「異動命令に従わず、職場の人員配置を乱している職員がおり、その結果ほかの職員の正常な業務遂行に支障が出ている」
「業務マニュアルに従わず、自分勝手な方法で業務を行う職員がおり、再三注意指導しているが改善が見られない」
など、業務命令に従わない職員への対応に苦慮していることはありませんか。
事業所の円滑な業務の遂行には、職員同士の協力や連携などチームワークが重要であり、業務命令に従わない職員が1名でもいる場合、他の職員の業務負担が増えるだけではなく、職場環境が悪くなり、利用者への十分なケアやサービスが行き届かず、思わぬクレームや事故に繋がります。
また、少ない人数で運営している事業所などでは、異動や転属などの業務命令に従わない職員がいる場合、業務に必要な一定の人員を確保できず、事業所の正常な運営を妨げる可能性もあります。
他方、職員が業務命令に従わない理由が判然としないにも関わらず、その理由を確認しないなど適切なプロセスを経ず、解雇などの懲戒処分をすることは、処分後に「不当な処分を受けた」と訴えられる可能性もあります。
このようなリスクを回避し、業務命令に従わない職員の解雇を検討する際には、必ず事前に弁護士に相談したうえで、正しい手順を踏みながら対応することが肝要です。
この記事では、業務命令に従わない職員への対応について、業務命令の具体例や裁判例をもとに、注意指導から懲戒処分まで、具体的な対応方法について解説します。この記事を最後までお読みいただくことで、業務命令を拒否して従わない職員に対する適切な対応と処分に至るまでの正しいプロセスについて知ることができ、問題解決に向けて、動き出すことができます。
業務命令違反をする職員を減らし、職場環境の改善に役立てましょう。
この記事の目次
1.業務命令違反とは?

業務命令違反とは、職員が正当な理由なく、事業所や上司の業務上の命令に従わないことです。業務命令に従わない職員がいる場合、事業所の秩序が乱れるだけでなく、周りの職員の業務負担も増大し、職場環境が悪くなるため、早急な対応が必要です。
では、業務命令とは何か、業務命令に違反するというのはどういうことかを具体的に見ていきましょう。
1−1.業務命令とは何か?
業務命令とは「業務遂行を目的に、使用者が労働者に対して発する命令」のことです。
業務命令は、就業規則に定め、労働者に周知した、合理的な規定に基づく相当な命令である限り、労働契約規律効(労働契約法第7条)によって、労働者はその命令に従う義務を有すると考えられています。
▶参考:労働契約法7条
第七条 労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。
・参照:「労働契約法」の条文
業務命令は、就業規則に定めた「業務遂行に必要な命令」であり、その種類は「自宅待機命令」「出勤命令」「残業命令」などの業務上必要なものから「研修命令」「転勤命令」「異動命令」などの人事権に関わるものなど、多岐にわたります。加えて、事業所において、利用者に対するケアの手順や方法を命じることも業務命令です。
また、業務命令を発する際には、その命令の必要性や具体的な期間や期限を明記した文書を発し、職員に説明することが重要です。
1−2.業務命令違反とは何か?
業務命令違反とは「会社の出した適法な業務命令に、正当な理由がないにもかかわらず従わないこと」です。
業務命令は、事業所の円滑な運営のために必要な指揮命令であり、事業所には業務命令を出す権限があり、職員はそれに従う義務があります。事業所が出した業務命令に違反する職員がいることで、事業所内の企業秩序が乱れ、円滑な業務遂行に支障が出るため、早急に対応が必要です。
一方で、誤った対応や十分なプロセスを踏まずに当該職員に懲戒処分を行った場合、処分後に「不当だった」と訴えられる可能性があるため、業務命令に違反する職員への対応は、十分に準備したうえで適切な対応が必要です。
詳しくは「4.業務命令違反で解雇はできる?業務命令に従わない職員への対応」で説明します。
2.業務命令違反の具体例

業務命令違反でよくある例として、次のようなものがあります。
- 残業命令に対する拒否
- 異動・配置転換命令に対する拒否
- 転勤命令に対する拒否
- 出張命令に対する拒否
- 始末書提出命令に対する拒否
- その他の業務指示に対する拒否
詳しく見ていきましょう。
2−1.残業の拒否
当日中に終わらせる必要のある業務であるにもかかわらず、「定時なので帰りたい」「明日すればいい」等の理由で残業を拒否し、他の職員が肩代わりして残業するような状況がある場合、事業所から担当職員に、業務命令として「残業」を命じる必要があります。
業務命令として「残業」を命じる場合は、「当日中に残業することの必要性」を書面に明記し、業務命令に従うように職員に説明する方法が適切です。
残業については、労働基準法により「法定労働時間は1日8時間・1週間40時間」という規制があります。一方で「三六協定」により、あらかじめ、事業所と職員の間で書面による協定(残業に関する約束事)を締結して管轄の労働基準監督署長に届け出ることにより、法定労働時間を超えて労働させること、または法定休日に労働をさせることができます。
2−2.異動・配置転換の拒否
異動とは、職員の地位の昇格や降格、配置転換、勤務先の変更などの転勤を含む人事異動のことです。配置転換は人事異動の一種で、同じ事業所内で、所属部署を変更することを一般的に指します。
適材適所を目的とした異動命令や、事業所内の人員の充足のための配置転換も業務命令の一つです。いずれの業務命令も、事業所の円滑な運営や、利用者への十分なサービスを行うために、必要な業務命令であり、職員が正当な理由なく、それに従わない場合、事業所の運営に支障が出るだけでなく、他の職員へも悪影響を及ぼす可能性があります。
一方で、事業所で勤務する職員にとって、異動や配置転換によって勤務先や業務内容が変わることは、精神的にも肉体的にも負担がかかり、私生活に影響する可能性があるのも事実です。
職員との不要なトラブルを避けるため、就業規則や雇用契約書に、人事権として事業所が職員の職務内容や勤務地を決定する権限(配転命令権)があることを明示しておくことが有効です。
2−3.転勤の拒否
転勤は、事業所内の配置転換とは異なり、勤務地の変更を命じる業務命令の一種であり、適正な人事配置や、長期的な人事戦略の一環として行われます。労働者が転勤命令を拒否した場合、今後の人事配置に大きな支障をきたすだけではなく、企業秩序に対する影響が甚大であるため、企業にとって大きな不利益となります。そのため、労働者が転勤命令に従わない場合は、懲戒解雇など、重い懲戒処分がされるケースがほとんどです。
一方で、転勤は、勤務地の変更がある点で、単なる配置転換に比べると、職員の私生活への影響は大きくなります。令和6年4月からは、労働条件明示のルールが変更となり、労働条件通知書で、就業場所・業務の変更の範囲を記載しなければならなくなりましたので、就業規則や雇用契約書・労働条件通知書等には、配置転換権を明示し、職員へも転勤の可能性があることを明示しておくようにしましょう。
▶参考:労働条件明示のルールについては、以下の頁でも詳しく説明されていますので、併せてご覧ください。
転勤命令に従わない従業員を解雇した件について、企業側に「権利の濫用はなかった」と裁判所が認めた判例を紹介します。本件では、使用者と労働者との間に労働契約締結時に職種・勤務地限定合意がなかったことから、使用者に配転命令権の裁量を認めたうえで、配転命令権の行使に権利の濫用はなかったと結論付けています。
▶参考:最高裁 昭和61年7月14日判決
【事案の概要】
Y社は、塗料等の製造販売会社であり、XはYに営業職として勤務する社員である。Y社の就業規則には業務の都合上、社員に異動を命ずることがある旨の規定があり、実態として営業担当者等の出向や転勤等も頻繁に行われていた。Xは、Y社との労働契約締結時に特段の勤務地限定の合意もなく、入社以来、営業関係に携わり出向・転勤を経験していた。
Y社は神戸営業所勤務のXに対して広島営業所への転勤を内示したが、Xは家庭事情を理由に転居を伴う転勤に応じられないとして拒否した。
再度、Y社はXを説得したが応じなかったため、名古屋営業所への転勤を内示したが、Xはこれも家庭事情を理由に再び拒否した。そこで、Y社はXの同意を得ることなく転勤命令を発令したところ、Xはこれに応じなかったため、懲戒事由に該当するとしてXを懲戒解雇した。Xは、本件懲戒解雇が無効であるとして、従業員たる地位確認及び未払賃金等の支払を求めて提訴した。
【裁判所の判断】
裁判所は「使用者は業務上の必要に応じ、その裁量により労働者の勤務場所を決定することができるものというべきであるが、転勤、特に転居を伴う転勤は、一般に、労働者の生活関係に少なからぬ影響を与えずにはおかないから、使用者の転勤命令権は無制約に行使することができるものではなく、これを濫用することの許されないことはいうまでもないところ、当該転勤命令につき業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であつても、当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもつてなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情の存する場合でない限りは、当該転勤命令は権利の濫用になるものではないというべきである。右の業務上の必要性についても、当該転勤先への異動が余人をもつては容易に替え難いといつた高度の必要性に限定することは相当でなく、労働力の適正配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤務意欲の高揚、業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは、業務上の必要性の存在を肯定すべきである。」とし懲戒権の濫用は認められないとした。
【弁護士 畑山 浩俊からのコメント】
近年では、「限定正社員」とよばれる正社員と非正規社員の中間的な立ち位置で勤務する労働者も増えています。限定正社員は、契約期間の定めはありませんが、職種、勤務地、勤務時間を限定するといった内容で雇用契約を結びます。
企業側にとっては、優秀な人材の確保や定着を促進できるというメリットがあり、労働者側にとっては転勤などの急な環境の変化が抑えられ、私生活への影響を少なくするメリットがあります。
上記のような「限定正社員」の場合は、企業の異動に関する人事権行使に制約がある場合がありますので、注意が必要です。ただし、労働者から個別に同意を得れば、限定を超えて異動させることは可能です。
2−4.出張の拒否
出張は、長期的な勤務地の変更を命令する転勤とは異なり一時的な勤務場所の変更を指示する業務命令です。出張の拒否は、転勤の拒否に比べると、企業に与える不利益は小さいものと考えられるため、特別な場合を除いて、懲戒処分に至らないか、至るとしてもその程度は軽いものになるケースが多いです。
ただし、特別な資格や技能を取得するなど職員の今後の労務提供に重大な支障が発生するような研修参加のための出張命令の拒否や、事業所の経営再建など、経営上の判断に重大にかかわるような出張命令の拒否については、事業所に与える不利益が大きいため、重い懲戒処分などを検討する場合もあります。
2−5.出向の拒否
出向とは、労働者が出向元(元の雇用主)に在籍したまま、出向先(他の企業や事業所)で一定期間労務を提供する人事異動の一形態です。出向には主に「在籍出向」と「転籍出向」の2種類あります。
「在籍出向」は職員が元々、雇用契約を結んだ事業所に在籍したまま、他の事業所の職員として長期間にわたり、他事業所の業務に従事することを言います。「転籍出向」は職員が元々勤務していた事業所との雇用契約を終了し、出向先との間で新たに雇用契約を締結することです。
転勤、異動との大きな違いは、たんに勤務場所や業務の内容の変更だけでなく、職員の労務提供に対する指揮命令の主体が変わる点にあります。
そのため、出向命令については、職員の同意が必要であるという考えが一般的です。もっとも、この同意は包括的な同意で足りるとされており、最高裁は、就業規則に出向を命じる旨の規定があり、労働協約に出向労働者の利益に配慮した具体的な規定が設けられているケースについて、労働者の個別的同意なしに出向命令を発することができると判断しています。
出向の態様は、グループ企業を一つの集団としてまとめるための「統合型」、職員の育成を強化するための「強化型」、単一の事業所内ではできない研修などを目的とした「訓練型」、若手や中堅の昇進を目的として中高年を他の企業に異動する手段としての「排出型」など様々です。いずれも、企業にとっての従業員の育成や人材の確保など企業力強化のために必要な業務命令と考えられます。
出向命令の拒否をした場合も、転勤命令拒否の場合と同様に、懲戒解雇などの重い懲戒処分をするのが一般的です。その理由は、出向命令拒否による企業側の不利益が大きいこともありますが、ほかにも、出向命令拒否による懲戒処分が減給や出勤停止などの軽いものであった場合に、当該職員が「出向命令を拒否して懲戒処分を受けたほうがいい(自分にとっての不利益が少ない)」と考え、業務命令よりも懲戒処分を選択することを防ぐためです。
事業所は、出向命令権の効力を適切に保持できるよう、出向命令を拒否した場合の懲戒処分について、就業規則で定めておく必要があります。
2−6.始末書の提出拒否
始末書には、2通りの意味合いがあります。
1つ目は、懲戒事由となる非違行為を行った職員に対し、譴責処分等の懲戒処分とし、事業所が当該職員に提出を命じる書面です。懲戒事由となった非違行為に対する反省と、再発防止を目的とした意思を表明する内容の文書で、当該職員の将来を戒めるために提出を促します。
2つ目は、事業所が職員に対し、業務上必要な事実関係の報告などを書面で提出させるよう指示し提出させるものです。「顛末書」や「報告書」といった表題で提出を求めることもあります。
懲戒処分による始末書提出とは異なり、業務上必要な報告を文書で、事業所が職員に提出するよう求める業務命令の一種であり、職員が提出を拒否した場合、業務命令違反として懲戒事由となり得ます。なお、その報告事項の重要性や、職員が提出を拒否した理由によって、懲戒解雇など重い懲戒処分を検討する場合もあります。
2−7.その他業務指示に対する拒否
そのほかにも、業務上の命令を職員が拒否するケースがあります。
例えば、勤務先がデパートやスーパーなど多数の社員や来店客が予想されるような場所の場合、社員の危険物の持ち込みを防止し、店外への商品の持ち出しを防止するため、所持品検査を業務命令として実施することがあります。一方で、職員にはプライバシーがあるため、所持品検査について、就業規則や個別の労働契約にも定めておくことが妥当であり、検査を行う際は合理的な理由に基づき、適切な方法によるものであることが前提です。
また、仮に合理的な理由に基づいた適切な方法による検査であったとしても、職場秩序へ大きな影響を与えた等の特段の事情を除いて、重い懲戒処分は避けるべきと考えられています。
また、近年ではパソコンなどのITツールの導入により、上司が部下に、後任者が前任者に、パスワードの開示命令をする場合があります。パスワードを開示しないことは、業務の遂行に支障が出るため、減給や出勤停止などの懲戒処分をすることは可能です。特に介護事業所は、利用者に関する情報や請求に関する情報をITツールで管理していることがあり、これらの情報にアクセスできなければ、事業所に甚大な影響が生じてしまいます。
また、意図的に業務を妨害しようとして、重大な支障が出て、事業所にも大きな損害が発生するような場合、降格や懲戒解雇など、重い懲戒処分を検討する場合もあり得ます。
3.業務命令は正当な理由があれば拒否できる?

正当な理由がある場合、業務命令を拒否することが可能です。また、事業所は正当な理由に基づく業務命令違反に対し、懲戒処分や解雇をすることは出来ません。
では、業務命令を拒否できる正当な理由とはどういうものでしょうか。
3−1.業務命令が拒否できる場合とは?
業務命令とは、「業務遂行を目的に、使用者が労働者に対して発する命令」のことです。労働者は、労働契約規律効(労働契約法第7条)によって、使用者の指揮命令に従って業務を行う義務を有すると考えられています。
一方で、業務命令の内容自体が労働契約から逸脱していたり、労働者の安全衛生上違法と判断される場合など、業務命令を拒否する正当な理由がある場合には、職員が業務命令を拒否することが可能なケースもあります。
3−2.業務命令が拒否できる場合の具体例
業務命令を拒否できる場合の具体例を2パターンに分けて確認します。
(1)業務命令自体が違法とされる場合
業務命令自体が違法と判断される場合は、次のような場合です。
●業務命令が業務遂行上必要性がないものである場合
業務命令の内容自体が、職員への嫌がらせやパワハラを意図しているような場合、業務命令自体は違法と判断されます。
▶参考:東京地裁 平成28年1月14日判決 大王製紙事件
【事案】
原告Xは、30年近く雇用関係にあった被告会社Yの不正会計やマネーロンダリングについて内部告発したことにより、被告会社Yから降格処分(懲戒処分)及び僻地への転属命令(業務命令)をされた。また、転属命令を拒否したことにより、懲戒解雇されたため、懲戒解雇は無効であると訴えた。
【判決】
裁判所は、原告Xが行った内部告発により、被告会社Yの企業の名誉を著しく傷つけられ、会社の機密情報が多く漏洩したことなどから、被告会社Yが原告Xにした降格処分は適切であったと判断した。一方で、出向命令に対する業務命令拒否に対する懲戒処分については、出向命令自体に業務上の必要性があったとはいえず、内部告発した原告Xへの嫌がらせであるため出向命令自体が無効であると判断し、懲戒解雇については無効と判断した。
●法律や就業規則違反となる業務命令の場合
賄賂や不法投棄、情報漏洩などの法律や規則に違反するような業務命令は、事業所に不利益をもたらすだけでなく、社会通念上相当な命令ではないため、違法です。
●職員の権利侵害となるような業務命令の場合
健康診断や体調不良時の受診命令については、職員を安全、健康な状態で業務に従事させるために必要な業務命令ですが、一方で、労務管理上の目的を超えた不必要な個人のプライベートな情報(持病や宗教、家族内のトラブルなど)を事業所に提供させるような業務命令は、違法であると判断される可能性があります。
●職員の安全衛生が保たれない業務命令の場合
職員の安全衛生が保たれない業務命令とは、工事現場や工場内などでヘルメットや安全帯などの整備がされていないにも関わらず作業を命じるような場合や、ハラスメント問題が解決していないにもかかわらず加害者と同じ部署や職場に異動させるような転属命令などです。
●残業命令や転勤命令などに対し育児介護休業法の措置を求めた場合
育児介護休業法では、育児や介護を行う労働者が安心して休業を取得し、職場復帰や雇用継続ができるよう、休業取得権・不利益取扱い禁止・雇用環境整備等の幅広い権利を保障しています。事業主はこれらの権利を尊重し、適切な対応を行う義務があります。
職員に育児や介護の必要がある場合で、当該職員にとって、過重な残業命令や、育児や介護と両立が不可能な転勤命令など、職員に大きな不利益となる業務命令の場合、違法と判断される可能性があります。
▶参考:札幌高裁 平成21年3月26日判決
【事案】
NTT東日本において、北海道から東京への転勤を命じられた5名の従業員が転勤命令は違法であるとNTT東日本に対し、精神的苦痛を受けたとして損害賠償を求めた事例。
【裁判所の判断】
裁判所は、5名のうち4名については、転勤命令は違法ではないと判断した一方で、北海道で重度の視力障害がある父親と、膝関節に障害がある母親を介護していた従業員1名については、転勤により受ける不利益の程度が著しく大きかったこと、転居を伴う転勤が企業にとって不可欠であったとは認められないとして、東京への転勤命令は違法と判断し、企業側に150万円の損害賠償を命じた。
(2)職員側に業務命令を拒否する正当な理由がある場合
業務命令は「業務遂行を目的に、使用者が労働者に対して発する命令」で、就業規則や労働契約で定めた合理的な範囲内で発せられる必要があります。また、発せられた業務命令は正当な理由なく拒否することはできません。
ただし、職員側に本人の病気など、業務命令に従うことができない正当な理由がある場合は、拒否することが可能です。
一方で、本人の病気や怪我を理由に業務命令を拒否された場合、安全配慮義務の観点からも、事業所は職員に業務命令にて、受診命令を発出するほか、医師の診断書など客観的な証拠の提出を求めるべきです。
4.業務命令違反で解雇はできる?業務命令に従わない職員への対応

業務命令違反をする職員を解雇することは可能です。ただし、懲戒解雇や普通解雇を検討する場合、適切なプロセスを履践していることが重要になります。
適切なプロセスとは、業務命令違反があった場合に適切な方法・タイミングで注意指導を行い、注意指導を繰り返したにもかかわらず状況が変わらない場合には解雇以外の懲戒処分をし、それでも改善が見られない場合には、場合によっては退職勧奨を試みる、といった流れのことです。
また、退職勧奨を行ったにもかかわらず、本人の意思による退職に至らなかった場合には、最終的に解雇を検討することになります。
4−1.業務命令違反をする職員への対応はプロセスが重要
業務命令違反をした職員に対応する場合、適切なプロセスを履践し、慎重に判断することが不可欠です。適切なプロセスを踏まずに命令を一方的に続けた場合、パワハラで訴えられたり、適切な注意指導をせずに拙速に懲戒処分や解雇をした場合、処分を受けた職員から「不当な処分だった」と訴えられる可能性もあります。
業務命令違反をする職員との間に、不要なトラブルを生まないためにも、弁護士などの専門家に相談し、アドバイスをもらいつつ、適切なプロセスを履践することを心がけましょう。
4−2.業務命令違反をする職員への対応方法
業務命令違反をする職員への対応は次のような流れで行います。
- (1)注意指導
- (2)解雇以外の懲戒処分
- (3)退職勧奨
- (4)解雇
以下で順に解説していきます。
(1)注意指導
業務命令に違反する職員への最初の対応として、まずは、適切な注意指導が必要です。
適切な注意指導を行うためには、裁判所が着目していると思われる「注意指導とパワハラを区別する主なポイント」に気を付けましょう。
- 業務上の必要性があるか
- 見せしめ的な注意指導になっていないか
- 長時間の注意指導となっていないか
- 業務命令違反に関する注意指導ではなく人格非難になっていないか
上記の点に注意しながら、注意指導を行います。注意指導を行う場合は、可能な限り文書(メールや書面など)で記録に残る形で行います。繰り返し注意指導をしたにもかかわらず改善が見られない場合、懲戒処分や退職勧奨を検討します。いずれの対応も適切なタイミングで正しいプロセスを踏むことが肝要です。
一般的に、懲戒処分を行う場合は、注意指導を行った際の文書(メール、書面など)や指導状況の経緯を記録した書面など、可能な限り客観的な証拠となる形(録音、録画など)で残しておくことが非常に重要となります。
注意指導を行う際は、業務命令違反があった時点からあまり時間を空けずに行いましょう。ただし、懲戒処分の検討を行う際には、どのような事案が業務命令違反となったかや注意指導の頻度と方法などの記録があるほうがいいため、録画や録音などがない場合も、メモなどで時系列にまとめておくことが重要です。
▶参考:注意指導に関しての正しい手順や注意点などは、以下の記事で詳しく解説していますのでご参照ください。
(2)解雇以外の懲戒処分
繰り返し注意指導を行っているにも関わらず、状況が改善されない場合、懲戒処分を検討します。懲戒処分の検討にあたっては、就業規則に懲戒処分や懲戒事由が規定されていることが必要です。また、これまで行った注意指導のプロセスが適切なものであったことが大前提となります。
▶参考:懲戒処分の進め方や注意点など、全般的な解説はこちらをご参照ください。

懲戒処分する際には、軽度の処分から検討しましょう。
懲戒処分には軽度なもの(戒告・譴責)から職員の生活に直接影響を及ぼす厳格なもの(減給・出勤停止・降格・諭旨解雇・懲戒解雇)まであります。
一般的には、まず戒告処分から降格処分までを実施し、その後、退職勧奨を行ったうえで、状況が改善されない場合、諭旨解雇や懲戒解雇などの職員の「従業員としての地位(会社で働く権利)」を剥奪する処分を検討します。
1.戒告・譴責
戒告・譴責は、職員に問題行動があった場合に、懲戒処分という形式で改めて注意し、場合によっては始末書を提出させる処分です。通常は、懲戒処分の性質上、書面で実施します。業務命令違反に対する注意指導によって、職員が業務命令に、なおも従わない場合には、戒告や譴責を検討しましょう。
▶参考:戒告については、以下の記事でも解説していますので、併せてご覧ください。
2.減給処分
減給処分は文字通り、給与を一部減額する処分です。減給については、労働基準法91条による制限があり、具体的には、減給処分の限度は、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が一賃金支払いにおける賃金の総額の10分の1を超えてはならないことになっています。
▶参考:減給については、以下の記事でも解説していますので、併せてご覧ください。
3.出勤停止
出勤停止は労働者の労務提供の権利を剥奪し、労務提供されない期間の給与を支払わない処分です。出勤停止期間中は、労務提供がないため、事業所はその期間の給与を職員に支払う必要はありません(ノーワークノーペイの原則)。
給与の減額は出勤停止期間に相当する部分だけにとどまりますが、減給処分のように、給与の減額幅に法令上の制限はありません。ただし、出勤停止期間が長期間にわたる場合、公序良俗の観点から、違法となる可能性もあるため、期間の決定には慎重な判断が必要です。また、就業規則上に日数の制限があることが多いので注意しましょう。
▶参考:出勤停止については、以下の記事でも解説していますので、併せてご覧ください。
4.降格処分
さらに一歩踏み込んだ処分として、降格処分があります。これは、職員にこれまで与えられていた役職や資格、職務上の権利を剥奪する処分であり、役職・資格の剥奪に伴い給与も減額される可能性がある処分です。
▶参考:降格については、以下の記事でも解説していますので、併せてご覧ください。
(3)退職勧奨
業務命令に従わず、再三の注意指導や懲戒処分をしても、状況が改善されない場合には、職場環境が著しく乱されるだけでなく、他の職員の業務負担も増え、事業所全体にとって悪影響です。
退職勧奨は、懲戒処分である諭旨解雇や懲戒解雇とは異なり、強制力のある手続きではありませんが、職員に自主的な退職を促し、職員の納得を得られた場合、職員の意思により退職手続きに進む手段です。
退職勧奨を行う際には、事業所と職員の双方で協議し、職員の自主的な意思により、退職手続きを行うため、退職時のさまざまな条件の取り決めができるなど、うまく利用することができれば、当該職員・事業所・他の職員の三者にとって非常に有効な手段となります。
ただし、退職勧奨する際も、正しいプロセスを踏まなければ「自主退職するよう強要された」「パワハラがあった」などと後から職員に訴えられるケースも少なくありません。十分な準備と慎重な判断をするためにも、退職勧奨の際には、弁護士などの専門家からのアドバイスを受けることをお勧めいたします。
▶参考:退職勧奨の正しい進め方や、退職勧奨が違法となる場合はどんなときか、また退職勧奨を進めるにあたって弁護士に相談すべき理由についてなど、以下の記事で詳しく解説していますので、参考にしてください。
また、弁護士法人かなめの「公式YouTubeチャンネル」の「問題行動を繰り返す職員に退職勧奨をする方法を解説」の動画でも詳しく説明していますので、合わせてご覧ください。
(4)解雇
解雇には、以下の二種類あります。
- 普通解雇
- 懲戒処分としての「諭旨解雇」「懲戒解雇」
業務命令に従わず、再三の注意指導によっても状況が改善されない場合、職員を解雇するという方法が考えられます。
普通解雇をするのか、懲戒処分としての解雇を選択するのかは、具体的な事情によりますが、いずれの解雇の有効要件を満たすのであれば、いずれの解雇も実施すべきです。
普通解雇及び懲戒解雇のいずれも行うべき理由は「リスク回避」の観点からです。
懲戒解雇のみを行い、当該職員から「処分が不当である」と裁判所に訴えられ、裁判所が「懲戒解雇無効」と判断した場合、解雇日までの給与の支払い(バックペイ)が発生するだけでなく、当該職員の労働者としての立場も確認されるため、問題職員が職場に復帰する可能性もあります。
一方で懲戒解雇とともに普通解雇も実施した場合、万が一、懲戒解雇が無効と判断された場合も、普通解雇が有効と判断されれば、当該職員の職場復帰を回避できるほか、バックペイのリスクも防げます。ただし、懲戒解雇の意思表示をしただけでは、普通解雇の意思表示を行ったとはみなされませんので、事業所側は、普通解雇の意思表示も別途行うことに注意します。
また、懲戒解雇同様、普通解雇についても就業規則の条文に定めている必要がありますので、解雇事由を条文上で確認し、実施することが肝要です。
弁護士法人かなめの「公式YouTubeチャンネル」の「懲戒解雇は普通解雇とセットで実施すべき!事例と注意点を弁護士が解説!」の動画でも詳しく説明していますので、合わせてご覧ください。
以下、それぞれの解雇の概要を説明します。
1.普通解雇
普通解雇とは「従業員が労働契約の本旨に従った労務を提供しない事、つまり、債務不履行を理由として、使用者側が一方的な意思表示によって労働契約を解約すること」を言います。
普通解雇を適切に行うためには「客観的に合理的な理由があり、解雇することが社会通念上相当であると認められる」必要があり、解雇後に紛争などトラブルに発展しないためには、就業規則に具体的にどういった行為が普通解雇に該当するか規定しておくことが重要です。
普通解雇をする場合、30日前までに解雇予告通知をし、その後、当該職員から求めがあった場合には、解雇理由証明書を発行するなど事務手続きが必要です。また、退職金支給についても検討する必要があります。
普通解雇後に紛争にならないためには相応の準備が必要ですので、詳細な内容を説明した以下の記事を参考に確認しておきましょう。
2.懲戒処分としての解雇
懲戒解雇は、懲戒処分の中で最も重い処分です。
懲戒処分とは、「企業秩序を乱すような行為や就業規則に違反する服務規律違反などがあった際に職員に課す制裁罰」であり、普通解雇とは異なり「就業規則に定めている」ことが、処分を行うことのできる条件となります。
懲戒解雇をする場合、その他の懲戒処分同様、以下の通り注意するべき点が多くあります。
- 懲戒処分をするに足る事由があるか(就業規則に定めており、かつ周知されているか)
- 丁寧な注意指導を繰り返し行ってきたか
- 客観的な証拠はそろっているか
- 軽めの懲戒処分や退職勧奨など、懲戒解雇に至るまでのプロセスを適切に行ったか
少しでも不安な場合は、弁護士など専門家と相談しつつ進めることをお勧めします。また、下記の記事でも懲戒解雇について、詳しく説明していますので、参考にしてください。
5.業務命令違反に関する裁判例
ここでは、職員の業務命令違反をした職員を解雇した場合に、有効と判断された裁判例、また無効と判断された裁判例について紹介します。
5−1.業務命令違反の職員の解雇が有効となった事例
業務命令違反をする職員に対してした懲戒解雇が有効であると認められた事例を紹介します。
本件では、業務命令違反を懲戒事由として出勤停止処分がされたにも関わらず、会社の業務命令に従わず客先の指定する場所に定められた日数出勤しなかった従業員に対し、解雇予告を行ったうえ、解雇した事案で、裁判所は「解雇権の濫用とはいえない」と判断しています。
▶参考:東京地裁 平成16年1月14日判決
【事案の概要】
原告はコンピューターソフトの設計、開発等を行う被告会社で勤務する従業員である。
被告会社では従業員を客先に派遣し、派遣された客先の現場の指示命令に従うという業務体系であったところ、原告が派遣された客先の指示に従わなかったため、被告会社は原告の行為は就業規則の定めた懲戒事由「業務上の指揮命令に違反したとき」に該当するため、原告を出勤停止処分とした。
また、原告は別の業務命令書の指示においても、自身の判断で上長の許可なく顧客との契約を無視して作業を終了させたため、被告会社は事前に対策を講じられず、顧客との契約が不履行となり多大な損害が生じた。
さらに、別の派遣先に対しても、原告は自身の体調不良を理由に作業を中止したり、派遣先での異臭などを理由に作業を中止したため、被告会社は原告に解雇通知書を送付し、原告の一連の行為は故意に業務の遂行を妨げる行為であり、業務上の指揮命令にも違反しているため、業務状況が著しく不良で就業に適しないと認められるため、即時解雇した。
原告は、被告が主張する解雇理由となる事実は存在せず、本件解雇は就業規則に基づかない解雇権の濫用であるため、無効であると主張し、地位確認と未払い給与の支払いを求めた事案。
【裁判所の判断】
裁判所は、業務命令違反を理由とする出勤停止処分を受けて間もない時期に、会社の業務命令に従わず、顧客が指定する場所に2日しか出勤しなかった労働者に対する解雇につき、業務状況不良及び就業不適格という就業規則の解雇事由が認められるとされ、その解雇はやむをえない措置として是認でき、合理的理由があるというべきであり、解雇権を濫用したということはできないとした。
次に、裁判所が「懲戒解雇を違法」と判断した一方で、諭旨解雇以前に行っていた「普通解雇」については有効と認めた事案もあります。本件は、諭旨解雇の際に退職願を提出しなかったため、その後、懲戒解雇処分となった職員が「懲戒解雇は懲戒権の濫用であった」と会社を訴えた事案です。
▶参考:東京地裁 令和2年2月19日判決
【事案】
入社後、配属された部署において顧客対応がうまくいかずに声を荒げるなどのトラブルや、上司や先輩社員からの注意指導に対し、感情を高ぶらせるなどし、顧客と接点のない部署へ移動したにもかかわらず同僚職員や上司との間でのトラブルが継続していた原告(ここまでに懲戒処分はなし)が、さらに異動した先の部署で気に入らない業務を断ったり、座席のレイアウト変更を理由に、自傷行為などを行うふりをして、上司や同僚に不安を与え、社内秩序を乱したため、諭旨解雇(のちに懲戒解雇)となったが、原告が被告会社のおこなった処分が「懲戒権の濫用であり懲戒処分は無効。また、処分により精神的苦痛を受けたため損害賠償を請求する」と訴えた事案。
【裁判所の判断】
裁判所は、本件諭旨解雇以前にも、懲戒事由にあたる業務命令違反や問題行動があったにもかかわらず、懲戒処分はされておらず、本件諭旨解雇が初めての懲戒処分であることは、懲戒権の濫用であるとして、諭旨解雇及びその後の懲戒解雇を労働契約法15条により無効と判断した。
一方で、入社後配属された複数の部署においてトラブルを起こし、最終的に職場でカッターの刃を持ち出すなどの事件を起こしたことからすれば、被告会社としては、職場秩序を著しく乱した原告を職場にそのまま配置しておくことはできないと考えるのはむしろ当然である。また、それまでにも、被告会社が、トラブルを起こす原告に対し、その都度注意・指導を繰り返し、いくつかの部署に配転して幾度も再起のチャンスを与えてきたことは明らかであり、本件懲戒事由の発生で、原告には改善の余地がないと考えるのも無理からぬものであり、予備的に行っていた本件普通解雇については、客観的に合理的な理由があり、かつ、社会通念上も相当であると認められた。
5−2.業務命令違反の職員の解雇が無効となった事例
業務命令違反をする職員に対してした懲戒解雇処分に対して、裁判所が違法と認めた裁判例をここでは紹介します。
本件は、業務命令に従わなかった職員を懲戒解雇しましたが、処分を検討する過程で、適切なプロセスが踏まれなかったため、当該職員に対してした懲戒解雇は「懲戒権の濫用」と判断されました。
▶参考:東京地裁 平成20年2月29日判決
【事案】
被告会社と販売員として労働契約を結び勤務していた原告が、被告会社からの出張命令(就業指示1)に従わなかったため、被告会社は原告に対し、今後、被告会社のする出張命令に従えない場合は医師などの診断書を提出すべきことや提出ができない場合は懲戒処分に処すこと、正当な理由がなくこの就業指示に従わなかった場合は懲戒解雇することなどを記載した就業指示書(就業指示2)を送付した。その後、原告が就業指示2に従わなかったことを理由に被告会社が原告を懲戒解雇したことを原告が「不当」と訴えた事案。
【裁判所の判断】
裁判所は、就業指示2への違反を理由とする、原告に対する本件懲戒解雇につき、就業指示書記載の出張命令は業務命令として有効であるが、被告会社が原告に対して就業指示1の後、就業に関する指示をせず、また、就労の指示を求める原告の申入れにも応答せず、その間に申し立てられた労働局のあっせん期日にも出席しないなかで就業指示2を発したこと、被告会社が出張の必要性について原告に十分説明したとはいい難いこと、就業指示2の後、原告が個人加盟した労働組合による団体交渉の申入れを無視して懲戒解雇を行ったこと、懲戒解雇に際して何ら弁明の機会を与えていないことなどから、原告の業務命令違反が正当な事由のない欠勤という労働契約上の義務の根幹に関わるものであることを考慮しても、懲戒解雇権の濫用に当たり無効である、とした。
6.業務命令違反による損害賠償請求はできる?
職員が業務命令に違反し、事業所に損害を与えた場合、事業所が職員に損害賠償請求の訴えを起こすことは可能ですが、ほとんどの裁判例で損害賠償請求が認められていません。
例外的に、命令の有効性、違反行為の故意・重過失、損害との因果関係など厳格な要件を満たす場合に限り認められる場合もあります。
実際には、損害の発生や因果関係の立証が困難なケースが多く、請求が認められる範囲は限定的です。事業所の職員に対する損害賠償請求の訴えが認められたケースもありますので、次の項で詳しく説明します。
6−1.ほとんどの裁判例で損害賠償請求が認められていない理由
前段で、説明した通り、職員が業務命令に違反し、事業所に損害を与えた場合、事業所が職員に損害賠償請求の訴えを起こすことは可能ですが、ほとんどの裁判例で損害賠償請求が認められていません。
これは、会社が労働者の働きによって利益を得る以上、労働者がその事業活動の中で生じさせるリスクや損失も必然的に負うべき、と考えられているためです。
職員の業務命令違反によって生じた損害に対する賠償請求を裁判所に認めてもらうためには、その業務命令違反が、民法709条における不法行為があったと言えるほど悪質であり、会社に実際に損害が生じている必要があります。また、生じた損害については、会社側に立証責任があり、裁判では客観的証拠をもとに証明する必要があります。
▶参考:民法709条
(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
・参照:「民法」の条文
6−2.裁判例
ここでは、企業が従業員の業務命令違反による売上減少やノルマ未達などの損害について賠償請求をしたものの、裁判所が無効と判断した判例を紹介します。
▶参考:大阪高裁 平成24年7月27日判決
【事案】
Xは、コンピュータシステム及びプログラムの企画、設計、開発、販売、受託等を業務とするY社の社員であり、Y社の大口顧客の一つであるF社を担当するチームに所属し責任者兼担当窓口を務めていた。
平成20年9月頃より、Y社が納品するカスタマイズ業務について、原告で検品して納品したはずの商品にも関わらず、納品後のF社での検品で不具合が生じるなどの事案が相次ぎ、F社がY社に不満を持つようになり、F社はY社への発注を減らすようになったため、Y社の売り上げは減少した。
Y社はF社からの受注が減少したのは創立当初からの従業員であるXが業務を適切に実施しなかったこと等が原因であるとして、退職したXに債務不履行による損害を賠償するよう請求した事案。
【裁判所の判断】
裁判所は「業務命令内容は使用者が決定するものであり、その業務命令の履行に際し発生するであろうミスは、業務命令自体に内在するものとして使用者がリスクを負うべきもの(危険責任)」とし、労働者に故意または重過失がない限り、損害賠償請求は認められないと判断しました。
また、損害額が労働者の賃金に比して過大であることなども考慮し、「労働者個人に負担させることは相当ではなく、原告の損害賠償請求は認められない」として請求を棄却しました。控訴審もこの判断を維持しています。
7.業務命令を拒否して従わない職員への対応を弁護士に相談すべき理由
業務命令に違反する職員がいる職場では、事業所内の企業秩序が乱れるだけでなく、安定した業務遂行が難しく、通常の業務を行うだけで精一杯で、当該問題職員への対応まで丁寧に行うことが難しいことがほとんどです。
一方で、業務命令違反を繰り返す職員への注意指導は、初歩の段階から、丁寧に行わなければ「きちんと指導されなかった」「不当な取扱いを受けた」などと訴えられかねません。
業務命令違反する職員に対し、適切な対応をするためには、業務命令に背いた時から適切な対応をとれるよう準備するなど、正しいプロセスを踏むことが重要になりますので、すぐに相談ができる労働問題に強い弁護士、そして介護業界に明るい弁護士がいることは、どの事業所にとっても心強いものです。
また、懲戒処分に至る前の注意指導段階から弁護士へ相談することで、業務命令違反をする職員に適正に業務指導を行うことはもちろんのこと、今後の懲戒処分への対応が必要になることも見据えて必要な証拠を揃えていくことが可能です。
事業所として対応に苦慮する状況になることは可能な限り避け、取るべき手段がまだ数多く残されているうちに、介護業界の現場に精通した労働問題に詳しい弁護士に相談することを心がけましょう。
7−1.プロセスの重要性
懲戒処分は、労働者に対する制裁罰であり、その有効性や適法性を確保するためには適切なプロセスの履践が不可欠です。
労働契約法15条では、懲戒処分が「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。」と明記されています。
▶労働契約法15条
(懲戒)
第十五条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
・参照元:「労働契約法」の条文
適切なプロセスとは「4−1.業務命令違反をする職員への対応はプロセスが重要」でもあるように、次の点に注意が必要です。
- 事実関係の確認・確定
- 粘り強い注意指導
- 就業規則等の根拠規定の確認
- 弁明の機会の付与
- 懲戒処分の決定と告知
懲戒処分は、一般生活における刑事罰と類似し、社会人として労働者に重大な不利益を与えるだけでなく、今後の生活にも大きな影響を与えます。弁明の機会を与え、事実関係に誤りがないか、処分が重過ぎないかなどの検討を重ね、処分を行う際の公正性や客観性を担保することが重要です。
また、判例でも、弁明の機会を与えなかった場合や、手続きの適正を欠いた場合に「懲戒処分が無効」と判断された例もあります。
▶参考:大阪高裁 平成26年3月28日判決
【事案の概要】
市の第3セクターである被控訴人の従業員である控訴人らが、セクシュアル・ハラスメント行為等を理由として被控訴人から受けた懲戒処分の無効確認や降格前の地位確認等を求めた事案。
【裁判所の判断】
裁判所は、控訴審において、被控訴人が本件処分の根拠として主張した事実のすべてが認められたり懲戒事由に該当したりするものではなく、また、事前の警告や注意などもないまま、本件各懲戒該当行為について突如、懲戒解雇の次に重い出勤停止処分を行うことは控訴人らにとって酷に過ぎることなどからすると、本件各処分はその対象となる行為の性質態様等に照らし重きに失し、社会通念上相当とは認められないなどとして、原判決を変更し、本件各懲戒処分を取り消すとともに控訴人らが降格前の地位にあることが確認された事例。
懲戒処分に至るプロセスは、単なる形式ではなく、処分の有効性・公正性・透明性を担保するために極めて重要です。適切な手続きを経ることで、企業秩序の維持と労働者の権利保護のバランスを図ることができます。
7−2.違法となった場合のリスク
懲戒処分が違法と判断された場合、処分を受けた職員に、退職金や未払い賃金の支払いをする(バックペイ)などのリスクがあります。また、違法な懲戒処分は民法709条の不法行為が成立する場合もあり、精神的苦痛や名誉棄損等による慰謝料請求を職員から訴えられる可能性もあります。
また、企業が行った懲戒処分が違法と判断された場合、企業の労務管理体制への信頼を失う可能性もあり、他の従業員への示しがつかなくなるリスクがあります。また、違法な懲戒処分が繰り返されると、職場の秩序や従業員の士気の低下にもつながるため、職場環境への悪影響となります。
8.業務命令違反をする職員への対応を弁護士法人かなめの弁護士に相談したい方はこちら

弁護士法人かなめでは、今回の記事で取り上げた業務命令違反をする職員の対応について、問題解決までの適切なプロセスから処分後のトラブルの対応まで、以下のような充実したサポートを行っております。
- 1.業務命令違反をする職員への対応の後方支援
- 2.業務命令違反を争ってくる職員に対する窓口対応
- 3.介護事業者の法務面を総合的にサポートする顧問弁護士サービス「かなめねっと」
8−1.業務命令違反をする職員への対応の後方支援
業務命令に従わない職員への対応を適切に行わなかった場合、当該職員が「不当な処分を受けた」「懲戒処分に至る手続きが適切ではなかった」などと事業所側を訴える場合があります。
そのため、業務命令に従わない職員に対して、処分をする分をする際には慎重に対応する必要があります。
一方で、業務命令違反を繰り返す職員の存在は、事業所の企業秩序に悪影響を及ぼし、他の職員の業務負担も増大するため、早急な対応が必要になります。また、通常の業務と並行して、業務命令に従うよう注意指導を繰り返すことは、注意指導を行う職員にとって、時間的にも精神的にも非常に大変な業務です。
そのうえ、注意指導を行ったにもかかわらず、状況が改善されない場合は、懲戒処分の検討や退職勧奨、解雇を行うことも考えられます。懲戒処分や退職勧奨、解雇は客観的証拠がきちんとそろっているか、これまで適切なプロセスを踏んで対応して来たか、など総合的な観点から慎重に判断をしなければなりません。
弁護士法人かなめでは、業務命令違反をする職員への状況の確認、注意指導の際のサポートから、懲戒処分や退職勧奨などの問題解決までの適切なプロセスを踏んだ対応、また、懲戒処分後に法的手続きが取られた場合、代理人として対応することにより、事業所の皆さんの心理的、物理的な負担を軽減することができます。
業務命令違反をする職員への適切な対応や、懲戒処分などの手続に関するサポートやアドバイスなどを行っておりますので、ご相談ください。
8−2.業務命令違反を争ってくる職員に対する窓口対応
弁護士法人かなめでは、事業所の皆さんでは対応が難しくなった職員に対して、事業所の代理人として窓口となり、対応することが可能です。
業務命令違反を繰り返す職員への対応に疲弊してしまい、事業所運営に支障をきたすような状態となった場合には、介護業界、労働分野に精通した弁護士が窓口となり、事業所に寄り添いながら、当該職員の解雇に向けたプロセスを実施します。
8−3.介護事業者の法務面を総合的にサポートする顧問弁護士サービス「かなめねっと」
弁護士法人かなめでは、「8−1.業務命令違反をする職員への対応の後方支援」及び「8ー2.業務命令違反を争ってくる職員に対する窓口対応」など、介護事業者の法務面を総合的にサポートする顧問弁護士サービス「かなめねっと」を運営しています。
事業所内で何か問題が発生した場合には、速やかに弁護士へ相談できる関係性を構築しています。
具体的には、弁護士と介護事業所の関係者様でチャットグループを作り、日々の悩み事を、法的問題かどうかを選択せずにまずはご相談頂き、これにより迅速な対応が可能となっています。いつでもご相談いただける体制を構築しています。法律家の視点から利用者様とのトラブルをはじめ、事業所で発生する様々なトラブルなどに対応しています。
直接弁護士に相談できることで、事業所内社内での業務効率が上がり、情報共有にも役立っています。
介護事業者の法務面を総合的にサポートする顧問弁護士サービス「かなめねっと」については以下をご参照ください。
また以下の記事、動画でも詳しく説明をしていますので、併せてご覧下さい。
▶︎参考:介護施設など介護業界に強い顧問弁護士の選び方や費用の目安などを解説
▶︎参考:【介護事業者の方、必見】チャットで弁護士と繋がろう!介護保育事業の現場責任者がすぐに弁護士に相談できる「かなめねっと」の紹介動画
【弁護士 畑山浩俊からのコメント】
弁護士法人かなめでは、顧問先様を対象に、懲戒処分の手続をはじめとして退職勧奨など、普段の労務管理の参考になる労働判例を取り上げ、わかりやすく解説する「かなめゼミ」を不定期に開催しています。
研究会の中では、参加者の皆様から生の声を聞きながらディスカッションをすることで、事業所に戻ってすぐに使える知識を提供しています。
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8−5.弁護士費用
(1)顧問料
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(2)法律相談料
- 1回目:1万円(消費税別)/1時間
- 2回目以降:2万円(消費税別)/1時間
※相談時間が1時間に満たない場合でも、1時間分の相談料を頂きます。
※スポットでの法律相談は、原則として3回までとさせて頂いております。
※法律相談は、「1.弁護士法人かなめにご来所頂いてのご相談」、又は、「2.ZOOM面談によるご相談」に限らせて頂き、お電話でのご相談はお請けしておりませんので、予めご了承ください。
※介護事業所の経営者側からのご相談に限らせて頂き、他業種の企業様、職員等一般の方からのご相談はお請けしておりませんので、予めご了承ください。
9.まとめ
この記事では、業務命令違反をする職員への対応や業務命令違反の種類を具体的に紹介し、さらに、業務命令に従わない職員を解雇した場合にどういった状況が想定されるかなど、具体的な裁判例に基づいて紹介しました。
業務命令違反をする職員が事業所にいることは、職場環境に悪影響なだけでなく、企業秩序を乱し、企業の対外的な信頼を失わせる可能性があるため、適切なプロセスに基づき、早期に対応する必要があります。
この記事を参考にすることで、職員の業務命令違反に対する適切な対応をすることができ、事業所の正常な運営を確保することができます。一方で、事業所主導の注意指導や適切なプロセスを経て客観的な証拠を収集するなど、の対応は難しいのも事実です。職員の業務命令違反への対応に不安がある場合は、専門家である弁護士に早期に相談し意見を仰ぐことをおすすめします。
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