介護事故が発生すると、介護事業所には様々な対応が求められます。
介護事故にあった利用者の救護はもちろん、利用者家族への報告や対応、行政への報告、事故原因の検証、再発防止策の検討の他、場合によっては警察への対応が求められることもあります。
そして、介護事故は、利用者の生命身体に多大な影響を及ぼすものであるがゆえ、対応を誤まれば、利用者や利用者家族からのハードクレームにつながることもありますし、事故の内容によっては、安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求訴訟を提起されたり、職員が刑事責任を問われる可能性もあります。
日々の多忙な業務の中、慣れない対応を迫られることで、職員は疲弊してしまい、中には責任を感じて気を病み、精神疾患を発症したり、離職してしまうケースもあります。
さらには、介護事故の発生による風評被害により利用者が減少し、経営状況が悪化したり、指定の効力停止や指定取消などの行政処分により、そもそも事業継続ができなくなる事態もあり得ます。
このような介護事故に付随して発生する様々な問題へ対応する際、おすすめしたいのが弁護士への相談です。
この記事では、介護事故への対応に関して、弁護士へ相談することの意義のほか、弁護士に介護事故の対応を依頼することで、どのような対応をしてもらえるのかについて、具体的な事例を踏まえながら解説します。
また、この記事を読むことで、介護事故に強い弁護士の探し方の他、実際に依頼する際の費用などについても知ることができるので、介護事故への対策として弁護士を探している介護事業所の皆さんは、参考にしてみてください。
この記事の目次
1.介護事故を弁護士に相談すべき理由
まずは、介護事故が発生した際に、弁護士に相談すべき理由を3つ紹介します。
1−1.介護事故発生時には何が起きる?
介護事故が発生すると、介護事業所では同時に複数の対応が必要となります。
具体的には、利用者自身の救護はもちろんのこと、利用者家族への連絡・対応、行政への報告、介護事故を起こしたまたは発見した職員からの事故状況の聞き取り、当該職員への処分の検討の他、さらには事故内容によっては警察対応、行政対応、民事訴訟への対応、マスコミへの対応などが必要となります。
このような、様々な手続きや、法的責任への対応が必要となる結果、職員の業務量が増えることはもちろんのこと、1つ1つの対応に不安を感じ、疲弊していきます。
介護事故発生時の影響については、以下の記事でも具体的に解説していますので、併せてご覧下さい。
1−2.介護事故は初動が重要!
介護事故が発生した際、最も気を使うのは利用者や利用者家族への対応です。
例えば、介護事故発生時の混乱の中、利用者家族への報告が遅れたり、不正確な報告をすることで、利用者家族から不信感を買い、その後の説明や交渉がうまくいかなくなり、ハードクレームに繋がったり、訴訟での対応を余儀なくされることになります。
さらには、「介護事故が発生した際には謝罪をしてはいけない」という誤った認識から、利用者家族に対して不遜・不誠実な態度をとり、これによって交渉が難航することもあります。
介護事故発生時の謝罪に関しては、以下の動画でも詳しく説明していますので、併せてご覧下さい。
また、介護事故が発生すると、類型によっては5日以内に行政に報告をする必要がありますが、これが何らかの理由で遅れ、報告前に利用者家族や内部通報等によって先に行政が知ることとなった場合、指導や監査等の対象となる可能性があります。
事故報告に関しては、以下の記事や動画でも詳しく説明していますので、併せてご覧下さい。
1−3.保険会社が交渉代行できない!
交通事故を経験したことがある方は、保険会社が事故の相手方との交渉を代行してくれた経験があるかもしれません。
本来、示談交渉の代行は弁護士にしか認められていませんが(弁護士法72条)、任意保険会社は、保険金の支払い責任を負う限度において、被保険者の同意を得て交渉等を行うことができることになっています。
もちろん、任意保険会社がこのような示談交渉の代行ができるのは、一定の限られた場合ですし、できることも限られていますが、それでも、交通事故の多くはこの交渉代行によって解決でき、被保険者は自ら交渉する不安やストレスを軽減することができています。
なお、任意保険会社がこのような示談交渉の代行をするのは、これを1つのサービスとして、保険の内容に組み込んでいるからです。
しかしながら、介護事業所が加入する任意保険には、示談交渉の代行サービスがありません。
その理由は、交通事故の場合は、事故類型や損害の程度により、ある程度過失割合や損害額の算定方法が確立している一方、介護事故に関してはその種類も態様も様々で、極めて専門的であり、保険会社が示談交渉を代行できるような類型ではないからです。
そのため、介護事業所は、利用者や利用者家族との間で、直接、介護事故に関する交渉をしなければならないのです。
2.介護事故を弁護士に相談するメリット
以上のような介護事故の特殊性から、介護事業所は、介護事故が発生すれば、同時に複数の対応を、しかも迅速に行わなければならず、さらには慣れない交渉業務も自ら行う必要があり、これによる混乱や業務の圧迫は避けられません。
このような場合に、弁護士に相談することで、適時に助言を受けながら不安なく対応や交渉を進めることができたり、必要な書面作成を代行してもらうなどすることで、業務への負担を大きく減らすことができます。
そして何より、初動段階から相談することで、どうしても交渉や対応がうまくいかなくなった時、スムーズに窓口対応を弁護士に変更することができます。
具体的なメリットを整理すると、以下の通りです。
- 介護事故において最重要な初動を不安なく対応できる
- 適時に必要なアドバイスを受けられるので、安心して対応ができる
- 解決までの流れや解決に向けての提案を具体的に示してもらえるため、見通しがつきやすくなる
- 書面作成などを弁護士に任せることが出来るので、職員の業務負担が減る
- いざという時に対応窓口を引き継いでもらえる
3.介護事故における弁護士の役割
ここでは、介護事故に関して、弁護士はどのような役割を果たすことができるかについて具体的に解説します。
3−1.介護事故発生前の役割
介護事故は、まずは未然に防ぐことと事前の備えが重要です。
そこで、介護事故の防止や介護事故発生時の対応についての研修を定期的に行う必要がありますが、この研修を弁護士に依頼することで、より実践的な対策を実施することが可能です。
介護事故防止対策については、以下の記事でも詳しく説明していますので、併せてご覧下さい。
3−2.介護事故発生時の役割
介護事故が発生した直後は、ここまでに解説したようにさまざまな事態が同時に発生します。
特に、利用者家族や行政との初期対応は非常に重要で、これらが後手に回れば、その後の示談交渉に支障が出たり、行政からあらぬ疑いをかけられ、実地(運営)指導や監査の対象となり得ます。
さらには、介護事故の内容によっては、施設へ警察の捜査が入ったり、管理者や担当の介護職員が事情聴取を受けるなど、現場は混乱します。
このような場合に、介護事故発生の初期段階から弁護士に相談をしておけば、利用者家族とファーストコンタクトをとる前に適切な助言を受けられたり、行政への説明の方法や程度などを相談でき、職員も安心して対応に臨むことができます。
そして、慣れない警察からの捜査に対しても、弁護士からその手続の説明を受けることで過度に恐れることなく対応できますし、場合によっては弁護人として直接警察対応をすることも可能です。
介護事故が発生したら、できるだけ早く信頼できる弁護士に相談することが重要です。
3−3.介護事故発生後の役割
介護事故への初動対応が落ち着いた後は、事故原因の分析や再発防止策の検討が重要です。
そのため、まずは事故状況を正確に把握するための職員からの聞き取り、事故状況の再現などによる報告書の作成などが必要ですが、これを弁護士が一緒に行うことで、介護事故の裁判等で問題になるポイントを押さえた聞き取りや調査が可能となります。
そして、再発防止策の検討に当たっても、弁護士を加えて行うことで、他の事業所の事例や事故防止に関する様々なアドバイスを受けることができ、より実効性のある再発防止策を立てることができます。
【弁護士 畑山 浩俊のワンポイントアドバイス】
弁護士との関わり方については、「スポット契約」と「顧問契約」が存在します。
スポット契約は、ある個別案件限りで弁護士に依頼をするもの、顧問契約は、具体的な事件の有無にかかわらず、継続的に顧問料を支払って日々の法律相談等を行うものです。
スポット契約と顧問契約には、それぞれ費用的な側面などで違いはありますが、介護事故が発生した際に、すぐに相談ができ、事業所の状況に応じたアドバイスがもらえるのは、やはり顧問契約の場合です。
スポット契約で介護事故対応を依頼する場合、そのタイミングは、既に事故からしばらくの時間が経過し、利用者家族との関係性が拗れているような時期になることが通常です。さらには、弁護士の必要性を感じた後、まずは弁護士を探すことから着手しなければならない場合が多く、さらに状況は悪化している可能性が高いです。
その場合、弁護士が介入をしてもとり得る手段は限られており、既に訴訟以外に選択肢がないような状況もあり得ます。さらに言えば、初めて依頼をする弁護士に対しては、介護事業の概要や、事業所がどんな介護事業を営んでいるかから説明をする必要もあり、すぐにアドバイスをもらいたい状況の中でストレスを感じる方も多いのではないかと思います。
一方、顧問契約を締結しており、日頃から連絡を密に取り合っていれば、弁護士も事業所の状況等が把握できており、いざ介護事故が発生した際にも、躊躇なく連絡ができますし、前提の説明を省いてすぐに事故の説明に入ることができます。
このような理由から、弁護士法人かなめでは、介護事業所の皆さんにこそ、顧問契約をおすすめしており、日頃からの信頼関係の構築と初期段階からの相談をご提案させていただいているのです。
介護事業所における顧問弁護士の在り方については、以下のページでも解説していますので、併せてご覧下さい。
4.介護事故発生時の弁護士の関わり方を具体例をもとに解説
実際に、介護事故の発生時、相談できる弁護士がいることでどのようなことが実現できるでしょうか。
以下では、弁護士法人かなめが実際に対応した事例を参考に、ある介護事業所で、介護事故が発生したことを前提に、具体的な弁護士との関わり方について解説します。
4−1.設定
【設例】
特別養護老人ホームを運営しているA事業所で、朝食の時間に、利用者Bさんの転倒事故が発生しました。
そばにいた職員がすぐに様子を確認すると、立ち上がることができない状況であったことから、他の職員が119番通報をし、その後駆けつけた救急隊員により救急搬送されました。
なお、A事業所は、数ヶ月前より、法律事務所Kと顧問契約を締結しており、利用契約書のリーガルチェックの他、カスタマーハラスメントに対する相談等を行っていました。
4−2.第一報
A事業所の管理者であるCは、A事業所を運営する法人代表者に確認の上、Bの救急搬送直後、法律事務所Kへ介護事故が発生したことについて、チャットワークを利用して以下のような第一報を入れました。
「今朝の○時ごろ、利用者様(90代女性)が、広間で転倒し救急搬送されました。今、うちのスタッフが病院に付き添っていて、報告を待っているのですが、何か今の段階で気を付けることがあったら教えてください。」
このチャットを送ってから10分も経たないうちに、法律事務所Kの弁護士から返信がありました。
「ご連絡をいただきありがとうございます。状況について確認をさせていただきたいので、今からお電話させていただいてもよろしいでしょうか」
これに対して、Cがすぐに電話できる旨を返信すると、法律事務所KのH弁護士から電話がかかってきました。
4−3.ご家族への報告
CはH弁護士に、Cが把握している事故状況等について説明しました。
もっとも、現段階では、まだ事故を目撃した職員からもしっかりと話は聞けておらず、Bの状態もわからない状況であるため、事故の全貌ははっきりしていませんでした。
そこで、CからH弁護士に、「ご家族へ連絡をする必要があるのですが、どうすれば良いでしょうか」と説明をしたところ、H弁護士からは「現時点ではわからないことも多いので、改めて調査や確認をすることを前提に、すぐにご家族へ連絡をとってください。生死に関わる場合、連絡等の遅れや状況の誤った伝達によって、ご家族の信頼を大きく損なう場合があります。病院に付き添っている職員の方に一度連絡を取って状況を確認し、今わかっていることを正確にご家族へ伝えてください」との助言がありました。
この時、CはH弁護士に対して、併せて、「謝ってしまうと施設が責任を負わなければならなくなると聞いたのですが、現時点では謝らなくていいでしょうか」と確認をしたところ、「施設内で起きた事故に対して、道義的に謝罪をすることにはなんの問題もないですし、むしろ謝罪しないことで、利用者家族からの信頼を無くしたり、不快な思いをさせて関係を悪くする可能性があります。施設内で起きたことに関しては真摯に謝罪し、それを超えて賠償の話等になりそうになったら、必ず話を持ち帰るようにしてください」と助言されました。
そこでCは、H弁護士との電話が終わった後、すぐに病院に付き添っている職員へ連絡を取ったところ、今緊急手術をしている状況とのことであるものの、はっきりしたことは医師からも教えてもらえていないとのことでした。
そのため、Cは取り急ぎキーパーソンである長女に連絡をし、Bが転倒して救急搬送されたこと、現在緊急手術中で状況は不明であること、病院名等を説明の上、詳細が分かり次第随時報告する旨を伝えました。
4−4.事故報告書の作成
その後、Bの手術は無事に完了し、行政へ提出する報告書の着手に入りました。
しかしながら、Cとしてはまだ職員等からの十分な聞き取りができておらず、正確な事故状況を説明したり、再発防止策を出すことは難しいため、報告をどのように行うべきかについて、H弁護士に相談しました。
そうしたところ、H弁護士からは「行政への報告は、まずは適時に行う必要があるので、現在正確にわかっていることだけ記載して第一報をしておきましょう。書式を見るとわかるように、この事故報告書は何度か提出されることが予定されているので、改めて正確な事実や詳細な事実がわかったり、再発防止策を練ってから再度提出すれば大丈夫です。報告書ができましたら、私の方でも確認するので、おっしゃってください。」との助言がありました。
そこでCは、現時点で把握している事実のみを端的に記載し、不明な点は追って調査中とした上で、事故から3日後に事故報告書を提出しました。
その後、Cは、H弁護士の立ち会いの下、Bの転倒を目撃し、介助した職員との面談を実施しました。面談は、 ZOOMでそれぞれを繋いで実施され、H弁護士からの質問を中心に、聞き取りを行いました。
その際、職員からは、複数人の食事介助が必要な必要な状況だったことから、Bが食事が終わったことに気付かず、その後自ら立ち上がってしまい、転倒をしてしまったということでした。
H弁護士からは、その面談時、本件事故時の職員と利用者の数、利用者の介護度などの聞き取りと確認依頼があり、さらに現場の写真を撮影し、職員や利用者の配置がわかる見取り図を作成しておくよう指示があったため、早急に確認作業等を行いました。
事故の再現などをしてみることで、普段職員を配置していた場所は、全体を見渡すことが難しく、介護度の高い利用者も一緒に食事介助をしていたため、全員に目が届きにいくい状況があったことがわかってきました。
そこで、新たな事故報告書と、これに付随する形で、調査結果や資料などを添付しておくことになりました。
4−5.警察への対応
事故対応が少し落ち着いてきた頃、警察から「○日に起きた事故の件で現場等の確認をしたい。明日事業所へ行く」と突然連絡がありました。
突然の警察からの連絡に動揺し、誰か逮捕されるのかなど不安になったため、その日のうちにH弁護士に相談をしました。
これに対して、H弁護士からは「介護事故が起こると、職員に業務上過失致傷罪という犯罪が成立する可能性があり、念のためにその捜査にくるのだと思います。特に包み隠すことなく、わからないことはわからないとはっきり説明するようにしてください。今わかっている範囲の情報を、その日事情を聞かれそうな職員同士で共有しておいてください。その上で、もし警察の態度が非常に高圧的だったり、過失があることを前提としたようなものである場合は、事情聴取中であっても、「顧問弁護士に確認する」と伝えていつでも相談してください。あまり気負わず、ありのままを話してくれたら大丈夫ですよ」と説明されました。
そこで、Cは、職員らに対して、H弁護士から聞いた内容を共有し、翌日の警察対応に臨みましたが、困ったら弁護士に相談できる、という安心感があったおかげで、支障なく進めることができました。
4−6.ご家族との交渉
利用者の怪我は大腿骨の骨折であり、入院生活も相まって車椅子でなければ移動ができない状況となりました。
Cは、H弁護士からの指示により、事前に保険代理店へ連絡をとり、事故状況の調査をしてもらうのと併せ、利用者家族に対しては、保険対応を行うことや、そのための調査が必要であることを説明しました。
その上で、折を見て利用者家族に状況を確認し、不便がないかや、配慮できることがないかなどを確認したり、治療費等の負担状況を確認していましたが、入院から1ヶ月ほどが経過し、これ以上は、症状が改善しない状態(症状固定)となりました。
保険会社の調査の結果、転倒事故については事業所側に過失がある疑いがあるとの判断が示されたことから、これを前提にH弁護士とZOOMでの面談を実施し、今後の方針について話し合いました。
その際、Cは、H弁護士から「保険を適用することで、金額によっては次年度以降の保険料が上がるなどの影響が出る可能性もあるため、その点も考慮に入れて支払い金額を検討しましょう」とアドバイスを受けたため、これらも確認の上、結果として、入院等にかかった治療費等の実費の他、幾らかのまとまった慰謝料を支払うことを決め、Bの家族との話し合いの機会を持ちました。
話合いの際には、今回事業所内で発生した事故で、多大な迷惑をかけたことをまず謝罪の上、利用者の状況を確認しながら慎重に上記の提案をしました。
【弁護士 畑山 浩俊のワンポイントアドバイス】
弁護士の仕事は、依頼者に代わって代理人として窓口になることだけではなく、このように管理者や担当者の方をバックアップするという仕事の方が実は重要です。
なぜなら、介護事故等の場面では、利用者や利用者家族は精神的にも非常にショックを受けている状況である上、突然窓口として弁護士が現れれば、いくらこちらが、円滑に交渉をするためであり争う趣旨ではないと説明したとしても、「責任を認めないつもりではないか」「損害賠償金を減らそうとしているのではないか」などとの疑念を抱かれかねません。
そのため、可能な限りは、事業所の方が直接対応をし、これを後方支援する方が、円滑に交渉が運ぶことが多いのです。
これにより、事業所には介護事故時の対応のノウハウが蓄積されていき、今後同様の事態が発生した場合に、対応がスムーズになります。
一方、仮に利用者や利用者家族が、早々に弁護士に依頼をして交渉の窓口となっていた場合や、明らかに法外な損害賠償金を請求してきている場合などには、事業所としても弁護士への依頼を躊躇する必要はありません。
そういった場合には、事業所側も弁護士が代理人として対応をする方が適切です。
どのタイミングで弁護士を代理人とし、窓口とするかについては、しっかりと依頼される弁護士と打ち合わせた上、進めていくようにしましょう。
4−7.合意書の締結
利用者、利用者家族との交渉の結果、提案した金額の支払いをしてもらえれば争うつもりはないとの意向を聞くことができました。
この際、Cは、「お金を支払った後に、また別途違う理由でお金を請求されたらどうしよう」と不安になったことから、どうすれば良いかをH弁護士に相談しました。
そうしたところ、H弁護士からは「通常は、金銭を払って事件を解決する際は、清算条項を入れた合意書を締結します。これは、この合意書に定める以外の債権債務がないことを確認する書面ですが、正直介護事故に関して、これを結ぶかどうかは配慮が必要です。1つは、保険対応に必要だということで、合意書へのサインをお願いする方法ですが、これで事件を終わらせようとしている、というスタンスが見えた時に、不快感や拒否感を示す利用者や利用者家族もいます。そうすると、今回の提案を覆される可能性もあります。Cさんが様子を見られていて、合意書の作成をお願いしたらどんな反応をされそうですか」と尋ねられました。
Cとしては、事故当初から丁寧な対応をとっていたこともあり、利用者家族の態度も厳しいものではなく、保険対応についても快く理解を示してくれていたことから、合意書の締結を提案しても良いのではないかと考えました。
そこで、まずはCから、利用者家族へ打診をしたところ、合意書作成に進んで構わないとの回答を得たため、H弁護士が合意書の案文を作成し、無事合意が成立することになりました。
その後、保険会社に対して、保険金の支払い方法等を確認の上、今回は事業所から利用者家族に支払いをし、後から保険会社に、事業所に対して保険金を支払ってもらうという方法を取ることにしました。
4−8.訴訟手続き
「4−7.合意書の締結」とは異なり、利用者家族は、利用者が寝たきりとなったことにひどいショックを受け、事業所側が提示した損害賠償金での交渉が難しい状況となりました。
そうしたところ、利用者に代理人弁護士が就任し、事業所の安全配慮義務違反に基づく損害賠償を請求する訴訟が提起されるに至りました。
そこで、A事業所を運営する法人と法律事務所Kとの間で、個別案件として訴訟追行を依頼する委任契約を締結し、H弁護士が代理人として訴訟を進めることにしました。
訴訟のためには、書面を作成する必要があり、打合せは必要となりましたが、ZOOMやチャットワークでのやりとりでほとんどが事足り、裁判にはH弁護士が出頭したことから、A事業所の運営に大きな支障をきたすことはありませんでした。
4−9.再発防止策の策定
Cは、この事故の対応を通じて、今後同じ事故を起こさないことの重要性を感じ、H弁護士にその方策について相談しました。
そうしたところ、H弁護士より、「今回の事故に関する検討会をやりましょう。私も同席します」との申し出があったため、事故原因や再発防止策を検証する検討会を、H弁護士立会いのもと実施しました。
その中では、H弁護士より、事故が再発した場合の事業所の責任等についても説明があったことから、より具体的な再発防止策を立てることの重要性を職員が共通認識でき、かなり具体的で、かつ、実効的な再発防止策が多く出されました。
A事業所では、この事故を通じて、事故対応マニュアル、事故防止マニュアルを更新し、全職員に周知しました。
【弁護士 畑山 浩俊のワンポイントアドバイス】
ここでは、具体例をもとに弁護士の関わり方を解説してきましたが、介護事故発生時の弁護士の関わり方は多岐に渡り、事故後にトラブルが深刻化してからの弁護士への相談ではなく、事故発生時の初動から弁護士が正しく解決までの道筋をたてていくことが必要です。
弁護士法人かなめは、介護に精通した弁護士が、この具体例のように初動からアドバイスをすることが可能です。もちろん、介護業界の基礎知識を1から説明する必要はありません。
実際に、顧問契約をした法人様から、「介護業界のことをよく知っておられるので、打合せのストレスが無い。以前、相談したことのある弁護士さんは、介護事業の実態を全く把握していなかったので、ケアマネとは何か、ヘルパーとは何か、生活相談員とは何か、という基礎的なことから説明しなければならず、打合せに同席したスタッフも皆疲弊した。」という声をよく聞きます。
お医者さんにも専門分野があるように、弁護士にも専門分野・専門領域があります。介護業界に特化している法律事務所との連携を推奨します。
5.介護事故に強い弁護士を探すには?
弁護士に相談することの重要性がわかっても、介護事故に強い弁護士を探すにはどうすれば良いでしょうか。
以下では、そもそも介護事故に強い弁護士に相談すべき理由と、その探し方について解説します。
5−1.介護事故に強い弁護士を探すべき理由
介護事業所は、主には介護保険法に基づいた介護サービスを提供していますが、介護サービスの仕組みは非常に複雑です。
そして、介護事故が発生した際の行政への報告等にも、法令や運用上定められたルールがあります。
そのため、そもそも介護業界に精通していない弁護士に介護事故の相談をする場合、まずはこの複雑な制度や用語の1つ1つから説明をする必要があり、事業所としても非常にストレスを感じることになります。
また、介護事故は、職員や事業所による安全配慮義務違反の問題であることから、どの弁護士であっても、一般論としてはその構造を理解していますが、介護事業の基礎知識なしに、安全配慮義務違反の有無を検討することは困難です。
そのため、介護事故にタイムリーかつ適切に対応するためには、介護事故に強い弁護士に相談する必要があるのです。
詳しくは、以下の記事でも詳しく説明していますので、併せてご覧ください。
5−2.介護事故に強い弁護士の探し方
では、実際にどのように、介護事故に強い弁護士を探せば良いのでしょうか。
(1)インターネット
最も簡便な方法は、インターネットで「介護事故に強い弁護士」を検索することです。その際に着目してほしいのは、実際にその弁護士がどのような実績を残しているかです。
法律事務所のホームページ等を見れば、例えば、介護事業所の顧問契約を募集している法律事務所や、介護事故を、対応事件の1つとして挙げている法律事務所はたくさんあります。
しかしながら、介護業界の特殊性ゆえに、実際に介護事業に「精通している」とまで言える弁護士は少なく、介護事業所の事件を専門分野としつつ、ホームページ上では、別の業界に関する事件や顧問契約の募集も行っているところが大多数です。
その際に、本当にその法律事務所が、介護業界や介護事故に強いかどうかを確認する手段が、ホームページに掲載されている実績なのです。
また、ホームページを確認し、相談等を検討する場合には、必ず実際に弁護士と話をするようにしましょう。
実際に話してみることで、その弁護士がどれだけ介護業界について精通しているかがわかると思います。
参考として、弁護士法人かなめの介護事故に強い弁護士へのサポート内容などは、次の「6.弁護士法人かなめの介護事故に強い弁護士によるサポート内容のご案内」の段落で詳しく解説していますので、併せてご参照ください。
(2)口コミ
介護事業所の皆さんは、多くのコミュニティに属しており、様々なセミナー、協議会、研修会などで、地元だけでなく、時には他の都道府県所在の事業所の方とお話をされる機会があると思います。
アナログではありますが、その際に、「介護業界や介護事故に強い弁護士を知らないか」と聞いてみることが、実は介護事故に強い弁護士を見つけるための1番の近道になることもあります。
口コミには、噂レベルの内容もあれば、実際に、弁護士に介護事故等の対応をしてもらったという事業所の方からのお勧めもあります。
後者の場合には、同業者という、同じ悩みを抱えた立場からの生の声を聞くことができるため、当該弁護士が介護業界や介護事故に精通しているかどうかの判断がより行いやすくなります。
また、近年はWEB会議システムやチャットアプリなどを利用し、遠隔であっても相談や事件対応が可能な弁護士も増えてきています。
そのため、ある程度広い視野から口コミで情報を集め、介護業界、介護事故に強い弁護士を探すことも効率的でかつ効果的です。
【弁護士畑山浩俊のワンポイントアドバイス】
弁護士法人かなめでは、チャットワークやZOOMなどのチャットアプリ、WEB会議システムの利用により、現在25都道府県の介護事業所様との間で顧問契約を結び、介護事故を含めた様々な相談に対応しています。
▶参照:弁護士法人かなめの顧問弁護士サービス「かなめねっと」の利用実績はこちら
直接顔を合わせてのご相談はもちろん重要であり、必要とあらば出張も厭いませんが、弁護士法人かなめとしては、より重要なのは、いかにタイムリーに、かつ、いかにきめ細やかに介護事業所の皆様と併走ができるかだと考えています。
弁護士によって、考え方はそれぞれですので、相談する弁護士を選ぶ際には、その弁護士の考え方や方針と、各事業所のニーズが合致するかを、しっかりと見極めるようにしましょう。
6.弁護士法人かなめの介護事故に強い弁護士によるサポート内容のご案内
弁護士法人かなめでは、介護業界に精通した弁護士が、以下のようなサポートを行っています。
- (1)介護事故時の対応サポート
- (2)介護事故時の窓口対応
- (3)事故防止、再発防止の研修
- (4)ヒヤリハット研究会
- (5)顧問弁護士サービス「かなめねっと」
6−1.介護事故時の対応サポート
介護事故発生時の対応は、初動が肝心です。初動を誤ることで、利用者や利用者家族からの信頼を失い、要求の激化等に繋がったり、行政等への対応が後手に回り解決が困難となるケースもあります。
最も重要なことは、「ややこしくなってきたから」相談するのではなく、「おや、何か変だぞ?」「今は何もないけど、これから起きるかもしれない」というタイミングで専門家の意見を仰ぐことです。
そして、相談、回答、実践、反省、というサイクルを回していくことで、事業所自体にも有事の際の対応ノウハウが蓄積され、組織として成長することが出来ます。
弁護士法人かなめでは、対応の初期段階から、現場の責任者から相談を受け、初動からきめ細やかにサポートすることで、円滑な対応を実現します。
6−2.介護事故時の窓口対応
弁護士からの助言を受けながら慎重に対応をしていても、どうしても手に負えない場合や、職員が既に疲弊しており、すぐにでも対応窓口を変えたいという場合もあります。
弁護士法人かなめでは、介護事業所では対応しきれない相手方(利用者家族、行政など)への対応窓口となり、交渉等を行います。これらの対応を専門家に任せることによって、職員のストレスが軽減し、本来の業務に専念することができます。
6−3.弁護士費用
弁護士法人かなめへの法律相談料は以下の通りです。
- 1回目:1万円(消費税別)/1時間
- 2回目以降:2万円(消費税別)/1時間
※相談時間が1時間に満たない場合でも、1時間分の相談料を頂きます。
※スポットでの法律相談は、原則として3回までとさせて頂いております。
※法律相談は、「1,弁護士法人かなめにご来所頂いてのご相談」、又は、「2,ZOOM面談によるご相談」に限らせて頂き、お電話でのご相談はお請けしておりませんので、予めご了承ください。
※法律相談の申込みは、お問合わせフォームからのみ受け付けしております。
※介護事業所の経営者側からのご相談に限らせて頂き、他業種の企業様、職員、ご利用者様等の個人の方からのご相談はお請けしておりませんので、予めご了承ください。
6−4.事故防止、再発防止の研修
弁護士法人かなめでは、次の「ヒヤリハット研究会」の他にも、個別の事業所を対象として介護事故防止研修を実施しています。
裁判例や各事業所で実際に起きた事故を題材として、介護事故防止のための方策を、事業所の皆さんと一緒に考えていきます。
詳しくは以下のページもご覧ください。
(1)料金
- 1回あたり11万円 + 交通費等実費
※ただし、研修時間、内容等によって要相談とさせていただきます。
※まずは、以下のお問合わせフォームからご相談ください。
6−5.ヒヤリハット研究会
弁護士法人かなめでは、介護事業所の方々と共に、実際に生じた事例、裁判例を元にゼミ形式で勉強する機会を設け、定期的に開催しています。
実際に介護事業所の現場から得た「気づき」を参加者で共有し、それぞれの参加者の介護事業所の現場にフィードバックができる機会として、ご好評を頂いています。
ヒヤリハット研究会について詳しくは、以下のページをご覧下さい。
(1)料金
顧問弁護士サービス「かなめねっと」のご契約を頂戴している企業様のみ、無料でご参加いただけます。
6−6.顧問弁護士サービス「かなめねっと」
弁護士法人かなめでは、顧問弁護士サービス「かなめねっと」を運営しています。
具体的には、弁護士法人かなめでは、トラブルに迅速に対応するためチャットワークを導入しています。事業所内で何か問題が発生した場合には、速やかに弁護士へ相談できる関係性を構築しています。
具体的には、弁護士と介護事業所の関係者様でチャットグループを作り、日々の悩み事を、法的問題かどうかを選択せずにまずはご相談頂き、これにより迅速な対応が可能となっています。いつでもご相談いただける体制を構築しています。法律家の視点から利用者様とのトラブルをはじめ、事業所で発生する様々なトラブルなどに対応しています。
直接弁護士に相談できることで、事業所内社内での業務効率が上がり、情報共有にも役立っています。
顧問弁護士サービス「かなめねっと」について詳しくは、以下のサービスページをご覧ください。
(1)顧問料
- 顧問料:月額8万円(消費税別)から
※職員従業員の方の人数、事業所の数、業務量により顧問料の金額は要相談とさせて頂いております。詳しくは、お問合せフォームまたはお電話からお問い合わせください。
7.まとめ
この記事では、介護事故への対応に関して、弁護士へ相談することの意義のほか、弁護士に介護事故の対応を依頼することで、どのような対応をしてもらえるのかについて、具体的な事例を踏まえながら解説しました。
また、この記事では、介護事故に強い弁護士の探し方の他、実際に依頼する際の費用感などについても解説しましたので、介護事故への対策として弁護士を探している介護事業所の皆さんは、参考にしてみてください。
介護事故に強い事業所を皆で作っていきましょう。
なお最後に、介護事故に関連するその他のお役立ち情報も以下で紹介しておきますので、参考にご覧ください。
「弁護士法人かなめ」のお問い合わせ方法
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介護事業所に特化した法務サービス「かなめねっと」のご案内
弁護士法人かなめではトラブルに迅速に対応するためチャットワークを導入しています。他にはない対応力で依頼者様にご好評いただいています。
「かなめねっと」では、弁護士と介護事業所の関係者様、具体的には、経営者の方だけでなく、現場の責任者の方を含めたチャットグループを作り、日々現場で発生する悩み事をいつでもご相談いただける体制を構築しています。
法律家の視点から利用者様とのトラブルをはじめ、事業所で発生する様々なトラブルなどに対応します。 現場から直接、弁護士に相談できることで、社内調整や伝言ゲームが不要になり、業務効率がアップします!
介護業界に特化した経営や現場で使える法律セミナー開催情報
弁護士法人かなめが運営する「かなめねっと」では、日々サポートをさせて頂いている介護事業者様から多様かつ豊富な相談が寄せられています。弁護士法人かなめでは、ここで培った経験とノウハウをもとに、「介護業界に特化した経営や現場で使える法律セミナー」を開催しています。セミナーの講師は、「かなめ介護研究所」の記事の著者で「介護業界に特化した弁護士」の畑山が担当。
介護施設の経営や現場の実戦で活用できるテーマ(「労働問題・労務管理」「クレーム対応」「債権回収」「利用者との契約関連」「介護事故対応」「感染症対応」「行政対応関連」など)を中心としたセミナーです。
弁護士法人かなめでは、「介護業界に特化した弁護士」の集団として、介護業界に関するトラブルの解決を介護事業者様の立場から全力で取り組んで参りました。法律セミナーでは、実際に介護業界に特化した弁護士にしか話せない、経営や現場で役立つ「生の情報」をお届けしますので、是非、最新のセミナー開催情報をチェックしていただき、お気軽にご参加ください。
介護特化型弁護士による研修講師サービスのご案内
弁護士法人かなめが運営している社会福祉法人・協会団体・自治体向けの介護特化型弁護士による研修講師サービス「かなめ研修講師サービス」です。顧問弁護士として、全国の介護事業所の顧問サポートによる豊富な実績と経験から実践的な現場主義の研修を実現します。
社会福祉法人の研修担当者様へは、「職員の指導、教育によるスキルアップ」「職員の悩みや職場の問題点の洗い出し」「コンプライアンスを強化したい」「組織内での意識の共有」などの目的として、協会団体・自治体の研修担当者様へは、「介護業界のコンプライアンス教育の実施」「介護業界のトレンド、最新事例など知識の共有をしたい」「各団体の所属法人に対して高品質な研修サービスを提供したい」などの目的として最適なサービスです。
主な研修テーマは、「カスタマーハラスメント研修」「各種ハラスメント研修」「高齢者虐待に関する研修」「BCP(事業継続計画)研修」「介護事故に関する研修」「運営指導(実地指導)に関する研修」「各種ヒヤリハット研修」「メンタルヘルスに関する研修」をはじめ、「課題に応じたオリジナル研修」まで、介護事業所が直面する様々な企業法務の問題についてのテーマに対応しております。会場またはオンラインでの研修にご対応しており、全国の社会福祉法人様をはじめ、協会団体・自治体様からご依頼いただいております。
現在、研修講師をお探しのの介護事業者様や協会団体・自治体様は、「かなめ研修講師サービス」のWebサイトを是非ご覧ください。