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団体交渉とは?拒否できるかや進め方・対応方法などについて解説

団体交渉とは?拒否できるかや進め方・対応方法などについて解説
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みなさんの事業所に、突然「団体交渉の申入書兼要望書」のようなものが届いたことはありませんか。

団体交渉の申入れは、一方的に時間や場所を指定し、様々な要望を申し入れられ、中には、いきなり事業所に乗り込んでくるようなケースもあり困惑をされたことがある事業所の方も多いのではないかと思います。

団体交渉は、法律上認められた労働者の権利であり、使用者側にはこれに誠実に応じる義務があります。

しかしながら、この義務の範囲を正確に理解できていなければ、対応すべき事柄に対応せず「不当労働行為」となってしまったり、逆に労働組合等の言いなりになってしまって事業活動に支障を来してしまうこともあります。

重要なのは、団体交渉に際して使用者に求められる対応を正確に理解し、しっかり主導権を持って対応をしていくことなのです。

そこで、この記事では、団体交渉の法的な根拠や内容、実際の団体交渉の対応をする際の注意点について解説しますをまとめています。

また、団体交渉に応じなかった場合の不利益や、団体交渉を打ち切ることができる場合、打ち切った後に発生し得る問題などについても解説していますので、今まさに団体交渉の申入れに悩んでいる皆さんは、参考にしていただければと思います。

 

1.団体交渉とは?

団体交渉とは?

まずは、団体交渉の基礎知識について、解説をしていきたいと思います。

 

1−1.団体交渉の定義

団体交渉とは、労働者の労働条件その他労使関係に関連する事項について、労働組合が団体として、使用者と交渉することをいいます。団体交渉を略して「団交」と呼ぶことも多いです。英語では、「collective bargaining」といわれます。

似たような状況で利用される言葉として、「労働争議」という言葉がありますが、これは労働関係調整法6条で、「労働関係の当事者間において、労働関係に関する主張が一致しないで、そのために争議行為が発生している状態または発生する虞(おそれ)がある状態」と定義されています。もう少し広くは、労働者が自らの労働条件の向上を目指して行う様々な活動であり、団体交渉などの交渉がうまくいかない場合に行われるストライキやボイコットなどの状況を指します。

 

1−2.事務折衝との違い

団体交渉が公式の手続きなのに対し、事務折衝は、いわば非公式な手続きです。

交渉の進め方、前提事項の確認、交渉事項の整理など、団体交渉を効果的・効率的に実施するための事務的な事項についての交渉・折衝をする手続きです。

もっとも、事務折衝として行っている交渉が、実質的には団体交渉としての内容を伴っていることがあり、そのような場合には、不当労働行為が禁止されるなど、団体交渉と同様の規制を受けます。

 

1−3.労使協議との違い

労使協議は、典型的には、労働組合の代表者と使用者の代表者が、経営事項について協議・情報交換をすることです。企業内組合が存在する企業においては、このような労使協議が実施されることが多いです。

労使協議は、あくまで「協議」であるため、労働条件等の交渉である団体交渉とは異なる性質のものですが、労使協議として実施されている協議の中には、実質的には労働条件等の交渉が伴っている場合があります。

このような場合には、団体交渉としての性質を帯びるため、不当労働行為が禁止されるなど団体交渉と同様の規制に服することになります。

 

1−4.団体交渉に関する統計

令和2年労使間の交渉等に関する実態調査 結果の概況によれば、過去3年間における労働組合の団体交渉について、「団体交渉を行った」と回答した労働組合が「70.5%」、「団体交渉を行わなかった」と回答した労働組合が29.4%(同32.0%)となっています。

平成29年の調査では、「団体交渉を行った」と回答した労働組合が67.5%であり、微増している状況です。

 

「過去3年間における団体交渉の有無及び交渉形態別割合」参考データ

・参照元:厚生労働省 4 団体交渉に関する状況「団体交渉の有無及び交渉形態第5表を抜粋」(pdf)

 

また、同調査によれば、過去3年間に団体交渉を行った労働組合について、団体交渉の1年平均交渉回数をみると、「3~4回」34.5%が最も多く、次いで「1~2回」30.9%(同27.0%)、「5~9回」23.9%(同21.3%)などとなっています。

 

「過去3年間における団体交渉の1年平均交渉回数別割合」参考データ

・参照元:厚生労働省 4 団体交渉に関する状況「団体交渉の1年平均交渉回数第6表を抜粋」(pdf)

 

2.ユニオンなど労働組合とは?

団体交渉の主要な登場人物として、「労働組合」があります。

労働組合と一言で言っても、様々な形態があります。ここでは、労働組合について解説します。

 

2−1.労働組合とは?

労働者によって、労働条件その他労使関係に関連する事項についての維持改善・経済的地位の向上等を図ることを目的として組織された団体です。労働組合の設立に関して、公的な許認可や届出は不要です。

もっとも、労働組合法上の「労働組合」として保護を受けるためには、労働組合法第2条に定める要件を充足する必要があります。

 

▶参考:労働組合法第2条

(労働組合)

第二条 この法律で「労働組合」とは、労働者が主体となつて自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体又はその連合団体をいう。但し、左の各号の一に該当するものは、この限りでない。
一 役員、雇入解雇昇進又は異動に関して直接の権限を持つ監督的地位にある労働者、使用者の労働関係についての計画と方針とに関する機密の事項に接し、そのためにその職務上の義務と責任とが当該労働組合の組合員としての誠意と責任とに直接にてい触する監督的地位にある労働者その他使用者の利益を代表する者の参加を許すもの
二 団体の運営のための経費の支出につき使用者の経理上の援助を受けるもの。但し、労働者が労働時間中に時間又は賃金を失うことなく使用者と協議し、又は交渉することを使用者が許すことを妨げるものではなく、且つ、厚生資金又は経済上の不幸若しくは災厄を防止し、若しくは救済するための支出に実際に用いられる福利その他の基金に対する使用者の寄附及び最小限の広さの事務所の供与を除くものとする。
三 共済事業その他福利事業のみを目的とするもの
四 主として政治運動又は社会運動を目的とするもの

・参照元:「労働組合法」の条文はこちら

 

 

以下では、労働組合の種類について、説明します。

 

(1)企業内組合

特定の企業ごとに組織される労働組合です。基本的にはその企業の労働者が組合員になっています。パート職員やアルバイトが加入できるかは、その企業内組合の方針や規約によってことなります。

 

(2)産業別・職業別組合

同一の産業や同一の職業ごとに、これに属する労働者を組合員として、所属する企業団体を超えて横断的に組織される労働組合です。企業別組合の上部団体であることもあります。

 

(3)合同労組、ユニオン

企業、産業、職業に関わらず、特定の地域において、多様な労働者が加入・結成する労働組合です。パート社員やアルバイトでも加入できます。

介護事業所は、規模の小さな法人も多く、企業内組合がある法人は稀です。

そこで、この記事では、基本的に合同労組、ユニオンとの団体交渉であることを前提に解説しています。

 

(4)上部団体

上部団体とは、企業、産業、職業ごとに結成された労働組合を単位労働組合として、その単位組合を構成員とする労働組合です。「●産業労働組合連合会」などの名称の労働組合が上部団体に該当します。

 

3.法律上の根拠

ここでは、「団体交渉」が、どのような法律上の根拠に基づいて規定されているか解説します。

 

3−1.憲法上の根拠

労働組合による団体交渉は、団体交渉権という憲法上認められた権利に基づくものです(憲法28条)。

 

▶参考:憲法第28条

憲法第28条 勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。

・参照元:「日本国憲法」の条文はこちら

 

 

3−2.労働組合法上の根拠

労働組合法は憲法28条の定めを受け、労働者が団結して団体交渉を実施できるようにすることにより、使用者と対等な立場に立って交渉することを促進することを目的にしています。

具体的には、使用者に労働組合との団体交渉において誠実に交渉する義務などを定め、正当な理由のない団体交渉の拒否を禁止しています。

 

▶参考:労働組合法第1条1項

(目的)

第一条 この法律は、労働者が使用者との交渉において対等の立場に立つことを促進することにより労働者の地位を向上させること、労働者がその労働条件について交渉するために自ら代表者を選出することその他の団体行動を行うために自主的に労働組合を組織し、団結することを擁護すること並びに使用者と労働者との関係を規制する労働協約を締結するための団体交渉をすること及びその手続を助成することを目的とする。

・参照元:「労働組合法」の条文はこちら

 

 

4.団体交渉では何をするの?

団体交渉では、使用者と労働組合が、労働者の労働条件その他労使関係に関連する事項について、交渉をします。

 

4−1.団体交渉の目的

団体交渉は、使用者と労働者が対等な立場で、労働条件等を交渉を行うことを目的としています。

労働者側、使用者側それぞれの立場から、団体交渉を行う目的や、そのメリット、デメリットについて解説します。

 

(1)労働者側のメリットとデメリット

労働者は、一般的に、労働条件等の決定に際し、使用者よりも弱い立場にあります。労働組合に加入して団体交渉をすることにより、憲法上、労働組合法上保護され、強い交渉力を発揮することができます。

実際、団体交渉においては、労働組合が主導的に交渉をすることになりますので、労働者個人では、使用者に提示することができない要望を伝え、交渉をすることが可能になります。この点は、労働者が労働組合に加入して団体交渉をすることのメリットです。

他方、労働者は、労働組合に加入した場合、組合費の徴収があったり、組合活動に参加する必要があり、この点は、労働者が労働組合に加入するデメリットです。

 

(2)使用者側のメリットとデメリット

使用者には、労働組合と団体交渉することにより、労使双方に納得感のある制度設計や労務管理が可能になるというメリットがあります。

特に、使用者において、法人内の制度設計を抜本的に見直すような場合に、個別の労働者と議論・交渉するのではなく、労働組合と建設的な議論・交渉をすることにより、スムーズに制度変更が実現することがあります。

他方、労働組合からの団体交渉の申入れがあれば、使用者は基本的にこれに応じる必要があります。そして、正当な理由な理由なく団体交渉を拒めば、不当労働行為として、法的な制裁を受ける可能性もあります。

また、実際に団体交渉を実施するとなれば、交渉に労力を割く必要がありますし、場合によっては弁護士に依頼するコストが生じる可能性があります。

これらの点は、使用者にとって、団体交渉をすることのデメリットです。

 

4−2.団体交渉では何を話し合うの?

団体交渉では、一般的には、労働組合から、組合員である労働者の労働条件や待遇を向上させることを求めたり、不利益な扱いをやめるよう求め、これらの点について、労使間で協議交渉をします。

団体交渉の議題については、義務的団交事項と任意的団交事項に分類されます。この点については、次の「5.団体交渉での具体的な交渉事項」で説明します。

 

5.団体交渉での具体的な交渉事項

団体交渉での具体的な交渉事項

団体交渉の議題は、義務的団交事項と任意的団交事項に分類されます。

ここでは、それぞれの具体的な交渉事項について解説します。

 

5−1.義務的団交事項

義務的団交事項とは、労働組合がその事項について団体交渉を申し入れた場合に、使用者が正当な理由なく拒絶すると不当労働行為となることから、誠実に交渉することが法律上強制される事項です。

一般的には、組合員である労働者の労働条件その他待遇や団体的労使交渉の運営に関する事項であって、使用者に決定権限がある事項とされます。

以下、具体的に説明します。

 

(1)「労働条件その他の待遇」の代表的なもの

「労働条件その他の待遇」として義務的団交事項とされるもののうち、代表的なものは、以下のような事項です。

 

① 労働の報酬(賃金、一時金、退職金、賞与、旅費交通費などの諸手当など)

賃上げを求めるなど、報酬条件の向上を求めるものです。

 

② 労働時間

労働時間の削減など、労働時間に関する労働条件の向上を求めるものです。

 

③ 休息(休憩・休日・休暇)

休憩や休日などの労働条件の向上や有給休暇の適切な取得を求めるものです。

 

④ 安全衛生、災害補償

安全衛生環境の改善や労働災害に関する補償を求めるものです。

 

⑤ 教育訓練

教育訓練体制の整備や費用の負担を求めるものです。

 

⑥ 人事異動に関するもの

採用、昇格・降格、配転・出向などの人事異動の撤回や再考を求めるものです。

 

⑦ 人事考課の基準や手続

人事考課の基準・手続の確認や改善を求めるものです。

 

⑧ ハラスメント

ハラスメントの防止や実際に行われているハラスメントに対する補償を求めるものです。

 

⑨ 懲戒処分、解雇

懲戒処分の再考や撤回を求めるものです。労働組合が不当解雇であることを主張する場合には、復職や復職後の労働条件についての交渉がされることもあります。

 

⑩ 退職後の職員に関する労働条件

退職後に在職時の賃金などの労働条件を争って未払いの賃金の支払いを求めたり、退職金などの退職時の条件を争って未払いの退職金等の支払いを求めるものです。

 

(2)団体的労使関係の運営に関する事項

団体的労使関係の運営に関する事項として、義務的団交事項とされるもののうち、代表的なものは以下のような事項です。

 

  • 1.団体交渉や争議行為の際の手続きやルール
  • 2.組合活動に関する便宜供与(組合事務所や掲示板の貸与、チェックオフなど)
  • 3.組合活動に関するルール
  • 4.ユニオン・ショップ制

 

5−2.任意的団交事項

任意的団交事項とは、法的には団体交渉に応じる義務はないものの、使用者が任意に団体交渉の対象として扱うものです。当然、使用者は、任意的団交事項については、団体交渉に応じなくても問題ありません。

以下、主たる任意的団交事項について説明します

 

(1)使用者が対処できない事項

最低賃金法に基づく地域別最低賃金の額、他社の労働条件に関する事項、政治的政策的な事項については、使用者の一存で変更・決定することができないため、任意的団交事項とされます。

 

(2)経営や生産に関する事項

経営や生産計画に関する事項については、原則として、使用者側の専決事項として任意的団交事項とされます。

但し、これらの事項であっても労働者の労働条件や経済的な地位と関連する場合には、義務的団交事項とされることがあります。

例えば、破産手続の検討、生産計画の変更、清掃業務等の外注化、工場の移転については、その判断によって、労働者の雇用、職務内容、就業場所といった労働条件や経済的地位に影響が生じる可能性があるため、その点で義務的団交事項となることがもあります。

 

(3)施設管理権に関する事項

設備の購入、更新、移転については、使用者の施設管理権に属する事項であるため、義務的団交事項ではありません。

 

(4)他の労働者のプライバシーを侵害するおそれのある事項

他の労働者の賃金や賞与の金額、人事考課上の評価内容など、他の労働者のプライバシーを侵害する可能性のある事項については、義務的団交事項ではないとされています。

 

6.団体交渉には応じなければいけないの?

ここまで解説をした団体交渉について、事業所としてはどのように対応する義務があるのでしょうか。

以下では、使用者には団体交渉に応じる義務が有るのかについて説明します。

 

6−1.応諾義務

労働組合法第7条2号は、使用者が、団体交渉を正当な理由なく拒むことを禁止しており、使用者に団体交渉への応諾義務を課しています。

 

6−2.誠実交渉義務

労働組合法第7条2号が禁止する「拒むこと」には、実際に団体交渉をしないことだけでなく、誠実に団体交渉を実施しないことも含むとされており、使用者は誠実に団体交渉を実施する義務を負っています。

このような誠実に団体交渉を実施しないことを不誠実団交と呼び、典型的な不当労働行為の一つとされています。

もっとも、誠実交渉義務は、労働組合の要望に応じたり、譲歩をしたりする義務まで含むものではありません。そのため、誠実に団体交渉を実施したが、合意に至らなかったような場合には、団体交渉を打ち切っても、不誠実団交ではないとされます。

なお、何をもって誠実交渉義務を尽くしたといえるかについては、当該事案に応じて異なりますので、団体交渉を打ち切る場合には、団体交渉に詳しい弁護士に相談するようにしましょう。

 

▶参照:労働組合法第7条

(不当労働行為)

第七条 使用者は、次の各号に掲げる行為をしてはならない。
一 労働者が労働組合の組合員であること、労働組合に加入し、若しくはこれを結成しようとしたこと若しくは労働組合の正当な行為をしたことの故をもつて、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱いをすること又は労働者が労働組合に加入せず、若しくは労働組合から脱退することを雇用条件とすること。ただし、労働組合が特定の工場事業場に雇用される労働者の過半数を代表する場合において、その労働者がその労働組合の組合員であることを雇用条件とする労働協約を締結することを妨げるものではない。
二 使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと。
三 労働者が労働組合を結成し、若しくは運営することを支配し、若しくはこれに介入すること、又は労働組合の運営のための経費の支払につき経理上の援助を与えること。ただし、労働者が労働時間中に時間又は賃金を失うことなく使用者と協議し、又は交渉することを使用者が許すことを妨げるものではなく、かつ、厚生資金又は経済上の不幸若しくは災厄を防止し、若しくは救済するための支出に実際に用いられる福利その他の基金に対する使用者の寄附及び最小限の広さの事務所の供与を除くものとする。
四 労働者が労働委員会に対し使用者がこの条の規定に違反した旨の申立てをしたこと若しくは中央労働委員会に対し第二十七条の十二第一項の規定による命令に対する再審査の申立てをしたこと又は労働委員会がこれらの申立てに係る調査若しくは審問をし、若しくは当事者に和解を勧め、若しくは労働関係調整法(昭和二十一年法律第二十五号)による労働争議の調整をする場合に労働者が証拠を提示し、若しくは発言をしたことを理由として、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱いをすること。

・参照元:「労働組合法」の条文はこちら

 

 

7.団体交渉を拒否したらどうなる?

団体交渉の義務があることは、「6.団体交渉には応じなければいけないの?」で解説した通りですが、それでは、もし団体交渉を拒否したらどうなるのでしょうか。

以下で、団体交渉を拒否することの問題点について解説します。

 

7−1.団体交渉の拒否は原則違法!

上記「6.団体交渉には応じなければいけないの?」でも記載しましたが、労働組合法7条2号は、使用者が正当な理由なく団体交渉を拒むことを禁止しています。

誠実に交渉を尽くしたにもかからず、合意に至らなかったような場合には、団体交渉を打ち切ることも可能ですが、当初から団体交渉を拒む正当な理由がある場合はほとんど想定されません。

少なくとも、団体交渉の申入れを受けた時点での団体交渉の拒否は違法であるという前提で対応すべきです。

 

7−2.団体交渉を拒否した場合の罰則・制裁

団体交渉の拒否が違法であるかの判断は、労働委員会、裁判所等によって行われます。

以下で順に解説します。

 

(1)労働委員会の判断によるもの

労働委員会において、団体交渉の拒否が不当労働行為とされた場合、「誠実に団体交渉を行え」や「団体交渉を拒否してはならない」などという趣旨の救済命令が出されます。

場合によっては、このような救済命令を事業所に掲示することを命じられたり、掲示するだけなく、不当労働行為を行ったことについての反省・謝罪などを記載した文書の掲示を求められることもあります。

さらに、救済命令に違反した場合には過料が科せられることがあり、救済命令を支持する判決が確定した後に救済命令に違反した場合には1年以下の禁錮もしくは100万円以下の罰金または科料に科せられることがあります(以下、「労働組合法第28条、32条」を参照)。

 

▶参照:労働組合法第28条、32条

第二十八条 救済命令等の全部又は一部が確定判決によつて支持された場合において、その違反があつたときは、その行為をした者は、一年以下の禁錮若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

第三十二条 使用者が第二十七条の二十の規定による裁判所の命令に違反したときは、五十万円(当該命令が作為を命ずるものであるときは、その命令の日の翌日から起算して不履行の日数が五日を超える場合にはその超える日数一日につき十万円の割合で算定した金額を加えた金額)以下の過料に処する。第二十七条の十三第一項(第二十七条の十七の規定により準用する場合を含む。)の規定により確定した救済命令等に違反した場合も、同様とする。

・参照元:「労働組合法」の条文はこちら

 

 

(2)裁判所の判断によるもの

団体交渉の拒否により、労働組合や組合員に損害が生じた場合、その労働組合及び組合員は、使用者がその損害を賠償するよう裁判所に求めることができます。

 

7−3.団体交渉を拒否できる場合とは?

団体交渉は、拒否したからと言って必ずしも違法となるわけではありません。

以下では、団体交渉の拒否が違法とならない場合について解説します。

 

(1)誠実に交渉を尽くしたが、合意に至らなかった場合

使用者は、団体交渉に対して、誠実に対応する義務がありますが、このような誠実交渉義務は、使用者に譲歩を強いるものではありません。

使用者が労働組合と誠実に交渉し、交渉を尽くしたにもかからず、合意に至らなかったような場合には、団体交渉を打ち切ることができます。

もっとも、誠実に交渉を尽くしたといえるためには、使用者が、適切な資料等を示した上で、十分な説明をし、誠実に交渉をしたものの、合意に至らなかったことが必要で、使用者側の主張が認められないことから直ちに打ち切りができるわけではありません。

また、どの程度、団体交渉を実施すれば打ち切りができるという形式的な基準はありませんので、団体交渉を打ち切る場合には、団体交渉に詳しい弁護士に必ず相談するようにしましょう。

 

(2)およそ話し合いにならないような場合

多数の組合員が訪れたり、大声での野次や怒号が飛び交ったり、暴力行為等があるなど、およそ誠実に交渉ができない場合にも、団体交渉を打ち切ることが可能です。

もっとも、このような行動があった場合に、すぐに打ち切るのではなく、このような行動をやめなければ団体交渉を一旦打ち切ると警告し、それでも交渉ができない状況が続くようであれば、その日の団体交渉は打ち切るようにしましょう。

 

(3)団体交渉があまりに長時間にわたる場合

団体交渉が長時間にわたる場合、通常は、議論が水掛け論になったり、平行線になったり、同じ話が何度も繰り返されたりされているはずです。このような場合、そのまま団体交渉を続けても交渉が前に進まない可能性が高いです。

他方で、使用者側は、慣れない団体交渉の場で疲弊してるため、団体交渉が長時間にわたると、その場から開放されたいという一心で、応じる必要のない労働組合の要望に応じてしまう可能性が高まります。

そこで、団体交渉が長時間にわたり、交渉が進む様子がなければ、その日の団体交渉は打ち切りましょう。また、そもそも、このような事態にならないように、団体交渉を実施する際には時間を設定するようにしましょう。

 

(4)新型コロナウイルスの感染防止対策のため

団体交渉は、対面で行うべきとされているので、対面での団体交渉を拒むことは、原則として、応諾義務、誠実交渉義務に違反し、不当労働行為と判断されるでしょう。

もっとも、新型コロナウイルスの感染状況によっては、感染防止対策の一環として、労働組合と協議した上で、オンライン会議システムを利用した団体交渉を実施することは、不当労働行為ではないと判断される場合もあるはずです。

したがって、新型コロナウイルスの感染状況に応じた柔軟な対応を模索すべきです。

もっとも、現在、新型コロナウイルスは、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律において五類感染症という位置づけですので、新型コロナウイルスを理由に特別な扱いをすることは難しく、通常の体調不良と同様に扱われることになる可能性が高いです。

具体的には、ウイルスの潜伏期間ないし体調が改善するまでの一定期間、団体交渉を延期する旨の打診をし、労働組合の意向を確認することになります。労働組合が延期を了承すれば延期をし、延期よりもオンラインでの団体交渉を除くのであればオンラインで実施することになるでしょう。

 

(5)義務的団交事項ではない場合

5−1.義務的団交事項」で説明したように、団体交渉を求められた事項が義務的団交事項である場合には、正当な理由なく拒むことはできません。

逆に言えば、団体交渉を求められた事項が任意的団交事項であれば、正当な理由の有無について検討することなく、使用者は拒否をすることができます。

 

8.団体交渉での注意点!やってはいけないこととは?

団体交渉では、不当労働行為をしないこと、労働組合に交渉の主導権を渡さないこと、慎重に判断することが重要です。

以下では、その概要について解説します。

 

8−1.団体交渉の場は冷静に!

団体交渉の場では常に冷静でいるようにしてください。団体交渉は、交渉の場です。冷静さを欠いてしまうと、正常な判断ができなくなる可能性がありますし、突発的に不当労働行為と評価される発言をしてしまう可能性があります。

労働組合からは、尊厳を欠いた発言や挑発的な発言がなされる可能性があり、そのような場合にも、常に冷静でいることを心がけましょう。頭に血が上っていると感じた場合には、深呼吸して間を開けた上で発言をすることにより、冷静さを欠いた対応を防ぐことができます。

 

8−2.団体交渉の場で即決しない

団体交渉は、使用者にとって負担の大きい手続きであるため、開放されたいという想いから、即決してしまうことがあります。

また、労働組合は、自らに有利な結論を導くために、慎重な判断をさせないように対応することが多く、その観点からその場で結論を出すことを求める傾向にあります。

しかし、団体交渉の結論は、今後の法人運営にも大きな結論を与えることが多いため、最終的な結論については、一度持ち帰り慎重に判断するようにしましょう。

 

8−3.議事録、録音は確実に!

団体交渉の議事録は、使用者側が、誠実交渉義務を果たしていることを示す根拠資料になります。労働組合の作成した議事録では、意図するとしないとに関わらず、使用者側に不利な記載があったり、有利な内容が記載されていなかったりする可能性がありますので、必ず使用者側においても議事録を作成するようにしましょう。

また、団体交渉においては、記録化の観点から録音をすべきです。録音に際しては、労働組合の同意は不要で、無断で録音しても問題ありませんが、昨今の団体交渉では、むしろ録音することが通常であり、当然に録音を開始することが一般的です。労働組合側も団体交渉開始前にICレコーダーを卓上に置いて堂々と録音を開始するケースも多いです。使用者側も「録音します」と宣言して、堂々と録音しましょう。

 

なお、無断録音に関しては、以下の動画でも詳しく説明していますので、併せてご覧ください。

▶️【無断録音】こっそり録音することは違法か?

 

 

 

▶️【無断録音!】実際にあったミス3選!弁護士が解説します!

 

 

 

この段落で說明してきたような団体交渉の注意点については、以下の記事で詳しく解説していますので、併せてご覧ください。

 

▶️参考:団体交渉でやってはいけない対応とは?10の項目を徹底解説

 

 

9.団体交渉の流れ・進め方

以下では、団体交渉の流れについて解説します。

 

9−1.団体交渉のフローチャート

団体交渉の団体交渉のフローチャート

 

最初に、団体交渉の主な流れをまとめてますので、確認していきましょう。

 

  • 1.団体交渉申込書の受領
  • 2.団体交渉の実施日時、場所などの調整
  • 3.団体交渉の実施
  • 4.「妥結・和解」か「打ち切り」

 

9−2.団体交渉の進め方

 

(1)団体交渉の申入書兼要望書の提出

団体交渉は、労働組合が、使用者に対して、団体交渉申入書を交付することによって始まります。

申入書には、労働組合ないし組合員の要望が記載されており、これに加えて、団体交渉の実施を希望する日時や場所などについても記載があることが多いです。(以下、「▶参考:団体交渉申入書のサンプル例」を参照)

申入書を受け取った使用者は、その内容を確認し、初動や今後の方針を検討・判断する必要があります。

仮に 申入書の記載内容に、不明瞭な点があれば、そもそも団体交渉に応じる必要があるのか、応じる必要があるとしてどのような方針を立てるべきかを検討することができません。そこで、そのような場合には、労働組合に対して、その趣旨を明らかにするよう伝えるべきです。

 

▶参考:団体交渉申入書のサンプル例

団体交渉申入書のサンプル例

 

(2)団体交渉実施前に決めるべきもの

 

① 団体交渉の日時の決定

申入書には、基本的に、労働組合側が団体交渉の実施を希望する日時が記載されています。

場合によっては、特定の日時だけ記載されており、あたかもその特定の日時で団体交渉を実施しなければならないかのような記載がされていることがあります。

しかし、誠実交渉義務も、労働組合が指定する日時で団体交渉に応じることを強いるものではありません。

使用者において、要望事項に対する回答や、弁護士との相談もする必要がありますので、労働組合が指定する日時で団体交渉に応じることができないような場合には、代わりの日程を提示するようにしましょう。

もっとも、理由もなく、長期間団体交渉を実施しなければ、不当労働行為となる可能性があるので、できるだけ早期に日程を提示しましょう。

 

② 団体交渉の場所の決定

日時と同様に、申入書において、団体交渉の実施場所が指定されることがあります。

団体交渉の実施場所についても、労働組合の希望に応じる必要はありません。特に、団体交渉の実施場所として、労働組合の事務所や使用者の事業所が指定されている場合には、必ず拒絶するようにしましょう。

労働組合の事務所で団体交渉を実施すると、終了のきっかけがなく、ずるずると長時間団体交渉が実施されてしまう可能性があります。また、使用者の事業所で実施する場合には、社員ではない組合員が事業所に入ってくることになり、他の職員への悪影響が生じる可能性が高いです。

そのため、団体交渉は、外部の貸し会議室にて実施するようにしましょう。

なお、オンラインでの団体交渉は、基本的には難しいと考えておきましょう。団体交渉は、対面での実施を原則としていますので、対面で実施しない合理的な理由がない限りはオンラインでの団体交渉に固執することは不当労働行為となる可能性があります。

もっとも、労働組合側がオンラインで団体交渉を実施することに応じるのであれば、その場合はオンラインでも団体交渉は可能です。

 

③ 団体交渉の出席者の決定

 

・労働者側

合理的な範囲で労働組合側の出席者や人数を制限することは問題ありません。

むしろ、出席者や人数を制限しなかった場合、不特定多数の組合員が、団体交渉の場に押し寄せ、やじや怒号が飛び交い、もはや交渉をできるような状況ではなくなってしまう可能性があります。そのような場合には、使用者側の出席者を大勢で非難し、吊るし上げるような団体交渉となる可能性もあります。

使用者側の出席人数にもよりますが、人数は3~5人程度の提案をするのが良いでしょう。

 

・使用者側

労働組合は、社長や理事長などの代表者の出席を求め、代表者が出席しないことは不当労働行為であると主張することがよくあります。

しかし、団体交渉に誰を出席させるかは使用者が判断して問題ありませんし、代表者が出席しなかったことだけを理由に不当労働行為となることはありません。

代表者が団体交渉に参加すべきかは、代表者の出席により、団体交渉が効果的に実施することができるのか、それとも、代表者が出席することにより団体交渉が進めにくくなるかを当該事案に応じて慎重に検討すべきです。

例えば、代表者が紛争の内容を把握していない場合は代表者を出席させるべきではありません。他方、中小零細企業では代表者以外に団体交渉の場で交渉ができる者がいないこともあり、このような場合には代表者が出席すべきです。

 

・代理人の出席

団体交渉には、労働問題、団体交渉に詳しい弁護士を同席させるべきです。

不当労働行為をせずに、労働組合に主導権を渡さず、使用者の利益を守るべく交渉するためには、法律・交渉の専門家である弁護士を同席させることが有効だからです。

 

④ 要望事項の特定

団体交渉を実施するにあたっては、事前に労働組合側の要望を具体的に特定すべきです。要望が特定できなければ、使用者側で事前に検討をすることができないからです。

例えば、申入書に記載のある要望事項として「組合員Xの労働条件について」としか記載がなければ、どの労働条件について、どのような要望があるのかがわからず、使用者側で検討しようがありません。

そこで、申入書に記載のある要望事項の内容が明らかでない場合には、事前に書面で確認をしましょう。それでも、労働組合側から説明がなかった場合には、団体交渉当日に具体的な要望が出されたとしても、「事前に内容がわからなかったので、一度持ち帰って検討する」と伝えて問題ありません。無理に当日回答し、不利な結果になるようなことは避けましょう。

 

(3)団体交渉当日

団体交渉当日は、貸し会議室において、双方の人数を制限し、終了時間を確認した上で実施するようにしましょう。

使用者側は、誠実交渉義務を負っていますが、労働組合や組合員の要望に応じる義務まではありませんので、丁寧に対応する必要はあるものの、毅然とした対応をしましょう。

また、終了時間になれば、その旨を労働組合に伝えて時間通りに終了するようにしましょう。事前に定めた終了時間になったことを理由にその日の団体交渉を打ち切ることは問題ありません。

 

(4)要望書・要望事項への回答

労働組合の要望に対して、団体交渉の場で回答する場合と、回答書において回答する場合があります。

 

① 団体交渉の場で回答

労働組合は、その要望を申入書や要望書といった書面に記載しますが、往々にしてその要望内容が正確に記載されていなかったり、不明確であったりすることがあります。

そのような場合には、使用者は、要望事項を書面にて明確に記載するよう求めることになりますが、それでも要望事項が明確にならないこともあります。

書面で要望事項が明確にならないのであれば、団体交渉当日に労働組合に口頭で補足を促し、回答することになります。

もっとも、口頭で補足されて初めて要望事項の内容がわかったような場合には、その場ですぐに回答せず、持ち帰って検討するようにします。

 

② 回答書の作成

要望事項の内容が明らかな場合は、書面で回答することもあります。また、団体交渉当日に口頭で回答した場合でも、労働組合から書面で改めて回答するようにと主張されることもあります。

書面で回答する場合には、使用者側の主張を明確に伝えることができますし、資料を引用するなどして主張の根拠を伝えることも可能になります。さらに、書面で回答することは、使用者が誠実交渉義務を尽くしていることの証拠にもなります。

そのため、このような要望事項に対する回答は基本的には書面で行うようにすべきです。

 

(5)団体交渉の終了

団体交渉の終了は、合意による場合と打ち切りによる場合があります。

 

① 合意の成立

労働組合の要望について、使用者側が一部譲歩するなどして、合意に至ることがあります。

合意に至った場合には、合意の内容を明確にし、双方の認識に齟齬が生じないように合意書を作成しましょう。

また、弁護士の相談せずに合意書の作成してしますと、合意内容が適切に反映されていなかったり、紛争が終局的に解決しないような合意になっていたりするか可能性があるので、合意書の作成にあたっては、必ず弁護士に相談するようにしましょう。

 

▶参考:「合意書」のサンプル例

「合意書」のサンプル例

 

② 団体交渉の打切り

使用者において、労働組合の求める質問に対して、適切な資料を提示するなど、誠実に回答し、交渉を進めたにも関わらず、合意に至らなかった場合には、団体交渉を打ち切ることも可能です。

もっとも、どの程度の回数や頻度を重ねれば打ち切りをしてよいという形式的な基準はありません。

万が一打ち切りの判断を誤ってしまうと、不当労働行為となってしまう可能性がありますので、打ち切りの判断をする際には、必ず団体交渉に詳しい弁護士に相談をしましょう。

 

10.団体交渉の打切り後に発生する問題

以下では、団体交渉の打切り後に発生する問題について解説します。

 

10−1.労働審判

労働審判は、労働審判官(裁判官)1名と労働審判員2名で組織する労働審判委員会が原則として3回以内の期日で審理を終えることになっているため、迅速な解決が期待できる非公開の手続です。

団体交渉が決裂した場合、労働組合が早期解決を望んで労働審判を提起する可能性があります。

労働審判では、原則として申立てがされた日から40日以内の日に第1回の期日を指定し、当事者双方を呼び出す運用のため、使用者は迅速に対応する必要があります。

 

10−2.訴訟

団体交渉が決裂した場合、労働組合が通常訴訟を提起することもよくあります。

通常訴訟は、労働審判と異なり、期日の回数に制限はなく、公開の手続です。団体交渉が決裂した場合、労働組合は、使用者の対応に不満を持っていることがほとんどですので、公開の手続きで判断を求めたいという意向を持っていることが多いです。

 

10−3.紛争調整委員会によるあっせん手続

紛争当事者の間に、公平・中立な第三者として労働問題の専門家が入り、双方の主張の要点を確かめ、調整を行い、話し合いを促進することにより、紛争の解決を図る制度です。

もっとも、使用者に出席義務がないため、紛争解決の手段としては、十分ではありません。

 

10−4.街宣活動

団体交渉中でも、街宣活動が実施されることはありますが、打ち切り後には街宣活動が熾烈化する可能性が高まります。

就業時間外に使用者の施設・事業所の外で行われるような街宣活動について、団体交渉権や表現の自由によって保障され行為であり、原則として正当性が認められます。また、ビラの配布なども行われる可能性がありますが、ビラの配布についても、団体交渉権や表現の自由の観点から、広く正当性が認められています。

そのため、街宣活動もビラの配布を妨害したり、これらの行為を理由に従業員である組合員を処分することは不当労働行為に該当する可能性があります。

もっとも、街宣活動もビラの配布も、一定の限界を超えると、違法になることもありますので、その態様がひどい場合には、弁護士に相談し対応を検討するようにしましょう。

 

11.当日までの準備と対策ポイント

団体交渉の日が決まったら、その日までしっかり準備をする必要があります。

以下では、団体交渉当日までの準備と対策のポイントについて解説します。

 

11−1.要望書・要望事項の精査

使用者は、団体交渉当日までに、要望事項の内容を正確に把握し、これに対する回答を検討する必要があります。要望内容が正確に記載されていなかったり、不明確であったりする場合には、労働組合に要望事項を明確にするように求める必要があります。要望事項を正確に把握しなければ、回答の検討のしようがないからです。

要望事項を求める際には書面で求め、また労働組合に対しても回答は書面でするよう求めましょう。このようなやり取りをしっかりと書面で残すことにより、「要望事項の内容がわからなかったから回答を準備できなかったのだ」という主張をすることができ、「不誠実団交だ」という労働組合側の指摘に対して適切な反論ができるようになります。

 

11−2.法人としての回答の検討

要望事項の内容が把握できれば、使用者としてどのような回答をするか、その回答の説明としてどのような情報や資料を開示するかを検討しましょう。

説明の内容や資料の開示が不十分であれば、不誠実団交と評価される可能性がありますので、回答を検討する際には、必ず団体交渉に詳しい弁護士に相談するようにしましょう。

 

12.団体交渉は弁護士に必ず相談しましょう!

団体交渉では、不当労働行為という強い法的な規制があるため、法的な知識・経験が非常に重要になります。また、団体交渉という法律事件については、弁護士しか代理人になることができません。

そのため、団体交渉については、必ず弁護士に相談するようにしましょう。

 

12−1.団体交渉を弁護士に相談すべき理由

団体交渉の難しさや、不当労働行為であるとの認定を受けずに、交渉の主導権を握り、自社の利益を確保するための交渉をしなければならない点にあります。

そのため、何が不当労働行為に該当するかを正確に把握しておかなければ、団体交渉を適切に進めることが難しくなります。

このような観点から、団体交渉は、法律の専門家である弁護士に、相談する必要性が極めて高い分野です。

また、弁護士、弁護士法人以外の者は、報酬を得る目的で法律事件の代理をすることができません(弁護士法第72条本文)。

したがって、団体交渉に代理人として出席・発言できるのは、弁護士だけです。団体交渉では、代理人による発言が必要・効果的である場面が多くありますので、その意味でも団体交渉については、弁護士へ相談すべきです。

もっとも、日常の労務管理については、顧問の社労士が詳しく把握していることも多く、そのような場合には、使用者側に対して助言をする立場として、顧問の社労士も団体交渉に出席してもらうことが有効なことも多くあります。

 

▶参考:弁護士法第72条

(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)

第七十二条 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。

・参照元:「弁護士法」の条文はこちら

 

 

12−2.団体交渉で弁護士ができること

弁護士は、使用者の代理人として、団体交渉における主体的な発言・交渉をすることができます。

具体的には、法的な根拠に基づき使用者の主張を適切に労働組合に伝える、労働組合の主張が法的な根拠に基づかない場合にその旨を指摘する、その他議論の交通整理をする、などという対応が可能です。

このように多くの弁護士が同席する団体交渉では、弁護士が主体的に労働組合との交渉を担当することが一般的です。

 

12−3.弁護士に相談や同席など対応を依頼した際の費用

団体交渉で必要となる一般的な弁護士費用の目安は、着手金は30万円~50万円、報酬は30万円~50万円です。これに加え、団体交渉への同席を依頼する場合には、1回あたりの日当として5~10万円程度が必要になることが一般的です。

なお、団体交渉について弁護士に相談すべきメリットや理由、また弁護士費用に関してなどの詳細については以下の記事でも解説していますので、併せてご覧ください。

 

▶︎参考:団体交渉を弁護士に依頼すべきメリットや弁護士費用を解説

 

 

13.団体交渉に関して弁護士法人かなめの弁護士に相談したい方はこちら

介護業界に特化した弁護士法人かなめによるサポート内容のご案内!

弁護士法人かなめでは、介護業界に精通した弁護士が、以下のようなサポートを行っています。

 

  • (1)団体交渉の後方支援
  • (2)団体交渉への同席
  • (3)団体交渉後の紛争への対応
  • (4)労働判例研究会
  • (5)顧問弁護士サービス「かなめねっと」

 

以下で順に検討します。

 

13−1.団体交渉の後方支援

団体交渉は、不当労働行為にならないように配慮しつつ、労働組合に主導権を握らせないように対応する必要があり、会社の実情をも踏まえた迅速かつ臨機応変な対応が求められます。

そのため、団体交渉の申入れがあった場合には、すぐに弁護士の意見を仰いでおくことが重要なのです。早期に相談を受けられれば、申入書への初動、団体交渉の進め方等について適切な支援ができる可能性が高まります。

弁護士法人かなめでは、このような初期段階から相談を受け、初動からきめ細やかなサポートをすることで、団体交渉に対して適時に助言をすることができます。

 

13−2.団体交渉への同席

弁護士法人かなめでは、団体交渉へ同席し、労働組合との交渉をサポートしています。

不当労働行為をすることなく、主導権を握って労働組合と交渉するためには、正確な法的な知識と経験が必要になるため、弁護士のサポートは不可欠です。弁護士が団体交渉の場へ同席することにより、不当な要求を拒絶することができるだけでなく、法的な知識がないことを理由とするトラブルを避けることができます。

さらに、弁護士法人かなめは、介護事業に関する豊富な知識・ノウハウを十分に理解しているため、介護現場の実情を踏まえた交渉をすることができ、介護現場の実情を踏まえない要求や議論をはねのけることができます。

具体的には、弁護士法人かなめは、以下のような知識・ノウハウを有しています。

 

  • 介護保険制度及びこれに基づく介護保険サービスの内容
  • 各事業類型について人員基準に基づく人員配置、運営基準上必要とされていることや禁止されていること
  • 介護事業所における各職種の役割や立場
  • 他の介護事業者との比較
  • 介護事業者の運営実態
  • 利用者・入居者との接し方
  • 高齢者虐待防止法などの介護保険法の周辺法令の理解や運用

 

これらに基づき、労働組合側の求める労働条件が実態にあっていないこと、労働組合側の主張が不合理であり、実現可能性が乏しいことなどを具体的に主張することも可能です。

労働組合側は、必ずしも介護事業の実態に明るいわけではなく、介護事業の実態にそぐわない主張を排斥することにより、団体交渉において主導権を握ることが可能になります。また、労働組合との条件交渉にあたっても、介護現場の状況に即した交渉が可能になります。

 

13−3.団体交渉後の紛争への対応

弁護士法人かなめでは、「10.団体交渉の打切り後に発生する問題」において記載した団体交渉の打ち切り後の手続きについても、対応可能です。

団体交渉から関与している場合には、もちろんそのまま対応します。団体交渉の打ち切り後から相談をいただく場合には、一度打ち合わせをさせていただき、その状況に応じた支援をいたします。

 

13−4.団体交渉に関する相談方法と弁護士費用について

団体交渉に関して弁護士法人かなめに法律相談していただく際の相談方法と弁護士費用についてご案内します。

 

(1)ご相談方法

まずは、「弁護士との法律相談(有料)※顧問契約締結時は無料」をお問合わせフォームからお問い合わせください。

 

お問い合わせフォームはこちら

 

 

※法律相談の申込みは、お問合わせフォームからのみ受け付けております。

※法律相談は、「① 弁護士法人かなめにご来所頂いてのご相談」、又は、「② ZOOM面談によるご相談」に限らせて頂き、お電話でのご相談はお請けしておりませんので、予めご了承ください。

※顧問契約を締結していない方からの法律相談の回数は3回までとさせて頂いております。

※介護事業所の経営者側からのご相談に限らせて頂き、他業種の企業様、職員等一般の方からのご相談はお請けしておりませんので、予めご了承ください。

 

(2)弁護士との法律相談に必要な「弁護士費用」

  • 1回目:1万円(消費税別)/1時間
  • 2回目以降:2万円(消費税別)/1時間

※相談時間が1時間に満たない場合でも、1時間分の相談料を頂きます。

 

13−4.労働判例研究会

弁護士法人かなめでは、顧問先様を対象に、団体交渉をはじめとして、普段の労務管理の参考になる労働判例を取り上げ、わかりやすく解説する労働判例研究ゼミを不定期に開催しています。

ゼミの中では、参加者の皆様から生の声を聞きながらディスカッションをすることで、事業所に戻ってすぐに使える知識を提供しています。

 

13−5.顧問弁護士サービス「かなめねっと」

弁護士法人かなめでは、「団体交渉」ないし「労働判例研究会」のサービスの提供を総合的に行う顧問契約プラン「かなめねっと」を実施しています。

具体的には、トラブルに迅速に対応するためチャットワークを導入し、事業所内で何か問題が発生した場合には、速やかに弁護士へ相談できる関係性を構築しています。

そして、弁護士と介護事業所の関係者様でチャットグループを作り、日々の悩み事を、法的問題かどうかを選択せずにまずはご相談頂き、これにより迅速な対応が可能となっています。直接弁護士に相談できることで、事業所内での業務効率が上がり、情報共有にも役立っています。

顧問弁護士サービス「かなめねっと」について詳しくは、以下のサービスページをご覧ください。

 

▶︎参考:顧問弁護士サービス「かなめねっと」のサービス紹介はこちら

 

また以下の動画でも詳しく説明をしていますので、併せてご覧下さい。

 

▶︎【介護・保育事業の方、必見】チャットで弁護士と繋がろう!!介護保育事業の現場責任者がすぐに弁護士に相談できる「かなめねっと」の紹介動画

 

 

(1)顧問料

  • 顧問料:月額8万円(消費税別)から

※職員の方の人数、事業所の数、業務量により顧問料の金額は要相談とさせて頂いております。詳しくは、お問合せフォームまたはお電話からお問い合わせください。

 

14.まとめ

この記事では、団体交渉の法的な根拠や登場人物、進め方・対応方法について解説しました。

この記事でも何度も説明しましたが、団体交渉について、弁護士に相談しない場合のリスクは非常に大きく、他方で、団体交渉を弁護士に依頼することにより効果的に団体交渉を進める事ができるというメリットは非常に大きいはずです。

団体交渉の申し入れをされた場合には、本記事を参考に、すぐに弁護士に相談するようにしてください。

 

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法律家の視点から利用者様とのトラブルをはじめ、事業所で発生する様々なトラブルなどに対応します。 現場から直接、弁護士に相談できることで、社内調整や伝言ゲームが不要になり、業務効率がアップします!

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弁護士法人かなめでは、「介護業界に特化した弁護士」の集団として、介護業界に関するトラブルの解決を介護事業者様の立場から全力で取り組んで参りました。法律セミナーでは、実際に介護業界に特化した弁護士にしか話せない、経営や現場で役立つ「生の情報」をお届けしますので、是非、最新のセミナー開催情報をチェックしていただき、お気軽にご参加ください。

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介護特化型弁護士による「かなめ研修講師サービス」 介護特化型弁護士による「かなめ研修講師サービス」

弁護士法人かなめが運営している社会福祉法人・協会団体・自治体向けの介護特化型弁護士による研修講師サービス「かなめ研修講師サービス」です。顧問弁護士として、全国の介護事業所の顧問サポートによる豊富な実績と経験から実践的な現場主義の研修を実現します。

社会福祉法人の研修担当者様へは、「職員の指導、教育によるスキルアップ」「職員の悩みや職場の問題点の洗い出し」「コンプライアンスを強化したい」「組織内での意識の共有」などの目的として、協会団体・自治体の研修担当者様へは、「介護業界のコンプライアンス教育の実施」「介護業界のトレンド、最新事例など知識の共有をしたい」「各団体の所属法人に対して高品質な研修サービスを提供したい」などの目的として最適なサービスです。

主な研修テーマは、「カスタマーハラスメント研修」「各種ハラスメント研修」「高齢者虐待に関する研修」「BCP(事業継続計画)研修」「介護事故に関する研修」「運営指導(実地指導)に関する研修」「各種ヒヤリハット研修」「メンタルヘルスに関する研修」をはじめ、「課題に応じたオリジナル研修」まで、介護事業所が直面する様々な企業法務の問題についてのテーマに対応しております。会場またはオンラインでの研修にご対応しており、全国の社会福祉法人様をはじめ、協会団体・自治体様からご依頼いただいております。

現在、研修講師をお探しのの介護事業者様や協会団体・自治体様は、「かなめ研修講師サービス」のWebサイトを是非ご覧ください。

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この記事を書いた弁護士

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畑山 浩俊はたやま ひろとし

代表弁護士

出身大学:関西大学法学部法律学科卒業/東北大学法科大学院修了(法務博士)。
認知症であった祖父の介護や、企業側の立場で介護事業所の労務事件を担当した経験から、介護事業所での現場の悩みにすぐに対応できる介護事業に精通した弁護士となることを決意。現場に寄り添って問題解決をしていくことで、介護業界をより働きやすい環境にしていくことを目標に、「介護事業所向けのサポート実績日本一」を目指して、フットワークは軽く全国を飛び回る。
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米澤 晃よねざわ あきら

副代表弁護士

出身大学:同志社大学法学部法律学科卒業/神戸大学法科大学院卒業(法務博士)。
自称、日本で最も介護現場からの相談を受けている弁護士であり、介護現場の実情を踏まえたうえで、介護現場の多種多様な相談に迅速かつ丁寧に対応している。「働きやすい福祉の現場を、あたりまえ」をミッションに掲げ、日々、全国の介護事業者をサポートしている。

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