「どれだけ注意をしても勤務態度を改善しない職員」
「何度も指導しているが能力不足が業務に支障を来している職員」
介護事業所内でトラブルを起こしがちないわゆる問題職員に対して、どのように指導すればよいか困ったことはありませんか?
近年、問題を抱えた職員への対応で、頭を悩ませている事業者は後を絶ちません。介護事業所のように、職員同士の関係性が重要で、相互の連携が必要な職場ではなおさら深刻です。
問題職員に対して適切な指導をしないと、職場環境が更に悪化するだけでなく、事業所が様々なリスクに晒されます。
例えば、不適切な指導により、職員から「パワハラを受けた!」などと主張されて慰謝料請求がされたり、最終的な解雇を見据えた場合、適切な指導をしていなければ、職員に改善の余地があったにも拘らずこれをしなかったとして、解雇等の手続きが無効になるリスクもあります。
このような問題職員に対しての問題を深刻化させないためにも、問題職員を根気よく指導することも必要ですし、問題ケースごとにあわせた正しい指導方法や手順、ポイントなどを理解しておくことが重要なのです。
この記事では、問題職員への指導がなぜ必要かを説明した上で、問題職員のタイプ別に適切な指導方法や組織として取り組むべき方針について説明します。最後まで読んでいただくことで、事業所として問題職員が出てきた場合でもリスクを抑えた指導方法で問題解決に導くことができるでしょう。
この記事の目次
1.問題職員への指導とは?
問題職員への指導方法などを具体的に解説していくにあたって、最初に、そもそも問題職員とはどのような職員のことを言うのか、そして、なぜ問題職員への指導が必要なのかについて確認しておきましょう。
1−1.問題職員とは?
問題職員とは、仕事に対する言動や職場での態度に著しく問題がある従業員や職員のことをいい、「モンスター社員」とも呼ばれます。後述するように言動や態度の問題点は様々ですが、注意指導をせず放置したままだと事業所に看過できない不利益が生じますので、適切な対応が重要になります。
▶参考:なお、モンスター社員については、以下の記事で詳しく解説をしていますので、併せてご覧下さい。
1−2.問題職員への指導はなぜ必要か?
問題職員の言動や勤務態度は、同僚や利用者に対して悪影響を及ぼす可能性があります。
その結果、職場環境を悪化させたり、場合によっては利用者からのクレームや行政からの指導などにつながりかねません。そのため、問題職員に対する注意指導の必要性は極めて高いです。
例えば、事業所の悪評を風潮するような職員は、利用者との信頼関係を損ねることになりますし、これにより事業者の評判が落ちれば、利用者が減るだけでなく、採用活動にも影響が出ます。また、パワハラ気質の問題職員であれば、他の職員が萎縮し、事業所の雰囲気が悪くなり業務に支障が出る可能性もあります。
だからといって、「とにかく注意指導をすればいい」という考えだけで拙速な注意指導を行ってしまうと、次で述べるようなリスクがありますので細心の注意が必要です。
2.問題職員の指導に伴うリスク
問題職員に対する指導は重要ですが、その方法を誤ると様々なリスクが発生します。
以下では、問題職員の指導に伴うリスクについて解説します。
2−1.ハラスメント
労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(労働施策総合推進法)はいわゆる「パワハラ防止法」と呼ばれていますが、法律上は「パワーハラスメント」という文言については特に定義せず、「職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える、または職場環境を悪化させる行為」への措置について定めています。
▶参考:労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(労働施策総合推進法)第30条の2条文
(雇用管理上の措置等)
第三十条の二 事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
2 事業主は、労働者が前項の相談を行つたこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
・参照元:「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(労働施策総合推進法)」の条文
その上で、「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して 雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)」によれば、パワーハラスメントとは、以下のように定義されています。
▶参考:厚生労働省「パワハラの定義について」
職場におけるパワーハラスメントは、職場において行われる①優越的な関係を 背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③ 労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの要素を全て満たすものをいう。
なお、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や 指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しない。
・参照元:「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)【令和2年6月1日適用】 」(pdf)
この点に関して、裁判所が着目していると思われる「注意指導とパワハラを区別る主なポイント」は以下の点です。
- 業務上の必要性があるか
- 見せしめ的な注意指導になっていないか
- 長時間や繰り返しの注意指導となっていないか
- 行動上のアドバイスではなく人格非難になっていないか
2−2.損害賠償責任
仮に、注意指導がパワハラに該当する場合、それによって問題職員側が被った慰謝料などの損害について、事業所側が賠償する責任(損害賠償責任)を負う可能性があります。
具体的な損害としては、例えば、パワハラが原因で精神的疾患を発症したと職員が主張し、実際に精神的疾患とパワハラとの間に因果関係があると認められた場合には、当該疾患の治療費や慰謝料などが損害賠償として認められる可能性があります。
2−3.不当労働行為
また、問題職員が労働組合に加入している、または結成しようとしている場合、不適切な注意指導がされたことに対して不当労働行為(労働組合法第7条1号本文前段)に該当すると主張されるリスクもあります。
不当労働行為に該当すれば、職員や所属する労働組合による該当する都道府県労働委員会に対する救済の申し立てにより、事業所への調査がなされ、審査が行われる可能性があります(労働組合法第27条1項前段)。
事業所はこの調査や審査に対応しなければならず、仮に救済命令(労働組合法第27条の12)が出されて確定すれば(同法第27条の13)、この救済命令に従い、問題職員に対して賠償しなければならない場合があります。また、救済命令に違反すれば、50万円以下の過料に処される可能性もあります(労働組合法第32条後段)。
▶参考:不当労働行為については、以下の記事で解説していますので、ご覧下さい。
▶参考:労働組合法第27条・27条の12・27条の13・32条の条文
(不当労働行為事件の審査の開始)
第二十七条 労働委員会は、使用者が第七条の規定に違反した旨の申立てを受けたときは、遅滞なく調査を行い、必要があると認めたときは、当該申立てが理由があるかどうかについて審問を行わなければならない。この場合において、審問の手続においては、当該使用者及び申立人に対し、証拠を提出し、証人に反対尋問をする充分な機会が与えられなければならない。
2 労働委員会は、前項の申立てが、行為の日(継続する行為にあつてはその終了した日)から一年を経過した事件に係るものであるときは、これを受けることができない。
(救済命令等)
第二十七条の十二 労働委員会は、事件が命令を発するのに熟したときは、事実の認定をし、この認定に基づいて、申立人の請求に係る救済の全部若しくは一部を認容し、又は申立てを棄却する命令(以下「救済命令等」という。)を発しなければならない。
2 調査又は審問を行う手続に参与する使用者委員及び労働者委員は、労働委員会が救済命令等を発しようとする場合は、意見を述べることができる。
3 第一項の事実の認定及び救済命令等は、書面によるものとし、その写しを使用者及び申立人に交付しなければならない。
4 救済命令等は、交付の日から効力を生ずる。
(救済命令等の確定)
第二十七条の十三 使用者が救済命令等について第二十七条の十九第一項の期間内に同項の取消しの訴えを提起しないときは、救済命令等は、確定する。
2 使用者が確定した救済命令等に従わないときは、労働委員会は、使用者の住所地の地方裁判所にその旨を通知しなければならない。この通知は、労働組合及び労働者もすることができる。
第三十二条 使用者が第二十七条の二十の規定による裁判所の命令に違反したときは、五十万円(当該命令が作為を命ずるものであるときは、その命令の日の翌日から起算して不履行の日数が五日を超える場合にはその超える日数一日につき十万円の割合で算定した金額を加えた金額)以下の過料に処する。第二十七条の十三第一項(第二十七条の十七の規定により準用する場合を含む。)の規定により確定した救済命令等に違反した場合も、同様とする。
・参照元:「労働組合法」の条文
3.問題職員の指導方法と手順
問題職員に対する指導の具体的なプロセスは以下のとおりです。
- (1)複数の指導担当者の整備
- (2)指導記録の作成
- (3)指導書面の交付
- (4)人事処分の実施
それぞれのプロセスごとに詳しく見ていきましょう。
3−1.複数の指導担当者の整備
問題職員への対応については、まず最初に、指導担当者や指導について責任をもつ職員の決定が必要となります。
特定の指導担当者に窓口を一本化することは、指導するうえで有効です。もっとも、担当職員に指導のストレスが集中したり、問題職員との相性が悪ければ、トラブルを誘発してしまう可能性もあります。他方、多くの指導担当者をつければ、指導方針がまとまらず、意味がないものとなってしまいます。
そこで、指導担当者と指導の責任者の二人体制で対応することが考えられます。
指導担当者と問題職員との相性を踏まえ、指導担当者と指導責任者が、お互いに相談できるような環境を構築することが重要です。
具体的には、以下のような指導担当者の設置が考えられます。
(1)問題職員の所属する事業所の先輩職員(指導担当者)
現場における問題職員の指導を担当し、直接注意を行います。
例えば、問題職員より勤務歴や業務経験の長い先輩職員が指導担当者となり、日々の業務の中で問題職員の行動や業務態度を指導したり、マンツーマンで業務対応を行うなどの方法が考えられます。現場で指摘し改善を促すという点が重要であり、従来から職員指導を行っている職員が担当することが望ましいです。現場での指摘が求められるので、指導担当者を明確にし、問題点を直ぐに指摘できるルールを設定しておくことが必要です。
なお、指導内容については、適切な指導を行っていることを示す証拠として、指導記録を作成しておくことが肝要です。詳しくは「3−2.指導記録の作成」で説明します。
(2)問題職員の上司にあたる職員(指導責任者)
問題職員の業務状況に関して、指導の状況や勤務態度の改善状況などを監督します。
例えば、指導担当者である先輩職員からの報告等に基づいて、問題職員に対して、定期的に指導面談を実施し、注意、指導を行うことが求められます。また、指導担当者が適切な指導を行っているか確認することも重要です。後述の「指導記録」などを毎日確認し、もし適切な指導が行われていなければ、指導担当者と協議し、改善を検討することも必要となります。施設長や管理者など、事業所の責任者にあたる職員が担当することが基本です。
3−2.指導記録の作成
指導記録とは、問題職員に対して指導した内容を示す書面のことです。
「3−1.複数の指導担当者の整備」で述べた通り、指導担当者は、現場で問題職員の行動を注視の上、直接指導することになります。その際の指導内容を指導記録としてまとめた書面を作成し、問題職員の指導責任者に提出して判断を仰ぐことが必要になります。
前述の通り、問題職員の指導は注意をして行わなければ、事業者側に法的なリスクが伴います。最悪の場合、指導した職員からパワハラだと主張されたり、損害賠償の訴えをされることもあります。
事業所としては、適切な指導を行っていたことが立証できるよう、日頃から指導記録を作成して証拠を残し、対策しておくことが必要です。
記載事項は以下の通りです。
- 指導対象者の氏名
- 指導した日時
- 指導の対象となる問題点
- 指導内容
- 指導に対する応答
なお、可能であれば、問題職員に指導記録の作成時に署名や押印をもらっておくことが望ましいです。指導された内容に誤りがないことの証明になり、指導内容をめぐるトラブル防止に効果的です。また、強制的に署名押印をさせることはパワハラに該当する可能性がありますし、その書面の証拠としての価値が半減してしまうので、無理やり署名押印をさせることは避けてください。
3−3.指導書面の交付
指導記録を用いた日々の指導によっても、問題職員の行動が改善されなかった場合、指導内容を記載した指導書面を本人に交付して改善を促す方法も有効です。
口頭では改善しない問題職員も、書面による指導であれば改善する可能性もあります。指導書面は、指導内容が問題職員に容易にわかるような明確なものを作成することを心がけましょう。
指導書面では、就業規則の条文を引用した上で、就業規則に違反していることを付け加えることが重要です。就業規則に違反していることを記載することにより、指導の理由が明確になり、就業規則違反を問題職員が行っていることがわかる資料にもなりますので、証拠としての価値も大きくなります。
また、可能であれば指導書面を交付の上、問題職員本人から指導に対しての意見や考え方を書面に記載させることも有効です。その指導内容に対する問題職員の態度をある程度予想することができ、今後の処分方針を立てる上でも重要になります。
3−4.人事処分の実施
日々の注意や指導にもかかわらず、問題職員が改善を行わない場合は、人事処分や懲戒処分を検討する必要があります。
この時、問題職員には早期に退職して欲しいと考え、注意指導による改善から直ちに解雇の手続きに切り替えることも少なくないと思います。しかし後述の通り、突然の解雇は無効となるリスクが大きく、仮に無効となれば、解雇時からの未払い給料の支払い(バックペイ)や慰謝料請求の危険があります。
そこで、解雇を行う前に、指導によっても改善しない問題職員に対し人事処分を実施できないか検討する必要があります。
詳しくは「(4)解雇」にて解説しますが、解雇が適法か否かの判断には解雇に至るまでのプロセスが重視されます。人事処分を実施するないし検討したうえで、最終段階として解雇を行ったという経緯を正しく履践することは、今後問題職員との契約関係を終了させるために必要な交通整理といえます。
そこで、具体的な人事処分の中身について、項目に分けて解説していきます。
(1)人事異動・降格
1.人事異動
複数の事業所を有している場合、問題職員を他の事業所に転勤させたり、業務内容の変更を行い、問題を取り除く方法が考えられます。
このような人事異動を「配置転換」といいます。もっとも、配置転換には業務上の必要性が認められなければならず、業務上の必要性が認められた場合であっても、不当な動機、目的によるものや対象職員への不利益が大きいときは違法となり無効になります。
▶裁判例:フジシール事件:大阪地裁判決平成12年8月28日労判793号13頁
裁判例(フジシール事件:大阪地裁判決平成12年8月28日労判793号13頁)では、退職勧奨を拒否した社員に対し配転命令をした際、退職勧奨拒否の嫌がらせとして命令をしたとして、配転命令が無効となったケースがあります。
職場環境の改善のために問題職員を異動させたいと考えることは自然ですが、業務上の必要性がなく、嫌がらせにあたるような人事異動は避けましょう。また、配置転換により給与が下がるような場合、労働条件の不利益な変更にあたる場合もあり、その場合は、対象となる職員の同意が必要です。その場合は、配置転換を命じる前に職員にその趣旨を説明し、理解を得ることが重要です。
2.降格
問題職員の迷惑行為や職務不良を理由に降格処分を行うことが考えられます。
職位や職務等級の降格である場合は、事業所側に人事権があることから、裁量に基づき相当な限度で降格させることができます。
例えば、主任の役職にあった問題職員を成績不良を理由に平職員の地位に降格させることなどがこれに当たります。なお、退職させることを目的としたものや、過大な降格処分は違法となるリスクがあるので注意が必要です(労働契約法第3条4項)。
▶参考:労働契約法第3条4項の条文
(労働契約の原則)
第三条
4 労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない。
(1項から3項、および5項は省略)
・参照元:「労働契約法」の条文
一方で、資格や等級と基本給が直結しているような職能資格や資格等級の降格については、契約や就業規則上の規定に基づき行う必要があります。契約上の根拠がなければ、行うことはできません。
事業所において職能等級制度が採用されている場合、まずは契約や就業規則を確認し、規定されたルールに沿って降格処分を行う必要があります。
なお、就業規則などに降格処分を認める規定が存在したとしても、以下の点に注意が必要です。
- 降格の根拠となる制度が合理的か
- 降格の手続き・運用が制度・法律に違反しないか
問題職員に対する処分であっても、適切な手続きを踏まないか、または問題に比して過大な処分を行えば、処分自体が無効となりかねません。その場合、従前の職務上の地位に対応した賃金の支払いをしなければなりません。もちろん、問題職員から慰謝料等の請求がされるリスクもあります。よって、問題点を精査の上、規定や法令に則って処分を行う必要があります。
なお、前述の降格とは別に懲戒処分としての降格も処分の一つとして考えられますが、法令上、厳格に制限されます(労働契約法第15条)。
▶参考:労働契約法第15条の条文
(懲戒)
第十五条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
・参照元:「労働契約法」の条文
人事権の行使として降格を行う際は、懲戒処分ではないことを明示し、区別することが必要です。
(2)懲戒処分
問題職員の行動が就業規則上の懲戒事由に該当する場合、事業所は懲戒処分をすることを検討します。
懲戒処分は、使用者が従業員の企業秩序違反行為に対して科す制裁罰を意味します。使用者は、企業の内の秩序を維持するための権限を有しており、この権限に基づき、企業秩序を乱すかまたは乱すおそれのある労働者に対し、企業秩序確立のための制裁を課すことができます。
懲戒処分は、その権限を行使することを意味します。懲戒解雇がイメージしやすいかと思いますが、懲戒処分には他にも種類があり、戒告、譴責(けんせき)、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇などがあります。
事業所としては問題職員に対して懲戒処分をする場合、問題の性質やその程度に応じた懲戒処分を選択する必要があります。
例えば、懲戒解雇は懲戒処分の中で一番重い処分にあたるので、問題職員を懲戒解雇とするに値する懲戒事由が存在する必要があり、そのハードルは高いものとなります。なお、懲戒処分は就業規則により規定され周知されていなければ行うことができませんので、この点も注意が必要です。
(3)退職勧奨
注意指導やその他人事処分によっても問題職員が改善しない場合、事業所としては、退職勧奨により職員の自主的な退職を促すことになります。
退職勧奨は、雇用する職員に対し任意で退職するよう求める手続です。解雇とは異なり、強制力のある手続きではないため、問題職員が任意に退職に同意をしなければなりません。そのため事業所は、問題職員の退職の意思を引き出すことが必要になります。
退職勧奨による退職は、原則として会社都合退職になるため、助成金を受けている事業所は、自己都合退職として処理することの合意ができるかを検討するなど、注意が必要です。
▶参考:助成金の内容や詳しい支給要件は、以下のページをご覧ください。
問題職員に指導を行った実績があれば、職員の問題点が改善されていない点をきっかけに、問題職員への退職勧奨を円滑に進めることができます。
なお、退職勧奨の際も、執拗に退職を迫ったり、パワハラに該当する言動があれば、退職自体が無効となるにとどまらず、損害賠償請求のリスクもあります。
また、退職勧奨により退職の合意が得られて退職した場合であっても、後に退職した職員から「退職を強制された」「解雇された」と言われてしまうケースも考えられます。合意が得られたことは、指導記録や録音で証拠を残しておきましょう。退職の合意は雇用契約の終了を意味し、労働者にとっては自己に不利益な内容を承諾することになります。通常は不利益を被ることに同意することはないものですから、事業所が、問題職員が真意により退職の合意をしたことを立証できるようにしておく必要があります。
そこで、問題職員から合意が得られた場合は、必ず退職合意書を問題職員との間で作成しましょう。
もっとも、裁判所は、労働者による不利益な労働条件変更の合意について、自由な意思に基づいて行われたことが必要であると考えています(▶参考:山梨県民信用組合事件:最判平成28年2月19日労判 1136号6頁)。そのため、事業所としては、職員による退職の合意が任意かつ自由な意思によるものであることを説明できるよう、退職合意書を作成し証拠化することが重要なのです。また、問題職員が同意していないにもかかわらず、退職合意書へのサインを強要されたと主張する可能性も踏まえ、その退職の合意が交わされた場面は録音しておくことが望ましいです。
▶参考:退職勧奨については、具体的な進め方や注意点について以下の記事で詳しく解説していますので、ご覧下さい。
(4)解雇
退職勧奨はあくまでも任意的な手続きですので、退職の同意が得られない場合、普通解雇又は懲戒解雇により問題職員を辞めさせることを検討する必要があります。
普通解雇は、従業員が契約の本旨に従った労務の提供をしないこと、つまり、雇用契約上の債務不履行を理由として、使用者が一方的な意思表示によって労働契約を解除することを言います。
例えば、問題職員が能力不足、私傷病による心身の疾患、勤務態度不良である場合は、労働契約上の職務の提供に支障があるとして、解雇事由に該当する場合があります。
他方、懲役解雇は、懲戒処分の中で一番重い処分であり、企業秩序違反行為を行う従業員に対する制裁として位置づけられます。普通解雇とは異なり、債務不履行が存在するか否かではなく、企業秩序を乱したとされる懲戒事由があるかが問題となります。また、懲戒処分の一種にあたりますから、懲戒解雇となる懲戒事由については、就業規則で定めておく必要があります。
しかし、いずれの解雇の場合も、仮に就業規則上の解雇事由に該当したとしても、解雇を行うには法律上のハードルがあり(労働契約法第16条)、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」は解雇自体が違法と評価され無効となります。
▶参考:労働契約法第16条の条文
(解雇)
第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
・参照元:「労働契約法」の条文
解雇が違法か否かの判断は、解雇までに注意指導や他の人事処分の検討などのプロセスを踏んでいるか、または、プロセスを踏んだ記録が残っているかにかかっています。問題職員の問題点にもよりますが、事業所としてはいったん雇用をした以上、問題が発覚しても直ちに辞めさせることはできず、指導して改善の機会を与えてもなお改善の見込みがなく、問題職員によって事業所の業務に支障が生じることが必要となります。
協調性がなく勤務態度も不良な私立学校の教員に対する解雇の有効性が争われた事例において、第一審では解雇が無効となりましたが、控訴審では解雇が有効となるなど、裁判所の判断が覆ったケースもあります(▶参考:学校法人D学園事件:東京高判平成29年10月18日労判1176号18頁)。
解雇の有効性は、裁判所も慎重に判断する傾向にあります。上記の事例につき解雇を無効とした第一審(▶参考:さいたま地裁判決平成29年4月6日労判 1176号27頁)では、問題職員に対し複数回にわたって注意指導を行っていたことを認定しましたが、いまだ職員には改善の余地があるとし、現段階で具体的な業務の支障が生じたとはいえず、現状の解雇を無効と判断しました。
したがって、解雇を適法に行うためには、それまでの指導や他の人事処分ないし懲戒処分の検討が不可欠であり「改善の余地がなく業務に支障がでるといえるか」が重要といえます。
さらに、解雇の有効性は事業所が立証しなければなりませんから、問題職員の問題行動が表れている資料(業務日誌、報告書など)、問題職員への指導記録、業務命令の書面など、解雇までの経緯がわかる資料については必ず作成し確保しましょう。従前、適切な指導や処分を行った経緯があり、その経緯が指導記録や指導書面で残っていれば、問題職員の解雇が有効であると判断されやすくなります。
▶参考:普通解雇については、以下の記事で詳しく解説していますので、ご覧ください。
・普通解雇とは?無効とならない手続きを事例付きで弁護士が解説
▶参考:懲戒解雇については、以下の記事で詳しく解説していますのでご覧ください。
4.問題職員の指導例
ここからは問題職員のタイプに分けて、指導の方法を具体的に解説します。
4−1.能力に問題のある職員
能力不足の原因は、職員によって様々な理由が考えられます。そのため、能力が発揮できない理由を分析し、指導する必要があります。
例えば、本人は真面目に努力しているものの、精神疾患や障害によりうまく能力を発揮できないことがあります。この場合、必要以上に厳しく注意指導を行ってしまうと、これが精神的ストレスとなって精神疾患を発病したり、悪化させたりするおそれがあります。もしくは、指導に対し反発し、「パワハラだ」と言われて満足な注意指導ができないケースも多いです。
能力不足は解雇の対象となりますが、能力不足を解消する教育や指導、能力を発揮できる職場への配置転換、降格などの検討や実施が前提となります。
まずは丁寧な指導を実施し、それでもなお能力不足が解消できない場合に退職勧奨や解雇を検討することになります。そのためには問題職員と定期的に面談を行い、能力に問題がある原因を明らかにし、指導を行う必要があります。
▶参考:能力不足の職員への対応は、以下の記事でも解説していますのでご覧ください。
4−2.上司の指示に従わないなど勤務態度が悪い職員
例えば、問題職員が勤務中に私用でスマートフォンを長時間触っているなど、仕事に対して怠慢であるケースが考えられます。
本人が勤務態度の悪さを自覚していない可能性もありますので、先輩職員が問題行動を確認の上直接注意をし、指導することが有効です。
もっとも、このような問題職員は、そもそも改善の見込みがなく、現場での教育指導が功を奏さないことも少なくありません。その場合、指導の方向性は、問題職員を処分する方向となります。注意指導で態度を改めない問題職員には、懲戒処分のうち戒告や譴責(けんせき)を行うことを検討します。
それでも改善が見込めない場合、徐々に重い処分を検討し、最終的には退職勧奨や解雇など、問題職員との雇用契約を終了させることを検討すべきです。
なお、勤務態度の不良は、成績不良と比べ抽象的な評価といえます。一つの行動から直ちに認められることはほとんどなく、日々の積み重ねにより評価されるケースが多いです。
よって、これまでの問題職員の態度や注意指導の内容がわかるよう、具体的にどのような言動やふるまいが勤務態度の不良に該当するのかを具体的事実を指摘した上で改善を求める内容の指導書等の証拠を用意しておくことが特に重要です。問題職員への指導記録や指導書面の作成によりその内容を証拠化しておくことに加え、問題職員との会話内容を録音することが有効です。
なお、問題職員に対する注意指導・指導を行う場面を録音する際は、相手に必ず了承を得なければならないわけではありません。もっとも、秘密録音のやり方によっては違法と評価され、裁判において証拠として用いることができない(証拠能力がない)と判断される可能性もあります。
例えば、勤務態度に問題のあった社員が、職場内での録音の禁止命令が出されていたにもかかわらず、これを無視して録音を継続した結果、録音禁止命令に違反したことを理由にした普通解雇を、裁判所が適法であると判断したケースがあります(東京地裁立川支部平30年3月28日労経速2363号9頁)。
また、秘密録音の証拠能力については、非公開かつ録音しない運用がされていた委員会の審議内容を秘密録音した記録媒体および反訳文の証拠能力が争われた事例において、秘匿される必要性が特に高く、秘密録音の違法性が極めて高いものであることから、証拠から排除することが相当であると判断したケースもあります(東京高裁平成28年5月19日)。
上記の裁判例から、秘密録音は、明確に録音が禁止されていた場合や、事業所において、職務上の秘密の漏洩を防止するなどの目的から録音が禁止される場面においては、違法の評価を受ける可能性があります。問題職員との会話内容を録音する場合は、違法にならないよう注意が必要です。
録音の際の注意点は、以下の動画をご覧ください。
▶参考動画:【無断録音】こっそり録音することは違法か?
▶参考:【無断録音!】実際にあったミス3選!弁護士が解説します!
また、このような問題職員は、事業所からの処分について強く反発したり、法律上の権利を主張してくる可能性も高いといえます。法律上の権利を主張された場合、事業所は法律のプロではありませんから、正当な権利の主張なのか判断がつかないことがあるかと思います。その場合、弁護士等の専門家に相談し、専門家の意見を基に問題職員の主張を検討するようにしましょう。
4−3.無断欠勤を繰り返す職員
介護事業所ではシフト制が組まれているケースが多く、無断欠勤が多ければ、シフトの組み換えが多発し、事業所の運営に支障を来すことになります。
本人の傷病などが原因である場合、休職などにより問題を取り除くことができるケースがあります。事業所内の調査により、体調不良が原因である場合は、問題職員に対して病院を受診するよう連絡の上、受診結果をみて対処することになり得ます。
本人の怠慢が原因である場合、介護事業所などはその運営に深刻な影響が生じることになりますから、繰り返し無断欠勤を行う問題職員は、事業所に対し満足な労務の提供ができていないとして、解雇の対象となります。
この点、無断欠勤を「繰り返す」というところがポイントです。
不慮の事故にあったりご親族の他界などにより急に欠勤すること自体は責められるものではありません。しかし、繰り返しの無断欠勤を行うことは、労働者が使用者に対する十分な労務の提供をしていないと評価されます。すなわち、雇用契約上の義務を果たしておらず、債務不履行として契約の解除事由(=解雇事由)に該当することになります。
したがって、無断欠勤を繰り返す問題職員には、最終的な解雇も視野にいれて指導することが必要になります。無断欠勤が多いことを本人に指摘し指導を行ったうえ、注意指導や懲戒処分を経てもなお繰り返す場合は、退職勧奨や解雇に進む方針が考えられます。また、繰り返しになりますが、指導の記録など証拠を残すことは常に意識しましょう。
4−4.協調性がない職員
介護現場においては、一つのミスが利用者の生命の危険につながることもあります。そのため、職員同士が連携して業務に当たることが強く求められます。
協調性がない問題職員は、事業所の業務に重大な支障をきたすこともあり、事業所としても厳格な注意、指導が求められます。介護現場に協調性のない問題職員がいると、利用者の信頼にも関わりますから、改善が見られない場合には退職させることも検討する必要があります。
なお、「4−2.上司の指示に従わないなど勤務態度が悪い職員」で述べた通り、協調性の欠如も、日々の問題職員の積み重ねの結果、ようやく評価されることが多いものです。問題職員からの反論も想定されますので、できるだけ多くの証拠を残しておくことが重要です。
4−5.ハラスメント行為をする職員
近年、労働環境下における社員のハラスメント行為については社会問題として意識されています。
労働施策総合推進法、男女雇用機会均等法及び育児・介護休業法が改正され、事業主は様々なハラスメント防止のための管理上必要な措置を講じることが義務化されました(令和2年6月1日施行)。また、近年は中小企業においても管理上必要な措置を講じることが義務化されています(令和4年4月1日施行)。
そのため、ハラスメント行為をする問題職員には厳格な指導を行うとともに、被害にあった他の職員のケアや再発防止に向けての措置を検討する必要があります。
問題職員のターゲットとなっている特定の職員がいる場合は、問題職員の配置転換が効果的です。複数の事業所がある場合、別の施設に転勤させることで、接触をなくし、事業所内の労働環境を整えることもできます。
もっとも、配置転換により労働条件が変更される場合があり、それに伴って給与が下がることが考えられます。その場合、前述の通り職員の同意が必要になる場合があるため注意が必要です。
問題職員によるハラスメントが企業秩序を乱すような場合は、懲戒処分の検討も必要です。また、ハラスメント行為として認定できるかも重要となりますから、被害者である職員のプライバシーにも配慮しつつ調査を行い、「2−1.ハラスメント」で解説した基準を満たしているか確認することが必要です。
4−6.SNSで事業所や利用者の悪口を投稿する職員
介護現場は、利用者の命を預かる仕事であることから、職員には精神的ストレスがたまりやすい職場でもあります。職員がストレス発散の一環としてSNSにおいて悪意ある書き込みをしてしまうケースは少なくありません。利用者との信頼関係が揺らぐ行為であり、SNSの特性上、拡散されてしまう可能性も高いです。
そのため、投稿を発見次第、問題職員を特定し、指導する必要があります。
悪口を書き込む行為は、名誉棄損罪(刑法230条)にや侮辱罪(刑法231条)に該当する可能性があり、書き込みをした問題職員が刑事責任に問われるおそれがあります。
▶参考:名誉棄損罪(刑法230条)・侮辱罪(刑法231条)
(名誉毀損)
第二百三十条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀き損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
2 死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。
(侮辱)
第二百三十一条 事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、一年以下の懲役若しくは禁錮若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
・参照元:「刑法」の条文
また、問題職員の投稿は、刑事責任のみならず、民事上の責任も発生します。
問題職員による投稿が、利用者の名誉感情を侵害した場合、利用者が、問題職員のみならず、、事業所に対して損害賠償請求を行う可能性があります(民法第715条1項前段)。これにより、仮に事業所が利用者に対して損害を賠償しなければならなくなった場合、事業所から問題職員に対して、事業所が支払った賠償金について求償をするということも考えられます(同条3項)。
ただし裁判所は、使用者が、労働者を利用して利益を上げていること(報償責任)などの理由から、労働者に対する求償請求を制限しています(茨城石炭商事事件:最一小半昭和51年7月8日民集30巻7号689頁)。よって、事業所が問題職員から、利用者に支払った賠償金を回収することは難しくなります。
また、問題職員による投稿が事業所の名誉を侵害した場合、事業所は問題職員に対し、損害賠償請求をすることができます。もっとも、投稿が、本当に問題職員が行ったものであるかを突き止めるためには、非常に複雑な手続きを踏まなければならず、名誉毀損による損害の立証も困難であることが多いです。さらに、問題職員の中には賠償のための資力がないケースもあります。
以上から、問題職員がSNSに悪口を投稿してしまった場合、被害の回復や対応をするために大きな労力がかかり、労力に見合った結果が得られない可能性も高いです。
そのため、このような問題職員への対応方法は、できる限り「悪口などの投稿をさせない制度作り」が一番のポイントとなります。
(1)悪口などの投稿をさせない制度作りのポイント
1.投稿をさせない制度作りについて
SNSの利用は職員のプライベートの範囲なので、悪口を投稿した事実をもって直ちにSNSの使用禁止を指示、指導することはできません。そこで、日頃から職員側に対し、SNSの利用に関する注意喚起を行い、法的なリスクが生じることを周知しておくことが有効です。SNSへの悪口の投稿には、前述の通り損害賠償の可能性があるだけではなく、刑事責任が問われる可能性もあります。
近年では、芸能人に対する心無い書き込みによる痛ましい事件が多く挙げられています。よって行政は、刑法の改正により、侮辱罪の法定刑において「一年以下の懲役」を追加し、侮辱罪が厳罰化されました(令和4年7月7日施行)。
SNSへ悪口や誹謗中傷を投稿する行為への批判は、より一層厳しくなっていくものと考えられます。事業所は、職員に対しSNSへの投稿内容や個人情報を流失させることがないよう、日頃からの指導、注意喚起を行い、問題行動をさせないようにしましょう。
2.問題職員への事後的な対応
以上のように、SNSへの悪口の投稿は、事前に防止することが第一です。
もっとも、どれだけ注意喚起をしたとしても、問題職員が悪口を投稿してしまう可能性は否定できません。そこで、SNSへの不適切な投稿を行った問題職員に対しては、厳しい指導や懲戒処分を検討する必要があります。事業所が特定できる情報と併せて悪口を投稿したり、名指しで他の職員や利用者を批判したり、虚偽の情報を拡散したりするなど、企業秩序を乱すような悪質な書き込みがされた場合は、懲戒処分の対象となります。
なお、悪質な投稿は拡散のおそれもあることから問題職員に速やかに削除を要請することが必要となりますが、削除を要請する前に、発見次第、必ず投稿を保存しておくことが重要です。問題として取り上げる前に問題職員によって削除される可能性があり、削除されれば重要な証拠がなく、書き込みを理由に処分を行うことが難しくなります。保存の際には、誰が、いつ、どのような投稿をしていたかがわかるように保存しましょう。SNSの投稿をスクリーンショットで保存する方法が効果的です。
また、SNSに悪口を投稿した問題職員を特定することが難しいケースもあります。特に、悪口を頻繁に投稿している職員は、匿名で投稿している可能性が高いです。しかし、このようなケースでは、発信者情報開示請求によって特定できる場合があります。
詳しくは、以下の動画をご覧ください。
▶参考動画:【誹謗中傷対策】匿名を暴け!!!『発信者情報開示請求』を弁護士が解説します。
5.問題職員対策として、組織での指導体制の構築が重要
ここまでご説明してきた問題職員の指導方法の流れや、問題職員タイプ別の指導例などを踏まえて、以下では、実際に事業所内で問題職員トラブルが発生した際に正しく対処できるように事前対策について解説します。
5−1.研修やマニュアルの整備
問題職員の指導は、そのかかえる問題点に応じた指導が求められます。「4.問題職員の指導例」でも述べたように、問題点によってその指導方法や方針の検討をしていくことが必要です。そこで、指導担当者によって指導方法に違いがあると、問題の解決に至らなかったり、満足な結果が得られないリスクがあります。
よって、問題職員への指導には、業務フローを構築することが重要です。指導担当者向けの研修を開いたり、指導のためのマニュアルを作成し、事業所内での対応方針を固めておく必要があります。
5−2.問題職員の対応に関して弁護士へ相談できる体制の構築
ここまでは、事業所内で問題職員へ対応するための方法について解説してきました。しかし、対応をより確実なものにするためには、専門家である弁護士の意見を参考にすることが肝要です。
施行されている法律には、労働者の権利を守るものが多く存在します。「労働契約法」や「労働基準法」は、労働者を保護するための法律の代表格であり、近年のハラスメントの防止措置の設置義務化の動きから、より労働者の保護は手厚いものになっていくといえます。
問題職員による権利の主張が正当なものであれば対応すべきですが、インターネットなどで調べた知識を都合よく拝借し、法的には正しくない主張を行う問題職員も存在します。また、SNSの発展により、処分をすればネットに事業所の悪評を書き込むなどと脅されることもあるかもしれません。
そのため、問題職員の指導については、すぐに弁護士へ相談できる体制を整えることが重要です。問題職員と直接かかわるのは実際の介護現場で働く職員ですので、現場職員や問題職員の指導責任者が、気軽に弁護士に相談ができる体制の構築が必要です。
▶参考:介護業界に精通した弁護士とのすぐに相談できる体制構築については、以下の記事も参考にしてください。
6.問題職員の指導に関して弁護士法人かなめの弁護士に相談したい方はこちら
弁護士法人かなめでは、介護業界に精通した弁護士が、以下のようなサポートを行っています。
- (1)問題職員への指導サポート
- (2)人事処分サポート
- (3)職員から法的措置を取られた場合の対応
- (4)団体交渉対応
- (5)労働基準監督署対応
- (6)労働判例研究会
- (7)顧問弁護士サービス「かなめねっと」
6−1.問題職員への指導サポート
問題職員への指導は、紹介した指導例以外にも様々なパターンがあります。事業所としては、問題職員には早く辞めてほしいなと感じることもあると思います。しかし、一度雇った職員は簡単には辞めさせることはできませんし、解雇には適切な指導を検討することが前提条件となっています。謝った指導をしてしまうと、問題職員から逆に損害賠償請求やパワハラの主張をされてしまうリスクもあります。
そこで、「この職員、何か気になるな…」と感じたタイミングから、専門家の意見を仰いでおくことが重要なのです。早期に相談を受けれていれば、指導方法についての検討や証拠の残し方、実際に注意指導をする際の準備などを、計画的にサポートできますし、最終的には事業所の代理人として、問題職員の対応窓口になることも可能です。
弁護士法人かなめでは、このような初期段階から、現場の責任者からの相談を受け、初動からきめ細やかなサポートをすることで、労務問題に対し適切に助言をすることができます。
6−2.人事処分サポート
問題職員への人事処分は、配置転換や降格など、問題点に即した様々な方法を検討する必要があります。適切な人事処分がされなければ、処分の効力自体が無効になるばかりか、問題職員から反対に損害賠償請求がされるなどのリスクがあります。よって、不適切な人事処分を未然に防ぐために、処分段階において専門家に助力を依頼することが解決の近道になります。
適法な人事処分か否かは、専門的な知識と裁判例の蓄積を参考に判断することができます。専門家に早期に相談をすることにより、十分な検討をすることができ、問題のない人事処分についての検討などのサポートが可能です。
弁護士法人かなめでは、介護事業における労働法務に携わってきた経験、そこで得たノウハウから、介護事業所における人事処分にまつわる労務問題に対し、適切にサポートをすることができます。
6−3.職員から法的措置を取られた場合の対応
問題職員への指導や人事処分の有効性について争いがあり、任意の交渉で折り合いがつかなくなった場合、問題職員から労働契約上の地位の確認や人事処分の取り消し、または損害賠償請求訴訟を提起されるケースがあります。
弁護士法人かなめでは、これらの訴訟が法廷闘争となった場合にも、代理人として対応し、訴訟追行させていただきます。
(1)ご相談方法
まずは、「弁護士との法律相談(有料)※顧問契約締結時は無料」をお問合わせフォームからお問い合わせください。
※法律相談の申込みは、お問合わせフォームからのみ受け付けております。
※法律相談は、「① 弁護士法人かなめにご来所頂いてのご相談」、又は、「② ZOOM面談によるご相談」に限らせて頂き、お電話でのご相談はお請けしておりませんので、予めご了承ください。
※顧問契約を締結していない方からの法律相談の回数は3回までとさせて頂いております。
※介護事業所の経営者側からのご相談に限らせて頂き、他業種の企業様、職員等一般の方からのご相談はお請けしておりませんので、予めご了承ください。
(2)弁護士との法律相談に必要な「弁護士費用」
- 1回目:1万円(消費税別)/1時間
- 2回目以降:2万円(消費税別)/1時間
※相談時間が1時間に満たない場合でも、1時間分の相談料を頂きます。
6−4.団体交渉対応
団体交渉は、不当労働行為にならないように配慮しつつ、労働組合に主導権を握らせないように対応する必要があり、会社の実情をも踏まえた迅速かつ臨機応変な対応が求められます。そのため、団体交渉の申入れがあった場合には、すぐに弁護士の意見を仰いでおくことが重要なのです。早期に相談を受けられれば、申入書への初動、団体交渉の進め方等について適切な支援ができる可能性が高まります。
弁護士法人かなめでは、このような初期段階から相談を受け、初動からきめ細やかなサポートをすることで、団体交渉に対して適時に助言をすることができます。また、団体交渉へ同席し、労働組合との交渉をサポートしています。
不当労働行為をすることなく、主導権を握って労働組合と交渉するためには、正確な法的な知識と経験が必要になるため、弁護士のサポートは不可欠です。弁護士が団体交渉の場へ同席することにより、不当な要求を拒絶することができるだけでなく、法的な知識がないことを理由とするトラブルを避けることができます。
さらに、弁護士法人かなめは、介護事業に関する豊富な知識・ノウハウを十分に理解しているため、介護現場の実情を踏まえた交渉をすることができ、介護現場の実情を踏まえない要求や議論をはねのけることができます。
具体的には、弁護士法人かなめは、以下のような知識・ノウハウを有しています。
- 介護保険制度及びこれに基づく介護保険サービスの内容
- 各事業類型について人員基準に基づく人員配置、運営基準上必要とされていることや禁止されていること
- 介護事業所における各職種の役割や立場
- 他の介護事業者との比較
- 介護事業者の運営実態
- 利用者・入居者との接し方
- 高齢者虐待防止法などの介護保険法の周辺法令の理解や運用
これらに基づき、労働組合側の求める労働条件が実態にあっていないこと、労働組合側の主張が不合理であり、実現可能性が乏しいことなどを具体的に主張することも可能です。
労働組合側は、必ずしも介護事業の実態に明るいわけではなく、介護事業の実態にそぐわない主張を排斥することにより、団体交渉において主導権を握ることが可能になります。また、労働組合との条件交渉にあたっても、介護現場の状況に即した交渉が可能になります。
▶参考:団体交渉のご依頼については、以下の記事でも解説していますので、ご覧ください。
6−5.労働基準監督署対応
「突然労働基準監督署から調査をしたいとの連絡があった」との相談も、弁護士法人かなめがよく受ける相談の1つです。指導や人事処分を受けた問題職員が労働基準監督署に駆け込み、法令違反を申告する可能性があります(労働基準法第104条1項 )。
申告が受理されれば、事実関係の調査のために、事業所には労働基準監督官が派遣されます(立ち入り検査)。この立ち入り調査は、予告なしに行われることもあり、就業規則や従業員名簿などの資料関係の提出も求められます。事業所はこの調査へ誠実に対応しなければならず、拒否することはできません。
そこで、問題職員への指導を行うにあたり、労働基準監督署への申告が予見される場合は、立ち合い調査への準備を行い、仮に、調査官に指摘されそうな問題があれば、調査前に改善を進めておく必要があります。
弁護士法人かなめでは、これまでに多くの労働基準監督署対応を行っており、事業所が実施に労働基準監督署に対応する際の助言の他、事業所に代わって労働基準監督官に事情を説明したり、労働基準監督署での聞き取り調査に同行するなど、きめ細かなサポートを行っております。
6−6.労働判例研究会
弁護士法人かなめでは、顧問先様を対象に、団体交渉をはじめとして、普段の労務管理の参考になる労働判例を取り上げ、わかりやすく解説する労働判例研究会を不定期に開催しています。
研究会の中では、参加者の皆様から生の声を聞きながらディスカッションをすることで、事業所に戻ってすぐに使える知識を提供しています。
6−7.介護業界に特化した顧問弁護士サービス「かなめねっと」
弁護士法人かなめでは、これらのサービスの提供を総合的に行う顧問契約プラン「かなめねっと」を実施しています。
具体的には、トラブルに迅速に対応するためチャットワークを導入し、事業所内で何か問題が発生した場合には、速やかに弁護士へ相談できる関係性を構築しています。そして、弁護士と介護事業所の関係者様でチャットグループを作り、日々の悩み事を、法的問題かどうかを選択せずにまずはご相談頂き、これにより迅速な対応が可能となっています。直接弁護士に相談できることで、事業所内での業務効率が上がり、情報共有にも役立っています。
介護業界に特化した顧問弁護士サービス「かなめねっと」について詳しくは、以下のサービスページをご覧ください。
また以下の動画でも詳しく説明をしていますので、併せてご覧下さい。
▶︎【介護・保育事業の方、必見】チャットで弁護士と繋がろう!!介護保育事業の現場責任者がすぐに弁護士に相談できる「かなめねっと」の紹介動画
(1)顧問料
- 顧問料:月額8万円(消費税別)から
※職員の方の人数、事業所の数、業務量により顧問料の金額は要相談とさせて頂いております。詳しくは、お問合せフォームまたはお電話からお問い合わせください。
7.まとめ
この記事では、問題職員に対する注意指導の具体的な方法やその後の対応を解説しました。
問題職員の存在は、事業所にとっての大きな悩みの種の一つです。明らかに問題がある場合でも、不適切な指導をしたり、適切な手続きをせずに処分を行えば、損害賠償請求や不当労働行為のリスクがあります。しかし、適切なプロセスを踏襲すれば、法的なリスクを軽減しつつ、問題職員に対応することができます。ポイントは以下の通りです。
- 問題職員の何が問題かを分析する
- 問題職員の性質にあった指導を行う
- 指導は二人体制であたり、指導内容がわかる資料は証拠として残す
- 指導により改善しなければ人事処分・懲戒処分を検討する
事例でも紹介しましたが、問題職員が抱える問題は様々であり、問題に即した注意指導が必要です。
一方で、注意指導により問題が改善することもあれば、改善の見込みがなく、退職してもらうことも考えられます。最終的に解雇ができるよう、注意指導の段階から適切な注意指導と証拠固めを行うことが肝要です。注意指導や証拠固めについては、早期に弁護士に相談し意見を仰ぐことが有益です。後になって問題職員から訴えを起こされた結果、いままでの指導の証拠がなく、適切な指導を立証することができなければ、会社側の主張が認められる可能性が乏しくなってしまいます。
事実認定・立証活動、書面の作成などは弁護士が日常的に扱っている業務ですので、弁護士に相談するメリットは大きいものです。問題職員への対応に悩んでいる介護事業者の方は、早いうちに弁護士に相談するようにしましょう。
「弁護士法人かなめ」のお問い合わせ方法
介護事故、行政対応、労務問題 etc....介護現場で起こる様々なトラブルや悩みについて、専門の弁護士チームへの法律相談は、下記から気軽にお問い合わせください。
「受付時間 午前9:00~午後5:00(土日祝除く)」内にお電話頂くか、メールフォーム(24時間受付中)よりお問合せ下さい。
介護事業所に特化した法務サービス「かなめねっと」のご案内
弁護士法人かなめではトラブルに迅速に対応するためチャットワークを導入しています。他にはない対応力で依頼者様にご好評いただいています。
「かなめねっと」では、弁護士と介護事業所の関係者様、具体的には、経営者の方だけでなく、現場の責任者の方を含めたチャットグループを作り、日々現場で発生する悩み事をいつでもご相談いただける体制を構築しています。
法律家の視点から利用者様とのトラブルをはじめ、事業所で発生する様々なトラブルなどに対応します。 現場から直接、弁護士に相談できることで、社内調整や伝言ゲームが不要になり、業務効率がアップします!
介護業界に特化した経営や現場で使える法律セミナー開催情報
弁護士法人かなめが運営する「かなめねっと」では、日々サポートをさせて頂いている介護事業者様から多様かつ豊富な相談が寄せられています。弁護士法人かなめでは、ここで培った経験とノウハウをもとに、「介護業界に特化した経営や現場で使える法律セミナー」を開催しています。セミナーの講師は、「かなめ介護研究所」の記事の著者で「介護業界に特化した弁護士」の畑山が担当。
介護施設の経営や現場の実戦で活用できるテーマ(「労働問題・労務管理」「クレーム対応」「債権回収」「利用者との契約関連」「介護事故対応」「感染症対応」「行政対応関連」など)を中心としたセミナーです。
弁護士法人かなめでは、「介護業界に特化した弁護士」の集団として、介護業界に関するトラブルの解決を介護事業者様の立場から全力で取り組んで参りました。法律セミナーでは、実際に介護業界に特化した弁護士にしか話せない、経営や現場で役立つ「生の情報」をお届けしますので、是非、最新のセミナー開催情報をチェックしていただき、お気軽にご参加ください。
介護特化型弁護士による研修講師サービスのご案内
弁護士法人かなめが運営している社会福祉法人・協会団体・自治体向けの介護特化型弁護士による研修講師サービス「かなめ研修講師サービス」です。顧問弁護士として、全国の介護事業所の顧問サポートによる豊富な実績と経験から実践的な現場主義の研修を実現します。
社会福祉法人の研修担当者様へは、「職員の指導、教育によるスキルアップ」「職員の悩みや職場の問題点の洗い出し」「コンプライアンスを強化したい」「組織内での意識の共有」などの目的として、協会団体・自治体の研修担当者様へは、「介護業界のコンプライアンス教育の実施」「介護業界のトレンド、最新事例など知識の共有をしたい」「各団体の所属法人に対して高品質な研修サービスを提供したい」などの目的として最適なサービスです。
主な研修テーマは、「カスタマーハラスメント研修」「各種ハラスメント研修」「高齢者虐待に関する研修」「BCP(事業継続計画)研修」「介護事故に関する研修」「運営指導(実地指導)に関する研修」「各種ヒヤリハット研修」「メンタルヘルスに関する研修」をはじめ、「課題に応じたオリジナル研修」まで、介護事業所が直面する様々な企業法務の問題についてのテーマに対応しております。会場またはオンラインでの研修にご対応しており、全国の社会福祉法人様をはじめ、協会団体・自治体様からご依頼いただいております。
現在、研修講師をお探しのの介護事業者様や協会団体・自治体様は、「かなめ研修講師サービス」のWebサイトを是非ご覧ください。