みなさんの事業所では、職員をどのような形態で雇用しているでしょうか。
もちろん、「期間の定めのない労働契約(無期労働契約)を締結している」、という事業所もあると思いますが、管理者等を除き、「有期労働契約」の形式で職員を雇用している事業所も多いのではないでしょうか。
そして、有期労働契約のメリットとして、「期間満了によって、特段の理由なしに契約関係を終了できる」と考えている事業所も、多いのではないでしょうか。
しかしながら、実は近年、有期労働契約の期間満了によって契約を終了した(いわゆる「雇止め」をした)にもかかわらず、この雇止めが無効であるとして、契約関係が継続していると判断される裁判例が後を断ちません。
これは、「有期労働契約」という形式をとりながら、「有期」であるという契約の実体が形骸化して、特段の手続なく、自動的に契約が更新される状況となっていたり、何年にもわたって契約の更新がされるなどといった状況が、常態化している雇用主が非常に多いからです。
労働契約法は、このような「有期労働契約」による労働者の地位を保護するべく、解雇と同様の厳しい基準を設けています。
そのため、期間が満了したからといって、安易に雇止めをしてしまうと、雇止めの無効の訴えがされ、雇止めが無効となってしまう可能性が非常に高くなるのです。
そこで、この記事では、雇止めに関する法律上のルールの他、雇止めが解雇と同視される具体的な場合を、事例等をもとに紹介した上で、有期労働契約にまつわる「無期転換ルール」や、実際に雇止めをする場合の具体的な手続について解説します。
そして、最後まで読んでいただくことで、雇止めをする場合の注意点やメリット、デメリットが理解でき、有期労働契約を締結する時から、雇止め対策をとることができるようになります。
それでは、見ていきましょう。
この記事の目次
1.雇止めとは?意味や定義をわかりやすく解説
「雇止め」とは、使用者が、期間満了後、有期労働契約を更新しないことをいいます。契約期間の満了に伴う雇止めは、本来的には違法ではありませんが、契約更新時の状況や雇止めをする理由などによっては無効になることがあるため、使用者側が自由に行使できるわけではありません。
また、「雇止め」については、平成24年8月10日(公布日)の労働契約法改正において、有期労働契約者の権利の保護のため、一定の不合理な場合について雇止めを認めない「雇止め法理」が法定化されました。
2.雇止めが問題となる雇用形態
それでは、最初に雇止めが問題となる雇用形態について説明します。
2−1.有期労働契約職員が雇止めの対象となる
雇止めが問題となる雇用形態は、「有期労働契約」職員です。
「期間の定めのある」雇用契約という言い方をされることもあり、「期間の定めのない」雇用契約、無期労働契約と区別されています。
2−2.有期雇用契約職員の例
有期雇用契約職員の中には、一見すると無期労働契約職員と同様の業務内容で、ただ契約期間に定めがある、という場合のほか、以下のような類型があります。
1.臨時雇用職員
臨時雇用職員は、その名の通り「臨時」で雇用される職員であり、雇用期間の定めがある職員です。
例えば、総務省のホームページでは、公務員に関する定義ではあるものの、「臨時的・補助的な業務又は特定の学識・経験を要する職務に任期を限って任用するもの」と説明されています。
2.アルバイト、パートタイム職員
アルバイト、パートタイム職員は、短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム労働法)で、「1週間の所定労働時間が同一の事業所に雇用される通常の労働者の1週間の所定労働時間に比べて短い労働者」と定義されています。
▶参考情報:
(定義)
第二条 この法律において「短時間労働者」とは、一週間の所定労働時間が同一の事業主に雇用される通常の労働者(当該事業主に雇用される通常の労働者と同種の業務に従事する当該事業主に雇用される労働者にあっては、厚生労働省令で定める場合を除き、当該労働者と同種の業務に従事する当該通常の労働者)の一週間の所定労働時間に比し短い労働者をいう。
2 この法律において「有期雇用労働者」とは、事業主と期間の定めのある労働契約を締結している労働者をいう。
3 この法律において「短時間・有期雇用労働者」とは、短時間労働者及び有期雇用労働者をいう。
「パートタイマー」「アルバイト」「嘱託」「契約社員」「臨時社員」「準社員」など、呼び方は異なっても、この条件に当てはまる労働者であれば、「パートタイム労働者」としてパートタイム労働法の対象となります。
詳しくは、以下のホームページを合わせてご覧下さい。
3.派遣社員は「有期雇用契約職員」ではない
「派遣社員」は、派遣元の会社と雇用契約を締結した労働者であり、派遣元の会社から「派遣」され、派遣先で働く職員のことを言います。
あくまで、「派遣社員」と雇用契約を締結しているのは派遣元である派遣会社であるため、派遣先との間に雇用契約はありません。
そのため、派遣元との関係では、派遣社員は「有期雇用契約職員」ではありません。
労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(労働者派遣法)は、平成27年10月の改正により、いわゆる「労働契約申込みみなし制度」を導入しました。これは、簡単に言えば、1.禁止業務への受入れ(港湾運送、建設、警備、医療行為)
2.無許可の派遣事業者からの受入れ
3.期間制限を超えての受入れ(事業所単位)
4.期間制限を超えての受入れ(組織単位)
5.偽装請負としての受入れなど、派遣法上問題のある行為が見られた場合、対象となる派遣社員に対し、派遣先企業が労働契約を申し込んだものとみなされる制度です(労働者派遣法40条の6)。▶︎参照:労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(労働者派遣法)
特に問題となるのは「5.偽装請負としての受入れ」の場合で、労働者派遣法の適用を免れるため、「業務委託契約」の形式で実際には労働者を派遣しているような場合、いくつかの条件はありますが、派遣先との間で労働契約の効果が発生することがあるのです。
詳しくは、以下のページも併せてご覧下さい。
▶︎参照:厚生労働省「労働契約申込みみなし制度の概要」(PDF)
3.解雇と雇止めの違い
雇止めと非常によく似たものとして「解雇」があります。
以下では、雇止めと解雇の違いについて解説します。
3−1.解雇とは?
解雇とは、使用者側が一方的な意思表示によって労働契約を解約することを言います。
解雇の種類には、普通解雇、懲戒解雇、整理解雇があります。
普通解雇は、労働者が労働契約の本旨に従った労務を提供しないこと、つまり、債務不履行を理由として労働契約を解約するものです。
懲戒解雇は、懲戒処分の1つとして、使用者が従業員の企業秩序違反行為に対して科す制裁罰の極刑として行われるものです。
整理解雇は、普通解雇の1類型ですが、通常の普通解雇、懲戒解雇とは異なり、使用者が経営不振などの経営上の理由により、人員削減の手続として行う解雇です。
解雇について詳しくは、以下の記事で解説していますので、併せてご覧下さい。
3−2.解雇と雇止めの違い
解雇と雇止めは、いずれも職員の労働者としての地位を失わせるものですが、解雇が、無期契約職員であると有期契約職員であるとを問わず、解雇事由があればいつでも行使自体は可能であるのに対し、雇止めは、あくまで有期契約職員に対して、契約期間の満了時に行われるものです。
「契約期間の満了によって、労働者としての地位を失わせることができる」、という点から、雇止めの方が簡便で使いやすいと考えられる方もいるかもしれません。
しかしながら、実際には、この後解説をする通り、雇止めも解雇も、同様の基準でその有効性が判断されるケースが増えています。
4.雇止めの現状
以下では、雇止めに関する現状を、統計等から見ていきたいと思います。
4−1.雇止めに関する統計
厚生労働省による有期労働契約に関する実態調査(事業所調査)では、平成23年の統計ではあるものの、雇止めを行ったことがある事業所は全体の30.6%で、事業所規模が大きくなるにつれ、雇止めを行ったことがある事業所の割合が増えていくことが分かります。
例えば、事業所規模が5から29人の事業所では、雇止めを行ったことがある事業所の割合が26.2%、30から99人の事業所では、37.5%であるのに対し、事業所規模が1000人以上の事業所では、73.1%が雇止めを行ったことがあると回答しています。
▶引用元:厚生労働省「平成23年有期労働契約に関する実態調査(事業所調査)」結果の概要(PDF)
要因としては、離職率等も関係するかも知れませんが、小規模な事業所ほど職員間の関係性が密であり、有期契約職員であっても更新を繰り返して、雇用を継続していることが考えられます。
4−2.新型コロナウイルス感染症の蔓延による雇止めの現状
令和2年1月からの新型コロナウイルス感染症の流行により、飲食業等は非常に大きな打撃を受け、派遣社員や有期契約労働者の雇用に大きな影響が出てます。
厚生労働省は、令和2年5月29日から1週間ごとに、都道府県労働局の聞き取り情報や公共職業安定所に寄せられた相談・報告等を基に、新型コロナウイルス感染症の影響による「雇用調整の可能性がある事業所数」と「解雇等見込み労働者数」の動向を集計しています。
▶引用元:新型コロナウイルス感染症に起因する雇用への影響に関する情報について (6月11日現在集計分)
「雇用調整の可能性がある事業者数」とは、都道府県労働局及びハローワークに対して休業に関する相談のあった事業所、「解雇等見込み労働者数」とは、都道府県労働局及びハローワークに対して相談のあった事業所等において 解雇・雇止め等の予定がある労働者で、一部既に解雇・雇止めされたものも含まれているとのことです。
▶引用元:新型コロナウイルス感染症に起因する雇用への影響に関する情報について (6月11日現在集計分)
令和3年6月11日付で出された「新型コロナウイルス感染症に起因する雇用への影響に関する情報について」では、累計で、雇用調整の可能性がある事業所が13万0266事業所、解雇等見込み労働者数が10万6715人、解雇等見込み労働者数のうち、非正規雇用労働者数(パート・アルバイト、派遣社員、契約社員、嘱託等)が4万9637人となっています。
雇用調整の可能性があったり、解雇等見込みの労働者が多い業種としては、飲食業、製造業、小売業などです。
【弁護士畑山浩俊のコメント】
新型コロナウイルス感染症の蔓延による雇用調整に関しての医療や福祉分野に対する影響は、他の業種と比較すると少ないことがわかります。
これは、医療や福祉分野が、感染症蔓延時においても業務継続を前提とされた分野であり、むしろ様々な感染症対策のために、より業務量が増え、人手の確保が重要となることを示しています。
この点に関して、令和3年度の介護報酬改定で、全ての介護事業者を対象にBCP(業務継続計画)の策定が義務付けられました(3年間の経過措置有り)。
詳しくは、以下の記事や厚生労働省の解説ページをご覧下さい。
▶参照:BCP(事業継続計画)とは?介護事業所で義務化!対策と対応方法を詳しく解説
▶︎参照:厚生労働省の「令和3年度介護報酬改定に向けて(感染症や災害への対応力強化)」(PDF)
それぞれの事業所が、今回の新型コロナウイルス感染症の蔓延を契機に、業務継続に向けた計画を立てて行く必要があります。
5.雇止めのメリットとデメリット
雇止めを選択するにあたっては、事業所側、職員側それぞれのメリットとデメリットをしっかりと把握する必要があります。
以下では、雇止めを行うことによって発生するメリットとデメリットを、事業所側、職員側の双方から解説します。
5−1.事業所側のメリットとデメリット
(1)事業所側のメリット
雇止めは、契約期間の満了を理由に、職員の意思によらず、職員の労働者の地位を失わせることができることが大きなメリットです。
(2)事業所側のデメリット
事業所側にとって、雇止めをすることの最大のデメリットは、雇止めが無効となるリスクです。
雇止めは、本来契約期間満了のみを理由に契約を終了できるものですが、後述する通り、「更新の期待」が発生すると、解雇と同様のプロセスをしっかり履践しなければ、無効となってしまいます。
また、雇止めが有効であるとしても、もう1つのデメリットは、助成金の支給要件に抵触する可能性があることです。
事業所が受けている助成金の支給要件の中には、「対象労働者の雇い入れ日の前後6カ月間に倒産や解雇など特定受給資格者となる離職理由の被保険者数が対象労働者の雇い入れ日における被保険者数の6%を超えていないこと(特定受給資格者となる被保険者が3人以下の場合を除く)」というものがあり、雇止めをされた職員は、条件によっては「特定受給資格者」に当たる可能性があります。
助成金の内容や詳しい支給要件は、以下のページをご覧ください。
雇止めは、事業所にとってやむに止まれず行う手続ですが、助成金の受給の可否は事業所運営に影響を与えることが予想されるので、この点の確認も雇止めのプロセスの中には不可欠です。
5−2.職員側のメリットとデメリット
(1)職員側のメリット
雇止めをされることのメリットは、「特定受給資格者」または「特定理由離職者」として、失業保険の受給が早く受けられる可能性があることです。
具体的には、通常の退職の場合、失業保険は離職票の提出と求職の申込みを行った日(受給資格決定日)から通算して7日間の待機期間及び2か月の給付制限を経て支給されますが、「特定受給資格者」及び「特定理由離職者」の退職の場合は、7日間の待機期間を経れば支給を受けることができます。
雇止めの関係では、「特定受給資格者」となるのは、以下の場合です。
「特定受給資格者」となる場合
- 期間の定めのある労働契約の更新によリ 3年以上引き続き雇用されるに至った場合において当該労働契約が更新されないこととなったことにより離職した者
- 期間の定めのある労働契約の締結に際し当該労働契約が更新されることが明示された場 合において当該労働契約が更新されないこととなったことにより離職した者
「特定理由離職者」となるのは、以下の場合です。
「特定理由離職者」となる場合
- 期間の定めのある労働契約の期間が満了し、かつ、当該労働契約の更新がな いことにより離職した者(その者が当該更新を希望したにもかかわらず、当該 更新についての合意が成立するに至らなかった場合に限る。)(特定受給資格者に当たる場合を除く)
詳しくは、以下の厚生労働省のページを合わせてご覧下さい。
(2)職員側のデメリット
職員側にとっては、期間の定めがある雇用契約である場合、ある程度は、その期間が満了すれば契約が終了するという心構えができていることが多いため、いつされるかわからない解雇と比較すれば、いきなり職を失う、というわけではなく、ダメージは小さい部分もあります。
もっとも、契約の更新が繰り返されている場合、職員としても「このままこの状況が継続するんだ」という期待を持ち、生活設計をしていくことになるので、その場合には雇い止めであっても、解雇同様、やはり生活に大打撃を受けます。
6.雇止めに関するルール
雇止めについて、まずはどのようなルールが定められているか確認していきましょう。
6−1.民法上のルール
まず民法上、期間の定めがある場合の雇用契約の解除について、以下のように規定されています。
▶参考:民法上の規定について
(期間の定めのある雇用の解除)
第626条 雇用の期間が五年を超え、又はその終期が不確定であるときは、当事者の一方は、五年を経過した後、いつでも契約の解除をすることができる。
2 前項の規定により契約の解除をしようとする者は、それが使用者であるときは三箇月前、労働者であるときは二週間前に、その予告をしなければならない。
(雇用の更新の推定等)
第629条 雇用の期間が満了した後労働者が引き続きその労働に従事する場合において、使用者がこれを知りながら異議を述べないときは、従前の雇用と同一の条件で更に雇用をしたものと推定する。この場合において、各当事者は、第六百二十七条の規定により解約の申入れをすることができる。
2 従前の雇用について当事者が担保を供していたときは、その担保は、期間の満了によって消滅する。ただし、身元保証金については、この限りでない。
・参照:「民法」の条文
民法上の規定だけを見れば、契約の解約の申入れを正しい期間までに行えば、雇止めは問題なくできるように見えます。
6−2.労働契約法上のルール
労働契約法は、民法上のルールを以下のように修正し、労働者の保護を図っています。
(1)「雇止め法理」
まず、労働契約法19条は有期雇用契約の解約(雇止め)に関して、以下のような規定を置いています。
▶参考:労働契約法19条の規定
(有期労働契約の更新等)
第19条 有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。
一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。
・参照:「労働契約法」の条文
詳しくは後述しますが、これは、有期労働契約であったとしても、無期労働契約と同視できたり、有期労働契約が更新されるという期待が発生しているような場合、期間満了のみを理由としては雇止めをすることができず、解雇と同様に、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」場合には、雇止めが無効となってしまうのです。
雇止め法理については、「7.「雇止め法理」とは?」の段落で解説していますのでご覧ください。
(2)無期転換ルール
また、平成25年4月1日より、有期労働契約が更新され、契約期間が通算して5年を超えた場合、労働者からの申込みにより、無期労働契約に転換することができることが、労働契約法18条に定められました。
▶参考:労働契約法18条の規定
(有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換)
第18条 同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約(契約期間の始期の到来前のものを除く。以下この条において同じ。)の契約期間を通算した期間(次項において「通算契約期間」という。)が五年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、当該満了する日の翌日から労務が提供される期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなす。この場合において、当該申込みに係る期間の定めのない労働契約の内容である労働条件は、現に締結している有期労働契約の内容である労働条件(契約期間を除く。)と同一の労働条件(当該労働条件(契約期間を除く。)について別段の定めがある部分を除く。)とする。
2 当該使用者との間で締結された一の有期労働契約の契約期間が満了した日と当該使用者との間で締結されたその次の有期労働契約の契約期間の初日との間にこれらの契約期間のいずれにも含まれない期間(これらの契約期間が連続すると認められるものとして厚生労働省令で定める基準に該当する場合の当該いずれにも含まれない期間を除く。以下この項において「空白期間」という。)があり、当該空白期間が六月(当該空白期間の直前に満了した一の有期労働契約の契約期間(当該一の有期労働契約を含む二以上の有期労働契約の契約期間の間に空白期間がないときは、当該二以上の有期労働契約の契約期間を通算した期間。以下この項において同じ。)が一年に満たない場合にあっては、当該一の有期労働契約の契約期間に二分の一を乗じて得た期間を基礎として厚生労働省令で定める期間)以上であるときは、当該空白期間前に満了した有期労働契約の契約期間は、通算契約期間に算入しない。
・参照:「労働契約法」の条文
この、いわゆる「無期転換ルール」が規定されたことにより、この「無期転換ルール」の適用を回避するため、労働契約の締結時点で「契約の更新は5年までに限る」と言った規定を設ける事業所も増えています。
このような規定の解釈と問題点については、「10.無期転換ルールとは」で詳しく説明します。
6−3.厚生労働省のガイドライン
労働基準法14条2項は、「期間の定めのある労働契約の締結時及び当該労働契約の期間の満了時において労働者と使用者との間に紛争が生ずることを未然に防止するため、使用者が講ずべき労働契約の期間の満了に係る通知に関する事項その他必要な事項についての基準を定めることができる。」と定め、これに基づいて、厚生労働省は「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」を定めています。
具体的には、以下のようなことが定められています。
▶参考:厚生労働省「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」
1.契約締結時の明示事項等(1条)
(1)使用者は、有期契約労働者に対して、契約の締結時にその契約の更新の有無を明示しなければならない。
(2)使用者が、有期労働契約を更新する場合があると明示したときは、労働者に対して、契約を更新する場合又はしない場合の判断の基準を明示しなければならない。
(3)使用者は、有期労働契約の締結後に(1)又は(2)について変更する場合には、労働者に対して、速やかにその内容を明示しなければならない。
2.雇止めの予告(2条)
使用者は、有期労働契約(有期労働契約が3回以上更新されているか、1年を超えて継続して雇用されている労働者。なお、あらかじめ当該契約を更新しない旨明示されているものを除く。)を更新しない場合には、少なくとも契約の期間が満了する日の30日前までに、その予告をしなければならない。
3.雇止めの理由の明示(3条)
使用者は、雇止めの予告後及び雇止めの後に労働者が雇止めの理由について証明書を請求した場合は、 遅滞なくこれを交付しなければならない。
4.契約期間についての配慮(4条)
使用者は、契約を1回以上更新し、かつ、1年を超えて継続して雇用している有期契約労働者との契約を更新しようとする場合は、契約の実態及びその労働者の希望に応じ て、契約期間をできる限り長くするよう努めなければならない。
詳しくは、以下のようなリーフレットも発行されていますので、併せてご覧ください。
7.「雇止め法理」とは?
有期契約職員は、本来契約で定めた期間が満了すれば契約は終了するはずであり、「なぜ雇止めをしてはいけないのか?」という疑問を持つ方も多いかもしれません。
以下では、何故雇止めが違法となるのか、いわゆる「雇止め法理」について解説します。
7−1.なぜ期間満了による雇止めがいけないのか?
有期契約職員は、契約当初は決められた期間の中で働くことを意識しているかも知れません。
しかしながら、以下のような場合、職員はどのように考えるでしょうか。
- 1.契約期間満了前になっても、事業所から何も言われず、契約がそのまま自動的に更新さ れている状況になっている場合。
- 2.契約期間満了前に、形式的に改めて有期契約書を作成するものの、毎回同じ契約書に署 名するだけで特段の説明も面談も行われていない場合。
- 3.更新が繰り返され、もう何年も働いている場合。
このような場合、職員としては、当然「次回も更新されるんだろうな」と期待することが自然であり、この期待を保護するのが、労働契約法19条の定める雇止め法理なのです。
7−2.労働契約法19条1号について
(1)労働契約法19条1号はどのような場合に適用されるか
労働契約法19条1号は、「期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できるような場合」には、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」限り、雇止めが認められないとする規定です。
具体的には、先ほどの具体例のうち、以下がこれにあたることがあります。
- 1.契約期間満了前になっても、事業所から何も言われず、契約がそのまま自動的に更新さ れている状況になっている場合。
- 2.契約期間満了前に、形式的に改めて有期契約書を作成するものの、毎回同じ契約書に署 名するだけで特段の説明も面談も行われていない場合。
(2)具体的な裁判例
労働契約法19条1号が適用された事例として、以下のような裁判例があります。
横浜地方裁判所 平成27年10月15日判決
事案の概要
被告のパートタイム社員として、勤務していた原告が、業務遂行能力不足又は被告の業務上の都合を理由に本件雇止めを受けたため、その無効を主張して雇用契約上の地位確認、未払賃金・賞与の各支払を求めた事案
裁判所の判断
以下の理由から、原告に対して行われた雇止めは、「期間の定めのない雇用契約における解雇と社会通念上同視できると認めるのが相当である」として、労働契約法19条1号が適用されるとされ、「整理解雇」の要件に該当するかを検討された結果、原告の請求が認められました。
1.原告が従事していた業務は,受託業務の中でも長く受託されてきた業務であり,規模が 縮小しているとはいえ,同様に長く受託してきた他の業務が終了したり,一部の業務は他 社に移行したりする中で,一定の人員が確保され,なお継続しているもので,被告の恒常 的・基幹的業務であった。
2.被告では,有期雇用社員が社員全体の約9割を占めていたこと
3.原告の勤務日は原則週5日であり,勤務時間は主に午後10時55分から翌日午前8時まで と深夜帯であるものの,所定労働時間は8時間であることからすれば,原告は,賃金が低 くパートタイム社員と扱われているが,一般の常用労働者とほぼ変わらない勤務条件で勤 務していたものと認められること。
4.原告の雇用契約更新状況は、約17回の更新を経て勤続年数が15年7か月に及んでおり, 更新手続は,契約期間終了前後にロッカーに配付されるパートタイマー雇用契約書に署名 押印し,これを提出するというごく形式的なものであり,形骸化していたこと。
労働契約法19条1号の適用場面は、近年では実はそう多くはありません。なぜなら、事業所が雇止めを検討しようとする場合、現在であれば、インターネット等で調べれば、更新手続が形骸化していると、このような雇止め法理が適用され、雇止めが難しくなる、と言う情報を容易に得ることができるからです。そのため、更新時には面談を実施するようにしたり、有期契約書の中に「更新は●回までとします」「次回は更新をしません」などと記載をして契約を更新するなどしている事業所も増えており、必ずしも「期間の定めのない雇用契約における解雇と社会通念上同視できると認めるのが相当である」とまでは言えないと判断される例が多いのです。実際に、後述する博報堂事件(福岡地裁令和2年3月17日判決)では、1年毎の有期雇用契約を締結し,これを29回にわたって更新,継続していたものであったにもかかわらず、「不更新条項」のある有期雇用契約書に署名押印をしたことが1つの理由となり、労働契約法19条1号は適用されませんでした。しかしながら、これはあくまで労働契約法19条1号の適用が免れられるだけであり、次の労働契約法19条2号の適用についてはそうはいきません。続けて、労働契約法19条2号について見ていきましょう。
7−3.労働契約法19条2号
(1)労働契約法19条2号の「更新の期待」とは何か?
労働契約法19条2号は、「契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由がある場合」については、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」限り、雇止めが認められないとしています。
この「更新の期待」は、後述するバンダイ事件(東京地裁令和2年3月6日判決労判1227.102)によると、以下をを具体的に判断することとされています。
考慮事項の要素をピックアップすると、以下のようになります。
考慮事項の6つの要素
- 1.有期労働契約の更新の回数
- 2.雇用の通算期間
- 3.雇用期間管理の状況
- 4.当該雇用の臨時性・常用性
- 5.それまでの契約更新の具体的経緯
- 6.雇用継続の期待を持たせる使用者の言動
(2)「更新の期待」が認められる具体例【裁判例つき】
「更新の期待」があると判断された裁判例には、以下のようなものがあります。
博報堂事件(福岡地裁令和2年3月17日判決)
事案の概要
1年毎の有期雇用契約を締結し,これを29回にわたって更新,継続してきた原告について、 雇用期間満了をもって雇止めをしたところ、この雇止めが客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であるとは認められないから,従前の有期雇用契約が更新によって継続している旨主張して,労働契約上の権利を有する地位にあることの確認等を求めた事案。
裁判所の判断
裁判所は、この「更新の期待」の判断は、労働者の主観にかかわらず、客観的な事情から判断されることを前提に、本件の雇止めについて、以下の点から、Xの「更新の期待」は相当大きかったと認定し、結論として、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないから、雇止めは無効とされました。
- 雇用主が約30年にわたり、雇用契約書を交わすだけで契約を更新してきたこと
- 「不更新条項」が規定された後も、「6年目以降の契約についてはそれまでの間の業務 実績に基づいて更新の有無を判断する。」とされていたこと
- Xの業務実績については肯定的な評価がされていたこと
バンダイ事件(東京地裁令和2年3月6日判決労判1227.102)
事案の概要
被告との間で、約11年10か月の間、合計14回にわたり更新されてきた有期労働契約を締結していた原告が,被告が原告の更新申込みを拒絶することは客観的合理的理由を欠き社会通念上相当であると認められず,これを承諾したものとみなされるとして労働契約上の権利を有する地位にあることの確認等を求めた事案。
裁判所の判断
バンダイ事件では、以下の事情を認定し、「更新の期待」自体は発生していたと判断した上で、具体的な事情から、客観的合理的理由があり、かつ社会通念上相当な雇止めであったとして、雇止めを有効としました。
- 原告が担当していた業務は、基幹的業務に当たらず、求められる能力も高度なものではなく、量的にも1人の従業員に集約することが出来る程度の臨時的な性質を有するものであった。
- したがって、「その労働条件に内容や分量が見合うような担当業務を社内に確保することが出来れば本件雇用契約は更新される」という期待が発生していた。
- 原告の担当業務の一部が、移管等によりなくなり、さらにはこれにともなって他の業務も作業時間が月54時間から月8時間に減少した(雇止めの必要性あり)。
- 原告に対し、業務処理能力を高めることにより担当可能業務の幅を広げてその雇用を維持することを目指し、実際にその機会を確保していたにもかかわらず、原告がこれに対して真摯な努力をしなかった。
- 原告に対し、無期転換申込権を保有した状態での在籍出向や転籍を打診していたものの、原告がこれを拒否していた(雇止めの回避努力認定)。
- 原告に対して本件の雇止めについて説明を尽くしていた(手続の相当性)。
このように、「更新の期待」が認められたからといって、必ずしも雇止めが無効となるわけではありませんが、「更新の期待」を意識せずに雇止めをした場合、通常の解雇の際に必要とされるプロセスを踏んでいないことが多いです。
そうなれば、雇止めは無効とされる可能性が非常に高くなります。
(3)「更新の期待」を生じさせないようにすることはできる?
裁判で雇止めの有効性が争われている場面で、「更新の期待」が生じていなかったと判断されている裁判例はほとんどありません。
もっとも、その理由としては、「更新の期待」が発生していない事例においては、期間満了により、職員も特段争うことなく契約を終了させていることが多いからです。
例えば、これまで更新を繰り返してきたにもかかわらず、更新時になって「次回以降更新はしません」「●年●月●日で契約は終了します」などと突然通告すれば、通告された職員としては、その旨が記載された有期契約書に署名押印しないわけにはいかず、それで実際に雇止めをしたとしても、「更新の期待」が消滅したことにはなりません。
一方、契約締結時から、「この契約の更新回数の上限は○回(最大3年間)です」と期限をあらかじめ伝え、更新の際にはその都度しっかりと面談をし、契約期間についての確認をしていたり、「この契約に基づいて行う業務は◯である」と業務内容を限定しておくことで、当該業務がなくなった場合の雇止めが行いやすくなります。
職員としても、事前に期限等を伝えられていることから、雇止め後に、その有効性を争われることも少なくなります。
8.労働契約法19条1号、2号が適用された場合の雇止めの進め方
以下では、労働契約法19条1号、2号が適用された場合の雇止めの手続について説明します。
8−1.解雇と同じレベルでの合理性、相当性が必要
労働契約法19条1号及び2号が適用されると、雇止めについても、解雇と同様に「客観的に合理的な理由」があり、且つ、「社会通念上相当」であると認められなければ無効となります。
「客観的合理性」については、一般に、「1.労働者の労働能力や適格性の低下・喪失」の他、「2.労働者の義務違反や規律違反行為」、「3.経営上の必要性」などが挙げられます。
そして「社会的相当性」について、裁判所は容易には社会的相当性を認めず、労働者側に有利な諸事情を考慮したり、解雇以外の手段による対処を求めたりすることが多いです。
例えば、「1.労働者の労働能力や適格性の低下・喪失」に関しては、単に能力・能率が低いだけでなく、労働契約の継続を困難とするほどの重大な能力低下がなければならず、また使用者として具体的に改善矯正策を講じたが改善されず改善の見込みもないことが求められることが多いです。
また、「2.労働者の義務違反や規律違反行為」に関しても、労働者に有利な事情を考慮に入れ、総合的に雇止めの合理性・相当性を判断する傾向にあります。
「3.経営上の必要性」については、人員削減の必要性、雇止めの回避努力、人選の合理性、手続の妥当性から、雇止めの合理性、相当性を判断しています。
8−2.具体的な雇止め理由
それでは、具体的な雇止め理由を見ていきましょう。
(1)職務怠慢、素行不良(遅刻、欠勤、協調性の欠如等)
介護事業所の職員として、本来行うべき職務を果たさない、例えば、「夜間に利用者のナースコールが鳴っているのに駆けつけない」、「利用者の送迎の際に必要な声かけをせず放置する」、「十分な介助をしない」などといった職務怠慢行為は、雇止め事由となり得ます。
また、他の職員との連携、協力は、介護事業所に限らず、仕事をする上では当然必要不可欠です。特に、介護事業所では、このような連携を怠れば、利用者の生命身体の危険に直結しかねません。
しかしながら、そのような中で、他の職員が忙しくしていても手伝わなかったり、他の職員に対して威圧的な態度をとったり、さらにはシフトの引継の際の情報伝達を怠るなど、協調性に欠ける態度をとる職員がいます。
このような言動をとる職員がいる場合、職場の雰囲気が悪くなるばかりか、他の職員に過度な業務上、精神上のストレスがかかり、最悪の場合には他の職員が離職してしまうリスクも考えられます。
事業所としては、このような職員がいた場合、まずは、粘り強い注意指導をすることが重要ですが、それでも態度が改まらない場合には、雇止めを検討する必要があります。
また、欠勤は、労務不提供の最たるものですので、欠勤が続いたり、頻繁に欠勤があるような場合には、出勤命令を出してもこれに応じない場合などには、雇止事由となり得ます。
もっとも、当該職員がなぜ欠勤しているのかについては、しっかりと聴取し、確認をすることが重要です。
例えば、欠勤の理由が、事業所内でのトラブルやハラスメントが原因で、体調を崩したりメンタル不調となっている場合には、事業所側での対応が必要となるからです。
このような場合、職員の欠勤に対しては、診断書の提出を求めたり、面談等を速やかに実施するなどして、注意指導を行ったり、休職を命じるべき事案か、事業所内で何らかの問題解決をすべき事案かを見極める必要があるのです。
その他、遅刻、居眠り、業務中の私物のスマートフォンの利用なども、注意をしても繰り返される場合には雇止め事由となり得ます。
(2)能力不足
例えば、どれだけ指導をしても、どうしても通常当該事業所で求められる職務能力を充たさない場合があり得ます。
そのような場合、事業所として、通常割り当てるべき仕事を割り当てることができなかったり、他の職員に負荷がかかってしまうなどして、職務が滞ったり、職場環境が悪化するという事態も発生し得ます。
また、雇用契約時に、当該職員に対して、ある一定の能力や役割を期待して雇用をしているケースがあります。
それにもかかわらず、その期待通りの能力が発揮されない場合も、事業所としては同様に悩みを抱えることになります。
職員が、怠慢により業務を怠っているのであれば注意指導を繰り返すことは有効ですが、そうでないような場合には、事業所としても当該職員の契約を更新できない状況となります。
例えば、これは普通解雇の例ですが、前原鎔断事件(大阪地裁令和2.3.3 労判1233.47)では、勤続12年以上であるにもかかわらず、例えば、伝票に記載された枚数を確認しない、伝票にサインを入れ忘れる、マグネット使用不可の指示のある製品にマグネットを使用するなど、著しい不注意や技量の低さがみられる職員の解雇に関して、普通解雇が有効となっています。
能力不足の職員や仕事ができない職員の対応方法については、以下の記事で詳しく解説していますので参考にご覧ください。
(3)ハラスメント
職員が、事業所においてある程度高い地位にある場合、他の従業員に対してセクハラやパワハラなどのハラスメント行為をしている場合は、雇止事由となります。
また、いわゆる「モンスター社員」による逆パワハラも、素行不良の類型の1つです。
「モンスター社員」への対応方法については、以下の記事で詳しく解説しているので、合わせてご覧ください。
また、「逆パワハラ」など各種ハラスメントについては、以下の記事でも詳しく解説しているので、合わせてご覧ください。
(4)メンタルヘルス
近年、メンタルヘルス不調によるトラブルは多く寄せられています。
厚生労働省による実態調査によると、平成29年11月1日から平成30年10月31日までの期間で、メンタルヘルス不調により連続1か月以上休業した労働者がいる事業所の割合は全国で6.7%、退職者がいた事業所の割合は全国で5.8%です。
一見すると小さな割合に見えるかも知れませんが、実は平成28年11月1日から平成29年10月31日までの期間を見ると、メンタルヘルス不調により連続1か月以上休業した労働者がいる事業所の割合は全国で0.4%、退職者がいた事業所の割合は全国で0.3%であり、実に15倍以上に増えています。
もちろん、メンタルヘルス不調が業務に起因するものであれば、労働災害等の問題となるため、解雇については、むしろ制限されることになります。
▶参考:労働基準法第19条
(解雇制限)
第19条 使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第八十一条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。
2 前項但書後段の場合においては、その事由について行政官庁の認定を受けなければならない。
しかしながら、入社前からメンタルヘルス不調の既往症等がある場合や、業務外の事情からメンタルヘルス不調を発症した場合、これによって休職するなど、業務に支障をきたすことが数ヶ月に及ぶような場合には、本来予定されている労働契約の本旨に従った労働を提供できないことなります。
こうした場合には、事業所としても当該職員の更新の有無を検討しなければなりません。
(5)犯罪行為
職員による犯罪行為としては、大きくわけて2つの犯罪行為があり得ます。
- 1.業務に関係する犯罪行為
- 2.業務外での犯罪行為
1.業務に関係する犯罪行為
例えば、経理のお金を横領する、事業所の備品を盗む、利用者を故意に殴ったり怪我をさせたりするなどの、まさに業務にかかわる犯罪行為は、そもそも深刻な懲戒事由です。
2.業務外での犯罪行為
例えばコンビニで万引きをした、電車内で痴漢行為をした、喧嘩で人を殴って怪我をさせたなど、様々な行為が考えられます。
もっとも、「2.業務外での犯罪行為」の場合には、必ずしも懲戒事由に当たりません。
なぜなら、雇用主が懲戒処分ができるのは、雇用主が事業所において、事業所内の秩序を維持する権限を有しているからです。
逆に言えば、もし職員が事業所外で、業務とは関係のない犯罪を行ったとしても、事業所内の秩序に悪影響を与える訳ではなく、これに対して雇用主が何らかの処分ができる立場にはないのです。
▶参考例:横浜ゴム事件(最高裁昭和45年7月28日判決)
例えば、タイヤ製造・販売会社の従業員が深夜に酩酊して他人の住居に侵入し、罰金刑を受けたため、雇用主が、就業規則上の「不正不義の行為を犯し、会社の体面を著しく汚した者」に当たるとして、同人を懲戒解雇した事案において、裁判所は、「会社の体面を著しく汚した」とまでは言えないとして、懲戒解雇を無効と判断しています。
しかしながら、他の職員からすると、業務外といえども、犯罪行為を行った職員と一緒に仕事をすることに嫌悪感や不安を感じることは当然です。
また、事業所外の犯罪であっても、その犯罪行為による事業所への影響が大きな行為であれば、事業所内の秩序に悪影響を与えたと言える場合もあります。
▶参考例:加古川市事件(最高裁平成30年11月6日判決)
例えば、職場の近くのコンビニで、女性従業員に対し、市の制服を着たまま、わいせつな行為等を行った市の職員が、このような行為に及んだこと、さらに、これが報道されて市長が記者会見で謝罪するなどして世間を騒がせたことなどから、停職6か月の懲戒処分を受けたことにつき、処分の取り消しを求めた事件では、当該職員の行為が公務一般に対する住民への信頼を大きく損なう行為であることが重視され、懲戒処分は有効とされました。
(6)経営不振
経営不振などの経営上の理由により、人員削減の手続として、雇止めが行われることがあります。
現在は、新型コロナウイルスの影響もあり、有期雇用職員の雇止めがメディアでよく取り上げられています。
8−3.雇止めのためのプロセス
ここからは、実際に雇止めをするにあたって、進めていくべきプロセスを紹介します。
(1)有期雇用契約の更新時期が雇止めのタイミング!
雇止めが解雇と異なる大きな点としては、雇止めをするタイミングが挙げられます。
つまり、解雇の場合は、解雇のためのプロセスを踏んでいき、材料が揃った段階で行使をすることになるので、事業所にとって、都合のよい時期に解雇権を行使をすることになります。
しかしながら、雇止めは、契約期間の満了を第1の理由としているものなので、雇止めするタイミングは当然、有期雇用契約の更新時期となります。
その意味では、雇止めができる時期は限られているので、限られたタイミングを逃さないよう、しっかりと準備をしていく必要があるのです。
顧問先の事業所から、「できるだけ早く見切りをつけたいから、契約期間はなるべく短くしようと思うがどうか」とのご相談を受けることがあります。しかしながら、契約期間を短くすることは、必ずしも有効ではありません。何故なら、契約期間が短いということは、それだけ雇止めをするかどうかを判断することは難しくなるからです。例えば、3ヶ月の有期労働契約を締結した場合、働き出してすぐに問題行動等が目立ち始めれば別ですが、他の職員との関係性の問題や、業務上の能力不足などは、数ヶ月が経過しないとわからないこともあります。有期労働契約を締結している事業所であっても、実際に1回きりで契約を終了しようと考えていることは少ないため、気が付けば、1回目の契約更新時期はすぐに来てしまいます。1回目はそのまま更新したものの、そこから徐々に職員の問題が目立ち始めたものの、どうしたものかと悩んでいる間に次の更新時期もすぐにやってきます。これで、既に2回の更新をしたことになり、更新が重なれば、「更新の期待」も徐々に合理的なものになっていきます。もちろん、契約期間を短期とすることのメリットもあります。
契約期間については、当該職員の契約時の状況や業務内容等を踏まえ、弁護士などの専門家に相談し、慎重に決めるようにしましょう。
(2)粘り強い注意指導
雇止めにはタイムリミットがあるものの、解雇の際と同様に、出発点となるのは、事業所から当該職員への注意指導です。
事業所としては、まずは問題行動を繰り返す職員に対して注意指導し、自らの言動や態度を反省させ、行動の改善を促すことが重要です。
1.口頭
何らかの問題行動が見られた際、最も簡易で且つすぐにできる注意指導の方法は、口頭での注意指導です。
注意指導の目的は、もちろん職員の行動の改善を促す点にありますが、必ずしも客観的な証拠が残るものではない職員の言動について、「○○の行動に対して注意指導をした」という形で証拠を残すことで、職員の言動を記録するという目的もあります。
そこで、口頭での注意指導を行う際には、できるかぎり指導の状況を録音しておく、または、指導内容やその際の職員の態度などを継続的に記録しておくことで、問題行動をとった証拠を残していきましょう。
なお、録音を撮る際には、相手の同意は必要ありません。
詳しくは、以下の動画も併せてご覧下さい。
注意指導は、職員の問題行動を現認した後は、すぐに行うようにして下さい。なぜなら、問題行動を現認したにもかかわらずその時にはこれを放置し、時間を置いてから注意すると、「あの時何も言わなかったのに急に今なんでそんなことを言うんですか?」「言いがかりです」などと、逆に反撃を受けるだけでなくよほど客観的な証拠が存在している場合でない限り、「私はそんなことはやっていません」と言い逃れをする可能性すらあるからです。録音機器がない場合であっても、形式な点にとらわれずに、まずはしっかりと、タイムリーな注意指導をすることを心がけましょう。
2.メール、Line等のチャットツール
最近は、事業所内での連絡方法として、メールやチャットツールを利用している介護事業所も多いと思います。
メールやチャットツールの良いところは、比較的速やかに注意指導ができることと、送った日付、時間、内容が記録され、それに対する相手からの返答内容も同時に記録されることです。
口頭で注意指導をした後、確認事項として改めてメールやチャットツールを利用して注意指導をしておくこと有効です。
突発的な状況で注意指導をした場合には、録音を残すことが難しい場合もあります。このような場合、例えば、注意指導の記録を、自分宛のメールやチャットに打ち込んで送信しておくと、その日に注意指導をした記録を作成したことが明らかとなるので、証拠としての価値が高い記録を残すことができます。または、注意指導をした職員から管理者に報告を上げさせる形でメールを送信させる方法も有効です。なお、LINEやその他のチャットアプリ等を利用する場合は、送信取消し等により証拠の隠滅が図られる可能性がありますので、トーク履歴を保存したりスクリーンショットをとるなどして保存しておきましょう。
3.書面
口頭やメール、チャットツール等での注意指導を繰り返しているにもかかわらず、職員の問題行動が改善されないような場合、次の手続を想定し、書面での注意指導を行いましょう。
これまでに口頭やメール等で行ってきた注意指導や、その注意指導の際の態度を含めて改めて注意指導を行います。
書面での注意指導の際には、注意指導の内容の他、当該問題行動が就業規則の服務規律に違反している旨を付け加えておくと、注意指導の理由が明確となります。
具体的には、以下のような記載です。
▶参考:書面での注意指導の参考例
○年○月○日、利用者の食事介助中であるにもかかわらず、スマートフォンを見るなどして利用者の見守りを怠っていたことから、「業務中にスマホを見るのはやめなさい」と注意すると、「見ていない」「注意されて気分が悪くなった」などと不貞腐れた態度で言い捨てると、態度を改めないばかりか、そのまま離席して控室に帰ってしまった。
これは、就業規則○条○号に定める○○に該当する。
このような注意指導書を交付する際には、これらの注意指導に対し、自らの行動をどう改善するかについて検討させ、期限を決めて提出するよう指示することも有益です。
実際に提出されれば、職員の態度も明らかになりますし、提出を拒否したとすれば、その態度自体が次の手続への根拠となります。
(3)懲戒処分
懲戒処分には、戒告や譴責(けんせき)といった、職員への影響が比較的小さいものから、減給、出勤停止、降格処分、諭旨解雇、懲戒解雇といった、職員の地位や労働契約の本質部分に影響のある重い処分まで順番に定められています。
懲戒処分をする際には、これまでに行ってきた注意指導や他の懲戒処分の存在も考慮の上、その内容を決めることになります。
そのため、事業所としては、注意指導によっても態度が改まらない職員に対しては、まずは戒告や譴責などの懲戒処分を行い、回数を重ねて行くようにしましょう。
戒告や譴責などの懲戒処分については、以下の記事で詳しく解説していますので参考にご覧ください。
無期労働契約の普通解雇の事例ですが、粘り強い注意指導や懲戒処分を行ったことにより、その後に行った普通解雇が有効とされた例として、前原鎔断事件(大阪地裁令和2.3.3 労判1233.47)があります。
前原鎔断事件(大阪地裁令和2.3.3 労判1233.47)
事案の概要
「就業状況が著しく不良で就業に適さないあるいはこれに準ずるもの」であるとして普通解雇された原告が、解雇が無効であるとして地位確認、未払賃金及び遅延損害金の支払い等を請求した事案。
裁判所の判断
原告は、普通解雇までに、複数回の始末書や顛末書の提出、出勤停止を含む3回の懲戒処分、さらには度重なる注意指導を受けており、これにより、「就業状況が著しく不良で就業に適さないあるいはこれに準ずるもの」にあたることは明白であったとして、普通解雇には客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると判断された。
注目すべきは、書面として残っている始末書等のほか、被告の上司である主任が、原告について「教育記録」つけており、その中で、伝票に記載された枚数を確認しない、サインを入れ忘れるなど、取引先に対して迷惑をかけるような原告の日々のミスを、日付と共に詳細に記録しており、この「教育記録」に記録されていた事実が、原告の就業状況の不良さを根拠づけるものとして数多く認定されていることです。
(4)退職勧奨
注意指導や懲戒処分によっても態度が改まらない場合、事業所としては、退職勧奨により、職員の自主的な退職を促すことも考えられます。
退職勧奨は、解雇や雇止めとは異なり、なんらの強制的な手段も伴うものではありませんが、退職時のさまざまな条件の取り決めができるなど、うまく利用ができれば非常に効果的な手段です。
退職勧奨については、以下の記事をご覧ください。
また、以下の動画も併せてご覧下さい。
9,雇止めのための手続
ここからは、労働契約法19条1号、2号の適用にかかわらず、雇止めをする際に必要となる手続について解説します。
9−1.契約期間の満了の1か月以上前に通知
厚生労働省が出している「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」第2条は、「有期労働契約を更新しない場合には、少なくとも契約の期間が満了する日の30日前までにその予告をしなければならない」、と規定しています。
雇止めの告知は、口頭でも問題はありませんが、告知をした日や内容を確実にするためには、書面による通知をすることが重要です。
雇止めの通知に記載すべき事項は、以下の内容です。
(1)雇止め通知の記載事項
- 1.期間満了の日
- 2.「1.期間満了の日」の期間の満了をもって、契約を更新しない旨
- 3. 契約を更新しない理由
なお、30日前までの予告が必要な職員は、以下の通りであって、あらかじめ当該契約を更新しない旨が明示されていない職員です。
・有期労働契約が3回以上更新されている職員
又は
・1年を超えて 継続して雇用されている労働者
もっとも、このような形式面でのミスにより雇止めが無効となることは避ける必要がありますので、仮にこれらの条件に該当しない職員に対してであっても、予告をすることをお勧めします。
9−2.有給休暇の処理
30日前に雇止めの予告をする場合、職員からその期間について有給休暇を取りたい旨の主張がされることがあります。
有期労働契約の場合は、勤務期間が短期間であることも多いので、有給休暇が発生していないか、またはそれほど多くの日数ではない場合も多いかもしれません。
とはいうものの、有給休暇が残っていた場合には、職員の権利であることから、有給休暇を取りたいとの主張を制限することはできません。
もっとも、例えば有給休暇の買取等を求めてきた場合、有給休暇の買取は法的には認められていないので、応じる必要はありません。
9−3.雇止め後の手続
以下では、雇止めをした後、事業所が行うべき手続について説明します。
(1)離職証明書の発行
退職者は、失業保険の受給申請をするために、「離職票」をハローワークに提出する必要があります。
そのため、職員からは、「離職票」を出して欲しいとの申し出がされること多いため、事業所は、職員の離職後、離職票をハローワークから交付してもらう必要があります。
具体的には、事業所は、ハローワークに対して、職員が被保険者でなくなった事実があった日の翌日から起算して10日以内に「離職証明書」を提出します。
この離職証明書は、3枚1組の複写式となっており、その中に、「離職票」が含まれています。
事業所が、離職証明書を作成してハローワークに提出すると、この「離職票」の交付を受けられるため、これを職員に交付し、職員からハローワークに、必要事項を記載の上提出するという流れになります。
詳しくは、以下の厚生労働省のページをご覧ください。
(2)雇止理由証明証の発行
厚生労働省が出している「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」第3条では、使用者は、雇止めの予告後及び雇止めの後に労働者が雇止めの理由について証明書を請求した場合は、 遅滞なくこれを交付しなければならない旨定めています。
具体的には、「契約期間の満了」とは別に、以下のような理由を記載してください。
- 前回の契約更新時に、本契約を更新しないことが合意されていたため
- 契約締結当初から、更新回数の上限を設けており、本契約はその上限にかかるものである ため
- 担当していた業務が終了・中止したため
- 事業縮小のため
- 業務を遂行する能力が十分ではないと認められるため
- 職務命令に対する違反行為を行なったこと、無断欠勤をしたことなど勤務不良のため
10.無期転換ルールとは?
無期転換ルールとは、平成25年4月1日より、有期労働契約が更新され、契約期間が通算して5年を超えた場合、労働者からの申込みにより、無期労働契約に転換することができることが、労働契約法18条に定められました。
具体的には、例えば契約期間が1年の有期契約であった場合、5回目の更新後の契約期間である1年間のに無期転換の申込権が発生することになります。
また、契約期間が3年の有期契約であった場合、1回目の更新後の契約期間である3年間に無期転換の申込権が発生することになります。
厚生労働省の以下のホームページも参考にご覧ください。
10−1.無期転換ルールを免れる方法はあるか?
結論からいえば、無期転換ルールを免れる方法はありません。
そのため、平成30年4月1日(平成25年4月1日から5年後)からは、有期社員の無期転換申込権が発生していることになるため、就業規則や社内制度等の検討・整備等が進んでいない事業所にとっては、早急な対応が必要となります。
例えば、有期契約労働者と無期契約労働者の就業規則のほか、無期転換労働者の就業規則を整備したり、労使間での担当業務や処遇などの労働条件を十分に確認することが重要になります。
また、有期契約労働者を無期転換ルールの対象としない、という前提であれば、更新の回数や期間を初めから5年を超えない期間に限定をしておき、「有期契約」の実態から乖離しないように対応をする必要があります。
11.雇止めが不当と判断されたら?
ここでは、雇止めが違法と判断された場合にどのようなリスクがあるのかを説明した上で、雇止めを検討する場合に弁護士に相談をしたほうがよい理由を解説します。
11−1.雇止めが不当となった場合のリスク
雇止めが無効と判断されることにより、次の3つの問題が発生します。
- (1)職員が職場に戻ってくる
- (2)バックペイの支払い
- (3)慰謝料の発生
以下、順に見ていきます。
(1)職員が職場に戻ってくる。
雇止めが無効ということになれば、事業所と当該職員との間の労働契約が継続していることになります。
その場合、実は最も恐るべきことは、当該職員が職場に戻ってくることです。
事業所として、雇止めの判断をした職員が職場に戻って来れば、これによる職場環境の悪化は避けられません。
通常は、一度雇止めをされた職場に戻ってくる職員は少ないですが、事業所にとっては最も避けたいことの1つです。
(2)バックペイの支払い
雇止めが無効になるということは、職員は労務を提供できる状況であったにもかかわらず、事業所側が理由なく労務提供を拒否していたことになるため、事業所側の賃金の支払い義務は無くなりません。
そのため、事業所は雇止めをした時以降の賃金を支払わなければならなくなります。
例えば以下のような事例を考えてみましょう。
事例
- 1)月給20万円の有期契約職員(当月20日締め、当月末日払い、契約期間1年間)
- 2)令和3年4月30日付で雇止め(令和3年5月分からの給与を支払っていない)
このような状況で、職員が、令和3年8月、雇止めを理由として労働者としての地位確認及びバックペイの支払いを求める訴訟を提起したとします。
労働者としての地位確認の裁判は、事実関係の争いなどが多岐に及ぶこともあり、裁判が1年以上続くことも珍しくありません。
この件でも、最終的に判決が確定したのが、令和4年8月31日だったとします。
結果は、雇止めが無効とされ、当該職員にはまだ「労働者としての地位がある」との判断がされました。
この時、判決確定時のバックペイの金額は、以下の通りとなります。
しかし、これで終わりではありません。
判決は、当該職員に「労働者としての地位がある」と判断しています。つまり、令和4年9月分以降も、毎月20万円の給与が発生し続けるのです。
(3)慰謝料の発生
さらに、雇止めが違法とされた場合、このような違法な雇止めをしたことに対する慰謝料が請求されることもあります。
特に、その雇止め理由が不当なものでであった場合、行為の悪質性から慰謝料額が増額される可能性もあります。
また、雇止めの無効を主張しながら、職場復帰を望まない職員からは、「(2)バックペイの支払い」の相当額を加味した損害賠償請求がされる可能性があるため、事業所としては、職員が職場復帰することは避けられたとしても、結果として紛争が終了するまでの期間の給与相当額を支払わなければならない可能性があります。
11−2.雇止めが不当として無効となった具体例【裁判例】
博報堂事件(福岡地裁令和2年3月17日判決)
先に紹介した博報堂事件(福岡地裁令和2年3月17日判決)では、被告である会社からは、
- 人件費の削減を行う必要性があったこと
- 原告が従事できる業務が存在しなくなったこと
- 原告の担当していた業務が人員を1名必要とするほどのものではなく外注によってもまかなえるものであったこと
- 原告がコミュニケーション能力に問題があり、コミュニケーション不足が原因でグループ 会社の担当者からクレームが来たこともあったこと
などを指摘して、雇止めの有効性が主張されていました。
裁判所の判断
しかしながら、裁判所は、以下のように判断し、雇止めを無効としました。
- 被告の主張する人件費の削減や業務効率の見直しの必要性は、およそ一般的な理由であり、本件雇止めの合理性を肯定するには不十分である。
- 原告のコミュニケーション能力の問題については、雇用を継続することが困難であるほどの重大なものとまでは認め難い。
- 原告を新卒採用し、長期間にわたって雇用を継続しながら、その間、被告が、原告に対して、その主張する様な問題点を指摘し、適切な指導教育を行ったともいえない。
その結果裁判所は、原告の雇用契約上の地位を認めた上で、1年9ヶ月分、1ヶ月25万円のバックペイの支払いを命じています。
11−3.雇止めを検討する場合は必ず弁護士に相談を!
雇止めをするにあたっては、まずはこの雇止めが期間満了のみでできるものであるかどうかの検討から、仮に解雇と同様の配慮が必要となった場合には相当な準備を積み重ねておく必要があり、1つでもプロセスを誤れば無効となるリスクは高くなります。
すなわち、雇止めという選択肢をとるためには、初期対応時からの計画的な準備が必要なのです。
このような時に、すぐに相談ができる労働法や労働問題に強い弁護士のサポートがあることは重要です。
初期対応の段階から弁護士へ相談することで、安易な雇止めに踏み切らず、必要な証拠を揃えていきながらも、プロセスを確実に履践することができます。
事業所として対応が難しくなるよりももっと以前に、取るべき手段がまだ数多く残されているうちに、弁護士に相談することを心がけましょう。
初めてご相談をお受けする時、弁護士として非常に悩ましいのは以下のような状況です。・既に雇止めしてしまい、労働者側の弁護士から通知書が届いている。
・雇止めをするための契約期間満了の時期が1ヶ月以内に差し迫っていて時間的猶予がない。
・有効な雇止めをするために必要となる注意指導をしていなかったり、そもそも就業規則が整備されていない。このようなご相談をお受けすると、「もう少し早くご相談をお受けしていれば…」ともどかしい気持ちになります。どのような問題であっても、早くご相談を頂ければ頂けるほど、複数の選択肢から解決方法を選ぶことができ、選んだ解決方法を適法にとるための準備も十分に行うことができます。例えば、「雇止めしか方法がない!」という事態になる前に、注意指導を粘り強く続けることで、自ら期間満了で退職をしたり、退職勧奨によって合意の上退職をしてもらうことも可能な場合があります。「こんなことで…」と思わずに、気になることがあれば、すぐに相談ができる弁護士の存在は重要です。
12.介護業界に特化した弁護士法人かなめによるサポート内容のご案内!
弁護士法人かなめでは、介護業界に精通した弁護士が、以下のようなサポートを行っています。
- (1)雇止めに至るまでの手続に対する指導、助言
- (2)有期雇用契約書のリーガルチェックや就業規則の策定に対する助言
- (3)雇止めについて職員から争われた場合の法的対応
- (4)労働判例研究ゼミ
- (5)顧問サービス「かなめねっと」
12−1.雇止めに至るまでの手続に対する指導、助言
職員を雇止めするためには、更新の期待が発生している場合には、解雇と同様のプロセスが求められるため、このプロセスを確実に踏んでいくことが重要です。
しかしながら、既に事業所内で、当該職員に関する問題が顕在化している場合、このようなプロセスを踏んだ対応が難しく、さらに期間が迫ることで違法な雇止めをしてしまうことが避けられません。
そのため、雇止めを検討するかなり初期のタイミングから、専門家の意見を仰いでおくことが重要なのです。
早期に相談を受けられれば、証拠の残し方、注意指導をする際の準備などを、計画的にサポートした上、実際に雇止めを行うタイミングも含め、指導することが可能です。
12−2.有期雇用契約書のリーガルチェックや就業規則の策定に対する助言
社会保険労務士に、雇用契約書や就業規則の策定をお願いしている事業所も多いのではないかと思います。
もちろん、社会保険労務士が策定した雇用契約書や就業規則の内容は、法的には適法かもしれませんが、それだけでは、必ずしも事業所の規模や実態とあった内容となっていない可能性があります。
また雇用契約書上、更新の有無について「有」と記載しているだけでも、更新の期待の判断に影響することもあります。
そこで、事業所の実態にあった、使い勝手のいい雇用契約書や就業規則を策定し、運用していくためには、社会保険労務士だけでなく、弁護士とも連携する必要があります。
弁護士法人かなめでは、介護事業所の労務管理に精通した弁護士が、社会保険労務士と協力の上、雇用契約書や就業規則のリーガルチェック、策定をサポートします。
12−3.雇止めについて職員から争われた場合の法的対応
雇止めは、その性質上、職員から無効の主張がされることを、ある程度織り込み済みで対応をする必要があります。
そのため、事業所としては、雇止めに至るまでの対応の記録の保管や、職員本人からの無効主張への対応、職員が駆け込んだ労働基準監督署からの聴取への対応など、通常業務と異なる事務対応に疲弊してしまいます。
弁護士法人かなめでは、雇止めに至るまでの対応からサポートをしていますので、記録の整理の他、労働基準監督署、職員本人との対応、交渉業務をスムーズに代行することができ、事業所の皆様が、安心して本来の業務に専念できる環境作りをサポートできます。
12−4.労働判例研究ゼミ
弁護士法人かなめでは、普段の労務管理の参考になる労働判例を取り上げ、わかりやすく解説する労働判例研究ゼミを不定期に開催しています。
ゼミの中では、参加者の皆様から生の声を聞きながらディスカッションをすることで、事業所に戻ってすぐに使える知識を提供しています。
詳しくは、以下のページをご覧下さい。
12−5.顧問弁護士サービス「かなめねっと」
弁護士法人かなめでは、「12−1」、「12−5」のサービスの提供を含めた総合的なサービス提供を行う顧問契約プラン「かなめねっと」を運営しています。
具体的には、トラブルに迅速に対応するためチャットワークを導入し、事業所内で何か問題が発生した場合には、速やかに弁護士へ相談できる関係性を構築しています。
そして、弁護士と介護事業所の関係者様でチャットグループを作り、日々の悩み事を、法的問題かどうかを選択せずにまずはご相談頂き、これにより迅速な対応が可能となっています。
現場から直接弁護士に相談できることで、事業所内での業務効率が上がり、情報共有にも役立っています。
また、「かなめねっと」については、以下の記事でも詳しく説明していますので、併せてご覧ください。
12−6.弁護士費用
また、弁護士法人かなめの弁護士費用は、以下の通りです。
(1)顧問料
- 月額8万円(消費税別)から
※職員の方の人数、事業所の数、業務量により顧問料の金額は要相談とさせて頂いております。詳しくは、お問合せフォームまたはお電話からお問い合わせください。
(2)法律相談料
- 1回目:1万円(消費税別)/1時間
- 2回目以降:2万円(消費税別)/1時間
※相談時間が1時間に満たない場合でも、1時間分の相談料を頂きます。
※法律相談は、「1,弁護士法人かなめにご来所頂いてのご相談」、又は、「2,ZOOM面談によるご相談」に限らせて頂き、お電話でのご相談はお請けしておりませんので、予めご了承ください。
※また、法律相談の申込みは、お問合わせフォームからのみ受け付けおります。
※介護事業所の経営者側からのご相談に限らせて頂き、他業種の企業様、職員等一般の方からのご相談はお請けしておりませんので、予めご了承ください。
13.まとめ
この記事では、「雇止め」について、解雇との違いや法律上の規制、特に労働契約法19条の規制について、裁判例を参照しながら詳しく解説しました。
また、「雇止め」にあたって、解雇と同様の要件が必要となる場合の具体的な手続についても紹介しました。
さらに、「雇止め」をする際に、弁護士に相談すべき理由についても解説しておりますので、実際に「雇止め」を進める場合には、参考にして下さい。
「弁護士法人かなめ」のお問い合わせ方法
介護事故、行政対応、労務問題 etc....介護現場で起こる様々なトラブルや悩みについて、専門の弁護士チームへの法律相談は、下記から気軽にお問い合わせください。
「受付時間 午前9:00~午後5:00(土日祝除く)」内にお電話頂くか、メールフォーム(24時間受付中)よりお問合せ下さい。
介護事業所に特化した法務サービス「かなめねっと」のご案内
弁護士法人かなめではトラブルに迅速に対応するためチャットワークを導入しています。他にはない対応力で依頼者様にご好評いただいています。
「かなめねっと」では、弁護士と介護事業所の関係者様、具体的には、経営者の方だけでなく、現場の責任者の方を含めたチャットグループを作り、日々現場で発生する悩み事をいつでもご相談いただける体制を構築しています。
法律家の視点から利用者様とのトラブルをはじめ、事業所で発生する様々なトラブルなどに対応します。 現場から直接、弁護士に相談できることで、社内調整や伝言ゲームが不要になり、業務効率がアップします!
介護業界に特化した経営や現場で使える法律セミナー開催情報
弁護士法人かなめが運営する「かなめねっと」では、日々サポートをさせて頂いている介護事業者様から多様かつ豊富な相談が寄せられています。弁護士法人かなめでは、ここで培った経験とノウハウをもとに、「介護業界に特化した経営や現場で使える法律セミナー」を開催しています。セミナーの講師は、「かなめ介護研究所」の記事の著者で「介護業界に特化した弁護士」の畑山が担当。
介護施設の経営や現場の実戦で活用できるテーマ(「労働問題・労務管理」「クレーム対応」「債権回収」「利用者との契約関連」「介護事故対応」「感染症対応」「行政対応関連」など)を中心としたセミナーです。
弁護士法人かなめでは、「介護業界に特化した弁護士」の集団として、介護業界に関するトラブルの解決を介護事業者様の立場から全力で取り組んで参りました。法律セミナーでは、実際に介護業界に特化した弁護士にしか話せない、経営や現場で役立つ「生の情報」をお届けしますので、是非、最新のセミナー開催情報をチェックしていただき、お気軽にご参加ください。
介護特化型弁護士による研修講師サービスのご案内
弁護士法人かなめが運営している社会福祉法人・協会団体・自治体向けの介護特化型弁護士による研修講師サービス「かなめ研修講師サービス」です。顧問弁護士として、全国の介護事業所の顧問サポートによる豊富な実績と経験から実践的な現場主義の研修を実現します。
社会福祉法人の研修担当者様へは、「職員の指導、教育によるスキルアップ」「職員の悩みや職場の問題点の洗い出し」「コンプライアンスを強化したい」「組織内での意識の共有」などの目的として、協会団体・自治体の研修担当者様へは、「介護業界のコンプライアンス教育の実施」「介護業界のトレンド、最新事例など知識の共有をしたい」「各団体の所属法人に対して高品質な研修サービスを提供したい」などの目的として最適なサービスです。
主な研修テーマは、「カスタマーハラスメント研修」「各種ハラスメント研修」「高齢者虐待に関する研修」「BCP(事業継続計画)研修」「介護事故に関する研修」「運営指導(実地指導)に関する研修」「各種ヒヤリハット研修」「メンタルヘルスに関する研修」をはじめ、「課題に応じたオリジナル研修」まで、介護事業所が直面する様々な企業法務の問題についてのテーマに対応しております。会場またはオンラインでの研修にご対応しており、全国の社会福祉法人様をはじめ、協会団体・自治体様からご依頼いただいております。
現在、研修講師をお探しのの介護事業者様や協会団体・自治体様は、「かなめ研修講師サービス」のWebサイトを是非ご覧ください。