことです。すなわち、職員が勤務すべき日に休暇を取得しても、賃金が減額されない制度です。つまり、有給休暇は、給与の発生する勤務日に休暇を申請することが要件となります。

一方で、懲戒処分としての出勤停止期間中は、勤務日にはあたらない(労務提供を禁じられている)ため、有給休暇を申請することは認められません。また、処分期間中に職員が有給休暇を申請した場合も、事業所は申請を拒否することが可能です。

 

5.どんな時に出勤停止処分をするの?事例付きで解説

では、出勤停止処分をするのはどのような場合でしょうか。

懲戒事由については、「2.出勤停止処分の根拠」の「2−2.就業規則上の根拠」で解説した通りですが、以下ではもう少し具体的にどのような場面で出勤停止処分を選択するかについて解説します。

 

5−1.出勤停止処分をする理由は様々

出勤停止処分は、懲戒処分の中で中程度の処分と言えます。そのため、出勤停止処分を選択する際の判断基準としては、以下の2つがあります。

 

  • ①すでに減給処分等、軽い処分を実施した後に同じ懲戒事由が繰り返された場合
  • ②懲戒事由の程度がやや重く、減給処分等では足りないと判断される場合

 

以下ではこの観点から、出勤停止処分をする具体的な理由について解説します。

 

5−2.出勤停止処分をする具体的な理由

 

(1)不適切介護

日常の勤務のなかで、利用者に対して看過できない悪質な介護を繰り返す職員はいませんか。

例えば、夜間のナースコールを面倒に感じ、利用者の手の届かない場所に置いたりする「ネグレクト」や、入浴介助中に裸にしたまま順番を待たせたりするような「セクシュアル・ハラスメント」、「死ね」など一度の使用だとしても、その発言を向けられた相手の心理を深く傷つけるような「心理的虐待」など、高齢者虐待にあたる介護態度は利用者だけではなく、その家族も傷つけることになります。

日頃の業務の中で、利用者を身体的、精神的に傷つけるような対応を行っている場面が散見され、すでに戒告や減給の処分を行い、改善を指導しているにも関わらず、状況に変化がない場合、出勤停止処分の検討をすることになります(「①すでに戒告処分等、軽い処分を実施した後に同じ懲戒事由が繰り返された場合」)。

なお、厚生労働省も、高齢者への虐待に関する具体的事案をまとめるなど、喫緊の問題として対応に当たっていますので、いま一度、確認してみましょう。

 

▶参考:厚生労働省「高齢者虐待防止の基本」(pdf)

▶参考:高齢者の心理的虐待とは?介護現場の事例や対応方法・防止対策を解説

 

 

(2)職員へのハラスメント

ハラスメント行為が横行している職場環境は、周りの職員の人間関係にもよくない影響を与え、事業所自体の作業効率を著しく低下させます。職場環境を健全に保つためにも、適切な懲戒処分を行うことは、非常に重要です。

例えば、業務命令と称した過重労働や残業を強要するような行為はパワーハラスメントにあたります。また、出産や育児のための休職に対して、不当な異動命令や降格処分などはマタニティハラスメントにあたり、そういったハラスメント行為は、注意指導などを行っても継続的に行われることが多く、懲戒処分の検討が必要です(「①すでに戒告処分等、軽い処分を実施した後に同じ懲戒事由が繰り返された場合」)。

なかでも、職員間のセクシュアル・ハラスメントは、相当期間の出勤停止処分となった事例も多くあります。

例えば、身体に直接触るような身体的なセクハラもありますが、最近は、業務中にも関わらず、業務とは関係ない個人的な性的嗜好の話を何度もし、相手が嫌がるのを面白がって見ていた等の心理的なセクハラも多く見受けらます。心理的なセクハラの場合、加害者本人には罪の意識が薄く、何度も繰り返し行ってしまったり、周りも強く注意できない傾向にあります。

実際に「職場における性的な内容の発言等によるセクシュアル・ハラスメント等を理由としてされた懲戒処分が懲戒権を濫用したものとはいえず有効であるとされた」事例もあります。詳しくは「6−2.出勤停止に該当する理由、目安期間、根拠となる裁判例など」で取り上げていますのを取り上げていますので、併せてご覧ください。

 

(3)その他の理由

事業所ではそのほかにも様々な業務が行われます。公的機関への書類の作成を行う際に事実とは異なる報告書を作成し提出する「書類の改ざん」や、新規事業所開設にあたっての配転命令に対する拒否、顧客に対する法人の信頼を失墜する行為など、事業所からの正当な業務命令に従わず、企業秩序を乱す職員もいるかもしれません。

前述したような行為が、事業所全体に与える影響が大きい場合、適正な手順を経て、制裁罰として出勤停止処分を行うことも検討しなければなりません。

特に、外部へ提出する書類の改ざんや新規事業所への配転命令拒否、業務命令違反などは、公的機関や利用者など社外の人間へ与える影響も大きく、企業の信頼を失う行為です。職員に一定の規範意識や社会人としての責任を意識させるため、厳しい対応が必要です(「②懲戒事由の程度がやや重く、減給処分等では足りないと判断される場合」)。

例えば、配転命令には従ったものの、客先での勤務環境が悪く、業務遂行が困難と勝手に判断し、取引先の社員に伝えた行為が就業規則の懲戒事由に該当するとして、出勤停止とした例もあります。

 

▶参考:パワーテクノロジー事件(東京地判平15・7・25):出勤停止7日間

 

●事案の内容

会社の業務命令により客先に常駐して業務に従事していた従業員が、会社に無断で、作業環境のため体調が悪く作業を終了したい旨を顧客の社員に対して伝えた行為が、「業務上の指揮命令に違反した時」という就業規則の懲戒事由に該当するかを争った事例。

処分を受けた従業員が出勤停止は不相当で、処分により名誉が傷ついたため慰謝料を会社に請求した。

 

●判断

出勤停止処分=有効。慰謝料の請求=棄却。

 

●理由

当該従業員の行為により会社は顧客から代替者の配置を突然要請され、これに対応することが出来なかったため、継続が予定されていた契約を途中で終了せざるを得なくなったこと、これによる経済的損害及び信用毀損の程度が軽くないこと、当該従業員が管理職であること、などを併せ考えると、7日間の出勤停止処分は、会社の懲戒権行使としてその裁量の範囲内であるとして、慰謝料請求は棄却された。

 

 

6.出勤停止処分の目安の日数は?期間について

出勤停止処分の目安の日数は?期間について

では、実際に問題職員に対して、出勤停止処分を行う場合、どの程度の日数、出勤を禁止することが可能でしょうか。

 

6−1.期間について(上限等)

出勤停止処分の期間について、明確な上限を定めた法令はありません。では、就業規則において「出勤停止処分の上限を1年と規定する」と明記しておけば、1年間の出勤停止処分ができるでしょうか。

民法第90条は「公の秩序または善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。」(▶参照:「民法」の条文 ) と定めており、このいわゆる「公序良俗」の観点から考えると、事業所が1年間の出勤停止処分を行った場合、労働者の地位を残しながら給与が支払われないという、職員にとって非常に酷な状況となります。

そのため、仮に就業規則に1年間の出勤停止処分ができると定めたとしても、1年間の出勤停止処分をすることは、事業所側の権利の濫用として労働契約法15条に違反することを理由に、無効となる場合もあります。

 

▶参考:労働契約法15条

(懲戒)
第十五条使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

・参照:「労働契約法」の条文

 

 

実際には、労働基準法の前身とされる戦前の工場法時代には、行政解釈で明確に「7日を限度」と規定されていたこともあり、現在も、実務的には出勤停止期間の上限は「7労働日以内」と規定している会社もあります。

もっとも、非違行為の悪質性によっては長期間の出勤停止処分が相当である場合もあるかもしれません。

そのため、就業規則上は、出勤停止期間を7労働日以内と定めた上、より重い懲戒処分の類型として、「懲戒休職」といった処分を設け、一定程度長期間の出勤を禁止している場合もあります。

なお、国家公務員の出勤停止処分ともいえる「停職処分」は「停職の期間は1年をこえない範囲内において、人事院規則でこれを定める。」(▶参照:「国家公務員法83条1項」  )とされていますが、行政解釈では、公序良俗の見地から、情状の程度等による制限があるべきとされています(昭和23.7.3基収2177)。

 

▶参考:人事院規則については、詳しくは以下をご覧ください。

懲戒処分の指針について(平成12年3月31日職職―68)(人事院事務総長発)

 

 

6−2.出勤停止に該当する理由、目安期間、根拠となる裁判例など

ここからは、出勤停止処分に該当する事例を裁判例を見ながら確認していきましょう。

ここで挙げた裁判例で出勤停止となった期間は3日間~6か月間と幅広く、またその処分事由も様々です。

懲戒処分については、就業規則に定めておくことが大前提ではありますが、裁判例を確認し、懲戒処分を行う際の判断基準の一つとして、個別の事例と裁判所の判断を知っておくことは事業所にとって大変有益です。いずれも、裁判所により「会社側の懲戒処分は有効」と認められている事例ですので、参考にしてみてください。

 

(1)上司への傷害行為による出勤停止3日(東京地裁平成23年11月9日判決)

●事例の内容

Y会社に勤務している従業員Xが上司に対する傷害行為を理由に3日間の出勤停止という懲戒処分を受けたことについて、本件懲戒処分の無効確認及び同処分を受けたことによる精神的損害の賠償等を求めた事案。

具体的には、従業員Xが、Y会社のA取締役と人事考課の面談を行っていた際に、A取締役から、同僚に対する高圧的な態度を改善するよう指摘されたことを発端に、XがA取締役の首を右手でつかみ、左手でA取締役の顔面右上部を後方に強く押した上、A取締役の眼鏡を取り、握りつぶすようにして投げたというものである。この暴行により、A取締役は顔面に擦過傷を負い、2日後に頸椎捻挫(全治1週間)の診断を受け、眼鏡のフレームは大きくゆがんだ。

 

●判断

本件懲戒処分の懲戒対象事実である本件暴行事件の発生を認めた上で、本件懲戒処分及び人事評価が不当である旨の従業員Xの主張はいずれも理由がないなどとして、従業員Xの「懲戒処分無効・損害賠償請求」を棄却した。

 

(2)不特定多数の社員へ迷惑メールを送信する業務妨害による出勤停止7日(東京地裁平成31年1月31日判決)

 

●事例の内容

Y会社に勤務する従業員Xが、自身が手がけたい業務を記載した大容量のファイルを添付し、異動を求める内容のメールや、すでに労務上の対立関係にあった会社を相手に審判や裁判等を開始することを想起させるような不安をあおるメール等を、業務中にも関わらず、不特定多数の社員に、多数回(3か月間で161通)にわたり送信し続けた行為により、通常業務の遂行を妨害したとして、7日間の出勤停止の懲戒処分を受けた。なお、本件懲戒処分に関しては、迷惑メールの送信だけではなく、電話の業務外使用(家族間の不正利用)及び交通費の過大請求も懲戒事由とされた。

本件出勤停止処分に対して、従業員Xは、Y会社に①本件処分の無効確認 ②出勤停止期間中の未払賃金等の支払を求める ③不当な懲戒処分(本件処分)をしたことなどが不法行為を構成するとして慰謝料の支払とY会社には不法行為に基づく損害の回復措置として職場紹介義務がある などとして職場の紹介を求めた事案。

 

●判断

従業員Xの、不正確な事実を不特定多数のY会社の従業員にメール送信した行為、交通費の過大請求及び携帯電話の業務外使用につきそれぞれ就業規則所定の懲戒事由に該当するとした上で、各メール送信行為につき法務及び人事の担当者や上司からの再三の中止命令にもかかわらず、同様の行為が繰り返されてきた経緯等に照らすと、悪質性は高く、相応の懲戒処分をもって臨まなければ、従業員Xによる同様の行為を抑止し、企業秩序を維持することが困難であったとして、懲戒権の濫用はなく、原告の各請求を棄却した。

 

(3)男性管理職による女性従業員へのセクハラ行為による出勤停止30日(最高裁平成27年2月26日判決)

 

●事例の内容

職場における性的な内容の発言等によるセクシュアル・ハラスメント等を理由としてされた懲戒処分が懲戒権を濫用したものとはいえず有効であるとされた事例。

 

●判断

Y会社の管理職である男性従業員2名が同一部署内で勤務していた女性従業員らに対してそれぞれ職場において行った性的な内容の発言等によるセクシュアル・ハラスメント等を理由としてされた出勤停止の各懲戒処分は、次の(1)~(4)など判示の事情の下では、懲戒権を濫用したものとはいえず、有効である。

 

(1)上記男性従業員らは、①うち1名が、女性従業員Aが執務室において1人で勤務している際、Aに対し、自らの不貞相手に関する性的な事柄や自らの性器、性欲等についての極めて露骨で卑わいな内容の発言を繰り返すなどし、②他の1名が、当該部署に異動した当初に上司から女性従業員に対する言動に気を付けるよう注意されていながら、女性従業員Aの年齢や女性従業員A及びBが未婚であることなどを殊更に取り上げて著しく侮蔑的ないし下品な言辞でA、Bらを侮辱し又は困惑させる発言を繰り返し、女性従業員Aの給与が少なく夜間の副業が必要であるなどと、揶揄する発言をするなど、同一部署内で勤務していた派遣労働者等の立場にある女性従業員Aらに対し職場において1年余にわたり多数回のセクシュアル・ハラスメント等を繰り返した。

(2)Y会社は、職場におけるセクシュアル・ハラスメントの防止を重要課題と位置付け、その防止のため、従業員らに対し、禁止文書を周知させ、研修への毎年の参加を義務付けるなど種々の取組を行っており、上記男性従業員らは、上記の研修を受けていただけでなく、管理職として上記会社の方針や取組を十分に理解して部下職員を指導すべき立場にあった。

(3)上記①及び②の各行為によるセクシュアル・ハラスメント等を受けた女性従業員Aは、上記各行為が一因となって、上記会社での勤務を辞めることを余儀なくされた。

(4)上記出勤停止の期間は、上記①の1名につき30日、同②の1名につき10日であった。

 

▶参照:「最高裁平成27年2月26日判決」の内容はこちら

 

 

(4)業務上知り合った女子学生へのセクハラ行為による出勤停止6か月(東京地裁平成19年4月27日判決)

 

●事例の内容

業務遂行中に知り合った女性に執拗につきまとったことを理由としてされた6か月の懲戒休職処分や、その後された配転命令の無効確認と併せ、慰謝料請求等がされた事案。

 

●判断

Y会社の従業員Xが業務遂行過程で知り合った女性に執拗につきまとい、恐怖心を抱かせたことは、私生活上の非行であるものの、行為の性質上、企業の社会的評価の毀損をもたらし得るから、Y会社の就業規則上の懲戒権の対象となる。また、処分の平等原則、弁明の機会の付与等の点でも違法はないとして、休職処分の有効性を認め、配転命令についても、被告は職種別人事制度を採用していないから、一般職として採用された原告を技術職に配転し得るとして、有効性を認めた。

 

上記のように、具体的な事例を確認してみると、社員間の暴力行為など一度でも重大な結果(相手の怪我の状況や物損など)をもたらした「(1)上司への傷害行為による出勤停止3日(東京地裁平成23年11月9日判決)」の例や、継続的に懲戒事由が繰り返されており、再三の注意指導にも関わらず迷惑メールを送信し続けた「(2)不特定多数の社員へ迷惑メールを送信する業務妨害による出勤停止7日(東京地裁平成31年1月31日判決)」の例は、社内の企業秩序を乱し、業務遂行を妨害した点が懲戒事由となっていますが、「(3)男性管理職による女性従業員へのセクハラ行為による出勤停止30日(最高裁平成27年2月26日判決)」においては、問題となった社員が社内のセクシュアル・ハラスメント防止を部下に指導する立場であるにも関わらず、長期間にわたって、セクハラ行為を行い、被害を受けた従業員が勤務を継続することができなくなった、という企業にとって重大な損失をもたらしたこと、「(4)業務上知り合った女子学生へのセクハラ行為による出勤停止6か月(東京地裁平成19年4月27日判決)」の例では、社外の女性に対してセクシュアル・ハラスメントを行った私生活上の非行であるものの、企業の社会的信用を大きく毀損する行為であったことから、6か月間の出勤停止処分が相当と認められています。

 

いずれも、出勤停止という処分は同じものではありますが、懲戒事由となった行為の態様、期間、それによって引き起こされた会社の損失の程度、また被害者がいた場合、その被害者が法人とどういった関係だったか、など懲戒処分を決定するには、多面的な検討が必要です。

 

7.出勤停止処分の具体的な方法

次に、出勤停止処分を行う際の正しい進め方について、説明していきます。以下に具体的な手順を解説していますので、確認していきましょう。

 

7−1.出勤停止処分には事前準備が重要

出勤停止処分を含む懲戒処分をする場合には、そもそも就業規則上の「懲戒事由」を基礎づける事実関係があるか否かをしっかりと調査し見極めることが重要です。

例えば、特定の職員からの情報だけで、客観的な資料が一切ない状況のなか、懲戒処分を決定することは、処分が不当であると訴えられる可能性があり、とてもリスクが高い行為です。職員の非違行為に関する報告や相談があった場合、客観的な証拠がないか(メールが残っている、防犯カメラの映像がある等)検討し、これらがない場合には、特定の職員からだけではなく、複数の職員から話を聞いた上で事実認定を正確に行う必要があります。

ある程度の事実認定が固まった段階で、本人にも事情を確認し、認定できる事実を見定めましょう。一般的には内容にもよりますが、すぐに懲戒処分するのではなく、まずは注意指導から行っていくことが定石です。

特に出勤停止処分は、懲戒処分の中でも中程度の処分であり、職員にとって出勤を禁止されたうえ、その期間の給与は支払われず、職員本人の業務や生活に直結した不利益を受ける懲戒処分であるため、事業所は事前準備やプロセスを正しく行うことが重要です。

この事前準備やプロセスを怠れば、仮に懲戒事由があったとしても出勤停止処分の効力が争われ、無効となってしまう可能性もあります。

ここからは、出勤停止処分に至るまでのプロセス、出勤停止処分の手続、出勤停止処分後の手続の順に解説します。

 

7−2.具体的な出勤停止処分までの流れ

 

(1)事実の調査、確定

職員による業務懈怠や非違行為が発生した場合、その調査及び事実認定を行うのは事業所です。適切なタイミングでの懲戒処分を行うために、非違行為の発覚があった場合、迅速に対応を行うことが肝要です。

ここではその調査および非違行為確定までの具体的な方法を説明します。

まず、非違行為発覚のきっかけを作った職員または利用者からの聞き取り(聴取)を行います。問題職員本人以外からの聞き取りについては、聴取する相手がハラスメント行為の被害者である可能性もあるため、相応の注意が必要です。

聞き取りを行う際は、次の点に注意して行うことが望ましいでしょう。

 

  • 一方的に問い詰めるような態度は避けること
  • 内容に不備がないよう録音することを伝えたうえで録音をすること
  • 具体的な日付や非違行為の態様が残っているメールや録画画像、録音など客観的な証拠があれば、それも一緒に提出してもらうこと
  • ヒアリング担当者1名、記録者1名の計2名で行うこと

 

次に、非違行為を行った職員本人への聞き取りを行います。

まず前提として、対象となっている職員本人には事業所の秩序を守るため、真実を述べ、事実確認に協力をする義務があります。調査を行うなかで、問題職員が非違行為に関する聴取に非協力的な態度をとる場合は、その旨も聞き取り報告書に記載をします。

また、規模のあまり大きくない事業所などでは、問題職員と聞き取りを行う職員が顔見知りである場合も多く、聞き取り調査を行うなかで、客観的な対応ができない場合があります。そういった場合、公正な判断を期すため、聞き取りの担当職員と懲戒処分を検討する職員を別にする、または、弁護士など第三者の専門家の協力をあおぐことも一つの方法です。

また、問題職員への聴取の際もしくは懲戒処分をする際には、弁明の機会を与えることも必要です。仮に、弁明の機会を与えず、一方的に事実確認をし調査を終了した場合、後から処分手続きの不備を指摘され、訴訟等の紛争になる可能性もありますので、注意が必要です。

問題職員本人及び関係者への聞き取りが終了したら、事実認定を行います。事実認定を行う場合、注意すべき点は次の4点です。

 

  • 聴取の内容と客観的事実(証拠)との整合性
  • 聴取の内容が不自然ではないかという点
  • 聴取の内容が変遷していないかという点
  • 聴取を行う職員と問題職員の間に利害関係がないかという点

 

就業規則における非違行為が実際に行われており、それに対する客観的な証拠がそろっていることが重要ですが、それ以外にも、問題を起こした職員と周りの職員との関係性から、問題職員を不当に陥れるようなことが行われていないか、など、多面的な見方をすることが大切です。

 

(2)粘り強い注意指導

 

1.口頭

事業所において、懲戒処分相当の問題行動が発覚した場合、最も簡便な注意指導の方法は口頭での注意指導で、職員の問題行動の是正を促すことです。

繰り返し注意指導を行っているにも関わらず、勤務態度が改善されない場合には、健全な職場環境を維持するために、次の手続きに進む必要があります。その際、繰り返し口頭での注意指導を行っていた、という客観的な証拠を残しておくことは、非常に重要です。

そこで、口頭での注意指導の際には、できる限り指導の状況を録音しておく、または、指導内容やその際の当該職員の態度などを継続的に記録しておくことを心がけましょう。

 

【弁護士 畑山浩俊のワンポイントアドバイス】

 

注意指導は、職員の問題行動を現認したら、すぐ行いましょう。

 

なぜなら、問題行動を現認したにもかかわらず、その場で注意指導を行わず、改めて時間を設けて注意をした場合、「今更言われても、何のことか思い出せません」「そんな事実はありません」などと言い逃れをする可能性があるからです。

 

事業所側として、注意指導を行ったという客観的な証拠を残すため、準備をして注意指導をしたい、という気持ちはわかりますが、仮に録音を取ることができない状況であっても、まずはしっかりと、タイムリーな注意指導をすることを心がけましょう。

 

なお、注意指導の状況の録音は、相手に了解を得る必要はありません。録音の際の注意点は、以下の動画をご覧ください。

 

▶︎参照:【無断録音】こっそり録音することは違法か?

 

▶︎参照:【無断録音!】実際にあったミス3選!弁護士が解説します!

 

 

2.メール、SNS

業務連絡や報告の手段として、メールやチャットツールを導入している事業所の場合、注意指導に利用することが可能です。

口頭での注意指導と、メールやチャットツールでの注意指導の大きな違いは、確実に記録を残すことができる点です。メールやチャットツール上での指導の場合、送信先、送信した日付、時間、内容が記録され、それに対する相手の反応(謝罪をする、反発をする、無視をするなど)も同時に記録されます。口頭でタイムリーな注意指導をした場合も、指導内容の確認として、改めてメールやチャットツールで注意指導をしておくと、記録として残すことが可能です。

なお、LINEやその他のチャットアプリ等を利用する場合、メッセージの編集や、送信取消し等により証拠の隠滅が図られる可能性がありますので、トーク履歴を保存したりスクリーンショットをとるなどして保存しておきましょう。

 

【弁護士 畑山浩俊のワンポイントアドバイス】

 

突発的な状況で注意指導をした場合には、録音を残すことが難しい場合もあります。

 

このような場合、例えば、注意指導の記録を、自分や上司宛のメールやチャットに打ち込んで送信しておくと、その日に注意指導をした、という記録が残るため、証拠としての価値が高くなります。

 

また、注意指導の際には、他の職員も内容が見られるようなグループ内では行わない、業務時間内に行うなどの注意も必要です。

 

 

3.書面

口頭やメール、チャットツール等での注意指導を繰り返しているにもかかわらず、職員の問題行動が改善されないような場合には、書面での注意指導を行いましょう。

書面での注意指導は、これまでの口頭やメール、チャットツール等での注意指導を前提に、一歩踏み込んだものとなります。具体的には、問題行動への注意指導を行うだけでなく、これまでに行った注意指導時の職員の態度や、注意指導後にも業務態度が改善されていないことなどを具体的に指摘することになります。また、交付する書面には、当該問題行動が就業規則の服務規律に違反している旨や、懲戒事由相当の行為である旨を付け加えておくと、より有効です。

具体的には、以下のような記載です。

 

▶参考:書面での注意指導の参考例

○年○月○日~●年●月●日の間、一部の利用者に対して、「のろま」と言って手を引っ張るなど、不適切な介護の状況があったため、「利用者を精神的に追い詰めるような言動は慎むように」と注意すると「こいつが動かないのが悪い」「自分はちゃんとやってる」などと利用者の態度を批判し、自分の問題行動への態度を改めないばかりか、そのまま離席して戻ってこなかった。
また、これまでにも、同様の勤務態度につき注意指導しているが、不適切介護に関する認識及び業務態度の改善がみられていない。

これは、就業規則○条○号に定める○○に該当する。

 

 

このような注意指導書を交付する際には、自己の問題行動について認識させたうえで、今後、自らの行動をどう改善するか検討させ、期限を決めて、始末書を提出するように指示することも有益です。

実際に、始末書の提出があれば、当該職員の問題行動に関する認識についても確認が取れますし、業務態度の改善を具体的にどう行うのかを確認することもできます。一方で、提出をしない場合は、その態度自体が次の手続きへの根拠となります。

 

【弁護士 畑山浩俊のワンポイントアドバイス】

 

注意指導をする際には、先に説明をした通り、就業規則上の服務規律違反や懲戒事由に当たることを明確に指摘しておき、このような態度が改まらなければ、懲戒処分が予定されていることを予測させることが重要です。

 

例えば、以下のような記載を追記しておくことで、職員に対して反省や行動の改善を促すことができます。

 

「貴殿の行為は、就業規則○条○号に定める懲戒事由に該当するが、これまでの注意指導の状況から、まずは書面による注意指導を実施することにした」

 

問題職員の指導方法については、以下の記事でも詳しく解説していますので、こちらも参考にしてください。

 

▶参考:問題職員の指導方法とは?正しい手順と注意点などを指導例付きで解説

 

 

(3)軽い懲戒処分を行う

粘り強く注意・指導を行っているにも関わらず、状況が改善されない場合、就業規則に則って、懲戒処分を検討します。比較的軽度な業務懈怠や就業規則違反が繰り返されている場合、いったん戒告や減給処分など軽度の懲戒処分を行って、問題職員の反省を促すという方法を選択することも可能です。

 

(4)出勤停止処分の手続

ここからは、具体的な出勤停止処分の手続を見ていきましょう。

 

1.面談の実施

出勤停止処分をする場合には、面談を実施し、注意指導を合わせて行うことが重要です。

出勤停止処分は、懲戒処分でも中程度の処分であるため、基本的には、これまでに何度も注意指導を繰り返しているにも関わらず、問題行動に改善がない場合がほとんどです。

また、先行して戒告等の軽い懲戒処分を行っている場合もあるため、今回の処分がこれまでに行ってきた注意指導や軽度の懲戒処分とは異なることを明確にするためにも、面談を実施し、出勤停止処分の通知書を渡した上で、改めてしっかり注意指導をしましょう。

また、面談時には、必ず録音は取っておきましょう。

 

2.出勤停止処分の通知【書式(テンプレート)付き】

出勤停止処分の通知書は、以下のポイントをしっかり押さえて作成しましょう。

 

  • 出勤停止処分の対象となる職員の行為を可能な限り具体的に記載する。
  • 職員の行為が、就業規則上どの項目に該当するかについて、条項をしっかり指摘する。
  • 具体的な出勤停止期間を明記する。

 

以下では、利用者への不適切な行動と、他の職員や上司へのハラスメント行為を理由とした出勤停止処分の通知のテンプレートを用意しましたので、参考にしてみてください。

 

▶参照:「懲戒処分通知書【出勤停止処分版】」書式テンプレートのダウンロードはこちら

 

 

6−3.出勤停止処分後の手続

ここからは、出勤停止処分をしたにもかかわらず、業務態度等に改善が見られない職員への手続きについて、概要を説明します。

懲戒処分は大きく分類すると下記の3つに分けられます。

 

  • 職員への影響が比較的軽い懲戒処分となる戒告、譴責(けんせき)
  • 職員の給与への影響がある減給、出勤停止
  • 職員の地位や労働契約の本質部分に影響のある重い懲戒処分となる降格処分、諭旨解雇、懲戒解雇

 

上記すべての懲戒処分は、就業規則に順番に定められていることが一般的であり、懲戒処分をする際には、これまでに行ってきた注意指導や他の懲戒処分の存在も考慮の上、その内容を決めることになります。

そのため、事業所としては、業務態度や非違行為の程度などによって、また改めて戒告や譴責などの軽い懲戒処分を重ねるか、出勤停止処分よりも重い処分に進むかなどを検討することになります。

 

(2)退職勧奨

退職勧奨は、懲戒処分の解雇とは異なり、強制力のある物ではありません。

再三の注意指導や減給処分などの軽度の懲戒処分によっても、問題行動に改善が見られない職員に、自主的な退職を促し、事業所と職員の双方に大きな負担なく、問題を解決する手段です。

退職勧奨を行う場合、双方で協議し、職員の自主的な意思により、退職手続きを行うため、退職時のさまざまな条件の取り決めができるなど、うまく利用することができれば、非常に効果的です。

 

▶参考:退職勧奨の手続やその注意点等については、以下の記事をご覧ください。

退職勧奨とは?具体的な方法や違法にならないための注意点を弁護士が解説

 

 

(3)解雇

粘り強い注意指導をし、軽度のものから順に懲戒処分を行っていき、退職勧奨をしたにもかかわらず、問題行動が改善されることも、自主的に退職することもなかった場合、事業所は解雇の検討を行うことになります。

解雇には、普通解雇と懲戒解雇がありますが、いずれの処分も、職員は労働者としての立場を失うため、非常に厳しい処分となります。そのため、裁判所は、いずれの処分についても、雇用主側に厳しい態度をとっています。

しかしながら、これまでに解説してきたプロセスを踏んできた場合、記録や書面をもとに必要な資料はそろってきているはずです。

実際に、粘り強い注意指導を続けた末に解雇をした事案で、解雇が有効とされた裁判例として、日本マイクロソフト事件(東京地裁 平成29年12月15日判決労判1182.54)などが参考になります。この裁判例では、モンスター社員に対する注意指導や、注意指導に対するモンスター社員の態度がメールのやりとりで残っており、その上で書面での注意指導も行なうなど、解雇にむけたプロセスが確実に履践されており、非常に参考になります。

 

▶参考:なお普通解雇、懲戒解雇については、以下の記事で詳しく解説していますので、合わせてご覧ください。

普通解雇したい!無効とならない事例や手続きをわかりやすく弁護士が解説

懲戒解雇したい!有効になる理由や事例・手続きをわかりやすく弁護士が解説

 

 

7−4.記録を残すことの重要性

どのような手続きを取る場合も、すべての場面でしっかりと記録に残すことが重要です。

メールやチャットツール、また書面での注意指導はその行為自体が記録として残りやすく、信頼性も高いですが、口頭で行う場合は、注意が必要です。

口頭や面談による注意指導の場合、録音をしたり、注意指導した日時、具体的な内容、注意指導を受けた職員の態度や具体的な発言などを記録として残すことで、注意指導の状況を証拠化しておくことができます。

注意指導の記録の証拠化を確実に行い、懲戒処分の正しいプロセスを踏んだことで、その後に行った普通解雇が有効とされた例として、前原鎔断事件(大阪地裁令和2.3.3 労判1233.47)があります。

 

参考事例:前原鎔断事件(大阪地裁令和2.3.3 労判1233.47)

「就業状況が著しく不良で就業に適さないあるいはこれに準ずるもの」であるとして普通解雇された原告が、解雇が無効であるとして地位確認、未払賃金及び遅延損害金の支払い等を請求した事案。

 

判決

原告は、普通解雇までに、複数回の始末書や顛末書の提出、出勤停止を含む3回の懲戒処分、さらには度重なる注意指導を受けており、これにより、「就業状況が著しく不良で就業に適さないあるいはこれに準ずるもの」にあたることは明白であったとして、普通解雇には客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると判断された。

注目すべきは、書面として残っている始末書等のほか、被告の上司である主任が、原告について「教育記録」つけており、その中で、伝票に記載された枚数を確認しない、サインを入れ忘れるなど、取引先に対して迷惑をかけるような原告の日々のミスを、日付と共に詳細に記録しており、この「教育記録」に記録されていた事実が、原告の就業状況の不良さを根拠づけるものとして数多く認定されていることです。

 

【弁護士 畑山浩俊のワンポイントアドバイス】

 

事業所から「注意指導の記録をとっているので見てください」と言われ、我々弁護士が見せていただいた際、例えば「怒鳴られた」「態度が悪かった」「不機嫌そうだった」「怖かった」など、記録をとった方の印象がメモされていることがよくあります。

 

法的な手続をとる際、必要となるのは具体的な「事実」です。

 

例えば、「●月●日 『君に注意している』と明言したにもかかわらず、無視し続けた。」「▲月▲日 反抗的な態度で『何を言っているのかわからない』と言って、制止も聞かずに部屋を出ていった」など、発言内容や行動を、発生日時とともにできる限り具体的に記録してください。

 

また、記録は、体裁にとらわれず、できる限り記憶の新しいうちに作成するようにしましょう。

 

 

8.出勤停止処分が違法となる場合とは?

それでは、出勤停止処分はどのような場合に違法になるのでしょうか。以下では、出勤停止処分が違法になる場合と、出勤停止処分が違法となった場合のデメリットについて解説します。

 

8−1.出勤停止処分が違法となる場合

出勤停止を含む懲戒処分については、法令上の明確な定めがないため、就業規則に定めたうえで、職員に周知しておくことが必要です。

問題職員への懲戒処分において、就業規則に明記されていない事由での処分や就業規則の範囲を超えた過度な処分を行った場合、従業員が処分不服として、裁判所に訴えるケースも予測されます。万が一、正当な手続きを得ず、懲戒処分を行っていたと裁判所が判断した場合、その懲戒処分は無効と判断されることがあります。

 

(1)出勤停止処分の範囲が法令違反の場合

懲戒処分において、その上限を定めた法令がないことは前述したとおりですが、一方で、民法90条では「公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。」としており、事業所において定められた就業規則の内容が、懲戒事由に対してあまりに極端で厳しい場合、就業規則自体が公序良俗に違反すると考えられ、無効となる場合もあります。

公序良俗に関する判断は、裁判官の幅広い裁量にゆだねられており、その基準はあいまいですが、弁護士への相談や裁判例を参考にすることで、適切な就業規則を定めることが可能です。

また、本記事の「2−2.就業規則上の根拠」にも就業規則例を挙げていますので、参考にしてください。

 

(2)出勤停止処分の選択が相当ではない場合

懲戒処分に関しては、労働契約法15条に「当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効となる」旨定めています。

つまり、懲戒処分に相当する非違行為があった場合でも、その程度及びこれまでの懲戒歴に照らし合わせて慎重に判断をする必要があり、それを怠って過度に厳しい懲戒処分を行うと使用者側(事業所)の権利を逸脱した行為とみなされ、無効となる可能性があります

例えば、国立大学の准教授が、学生に対してハラスメント行為をしたなどとして6か月の出勤停止処分とされ、その効果を争った事案で、処分が重きに失し、懲戒権の裁量を逸脱したものであるとして無効と判断された裁判例があります。

 

参考事例:金沢地裁 平成20年(ワ)667号 出勤停止処分無効確認等請求事件

 

●事例の内容

学校法人Yの開設する国立大学の准教授であるXが、学生に対してハラスメント行為をしたなどとして6か月の出勤停止処分を受けたため、本件処分の無効確認、出勤停止中の未払賃金等の支払及び損害賠償を求めた事案。

 

●判断

懲戒事由とされたXの発言のうちの一部は、学校法人Yのハラスメント指針に該当するといえるものの、いずれの発言も直ちに犯罪行為に該当するものではなく、訓告、厳重注意、譴責ないし減給によってXの改善がおよそ期待できないような事情はない上、本件処分が長期間の出勤停止処分であり、大学教員として活動できないのみならず、その間の収入を絶つものであることからすると、本件処分は重きに失し、懲戒権の裁量を逸脱したものであるとして本件処分を無効とし、未払賃金等の支払を認めたが、損害賠償請求については、Xの精神的苦痛は未払賃金の支払により慰謝されたと認められるとして、出勤停止に伴う私物の搬出入費用のみを認めた事例。

 

8−2.出勤停止処分が違法になるとどうなるか?

「出勤停止処分の選択が相当ではない場合」で解説した通り、そもそも出勤停止処分自体が違法であった場合には、出勤停止処分そのものが無効となり、支払わなかった期間の賃金全額を、職員に支払う義務が発生することになります。また、違法な出勤停止処分を受けたことで、精神的苦痛を伴ったとして、損害賠償を請求されるケースもあります。

 

9.出勤停止処分による職員への影響

出勤停止処分を含む懲戒処分は、処分の性質そのものの影響以外にも、職員へ影響を与える場面があります。以下では、賞与(ボーナス)、昇級、退職金支給、転職の場面についてそれぞれ解説します。

 

9−1.出勤停止期間の給与の減額

出勤停止期間中の給与は支払われないことは、前述したとおりですが、その減額方法についても就業規則に規定しておくべきです。一般的には、欠勤控除と同様の計算方法で行われることが多くなっていますが、別途計算方法を就業規則に定めておくことも可能です。

 

9−2.賞与(ボーナス)の減少

賞与(ボーナス)は、就業規則にその内容が定められている場合や、事業所と職員との間の労働契約で合意した場合に支払い義務が発生する、という性質です。その形態は、以下の2種類に分けられます。

 

  • ①賞与支給額の計算方法が明確に定められているもの
  • ②査定により決定するもの

 

「①賞与支給額の計算方法が明確に定められているもの」について、次のように賞与の算定方法が就業規則に定めている場合には、賞与は給与と同質のものと考えられるため、一方的に減額や不支給とすることはできませんし、懲戒処分における「二重制裁の禁止(同一の懲戒事由においては、一度のみ処罰が可能)」の観点から、減額や不支給とすることは相当ではありません。

 

▶参照:規定例

賞与は、基本給の2か月分とする。

 

 

一方で「②査定により決定するもの」のように、賞与(ボーナス)について、以下のような規定をしている事業所も多いのではないかと思います。

 

▶参照:規定例

賞与は、会社の業績に応じ、従業員の能力、勤務成績、勤務態度等を人事考課により査定し、その結果を考慮して、その都度決定する。

 

 

この場合、賞与は通常の給与とは異なる性質と考えられます。賞与の算定においては、対象期間における職員の能力、勤務成績、勤務態度等を考慮して決定され、人事考課が賞与に影響を及ぼすことは明白です。そのため、懲戒処分の対象となった問題行動を理由として、他の職員に比して賞与(ボーナス)を減らすことは可能です。

しかしながら、この人事考課については、懲戒規定同様に基準を明確に定め、公平かつ合理的な運用をしていることが非常に重要となります。単に「対象期間の勤務態度を総合的に考慮する」といった曖昧な規定をするだけでは、恣意的な運用をしていると取られかねません。

また、懲戒処分を受けた場合は一律に賞与を0円にするなどといった極端な運用も他の職員との公平性を著しく欠くことになり得ますので避けるべきです。

評価制度において、実際に賞与の金額に差を設ける場合には、問題行動の性質だけでなく、懲戒処分の程度や回数など、客観的な基準を設けておくと利用しやすくなります。

 

9−3.昇級への影響

昇級には、ベースアップ(事業所全体の給与表の一律見直し)と定期昇給があります。

ベースアップとは、事業所全体の賃上げであるため、原則として、個人の懲戒処分との関連はありません。一方で、定期昇給は、年齢や勤続年数、業務成績などを根拠とする賃金の増額のことを言います。賞与と同様に、人事考課の基準を就業規則で明確にしておくほか、懲戒処分があった場合の評価方法を詳細に定めておくことが重要です。

ただし、昇級の決定については、原則として使用者側に人事権の裁量がありますし、ベースアップとはいえ、全ての職員を必ず昇級させなければならないものでもありませんので、懲戒処分の影響をある程度、考慮することもあり得ます。この場合は、定期昇給の際と同様に、評価方法の明確化は必須です。

 

【弁護士 畑山浩俊のワンポイントアドバイス】

 

人事評価の基準については、事業所の拡大や職員の増員に伴って、随時見直しが必要です。

 

少人数で気心の知れた職員ばかりの事業所では、人事評価や賞与の算定など、ある程度柔軟に決定することで支障がない場合も多くあります。しかし、事業拡大に伴う職場環境の変化や、職員の増員など、企業の成長とともに、職員一人一人の仕事ぶりを直接見る機会も少なくなります。

 

人事評価の基準が曖昧で、給与や賞与に関する基準が明確ではない場合、人事評価の不平等さを理由に、職員間の不満が増大し、事業所への不信感で離職につながるケースも多くあります。

 

人事評価制度は、事業所が職員に対して、どのような役割を求め、何を評価するかを明確にした上で、客観的かつ合理的な内容である必要があり、簡単に制度を整えることができるようなものではないため、日々の多忙な業務の中ではついつい後回しになりがちです。

 

しかしながら、この問題を先延ばしにしたまま、多くの事業所を運営し、多くの職員を抱えるようになってきた場合、必ず労務問題で足元を救われます。

 

今一度、みなさんの事業所で、人事評価基準の見直しや、策定を検討してみましょう。

 

 

9−4.退職金への影響

退職金については、通常は、勤務年数、退職時の基本給、退職理由を主な考慮要素として、算定されます。

その場合、就業規則において、例えば懲戒処分の中でも諭旨解雇や懲戒解雇をした場合や、これらの懲戒処分に相当するような行為をした場合に、退職金の減額、不支給、返還等を定めることはありますが、出勤停止処分等、それよりも軽い懲戒処分を理由として、退職金の額を変動させる仕組みとすることは一般的ではありません。

しかしながら、退職金の算定についても、在職中の貢献度や能力を考慮できる定め方をすることは可能です。

例えば、いわゆる「ポイント制方式」と言われる、労働者の在職中の資格・等級、勤続年数等を基準として1年あたりのポイントを設定した上、当該基準に応じてポイントを付与し、退職時に取得ポイント数に単価を乗じることによって退職一時金の額を算出する制度設計があります。

この方式を利用する場合、例えばポイントをマイナスする要素として、懲戒処分にかかる事実を加えておくことも考えられます。

もっとも、この場合も人事考課の場合と同様であり、評価が適正になされるかどうかという問題はあるため、ポイントの増減要素については客観的に見て明らかな事情とすることが重要です。

なお、退職金の規定の方法を、ポイント制方式に変更する場合には、人によっては退職金額が減ってしまったり、将来にわたって退職金額が不安定になるので、就業規則の変更にあたっては職員に対して丁寧に説明をし、同意を得ておきましょう。

 

9−5.転職時の履歴書への記載

転職時に、出勤停止処分を含む懲戒処分の有無について、履歴書に記載する必要はありません。ただし、転職先の法人としては、なぜ転職をしようとしているのか、前職を退職した理由などについて知りたいと考えるのは通常のことです。

そのため、履歴書には書いていなくても、面接の際に退職理由や懲戒処分を受けたことがあるか否かについて確認することは一般的であり、その際に故意に秘匿したり、虚偽の事実を伝えたりした場合、転職後に懲戒処分等を含めた何らかの処分を受ける可能性があります。

なお、履歴書に記入欄のある「賞罰」に記載すべき「罰」とは刑法上の犯罪による懲役刑、禁錮刑、罰金刑といった有罪判決を受けて科された「罰」(刑事罰)のことを指しており、行政罰や就業先での懲戒処分は含みません。

 

10.職員への制裁として出勤停止を行う前に弁護士に相談したほうがよい理由

出勤停止処分は、戒告や減給処分とは異なり、一定期間の出勤の禁止および当該期間の給与の不支給という処分のため、職員にとっては「想定していた収入を得ることができない」という生活に直結した不利益を受けることになるダメージの大きい処分です。そのため、確実な準備や検討を経ずに、処分の決定をした場合、問題職員からの強い反発を受け、その効力を争われる可能性は高くなります。

つまり、出勤停止という処分をするためには、懲戒事由の発覚時から計画的な準備をするなど、正しいプロセスを踏むことが重要になるということです。懲戒事由が発覚した際に、すぐに相談ができる労働法に強い弁護士、介護業界に明るい弁護士がいることは、どの事業所にとっても心強いものです。

懲戒処分に至る前の注意指導段階から弁護士へ相談することで、問題職員の業務改善を適正に行うことはもちろんのこと、今後の懲戒処分への対応が必要になることも見据えて、必要な証拠を揃えていくことが可能です。

事業所として対応に苦慮する状況になることは可能な限り避け、取るべき手段がまだ数多く残されているうちに、弁護士に相談することを心がけましょう。

 

11.出勤停止処分に関して弁護士法人かなめがサポートできること

介護業界に特化した弁護士法人かなめによるサポート内容のご案内!

弁護士法人かなめでは、介護業界に精通した弁護士が、以下のようなサポートを行っています。

 

11−1.出勤停止処分に関する手続の指導

出勤停止処分は、懲戒処分の中でも一歩踏み込んだ手続きであることに加え、法令に定められていない手続きになるため、その判断基準を明確にし、求められるプロセスを確実に踏んでいくことが重要です。

そのため、出勤停止処分を検討するにあたっては、初期のタイミングから専門家の意見を仰いでおくことが重要なのです。

弁護士法人かなめでは、介護事業所の労務管理に精通した弁護士が、証拠の残し方、注意指導をする際の準備などを、計画的にサポートした上、手続を行うタイミングも含め、指導します。

これにより、従業員への出勤停止処分を確実に実施でき、実施後の紛争も最小限に抑えることが可能になります。

 

11−2.労働判例研究会

弁護士法人かなめでは、顧問先様を対象に、出勤停止処分を含む懲戒処分の手続をはじめとして退職勧奨など、普段の労務管理の参考になる労働判例を取り上げ、わかりやすく解説する労働判例研究会を不定期に開催しています。

研究会の中では、参加者の皆様から生の声を聞きながらディスカッションをすることで、事業所に戻ってすぐに使える知識を提供しています。

 

11−3.顧問サービス「かなめねっと」

弁護士法人かなめでは、「11−1.出勤停止処分に関する手続の指導」及び「11−2.労働判例研究会」のサービスの提供を総合的に行う顧問弁護士サービス「かなめねっと」を運営しています。

事業所内で何か問題が発生した場合には、速やかに弁護士へ相談できる関係性を構築しています。

具体的には、弁護士と介護事業所の関係者様でチャットグループを作り、日々の悩み事を、法的問題かどうかを選択せずにまずはご相談頂き、これにより迅速な対応が可能となっています。いつでもご相談いただける体制を構築しています。法律家の視点から利用者様とのトラブルをはじめ、事業所で発生する様々なトラブルなどに対応しています。

直接弁護士に相談できることで、事業所内社内での業務効率が上がり、情報共有にも役立っています。

顧問弁護士サービス「かなめねっと」について詳しくは、以下のサービスページをご覧ください。

 

▶参照:顧問弁護士サービス「かなめねっと」について

 

 

また以下の記事、動画でも詳しく説明をしていますので、併せてご覧下さい。

 

▶︎参考:介護施設など介護業界に強い顧問弁護士の選び方や費用の目安などを解説

 

 

▶︎【介護・保育事業の方、必見】チャットで弁護士と繋がろう!!介護保育事業の現場責任者がすぐに弁護士に相談できる「かなめねっと」の紹介動画

 

 

11−4.弁護士費用

 

(1)顧問料

●顧問料:月額8万円(消費税別)から

※職員の方の人数、事業所の数、業務量により顧問料の金額は要相談とさせて頂いております。詳しくは、以下のお問合せフォームまたはお電話からお問い合わせください。

 

▶️お問い合わせはこちら

 

 

また、顧問弁護士サービス以外に弁護士法人かなめの弁護士へのスポットの法律相談料は、以下の通りです。

 

(2)法律相談料

  • 1回目:1万円(消費税別)/1時間
  • 2回目以降:2万円(消費税別)/1時間

 

※相談時間が1時間に満たない場合でも、1時間分の相談料を頂きます。
※スポットでの法律相談は、原則として3回までとさせて頂いております。
※法律相談は、「1.弁護士法人かなめにご来所頂いてのご相談」、又は、「2.ZOOM面談によるご相談」に限らせて頂き、お電話でのご相談はお請けしておりませんので、予めご了承ください。
※また、法律相談の申込みは、お問合わせフォームからのみ受け付けおります。
※介護事業所の経営者側からのご相談に限らせて頂き、他業種の企業様、職員等一般の方か らのご相談はお請けしておりませんので、予めご了承ください。

 

▶️お問い合わせはこちら

 

 

12,まとめ

この記事では、出勤停止を含む懲戒処分の根拠や、出勤停止とその他の懲戒処分の違いなどを紹介した上で、出勤停止処分を行うべき事例や具体的な手続きについて解説しました。

出勤停止の大きな特色は、減給処分よりも踏み込んだ懲戒処分であり、就業規則に違反した職員との労働契約は存続させつつ、一定期間の出勤を禁止し、その期間の給与を支払わないというインパクトのある処分です。また、その内容には法令の定めがなく、その期間や処分基準は各事業所の就業規則に委ねられているため、処分の検討、決定には他の懲戒処分同様に注意が必要です。

その一方で、度重なる就業規則違反やハラスメント行為など、悪質な勤務態度の問題職員に対しては、これまでの注意指導、懲戒処分歴、懲戒事由の程度などを考慮しながら、効果的に利用することができる処分でもあります。

問題職員にお困りの事業所の皆様は、労働分野、介護分野に詳しい弁護士に相談の上、計画的かつ効果的に出勤停止処分を利用していきましょう。

 

「弁護士法人かなめ」のお問い合わせ方法

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介護施設の経営や現場の実戦で活用できるテーマ(「労働問題・労務管理」「クレーム対応」「債権回収」「利用者との契約関連」「介護事故対応」「感染症対応」「行政対応関連」など)を中心としたセミナーです。

弁護士法人かなめでは、「介護業界に特化した弁護士」の集団として、介護業界に関するトラブルの解決を介護事業者様の立場から全力で取り組んで参りました。法律セミナーでは、実際に介護業界に特化した弁護士にしか話せない、経営や現場で役立つ「生の情報」をお届けしますので、是非、最新のセミナー開催情報をチェックしていただき、お気軽にご参加ください。

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介護特化型弁護士による「かなめ研修講師サービス」 介護特化型弁護士による「かなめ研修講師サービス」

弁護士法人かなめが運営している社会福祉法人・協会団体・自治体向けの介護特化型弁護士による研修講師サービス「かなめ研修講師サービス」です。顧問弁護士として、全国の介護事業所の顧問サポートによる豊富な実績と経験から実践的な現場主義の研修を実現します。

社会福祉法人の研修担当者様へは、「職員の指導、教育によるスキルアップ」「職員の悩みや職場の問題点の洗い出し」「コンプライアンスを強化したい」「組織内での意識の共有」などの目的として、協会団体・自治体の研修担当者様へは、「介護業界のコンプライアンス教育の実施」「介護業界のトレンド、最新事例など知識の共有をしたい」「各団体の所属法人に対して高品質な研修サービスを提供したい」などの目的として最適なサービスです。

主な研修テーマは、「カスタマーハラスメント研修」「各種ハラスメント研修」「高齢者虐待に関する研修」「BCP(事業継続計画)研修」「介護事故に関する研修」「運営指導(実地指導)に関する研修」「各種ヒヤリハット研修」「メンタルヘルスに関する研修」をはじめ、「課題に応じたオリジナル研修」まで、介護事業所が直面する様々な企業法務の問題についてのテーマに対応しております。会場またはオンラインでの研修にご対応しており、全国の社会福祉法人様をはじめ、協会団体・自治体様からご依頼いただいております。

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この記事を書いた弁護士

介護業界に特化した「弁護士法人かなめ」運営の法律メディア「かなめ介護研究会」

畑山 浩俊はたやま ひろとし

代表弁護士

出身大学:関西大学法学部法律学科卒業/東北大学法科大学院修了(法務博士)。
認知症であった祖父の介護や、企業側の立場で介護事業所の労務事件を担当した経験から、介護事業所での現場の悩みにすぐに対応できる介護事業に精通した弁護士となることを決意。現場に寄り添って問題解決をしていくことで、介護業界をより働きやすい環境にしていくことを目標に、「介護事業所向けのサポート実績日本一」を目指して、フットワークは軽く全国を飛び回る。

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